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136話 月に代わって


 ユーパトリウム子爵の元夫人で、俺のところへやってきたカナン。

 まだ側室になると正式決定したわけではないし、本人がそれを望んでいるようでもなかったのだが――。

 俺に抱かれていないのは、自分だけと聞かされると、やはり気になるようだ。

 貴族になった俺が、正室、側室、愛人と多数の女を娶るのも問題はない。

 断る理由もないのだが、彼女は典型的な貴族の婦女子といった感じで、リリスやアマランサス、プリムラに比べると能力的に心もとない。

 できたてホヤホヤの貧乏辺境伯領には、遊ばせておく人材は必要ないのだが、引き取るといった手前追い出すわけにもいかない。

 少々悩みつつも、彼女を連れて、ツリーハウスへ向かう。


 後片付けを済ますと、LEDランタンを照らし――カナンの手を引っ張って、ツリーハウスの所へ行く。

 木の上に作られたステージに登る。ここにテントでも出して、そこでやればいい。

 そう思ったのだが、もう少し良いものがないだろうか?

 俺はシャングリ・ラを検索してみた。


 組み立て式の小屋では作っている暇がない。でき合いでなにか部屋に使えるようなものがあればいいのだが……。


「これはどうだ?」

 俺がシャングリ・ラで見つけたのは、灰色のコンテナハウス。

 選挙事務所や仮店舗などで使われている長方形の箱だが、こんなものまで売っているのか。

 広さは12畳で値段は50万円――これは色々と使えるかもしれない。

 小屋に使ったりもできるしな。色々と使いみちがありそうなので、まとめ買いをする。

 数を入力すると5個買えるようだ。在庫が5個ありますっていうことなんだろう。

 合計で250万円。


 住民の住居としてこいつを並べるって手もありそうだが――いくらなんでも殺風景すぎるだろ。

 ログハウスのキットなら、この世界にあってもおかしくない風景だが、こいつはあまりに異質。

 それに木造じゃないと、改造もできないしな。

 この世界にあらざるものだが、使えそうなので、とりあえず購入。


「ポチッとな」

 購入ボタンを押した俺だが――押した瞬間に、「まずい!」と思った。

 こいつはアイテムBOXから取り出したものではない。シャングリ・ラから購入したものは、空中から落ちてくるではないか。

 それだけではない、ここはツリーハウスの上だ。


「カナン! ちょっと舞台の端のほうへ!」

 彼女の手を引っ張ると、舞台のギリギリへ寄る。

 それを待っていたかのように、木で出来た舞台の上にコンテナハウスが降り始めた。


「コンテナの重さで、舞台が崩落しないだろうな?」

 大きな音を立てて、次々とコンテナハウスが積み木のように積み重なっていく。

 三つほど積み重なったところで、4つめはバランスを崩して、舞台の外へ落下した。

 最後に落ちてきた5つめも、暗闇の中へ消えたのだが――かえって崩れたことで、重みによる舞台の崩落が避けられたようだ。


「ふ~」

 俺は、思わず胸をなでおろした。

 アイテムBOXからLEDライトを取り出して、舞台の下を覗いたが、下が柔らかい腐葉土だったので、破損は免れたようだ。

 下に落ちたコンテナハウスをアイテムBOXへ収納すると、眼の前に積み木のようになっている大きな箱も、全部収納した。 再びコンテナを舞台の上に出すと位置を調整。


 早速、アルミのドアを開けて中に入ってみるが、殺風景という言葉そのままになにもない。

 まぁ当然だが、天井には蛍光灯もあるので、発電機を繋げば使えるはずだ。

 壁紙を貼ったり、外板を貼ったりすれば、見かけもそれなりにすることは可能だろう。


 今日は、その暇がないので、とりあえず使えるようにする。

 アイテムBOXからダブルのベッドとチェストを取り出して、設置した。


「殺風景な部屋で、すまんな」

「まぁ、旅の果て天幕の中ですると思えば、いいのだ」

 カナンが後ろ向きになって、ジャージを脱ぎ始めたのだが――俺はいいことを思いついた。

 シャングリ・ラを検索して、セーラー服を検索して購入。


「ポチッとな」

 ステータス画面のボタンを押すと、茶色っぽい色で、襟が白いセーラー服が落ちてきた。

 

「カナン、これに着替えてくれ」

「こ、これに?」

「嫌なのか?」

「だ、だって、スカートが……」

 彼女の言うとおり、スカートは超ミニだ。

 俺に急かされて穿いてはみたが、当然太ももは剥き出しに。


「あの、こんなの見えちゃう」

 カナンは必死に隠そうとしているのだが、隠せるはずがない――だが、それがいい。


「裸で一緒に風呂に入って、尻をあげて挑発までしてたのに、こんなのが恥ずかしいのか?」

「だ、だって……」

 彼女の柔らかい金髪を纏めて編み込んだ髪を解くと、お団子ヘアのツインテールにさせる。

 追加で、白いフリルがついたニーソックスを購入して穿かせた。


「おおっ! こりゃまじで、セーラーナントカ!」

 ちょっと無理すんなBBAって感じで、凄い萌える。勿論もちろん、こんなことは口に出して言えない。

 気分はもうオッサン、実際にオッサンなので仕方ない。

 あまりにセーラーナントカ姿が似合うので、アイテムBOXから一眼レフを出して撮影した。


「はいはい、もっと可愛いポーズして」

 フラッシュにディフューザーを装着して、シャッターを押し続ける。


「恥ずかしい……」

「ははは、今度はベッドに手をつけて、お尻をこっちに向けてぇ」

 金髪のツインテールが、ベッドの上を這う。


「こ、こんなの……お尻が見えちゃう……」

 風呂で尻を見せてたのは、いいのだろうか?

 

 散々撮影をして、満足したので、ベッドに押し倒すとセーラー服のままやる。

 たまにはこういうのもいい。

 プリムラにも頼んでみるかなぁ。リリスは面白がってやってくれるかもしれない。

 マイレンはそのまんまメイド長だしな――いや、スーツ姿なんて似合うかもしれない。

 社長室を作って、メガネ美人秘書設定でやるか?

 夢が広がるなぁ。成り上がって、ベンツを買って秘書やレースクイーンを雇ったりするオッサンは、こんな心境なのだろうか?


 そんなアホなことを考えながら、カナンの悲鳴とともに夜はふける。


 ------◇◇◇------


 ――朝、コンテナハウスの窓ガラスから、陽の光が入ってくる。

 ベッドの上には、金髪の美しい女性――カナンだ。

 リリスが、青い果実だとすれば、こちらは真っ赤に完熟したトマト。食べごろだ。

 自らを辺境の華と言うだけあって、その美しさは本物。

 この華を簡単に手放すのだから、蓼食う虫も好き好き――と言っちゃ子爵に失礼か。


 カナンがぐっすり眠っているのだが、リリスの言葉を思い出して、起こすことにした。


「カナン、朝だぞ」

「ん~、ケンイチ……」

 カナンの身体を揺すってみるのだが、いくらゆさゆさしても起きない。

 俺は起こすのを諦めて、皆のところへ戻ると、メイドたちが食事の準備をしていた。

 辺りに、スープのいい匂いが充満している。

 彼女たちには、野菜や肉などの材料を預けており、それを使ったようだ。

 大量にスープを作ったというので、味見をしてみる。材料の中には、だしの素なども含まれていたのだが、上手く使いこなしている。


「おっ! 美味いな! 俺たちの食事に使ってもいいか?」

「もちろんでございます」

 彼女たちの顔が明るくなる。よし、プリムラがいないときは、スープの準備はメイドたちに任せよう。

 これなら、このスープにカレールウを入れれば、カレーにもできるし。

 大量に余っても、俺のアイテムBOXに入れておけばいい。


「むーおはようケンイチ。パンを焼く……」

「おはようアネモネ」

 目を擦りながら、彼女がパンを焼き始めた。

 メイドたちがパンの焼き方を覚えたいと言うので、見学させる。

 アネモネは魔法を使って、早送りをしているが、時間をかければメイドたちでも同じものが作れる。

 手順は覚えたようなので、アネモネが使っているのと同じ、ドーナツ型のパン焼き器を複数買い与えた。

 このパン焼き器は、窯がなくても焼ける優れものだ。

 この世界にも似たようなパン焼き器が存在しており、メイドたちの中にも実家で使っていた者もいるようだ。

 それなら任せても大丈夫だな。アネモネが忙しいときは、彼女たちにパンを焼いてもらえばいい。

 小麦粉や砂糖などを俺から提供すれば、まったく同じものが作れるだろう。


 食事の準備をしていると皆が起きてきたので、準備を手伝ってもらい朝食を摂る。

 ベルにも食事をあげた。


「こういう準備も人を雇って、やってもらうことになるのか――そう考えると、ちょっと寂しいね」

「ケンイチは貴族になったのだから、仕方あるまい?」

 リリスが、パンをむしゃむしゃと頬張りながら答える。


「でも貧乏貴族なら、自分でやっているところもあるだろう?」

「まぁ地方の男爵ぐらいなら、そういうこともあり得るだろうが……」

 ノースポール男爵の所とかは、そんな感じかなぁ……彼は元気でやっているだろうか。


「ユリウス、ノースポール男爵領というのは知っているかい?」

「ダリアの向こうに、最近できた領でございますね。勿論もちろん存じております」

「男爵は俺の知り合いだ。彼にも手紙を送ってやってくれ」

「かしこまりました」

 皆で食事をしていると、カナンがやって来た。


「ケンイチ! 起こしてくれてもよいではないか!」

「いくら起こしても起きなかったからな」

「う~」

 拗ねられても、俺の義務は果たした。

 食事も終わったので、仕事を再開する。


「そういえば、獣人たちの家がなかったな」

 今は、ニャメナが使っていた小さな小屋に二人で寝泊まりしている。

 昨日、購入したコンテナハウスをミャレーに見せてみることにした。

 とりあえず、ログハウスの組み立てが終わるまで、これでしのげないだろうか?

 アイテムBOXから、グレーのコンテナハウスを出す。


「ミャレー、お前の家ができるまで、これでしのげないか?」

「にゃー! なんにゃ! 鉄の家かにゃ?」

 彼女は、コンテナの外板をボコボコと叩いて、ドアを開けて中に入った。


「にゃ! 中も広いにゃー!」

 中は12畳だから、一人で暮らすなら十分の広さだろう。


「どうだ?」

「これ? 使っていいにゃ?」

「まぁ、お前がいいというなら……」

「やったにゃー!」

「いいのか?」

「もちろんにゃ!」

 外に出ると、ニャメナもいて、俺をじっと見つめている。


「旦那……」

「もしかして、ニャメナもこれが欲しいとか?」

 彼女が黙ってうなずいたが――まさか、これでいいと思わなかったよ。


「これで、いいならもう一つ出してやる」

 ミャレーのコンテナハウスを置き直して、その隣に並べた。


「やったぜ!」

「これは丈夫なんだが、欠点がある。外板が直射日光で熱くなるんだ」

「それじゃ、ムシロでも載せるか?」「そうだにゃー」

「ムシロか、ちょっと待ってろ……」

 シャングリ・ラから、ムシロの20枚セットを1万5000円で購入。なんでも売っている、シャングリ・ラ、マジで神。

 購入ボタンを押すと、ムシロの束が落ちてきた。


「ほら、これをやる。側面はツタとかを這わせるといいかもな」

「よっしゃ! クロ助、あとで探しに行こうぜ」

「うにゃー!」

 殊の外、獣人たちにコンテナハウスの評判がいい。

 ニャメナは早速、ウキウキで引っ越しを始めた。ミャレーにもチェストやベッドを出してやる。

 大工に三角屋根を作ってもらい、プレハブの上に載せればそれっぽいかも。


「ミャレーとニャメナ。それをやりながらでいいので、また召喚獣に食わせる油を作ってくれ」

「いいぜ~、魔道具に旦那が用意した油を注げばいいんだろ?」

「余裕にゃ」

「頼むよ」

 ニャメナが出た小屋に魔道具を2台設置して、バイオディーゼル燃料を作る。

 元々、それ用に作った小屋だったからな。元に戻ったわけだ。

 獣人たちと打ち合わせをしていると、リリスがやって来た。


「ケンイチ、屋敷もその鉄の箱で作ったらどうなのだぇ?」

「ええ~? これでか? いくらなんでもそりゃ、ないだろ?」

「ふむ、面白いと思うのだが」

 元世界にはコンテナを積み重ねた店舗などもあったから、それなら面白いかもしれないが……これじゃなぁ。

 ユリウスは自分の部屋で事務仕事。アマランサスは見回りしながら、剣の素振りをしている。

 カナンは、ジャージ姿で畑作業を手伝って、アネモネは日陰で電子書籍を読む。


 皆、俺についてこんな僻地にやって来て、楽しいのだろうか?

 俺は楽しいからいいのだが、こんな個人的な遊びみたいなことに巻き込んでいいものなのか、少々悩む。

 今は遊び感覚でも、街がデカくなったりすれば、遊びではなくなるってことだよなぁ。

 そのときは、アマランサスにでも丸投げしてしまえばいい。

 彼女のほうが政治家としては適任だ。


 皆の作業を見ながら、しばらく考えごとをしていると、荷物を満載しているトラックがやって来た。

 沢山積まれている材木などの上に、獣人たちが乗っている。

 大丈夫か? 危ないような気がするが――この世界には、道交法などもないので、落ちて怪我をしたとしてもすべて自己責任。

 なんの補償もない。まぁ、俺から見舞いは出さねばならないだろうけど。


 アキラや、大工たちへの支払いは、すべてマロウ商会から行われる。

 マロウ商会が管理して立て替えた支払いが俺に請求されると、若干の手数料を足して支払う――という感じになっている。


 俺は基本どんぶり勘定で、細々とした計算や管理ができないからな。

 家計簿や小遣い帳すらつけたことがないし――。

 自分で仕事をしていたときも、経費を表計算ソフトに打ち込むぐらいしかやったことがない。


「ケンイチ~! 運んできたぜ~」

「アキラ、サンキュー!」

 大工の親方もやって来た。


「それじゃ領主様、今日からやらせてもらいますぜ」

「たった1日で、随分と集まったな」

「はは、仕事にあぶれている奴らが多かったですからねぇ」

「ケンイチ、川をトラックで渡れるように橋を架けようぜ」

 住宅の建設地にトラックが入るためには、滝から流れてくる小さな川を渡らなくてはならない。

 

「そうだなぁ――本格的に開発を始めるとなると、問題が山積みだ」

「リアル開発シミュレーションゲームみたいだな」

「ところがどっこい、これが現実」

「そうなんだよなぁ」

 川に浸かると、大工と作業員たちに注意を促す。


「お~い、ちょっと離れててくれ」

 俺のアイテムBOXに入っている丸太を出す。

 1、2、3、4と丸太を出して、作業員たちに手伝ってもらい平行に並べる。

 さすがに、人数がいると作業もはかどる。

 川に浸かるのは、アイテムBOXから物を出すと、横向きに出るからだ。

 アイテムBOXから発電機と工作機械を出すと、大工からもらった板材を加工して丸太に打ち付けていく。

 丸鋸で次々と板が切断され、ネイルガンから打ち込まれる釘に、大工たちが仰天する。


「ま、魔道具?!」

「ケンイチ、ネイルガンはもう一丁ないのか? 手伝うぞ」

「使えるのか?」

「任せろ」

 本当になんでもできるやつだな。シャングリ・ラでもう一丁ネイルガンを購入すると、アキラに渡す。

 あっという間に橋が完成して、トラックの初渡りとなった。


「幅は大丈夫か?」

「大丈夫だな、余裕だ」

 トラックがエンジンを吹かして渡る。その重みで、丸太が地面に少しめり込んだが、大丈夫のようだ。


「「「おお~っ、こんな短い時間で、すげぇ!」」」

「この魔道具があれば、俺たちはいらねぇのでは?」

 作業員たちの意見ももっともだ。


「俺たちが全部やってしまったら、お前たちは金を稼げないぞ? それに、俺やアキラには他にも仕事があるから、大工仕事ばかりやっていられないし」

「そうだぞ、お前ら。せっかく仕事があるってのに、放り出すつもりか?」

「いや、そういうわけじゃ……」

 親方に発破をかけられて、作業員たちがログハウスの建築現場へ向かう。

 トラックに積んでいた荷物を、アキラがユニ○クを使って降ろすと――。

 建築予定地に、俺がシャングリ・ラから購入したログハウスのキットを置いていく。

 全部で9棟。1棟は昨日出してしまったので、俺の家の近くに置いたままだ。

 あれも、ここに運んでこなくてはならない。

 シャングリ・ラのログハウスのページは、10棟購入したところで、在庫がゼロになった。

 これで打ち止めだろう。

 しばらく待てば、他のシリーズがまた販売されるかもしれない。


「「「おお~っ! これかぁ」」」

 山積みになったログハウスのキットを、作業員たちが眺めている。


「これって、もう材料は加工してあるんで?」

「そうらしいぞ? この紙に書いてある通りに組み立てれば家になるらしい」

「すげぇ」

 大工と作業員たちが、円陣を組んで、あれこれ打ち合わせを始めた。


「親方、俺の家の近くにも、昨日説明のために出してしまった材料があるので、そいつもここに運んで組み立ててくれ」

「ああ、あれですか。解りやした」

 ここは、プロの彼らに任せればいいな。なんでも俺のアイテムBOXを使ってしまうと、彼らの仕事がなくなってしまう。

 できることは、彼らに任せないと。


 打ち合わせの結果、まずはトラックに積んだ荷物を降ろすようだ。

 縄で縛られた材木の束が、トラックのクレーンで降ろされていく。

 これは、川の脇に作る製材所の建築材料であろうか?


「アキラのアイテムBOXにも、荷物が入っているのか?」

「ああ、デカい丸鋸を持ってきたぜ」

 それを水車で回し、木を切って加工するらしい。へぇ~なるほど。

 やっていることは、元世界とあまり変わらないようだ。


 アキラが持ってきた荷物の中には、作業員たちの生活必需品や、食料なども含まれている。

 これらも、全部マロウ商会が手配したものだ。

 こういう現場には、商人が入って食料を売ったりするのが普通であり、カズラ湖から水を引く用水路工事でも商人が入っていた。

 通常、こういう普請に入っている商人はボッタクリ価格を提示しているのだが、プリムラがいるマロウ商会で、それはありえない。

 普通の価格プラス、手数料の良心的な価格。

 マロウ商会、金儲けの秘訣――商売は正直に行うべし、である。


 大工仕事は彼らに任せて、俺は家に戻ってくると、アネモネを呼ぶ。


「アネモネ手伝ってくれ」

「うん」

 彼女は、読んでいたタブレットを肩掛けバッグに入れると、俺の後ろをついてくる。

 やって来たのは、森との境界線。ここから道を切り開いて、街道までの直線道路を作る。

 今は、サンタンカへ通じる、うねうねと曲がる道を通り、ぐるりと遠回りしてここまでやって来るが――。

 ここから直線道路を作れば、かなり交通の便がよくなる。


 まずは、アイテムBOXからドローンを出して、上空からおおよその方向を割り出す。

 方位磁針で方向を確認しながら進めば、なんとかなるだろう。

 本当は、最初にルートを測量したほうがいいとは思うが……。

 アイテムBOXから、ピンクのスプレーを出して、5本の木に印をつける。


「まぁ、とりあえずやってみるか。アネモネ、ゴーレムを使って、印をつけた木を倒してくれ」

 森の中に、ゴーレムのコアを置く。

 木の周りの土をコアに集めれば、根っこが露出するので、倒しやすくなるはずだ。


「解った! むー!」

 彼女の魔法に呼応するように、コアの周りに土が集まってくる。

 俺の思惑どおりに、土を奪われた木の根が露出を始めた。

 次第に成長し始めた土の柱が木の幹を押すと――根本の土がなくなっているので、簡単にバタバタと倒れていく。


「やった、思ったとおりだ」

 ものの数分で、5本の大木が倒れてしまった。

 小さな木は、重機で掘り起こせばいいだろう。


「ふう……」

「アネモネ、ありがとう。しばらく休んでていいぞ」

「うん」

 俺の近くで、電子書籍を読むようなので、パラソルを出してやった。


 俺は大剣を装備したコ○ツさんを召喚し、大木を輪切りにして加工していく。

 木の先端や、根っこは必要ないので、所定の場所に積み上げる。

 薪にしたい者がいれば、ここから持っていけばいい。

 他に使い道がない。


 アネモネと協力して、1日で20本の大木を処理し100mほど森の中を進んだ。

 街道まで5~6kmなので、他の作業をしながらでも、2ヶ月もあれば道は開通するものと思われる。

 当然、この世界では信じられないような早さである。

 

 

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