135話 ゴーレムを使う
プリムラがアストランティアから、大工の親方を連れてきた。
俺の屋敷の建設を依頼するためだ。皆がアキラの運転するSUV車に乗ってきたのだが、そこにもう一人獣人の女がいた。
彼女は、プリムラが雇った獣人なのだが、ニャメナと知り合いらしい。
「彼女は私の新しい護衛ですよ」
「お嬢もなんだって、よりにもよってこんな女を……」
「腕は確かみたいですし」
「俺が、ここの領主のケンイチ・ハマダ辺境伯だ」
ニャレサという獣人の女が俺に歩み寄ると、首に手を回してきた。
「これニャレサ、辺境伯様に無礼はダメですよ」
「いいよ、プリムラ」
面白そうなのでプリムラを制した。本当なら、こんなことを貴族にすれば首が飛ぶかもしれないのに、なかなか豪胆な女性だ。
「へぇ~、あんたが貴族様? 全然そんな感じしないねぇ」
「まぁ貴族になったばかりの、初心者貴族だからな」
「辺境伯様は、獣人が好きなんだって?」
「特別好きってわけじゃないけど……」
彼女の顎をなでると、ゴロゴロと大きな音を鳴らす。
そして俺に身体を擦り付け始めた。うちの獣人たちにするように腹をなでてやると――うっとりとした顔をして、俺の足下にコロンとひっくり返った。
「にゃうーん」
可愛い声を上げるとお腹を出し、俺の顔をチラリと見上げる。
「はは、なんだ――随分と可愛いじゃないか。お腹をなでてほしいのか?」
彼女の柔らかいお腹の毛を、やさしくなでてやる。
「ごろにゃーん……」
「よ~しよしよし」
そのまま、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、俺になでられていた彼女だが――。
「にゃ…………はっ!」
突然、正気に戻ったようで、勢いよく立ち上がった。
「こ、こんなことで、あたいを好きにできると思ったら大間違いだよ!」
「ニャレサ――お前、思っきり腹を見せてたろ?」
「そうだにゃ」
彼女の行動に呆れている、うちの獣人二人からツッコミが入る。元世界の犬猫と同じように、無防備なお腹を触らせるっていうのは、従属の証らしい。
「うるせぇ! お前らと一緒にするな!」
ニャレサが、必死に弁解している間、ミャレーとニャメナが俺にスリスリして、匂いを上書きしようとしている。
「おらニャレサ! 帰れ帰れ!」
「そうだにゃー! でも、これでわかったにゃ」
「なにがだ、クロ助」
「どんな獣人の女でも、ケンイチだとイチコロだにゃ」
「うっ!」
ミャレーとニャメナが、俺を挟んでひそひそ話をしているが、全部俺に聞こえている。
「そんなことするつもりはないよ」
ニャレサという獣人は、プリムラの後ろに隠れると、耳を伏せて尻尾をブンブンしている。
俺のことを、かなり警戒しているようだ。
そっちから抱きついてきたのにな。
「旦那は俺らのものだからな! 見てみろ、旦那に毎日なでられている俺たちの毛皮を!」
「ピカピカにゃ!」
彼女たちが、自慢の陽の光を反射する毛皮を、ニャレサに見せつける。
「ぐぬぬ……」
獣人たちの間でマウントを取るために、大きなポイントとなるのが、毛艶の良さだ。
彼女たちの毛皮をなでる時間も捨てがたいが、俺には大事な仕事がある。
獣人はおいておいて、大工の親方と仕事の話に戻る。
「この魔法のクレーンで荷物を積み上げて、運ぶのでございますか?」
「そうそう。その起重機と、俺たち独自魔法を操る魔導師が使役する、鉄の召喚獣だ。人力の何十倍もの仕事をこなす」
「わしらを乗せてきた、あの鉄の召喚獣と似たような?」
親方は、プ○ドとフ○イターをじっと見つめている。
「そのとおりだな」
「領主様は魔導師でもあると聞かされましたが、これほどの大魔導師とは……」
「親方も帝国でドラゴンを倒した大魔導師の話を聞いたことがあるだろう」
「はい……」
「それが、あのアキラだ」
「な、なんですと!」
親方が俺の話を聞いて飛び上がると、後ずさった。
「ケンイチの話は本当じゃぞ。ソバナで帝国側から亡命させたのじゃ」
「いやはや、あの御仁がそんな凄い方だとは……」
「ははは、中身はただのオッサンだけどな」
「ウェーイ!」
アキラがクレーンを振り回して遊んでいる間に、親方と話し合いをする。
とりあえず、キットのログハウスを10棟ほど組み立てるために、木を伐採してスペースを作ることにした。
「プリムラ、注文した上着ができあがっていたんだな。よく似合ってる」
「ありがとうございます」
ちょっと、よそよそしいプリムラが気になるが、俺は領主なので皆の手前、敢えてしているのだろう。
「それから、アネモネのローブを取ってきました」
彼女が、青いローブを差し出してくれた。
「おお、ありがとう――それじゃ早速仕事に取り掛かるか~。お~い、アネモネ!」
近くで、遊んでいたアネモネを呼んで手伝ってもらう。
「なにをするの?」
「ちょっと、ゴーレムを作ってくれ」
「解った」
「ほら、君のローブも、できあがったぞ?」
「わーい!」
ローブを羽織ると、鮮やかな青い生地に施された、金糸の刺繍がキラキラと光っている。
それを見た、リリスが渋い表情をしている。
「妾にはないのかぇ?」
「王都で売った洞窟蜘蛛の糸を使ったんだよ。もう在庫はないかなぁ」
「むう……妾は正室じゃぞ?」
この青い生地は、彼女がここに来る前に注文したものなんだが……。
とりあえず、シャングリ・ラを検索してみると、ベルベットの布が売っている。この手の布は、この世界では見たことがない。
これでご機嫌とりができないかな?
「ポチッとな」
購入したのは、3000円ほどで売っていた、ちょっと暗めの赤色をしたベルベットの布。
「ほう! これは見事な布! でも、妾も青がよいのぅ」
リリスのリクエストで、青を購入する。シャングリ・ラには、同じシリーズで色バージョンが沢山ある。
「これじゃ! この色がよいわぇ!」
リリスも気に入ったようだ。
「プリムラと一緒に、アストランティアの仕立て屋に行って、好きな服を作ってくればいい」
「ケンイチは一緒に行ってはくれぬのかぇ?」
「俺には仕事があるからな。ここを早く住めるようにしなくてはならないし」
「そのとおりじゃな。それまで妾も我慢するとしよう」
「いいのか?」
「いいのじゃ! 妾は正室だからの!」
近くにいたアマランサスにも聞いてみるが――。
「妾は、聖騎士様の奴隷――豪華な服やドレスなどは必要ない」
「……」
いい加減、奴隷を止めたら――と言おうとして止めた。また拒否して、ゴロゴロと地面を転げ回るのが目に見えるからだ。
仕事のために、ログハウスを組み立てる場所に行く。俺のあとを、ズラズラと皆がついてくる。
場所はメイド達が畑の作業をしている隣だ。その近くには、俺が作ったツリーハウスの舞台がある。
「ケンイチ、あれはツリーハウスか?」
アキラもクレーン遊びを止めて、俺たちについてきた。
「そう、あそこに組立てた家を置けばツリーハウスに早変わり」
「おおっ! 秘密基地じゃん! 俺も遊びに来ていいか?」
「いいけど――家が増えたら、あれは解体する羽目になるから、早めのほうがいいかもな」
「オッケー!」
どれだけ人が集まるか解らないが、人が増えて手狭になってから、ツリーハウスを解体しても遅くはないだろう。
「ケンイチ、ここの木を召喚獣の巨剣で切り倒すのかぇ?」
リリスが、大木の所へ行って、幹をペシペシしている。
「切り倒しても根っこが残るし、そうなると、また召喚獣を使わないとダメなので、ちょっと試してみたいことがあってな」
「それでは、どうするのじゃ?」
「木を倒すのに、アネモネのゴーレムを使う」
「ゴーレムを?」
一緒についてきた、アマランサスの話でも、そういう使い方をする場合があると言う。
「じゃが、あまり効率がいい方法とはいえぬがのう」
アマランサスが言うゴーレムの運用方法が、どのようなものか解らないが、俺の考えている方法とは違うはずだ。
なおゴーレムの起動には、通常は国の許可が必要なのだが、辺境伯にはその権限も与えられている。
辺境の開発のために、ゴーレムが必要な場合が多いからだが――。
それが辺境伯が他の貴族と比較しても、強い権限を持っていると言われる所以になっている。
「旦那たちは、いったいどうするんだ?」「にゃ?」
「細工は流々仕上げを御覧じろってやつだよ」
アキラの言葉に獣人達が首を傾げている。
皆が訝しむ中、作業に入る。
アイテムBOXから、巨大ゴーレムのコアを出して地面に置く。
地面から直接ゴーレムの素材を取れないとなると、重機を使って掘り起こさなければならない。
「アネモネ、人型にしなくていいからな。木の高さと同じぐらいの棒型にできるか、やってみてくれ」
「解った――むー!」
彼女が精神統一をすると、青い光が集まり地面へ染み込んでいく。
いったいどうなるのか?
とりあえず、なんでも試してみないとな。
徐々に地面が割れて凸凹が増えると、コアの回りに次第に土が集まり始めた。
土の小山が、どんどん大きくなり、そのまま上に伸びていく。
魔法で固められているので、完全に物理法則を無視している動きだ。
「アネモネ、そのゴーレムで、木のなるべく上のほうを押してみてくれ」
「……」
精神統一によってある種のトランス状態になっている彼女からの返事はないが、指示は伝わっている模様。
円柱形のゴーレムから、横に腕が伸びて大木の上部を押し始めた。
徐々に大木が傾き、地面からは木の根っこが飛び出してくる。
ある程度、角度がついたところで、木がそのまま倒れて地面を揺さぶった。
「「「おおお~っ!」」」
「こりゃ、すげぇ……これがゴーレムか」
ゴーレムを構成していた土が、崩れて小山になったのを見て、親方がつぶやく。
これで上手く行ったので、地面を耕すのもゴーレムの魔法を使ってできるかもな。
「ふ~っ」
「アネモネ、上手くやったな!」
彼女を抱きしめて、なでなでしてやる。
「えへへ……」
アネモネが抱きついている俺の所へ、プリムラがやってきた。
「ケンイチ、随分簡単に大木が倒れたように見えましたが……」
それを説明するために、俺はアイテムBOXから杭を取り出して、地面に軽く打ち込んだ。
「地面に打ち込んだ杭の根本を蹴飛ばしても、びくともしないが、上を押してやると――」
地面にめり込んだ部分ごと土が盛り上がって、杭が倒れた。
「なるほど、テコの原理だのぅ」
アマランサスが、自分のアイテムBOXから扇子を取り出して広げた。
「このやり方なら、根っこを掘り出す手間が省ける。後で俺の召喚獣を使って、根っこをぶった切ればいい」
アネモネのゴーレムの力に、大工の親方も目を白黒させている。
「こりゃ、すげぇ――ケンイチ様。普通はこんな大木なら数十人で数日がかりで処理するんですぜ? それをたった一人の子どもが……」
「子どもじゃないから!」
「うちの大魔導師様だぞ」
「こりゃ、失礼をいたしました。申し訳ございません」
俺の傍にいる子どもが魔法を使い、しかも大魔導師だなんて、思いもよらなかっただろう。
親方は頭を下げた。
まぁ、それはさておき――。
ゴーレムが使えるのなら、他の作業しながらでも、1日10本ぐらいの木を処理できるだろう。
あまり倒し過ぎても、大工たちの仕事が間に合わなくなってしまう。
以前は、俺がなんでもやっていたのだが――。
ここが領地になったので、可能な限り仕事を作り、人を雇って経済を回していかねばならない。
アネモネに次の木を倒してもらい――俺はコ○ツさんに取り付けた巨剣で大木を丸太にする作業に入る。
重機を出すと、ジャージ姿に麦わら帽子を被り、走ってくるカナンの姿が見える。
なにやら思いつめたような真剣な表情をしているのだが――。
「え? カナン様で?」
大工の親方が驚く。彼はカナンのことを知っていたようだ。
子爵邸を建てたのは、この親方ではないだろうが、仕事の付き合いはあったらしい。
たとえば、補修工事とか増築とか、仕事は色々とある。
「ケンイチ!」
コ○ツさんに乗り込もうとする俺の所へ、カナンがやって来た。
「なんだ、カナン。作業を始めるから危ないぞ。下がっていろ」
「メイドたちに聞いたぞ! ケンイチに抱いてもらっていないのは、私だけだと!」
やっぱりこれか……女性が沢山いるってのは大変だ。
「ええ? 確かにそうだけどさ」
「おお~っ、さすがケンイチ! 子爵夫人も寝取りか? この寝取り大明神!」
アキラが、おかしなあだ名を俺につけて呵々大笑している。
「寝取りじゃないから。ユーパトリウム子爵が、新しい正室をもらったので、俺が引き取ったんだよ。彼女の望みでもあったし」
「こんな美人の正室を追い出すって、新しい正室ってのは、どんなすげぇ女なんだ?」
「こういう――」
俺は、両腕を使って、新しい正室の身体のラインを真似してみせた。
「ああ、そういう趣味の」
「まぁそういうこと」
オッサン二人でうなずき合っているのだが、カナンが泣きついて離れない。
「ケンイチ~後生だ~私のことが、そんなに嫌いか?」
「嫌いな人間を引き取ったりは、しないから」
「それでは、よいではないか!」
彼女が俺にすがりつくので、振りほどこうとするのだが、離れない。
「ああもう、解った解った。カナンは、そういうのを望まないとか言ってなかったっけ?」
「そう……確かに申したが――そのやっぱり、女としては……悔しいではないか……」
何やら、もじもじして可愛いのだが、元人妻でいい歳なんだがなぁ……。
プリムラとアネモネの視線が痛いが、やむを得ない。
リリスは、「王侯貴族とは唯一の正室と側室を多数持ち、愛人を侍らせて、メイドに手篭めにするのが務め!」と思っているらしく、なにも言わない。
アマランサスもチラ見程度で興味がないようだ。
まぁ、カナンとやるといっても、それは夜の話。
まずは目の前の仕事をしなくては――。
アネモネのゴーレムで木を倒してもらい、俺の重機に取り付けられた巨剣で丸太にする。
大まかな枝払いは、アマランサスにやってもらい細かい仕上げは大工たちに任せた。
切り離した根っこなどは、割って焚き付けだな。
あっという間に丸太が10本完成した。
「はは……まったく信じられねぇ」
俺たちの早業に親方が、あっけにとられている。
今回、枝払いをアマランサスにやってもらっているが、これも人に任せて雇用を生んだほうがいいだろう。
同じく、木が倒れた穴を埋める作業も、人に任せれば雇用創出が可能。
勿論、俺の重機を使えばあっという間に終わるが、それでは民のためにならない。
公共事業で金を撒き、民がその金を使い、他の民も潤うように波及していく。
元世界じゃ、選挙もロクに行ったことがないオッサンが、政をする羽目になるとは……。
まぁここには、この世界の政治の専門家である、紋章官のユリウスや、実質国家の首長であったアマランサスがいるんだ。
面倒なことは、彼女たちに任せてしまえばいい。
領の財務はマロウ商会とプリムラがいるしな。
「明日も10本ほど切り出すし、沢山欲しいというなら、もっと可能だが」
「いえいえ、こちらが処理しきれませんぜ」
「それじゃ、様子を見ながら決めるか……」
彼と今後の予定を話し合う。
おあつらえ向きに、ここには川がある。水車を置いて、それを動力にする丸鋸盤を設置するようだ。
勿論、俺がシャングリ・ラで工作機械を購入すれば、そっちのほうが高性能なのは当然なのだが――。
そんな文明の利器を、この世界の住民に使わせることはできない。
親方との話が終わるとアキラがやって来た。
「ケンイチ忘れてた!」
「なんだ?」
「子爵夫人の荷物を預かってきていたんだ」
アキラのアイテムBOXから、カナンの荷物を出してもらう。
大きな戸板2枚に荷物が載っていたので、そのまま俺のアイテムBOXへ収納した。
現時点では、置く場所がないのだ。
「それでは、アストランティアへ戻って、製材所を作る手配と、領主様のご依頼の家を組み立てる人員を確保いたしますので」
プリムラが大商人の娘というのは、実に都合がいい。
マロウ商会にしても、新しい領の開発にゼロから出資できるのは大儲けのチャンスだ。
しかも、俺とアキラのチートを使って、儲けられる要素が山程ある。
「そうか、よろしく頼むよ」
親方はアキラの運転するユニ○ク付きのトラックで、アストランティアへ帰るが――。
帰り際、アキラに油を出してもらう。バイオディーゼル燃料を作るのに必要だ。
タダで大量にもらえるのに、使わない手はない。それと引き換えに、SUV車などをタダで貸しているのだ。
シャングリ・ラからオープンタイプのドラム缶を4つ買い、その中をマヨで満たしてもらう。
「マヨパワー! んで、分離!」
アキラがマヨパワーを使うと、ドラム缶の中が瞬時に黄色いマヨネーズで満たされる。
チートパワーに相応しい信じられない光景。このマヨネーズをさらに分離して、油と澱に分離することができ、ドラム缶の中が、茶色の植物油で満たされている。
こうしてみるとマヨネーズの成分は、ほとんどが油というのが目に見える。
俺のシャングリ・ラとは違い、彼の力には対価が必要なく、ほぼ無尽蔵に湧く文字通りの歩く油田。
俺の力に負けず劣らずの強力な能力だ。
アキラに貸したプ○ドは、彼のアイテムBOXの中に入っており、移動の際の脚として利用される。
彼のアイテムBOXだが、あまり容量がないので、大きな材木などは入れることができない。
大量の大きな荷物を運ぶとなると、どうしてもトラックが必要だ。
以前なら、全部自分でやっていた仕事だが、領主になったのだから人を使うことを覚えないといけない。
それは俺の家族の全員から言われている。
元世界ではイラストレーターという個人でやる仕事をしていた俺が、この歳で生き方を変えるというのは中々大変だ。
心の中で及び腰になる俺だが――家族や、これから増えるかもしれない領民のために頑張らなくては。
アキラには、ユリウスが書いた手紙を、マロウ商会へ持っていってもらう、お使いも頼んだ。
マロウ商会を通じて、カダン王国の貴族たちに、ハマダ辺境伯領の手紙が届けられるのだ。
プリムラも、仕事が残っているらしいので、アストランティアへ戻る。
大工との交渉も彼女に任せているからな。
トラックの座席に3人乗り、護衛のニャレサという獣人は荷台に乗った。
「それじゃな、ケンイチ」
「おう、頼んだぞ」
アキラとプリムラを見送ると、すでに夕方。仕事が終わったので夕飯にする。
皆のリクエストはカレーだったし、俺もカレーを食いたいのでカレーにした。
人数が多いので、皆で準備をして、圧力鍋で煮込めばすぐにスープが完成する。
そこにカレールウを入れれば、あっという間に美味いカレーができるのは、さすが日本のテクノロジー。
元世界でも老若男女に支持されて、国民食ともいえたカレーだが、この世界でも国民食になる可能性を秘めている――といったら大げさだろうか?
カレーは出来上がったが、個人的にカツカレーを食いたかったので、カツを揚げる。
肉は勿論、レッサードラゴンの肉。
以前食べたときは、美味しいと評判だったので、このカレーとの組み合わせも、当然期待できるといえるだろう。
カツカレーができたので、テーブルに並べて、皆で食事になった。
「旦那、揚げ物とカレーの組み合わせかい?」
早速、ミャレーがカツとカレーを合わせて口に運んだ。
「うみゃー! これは、うみゃーで!」
なんか名古屋人みたいだが……。
「美味しい!」
「ふおっ! これは、これは! 美味すぎる!」
アネモネとリリスも一生懸命、カレーをかきこんでいる。
「これは……美味だのう……決して城では食えぬ味じゃ」
「これが噂になっていたカレーですか! いったい何種類の香辛料を組み合わせて作られるのか……」
アマランサスは落ち着いて味わい、ユリウスはカレーのその味に驚いている。
「サンバクさんが、同じものを再現していたから、お城でも食べられるようになるとは思うけど……」
それにできたての香辛料を使っていたから、サンバクのカレーのほうが、香りが鮮烈だった。
「そのサンバクが、自分の部下に秘伝を伝えておればいいがのぅ」
「でもなぁ、あの一口食べただけで料理の材料が解る能力は、人に教えられるようなものじゃないだろうし」
「そうだのぅ」
俺とリリスの会話にアマランサスが、水を差す。
「味の解らぬ城の連中など、そこら辺の草でも食めばよいのだ」
愚痴っているアマランサスは牛乳を飲んでいるが、酒好きのニャメナでも、カレーのときは酒を飲まない。
合う酒がないからだ。
「こ、これは美味い! はぐはぐ」
ジャージ姿でカレーを食べているのは、カナンだ。
どうも、ジャージが気に入ったらしい。
「カナン、その服でいいのか?」
「これは動きやすくて最高ではないか。もう気取る必要もないしな」
彼女は貴族生活や社交界に嫌気がさしているようだが、一時的なものかもしれないし、カナンの好きにさせてあげよう。
美味いカレーの食事も終わったので、俺はカナンとの約束を果たすことに――。
彼女を連れて、俺は暗い中をツリーハウスへと向かった。