140話 湖の測量開始
俺は、領地である湖の外周の調査と測量をするために、遠出をすることになった。
面子は、俺とアネモネとリリス、そして獣人たちの合計5人。
リリスは動きやすいズボン姿に着替えさせ、アネモネは、洞窟蜘蛛の糸で作った青いローブを被っている。
肌を出していると、虫に刺される可能性がある。
「にゃー」
ああ、俺の足下にやって来たベルも一緒だ。
「ケンイチ出発するのか?」
昨晩はサクラに泊まった、アキラがやって来た。
「出発というか、ここから測量を始めるから」
手始めに、屋敷ができる場所から湖の水際までの距離を測量する。
獣人たちに、トランシーバーと自作の看板を持って水際まで走ってもらう。
看板といっても、棒に丸い板がついているだけだが、そいつにレーザーを当てて距離を測定するためのものだ。
シャングリ・ラで測量の本を買って、簡単に勉強もしてみた結果――以前、買ったオートレベルでは、短距離しか測量できないことが判明。
測量方法を変更するため、新しく1kmほどの距離を測れるレーザー距離計も購入した。
「ニャメナ、この看板を持っていって立ててくれ」
「はいよ~」
アイテムBOXから、三脚に載ったレーザー距離計を出してセットした。
とりあえず何ごともやってみないとな。多分、アバウトな測量でも、この世界の測量よりは正確な地図ができると思う。
「それで、どうやって距離が解るんだ? そりゃレーザーか?」
水際で、ニャメナが立てている看板を、機械の中に捉える。
「そうだ、機械のボタンを押すと距離がでる。元々、ゴルフ用に作られたものらしいが」
アキラが、機械の中を覗く。
「へぇ~、ちゃんと距離が表示されているな。こうやって測量ってするのか」
ここから水際までは斜面になっているので、正確な距離ではない。
正確に調べたいなら斜面の角度を測って、そこから計算すればいいが、この世界で、そんなに正確な地図が必要なわけでもない。
おおよその地図が作れれば、問題ないだろう。
アキラのあとに、リリスも機械を覗いている。
「ふ~む、これも魔道具かぇ」
「リリス、王国で測量をするときは、どうやっているんだ?」
「棒を使う」
「棒?」
初代国王の身長から作ったという1カンという単位の棒を使って測るのだと言う。
それと、方位磁石と分度器盤らしきもので測量するらしい。
分度器盤ってのは、おそらく方位と高さを測るものだな。
おおよそやっていることは、元世界での測量とあまり変わらない。
「え~と、あそこまでの距離は――562mか」
方位磁石と、機械の円周に刻まれた目盛りから方位も割り出せる。
距離が解ったら地図に書き込む。地図は上が北だ。
1万分の1の地図なら地図上では5.6cm、10万分の1の地図なら5.6mmになる。
「なんか、すげ~地道な作業だな」
「そんなこと言われても、しゃーない」
千里の道も一歩から、とにかくやるしかない。
な~に、外周が200kmだとしても、1日10kmで20日。1日20kmやれば、10日で終わる。
出発しようとすると、アキラに呼び止められた。
「ああ、ケンイチ。これを貸してやるよ」
彼が指から指輪を外して、俺によこした。
差し出された銀色の指輪――以前、聞いた話によると翻訳ができる指輪らしいが。
「エルフとか、野良のドワーフとか、その他の種族は言葉が通じないからな。だが、この指輪があれば無問題」
彼がエルフからもらったものだというから、その効果のほどは間違いないと言う。
「おお、サンキュー。それじゃ、ありがたく借りていくよ」
「おう、頑張れよな」
その他、他の家族の面々や、メイドたちにも挨拶をして出発する。
俺がいなくなるので、残った家族の料理やらは、メイドたちが作ってくれるようだ。
一応、カレールーも、マイレンに大量に渡したので、メニューに困ったら、カレーを作っておけと言っておいた。
リリスの世話係として、メイドを連れていってほしいとマイレンに懇願されたのだが、車のスペースがない。
その申し出を、リリスも断った。
「リリス、いいのか?」
「たまにはいいのじゃ。それに、いつもあやつらに見張られている気がして落ち着かん」
「そりゃ見張られているだろう。呼ばれたら、すぐに駆けつけられるように。それが彼女たちの仕事だし」
「それは、そうじゃが……」
たまには、供のない旅もしてみたいのだろう。
アイテムBOXから出したラ○クルに乗って、ニャメナの立っていた場所に向かう。
ここからまた、ニャメナとミャレーに水際を走っていってもらい、看板を立てる。
それをオートレベルで測定して、地図に書き込むわけだ。
獣人たちはずっと走りっぱなしになってしまうが、彼女たちの脚で10kmや20kmはどうってことはない。
普通の散歩の距離だ。
さて、湖のどちら回りに周るか迷ったが、サンタンカ方向へ行く時計回りのルートを選択した。
1km~2kmぐらいの間隔で獣人たちに立ってもらい、その距離と方角を測ると、地図に書き込んでいく。
この方法だと、湖の周囲をぐるりと周り、最終的にサクラへ戻ってきたときには誤差が生じると思うが――多少の誤差はどうってことはない。
おおよそ、どんな地形で何があるかが解ればいいのだ。
測量をしながら、まずはサンタンカの村へ入った。
当然、この場所も測量する。人のいる場所はちょっと丁寧に測る必要があるだろう。
たとえば村の大きさがどのぐらいあるか――とかな。
俺たちが行なっている怪しげな行為を、村人が遠巻きにみている。
ベルは車の中で待っていて、一緒にいるアネモネはタブレットで読書をしているようだ。
リリスは、村のあちこちを見学しているので、ミャレーに護衛についてもらっている。
「ありゃ、ここの領主になったとかいう商人だべさ」
「なにをやっているんだか……」
心配になったのか、村長が俺の所にやってきた。
「あの、領主様。何をやってなさるんですかな?」
「ああ、測量して地図を作るんだよ。ハマダ領になったんだから、領地の把握はしておかないとな。お前たちは、なにも心配する必要はないぞ」
「はぁ……」
一応、湖の対岸へ行ったことがあるやつがいないか聞いてみた。
「いやぁ、そんな話は聞いたことはありません」
「水際を船で一周したりとか、そういう酔狂もいなかったのか?」
「まぁ、暮らすのが精一杯でしたし、湖の奥には魔物がいますし……」
「湖に魔物? 行方不明者が出たり?」
「はい」
なんだよ、そんな化け物がいるなら、船で湖を渡ったりしなくてよかったな。
湖の真ん中で襲われたりしたら、そこで終了じゃねぇか。いくら祝福があるといっても、溺れたら死ぬだろうし。
水の魔物ってなんだろう? 半魚人? ケルピー? 淡水なのに、クラーケンとかはいるだろうか?
ちょっと心配だが、村人の話を聞いてみても、はっきりと魔物の姿をみた者はいないようだ。
ただの事故を魔物の仕業と思っているだけなのかもしれないが。
オートレベルを覗き込んで測量をしていると、村の子どもたちが集まってくる。
10人ぐらいか? こんなに子どもがいたんだ。
「見せて~」「何を見ているの~?」
子どもが、わらわらしているのだが、俺は一応貴族なので、大人たちは、はらはらしている模様。
「領主様! 申し訳ございません!」
子どもの母親らしき、紺のワンピースを着た女性が、慌てて飛んできた。
「まぁ、構わんよ」
子どもたちにレーザー距離計を覗かせてやる。
これ自体が望遠鏡なので、遠くの景色が大きく見える。
「凄~い!」「遠くが近く見える!」「見せて見せて~!」
子ども台風の中に巻き込まれてしまい、すごいエネルギーで撹拌されてしまう。
子どもの相手はめちゃ疲れる。
「ふう……」
もみくちゃにされて、ため息をついていると、いつのまにやら獣人の女たちが近づいてきていた。
初めて見る顔だが、新しく入った住民だろうか? 三毛や黒い虎柄の毛皮を着て、革のジャケットや、ミニスカを穿いている。
いきなり飛びついてくるわけではないが、ジリジリと距離をつめてきているのが解る。
まさか刺客とかではあるまいし、そんな顔もしてない。
それに気づいた、ミャレーとニャメナが、凄い速さで飛んできた。
ミャレーは、リリスの護衛はどうした――と思っていたら、リリスも俺の所にやってきた。
「オラ! お前ら散れ! 旦那は俺らのもんだ!」「そうだにゃ! シャー!」
結構、毛を逆立てているので、マジギレだ。
「何だよ~ケチぃ! 少しぐらい分けてくれたっていいじゃん!」
「分けたら減るだろうが!」
ミャレーとニャメナが、村の獣人たちを蹴散らし始めた……俺の身体から、なにか獣人たちが好きそうな匂いでも出てるのかな?
「ゴメンな~獣人の面子は間に合っているから、また今度な」
すごすごと帰っていく村の獣人たちに挨拶をすると――ミャレーとニャメナが、身体をスリスリして、俺の身体に匂いつけをしている。
「ケンイチは、獣人たちにモテるのぉ」
リリスの言うとおりだ。
「まったく! 油断も隙もあったもんじゃねぇ。旦那の身体から、なんか変な匂いでも出てるんじゃねぇのか?」
ニャメナが俺に顔を近づけて、クンカクンカしている。
「はは、俺もそう思っていたところだ」
「笑い事じゃないにゃ」
さてさて、仕事の続きだ。
村の測量が済んだので、村人に別れを告げて車に戻ると、水際を走って次の場所へ行く。
湖畔はずっと砂浜が続き、10mぐらいで森になっているので、水際を走れば車でも十分に走行可能だ。
サンタンカを出て明くる日――俺たちは湖の南端に到着し、ここからは湖を北上することになる。
所々、小さな崖になっている場所や、砂浜がなくいきなり森になっている場所もある。
砂浜がない所は車をアイテムBOXに収納して、アネモネとリリスは獣人たちに背負ってもらいクリアした。
ずっと砂浜で平坦かつ滑らかと思ったが、意外と変化に富んだ地形のようだ。
そのまま3日ほど測量を繰り返して約60kmの行程を消化。
3日目の作業も終了して、午後の3時頃になった。
1日の作業は約20kmに抑えてあまり無理をしないようにする。
急ぐ仕事でもないしな。ゆっくりと進めるさ。
開けた所まで行くと、キャンプの準備をして、寝る所を確保する。
車を停めると、早速ベルがパトロールに出かけた。周囲をチェックして警戒してくれる、彼女に感謝だ。
家やら小屋は、全部サクラに置いてきてしまったので、またコンテナハウスを買った。
これは便利だし。余ったら部屋や小屋に使えるからな。
アイテムBOXからコンテナハウスを取り出すと、水際から10mほどの地点に、コンテナハウスが落ちてきた。
巨大な湖なので、水際に設置しても突然の水位上昇もないので安全だ。
「ケンイチ、その鉄の箱は便利にゃ」
「おう、これは頑丈だし、簡単に使えるからな」
中にはダブルベッドを2つ縦に置く。これで寝るには十分。
ランプを設置してあるので、夜でも大丈夫。
「この部屋の箱は殺風景じゃが、使えるの」
「まぁ、それように作られたものだし」
外に出て食事の準備をするため、アイテムBOXから道具を出す。
「アネモネ、パンを焼いてくれ」
「解った!」
彼女がパンを焼いているうちに、ちょっと食材を調達してみるか。
数日、アイテムBOXに入っていた肉や、インスタント食品を食べていたが、変わったものが食いたい。
せっかく、目の前の湖に魚がいるんだ。魚を釣ってみよう。
たしか以前に買った、釣りの道具がアイテムBOXにあったはずだ。
アネモネの魔法を使うと大量に獲れるのだが、水面を爆破するのは止めてくれと言われているしな。
アイテムBOXから釣りの道具を出すと、竿や毛鉤のセットをリリスが興味深そうに覗き込んでいる。
「ケンイチ、釣り針の先についているものはなんじゃ? 魚釣りには、虫を使うと聞いたが?」
「これは疑似餌だよ。魚が、この毛を虫だと勘違いをして食いつく」
「賢者というのは、随分と悪辣じゃの」
「そんなこと言われてもな」
前に疑似餌を使ったところは、流れのある場所だったが、こんな湖畔で釣れるかな?
まぁ、物は試しだ。
湖面に向かって、疑似餌を投げる。安物のリールがキリリと音を立てて、糸を吐き出すと、ポチャンと波紋が出来た。
そのままリールを巻いていく――が反応なし。
再度、疑似餌を投げて引くと、強い手応え――当たりがきた。
「おおっ! こんな所でも釣れたぞ?」
しかし、ここにいるマスはどこから来たんだろうな。
元々、川と繋がっていたんだろうか。いや、湖に流れ込むばかりじゃどんどん溜まるだろうし、ここから流れ出る川が、どこかにあるのかな?
上がってきたのは30cmほどのマス。
「見事な魚じゃの!」
「中々いいな、後2匹ぐらい釣れないだろうか?」
その後、3匹釣れたので、合計で4匹になった。
全部、3枚におろして塩コショウを振って、ちゃんちゃん焼きにしよう。
本当は鮭でやるもんだが、マスでもできるだろう。
まずは野菜を刻んで、タレを作ろう。タレは味噌と酒、砂糖と味醂だ。それに昆布だしを少々。
カセットコンロを2つ出して、鉄板にバターを引いてマスを並べて焼き、その回りに野菜を盛る。
「アネモネ、少し魔法で加熱してくれ」
本当は蒸し焼きにするのだが、面倒だ。
「うん、温め!」
温めるのは鉄板の上だけだ。カセットボンベを加熱したりすると爆発するからな。
火が通ったので、タレをかける。周囲に香りを含んだ、白い蒸気が舞い上がる。
「か~っ! 畜生! いい匂いがしてきやがったぜ!」
「涎が出るにゃ~!」
「うまそうじゃな!」
「にゃー」
ベルが戻ってきたので、ネコ缶と火を通したマスの身をやる。
「よっしゃ完成だ!」
「「「おお~っ!」」」
完成したちゃんちゃん焼きと、アネモネのパン。スープはインスタントにした。
王族がやって来てから、違うテーブルで食べていた獣人たちも、今日は同じテーブルだ。
「うめー! こういう魚料理もあるのか!」
「おおっ! このような料理は城でも食べたことない! この不思議なタレは?」
「これは、豆を発酵させた調味料だよ、それとバターも使ったしな」
最初は醤油を苦手だと言っていた獣人たちだが、最近は平気なようだ。
今日は、味噌を使ってみたのだが、美味そうに食べている。
「なんと豆か。豆から、このような奥の深い味わいが出るものなのか……」
「王族の口に合うなら、これもサンバクさんに教えたほうがいいだろうな」
「うみゃー! これは、うみゃー!」
「ほい! ニャメナには、エール!」
「おお~っ! これこれ!」
彼女は、俺から缶のビールを受け取ると、一気に半分ぐらい飲み干した。
「か~っ! きくぜ!」
目を瞑りアルミ缶を掲げて、ビールを味わっている姿は、まるでオヤジだ。
飯を食い終ると、辺りがすっかりと暗くなってしまった。
真っ暗になった湖畔は、水際のパチャパチャと小さな波が押し寄せる音だけが聞こえてくる。
アイテムBOXから薪を出して、焚き火を燃やす。
「よし! 腹一杯になったし、次は風呂だな!」
アイテムBOXからユ○ボを召喚すると、水際に穴を掘る。
5人なので小さい穴でいいだろう――といっても銭湯並の湯船だ。
「アネモネ、魔法でお湯を沸かしてくれ」
「解った! むー温め!」
すぐに、穴に溜まった泥水から湯気が出てくる。
手を入れて、お湯の温度を確かめていると、服を脱いだニャメナが飛び込んだ。
激しい水柱が上がる。
「うひょー!」
「こら! お湯が熱かったらどうする!」
続いて、ミャレーも飛び込んだ。
「うにゃー!」
「旦那が手を突っ込んでいるってことは、そんなに熱くないってことだろ?」
どうにも、獣人たちってのはアバウトすぎて困る。
皆で裸になると、お湯に浸かる。
俺の両脇には、素っ裸になって髪を上げたリリスと、アネモネ。
2人がイニシアチブを取ろうとして、睨み合っている。
お湯は濁っているので、彼女たちの綺麗な裸は見えない。
俺の正面には、獣人たちが尻を出し、尻尾をうねうねさせながら泳ぐ。
「申し訳ないねぇ、お姫様と一緒に風呂に入るなんて」
「ふ、気にするな。ケンイチがいつも言うように、家族なのだからな」
そういえば、ベルはどこ行ったのか? と思ったら、俺のすぐ近くにいた。
さすがに彼女は、風呂には入らないようだ。
どうせ捨ててしまうお湯なので、湯船の中で身体を洗い、湖の水で身体を流す。
「うひょー! つめてぇ!」「にゃー!」
「アネモネの魔法でちょっとお湯にしたほうがいいんじゃないのか?」
「大丈夫だよ、旦那」
「リリスは平気か?」
「大丈夫だわぇ」
皆で裸になって並んで、大自然の中で水浴び。
色々とあって、すっかりとスローライフから離れてしまったが、こういうのは、スローライフっぽい。
最後は、ジェットヒーターで髪の毛を乾かして、皆の毛はふわふわになった。
「あ! そういえば、サクラに風呂の準備とかしてこなかったなぁ……」
一応、風呂場に使っている小屋の中には、バスタブは置きっぱなしなのだが……。
「心配いらぬぞ、ケンイチ。母がなんとかするゆえ」
確かに、リリスの言うとおりアマランサスに、任せておけば大丈夫か。
身体が綺麗になったところで、コンテナハウスに皆で入る。
ベルも一緒だ。
「にゃー!」
大きなダブルベッドにミャレーが飛び込んだ。
ベッドは2つあるので、俺とリリスとアネモネが一緒。獣人たちはもう1つのベッドだ。
「さて、毛皮が綺麗になったので、ブラシをかけてやるか~」
裸のニャメナをベッドに、うつ伏せに寝せて、背中にブラシをかけてやる。
俺の動かすブラシに、ニャメナは尻尾をピンと立てて、声を出さないように我慢しているらしい。
「ふっ……ふうぅ!」
「ニャメナ、声を出してもいいんだぞ?」
お尻から尻尾の先をブラシでなででやると、ひくひくと彼女の身体が反応している。
「――っ!! にゃぁぁ!!」
突然、のけぞってプルプルと震えだしたニャメナにミャレーが飛び上がった。
「にゃー!! トラ公が小便漏らしたにゃ!」
「ええ?!」
慌てて、アイテムBOXから代わりのシーツを取り出した。
「小便臭いトラ公は、どくにゃ!」
「ふぎゃ!」
ミャレーがニャメナをベッドの下へ蹴落とすと、シーツを交換し始めた。
「てめぇ! このクロ助!」
「にゃーん、次はウチの番だにゃ~。ウチは抱いたまま、ブラシをしてほしいにゃ」
彼女のリクエストどおりに抱きかかえたまま、ブラシをかけてやる。
結構難しい。
「うにゃ~ん」
目をトロンとさせた、ミャレーが俺の首に噛みつく。
「あいだだだ! ちょっと、ミャレー! 甘噛みでも止めなさいって!」
獣人たちの牙は鋭いので、甘噛みでも相当痛い。
獣人たちの毛皮の手入れが終わったので、俺のベッドへ戻る。
――すると、俺の腹の上で、リリスとアネモネのにらみ合いが始まってしまった。
「妾は正室じゃぞ?!」
「リリスより私のほうが、ケンイチと一緒の時間が長いんだから!」
「それを言うなら、ウチが一番ケンイチと長いにゃ~」
「そうだな、ダリアで最初に知り合ったのが、ミャレーだったし」
まぁ、本当に最初の知り合った女は、宿屋の子だったけどなぁ。
しかも、異世界初のゴニョゴニョも、やっちゃったし……。
「初めて会ったときから、香辛料の匂いをさせたりしてて、妙なオッサンだったにゃ~」
「それは否定できないな」
「でも、ケンイチについていけば、香辛料料理が沢山食えると思ったにゃ」
「それで、俺を追っかけてきたのか?」
実際にカレーを食いまくっているので、ミャレーの勘は間違ってなかったといえる。
ミャレーと話している間も、リリスとアネモネのにらみ合いが続く。
「「むー!」」
彼女たちが、俺のシャツの中に頭を突っ込んだ。
「これ! シャツが伸びるから止めなさいっての」
「それならば、妾はこちらじゃ!」
リリスの顔が、俺の下半身に向かうと、ズボンを下ろそうとする。
「こらこら、皆がいる所では止めなさい!」
「ケンイチも、喜んでいたではないかぇ?」
「そりゃ、そうだが……」
「それじゃ、私もやるぅ!」
「ちょっと、アネモネ!」
すったもんだした挙げ句、皆で眠りについた。
しんと静かな部屋に、かすかな波の音だけが入ってくる。
こういう音ってなんていうんだっけ? 1/fノイズ?
そんなことを考えつつ、俺は眠りに落ちた。
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――突然、起こされる。
「旦那! 旦那ぁ!」
ゆさゆさと身体を揺さぶられて、目を開ける。
「ん? な、なんだ? もう朝か?」
「違うんだよ! 旦那!! 外になにか、ヤバいのがいるんだよ!」
「なに!?」
慌てて明かりをつけると、ベルの黒い毛も逆だっている。こりゃ、ただ事じゃない。
リリスとアネモネを起こしていると、外壁を叩く大きな音とともに、コンテナハウスが動き始めた。
「ちょっと待てよ!? なにが動かしているんだ?」
窓から外を見ても、暗くてよく解らない。このコンテナハウスはかなりの重量があるのに、それを軽々と動かすなんて……。
俺たちが慌てていると、いきなりコンテナハウスがひっくり返り、ベッドが倒れてきた。
明かりに使っているLEDランタンがゴロゴロと転がる。
「「うわぁぁっ!」」
「なんじゃー!」「あー!」
「ふぎゃー!」
コンテナハウスの中は阿鼻叫喚。
なんじゃこりゃ!