134話 戦闘機械獣
かねてから温めていた、俺の妄想を実現に移す。
愛用の重機――コ○ツさんと、ファンタジー武器の融合。
それが今回の計画の趣旨だ。
まずは、元世界でビルなどの解体用に使われている、クラッシャーという重機のアタッチメントを買う。
こいつはバックホウの腕の先端に装着する、クワガタのハサミのような形をしている。
この大きなハサミでコンクリや鉄筋を切断して、建物を解体するわけだ。
解体用のアタッチメントを買うのだが、解体に使うわけではないので、ボロい中古で十分。
サビサビのクラッシャーが10万円ほどで売っていた。こいつを利用しよう。
「ポチッとな」
ドス! と重い鋼鉄の塊が、地面にめり込む。
とても一人で動かせるような重さではないので、力自慢の獣人たちに手伝ってもらう。
こいつに、ソバナで買ったドワーフの巨大剣を合体させる計画だ。
その大剣も、アイテムBOXから出した。
「旦那、こんな巨大な剣をどうするんだい?」「にゃー?」
「召喚獣の腕に装着させて、振るんだよ」
「ええ? 本気かい?!」
「本気と書いてマジと読む」
黙っていたリリスが、俺の所にやって来た。
「そなた、そのような巨大な剣も持っていたのかぇ?」
「ああ、リリスには見せてなかったか。ソバナのドワーフの店で買ったんだ」
黒い刃先はアダマンタイトだと説明する。
「なんじゃと、アダマンタイト?!」
「ドワーフの話によると、竜の鱗すら切れるって言ってたけど」
「これが本物のアダマンタイトなら、切れるじゃろ」
まさか、あのドワーフが嘘をつくとも思えんし、これは本物で間違いないはずだ。
リリスが、巨剣を興味深そうに眺めて、手で触っている。
彼女は、かなり好奇心が旺盛なタイプみたいだが、好奇心は猫をも殺す――注意しないとな。
獣人たちに手伝ってもらい、巨大な鉄のハサミと巨大な剣の柄の部分が合うように寝かす。
プラズマカッターをアイテムBOXから出して、シャングリ・ラから買った鉄管と鉄板を切断。
それを溶接合体し、Ω型の留め具を沢山作って、アタッチメントに固定するわけだ。
アイテムBOXから、大型発電機と、溶接機を取り出して準備をする。
溶接面を被り、周りにいる連中に注意を促す。
「お~い! 魔法の光を出すから、直接見ると目が潰れるぞ! 絶対に見るなよ」
「ケンイチ、真かぇ?」
「本当だよ。だから見るなよ。アネモネ、ちょっと鉄を加熱してくれ」
「うん、温め!」
鉄が真っ赤になるほどの加熱はできないが、手がつけられないぐらいの温度にはなる。
発電機を起動して溶接を行うと、まばゆい白い閃光を放ち、火花が飛ぶ。
とりあえず、このアタッチメントは、これ専用になるから、がっちりと溶接してしまう。
「こ、これは――真に目が潰れる光だの!」
「見るなよ~!」
数十分かけて、巨剣の柄と鋼鉄のハサミを溶接――ガッチリと固定した。
「ふう――これが本当に使えるかどうかだ……召喚獣を出すから、皆下がってくれ!」
コ○ツさんの強化武装が完成したので、早速試し切りだ。
これでだめなら、固定する金具を特注したりしなくちゃならない。
アイテムBOXから重機を出す。
「コ○ツさん、召喚!」
地響きを立てて、黄色い巨大な重機が現れた。
獣人たちに手伝ってもらい、コ○ツさんの腕に装備されているバケットを交換――巨大な剣に換装する。
当然、油圧のケーブルもつなげる。クラッシャーのハサミを開けば、巨大な鍔のように見える。
重機の運転席に座ると、エンジンを始動させて、感触を確かめる。
巨大な剣を水平にもできるし、立てて突き刺すこともできる。
このアタッチメントは、先端を360度回す事ができるので、剣を縦にも横にもすることが可能だ。
この重機は、アームの先端まで約9m――そこに刃渡り3mの剣の長さが加わる。
切っ先まで12mの巨人が振り回す剣。
こんなことをしなくても、アネモネのゴーレムに持たせれば良いような気もするが。
「アネモネ、ゴーレムに剣を持たせるってできるかな?」
「う~、難しいような……」
リリスに聞いても、ゴーレムが剣を装備したりした実例はないらしい。
戦闘に使うときは、単純に岩を投げたり、丸太を転がしたりして攻撃をするようだ。
「それで――旦那は、こいつを戦闘に使うのかい?」「にゃ?」
「ちょっと今から試してみるぞ」
そのまま重機を移動させて、アストランティア側の森へ向かう。
ここを切り開いて、アストランティアまでの直通道路を作るつもりなので、木を切っても問題ないだろう。
剣を水平にすると、コ○ツさんのアームを振り回して、切り倒す木に当たりをつける――木の太さは40cmぐらい。
2~3回試し振りをしながら、位置を合わせていく。
「よっし! いってみるか」
近代科学の結晶プラス、ファンタジー武器。
いったい、どのような結果になるのか。
「おお~い! 危険だから、離れていろよ!」
運転席から顔を出して、周囲に注意を促す。剣の固定が壊れて、飛んでいく可能性もある。
俺はレバーを握る手に、ぐっと力を入れた。
これは機械なのだから、旋回用のレバーを動かせば、毎回同じ動きをする。
勢いよく車体が旋回すると、そのまま切っ先が大木へ到達。
いったいどうなるか? 好奇心でワクワクしながら、アームを操作したのだが――そのまま通り過ぎた。
「あれ? 空振ったか?」
運転席から身を乗り出して、様子を窺っていると――風が吹き、森が揺れた。
それに煽られるように木がゆっくりと動き始めた。
やったか? と喜んでいると、大木は俺のほうに向かって倒れてきたのだ。
「ちょ、ちょっとタンマぁ!」
慌てて、運転席から飛び降りようとすると、アネモネの声が響いた。
「聖なる盾!」
彼女の声とともに現れた透明な盾が、倒れてきた大木を斜めにそらすと、コ○ツさんの横に倒れてバウンドした。
腹に木が転がる重低音が響く。久々に血の気が引いた。
「ふぅ……焦ったぜ……」
そりゃ木を水平に切ったら、どちらに倒れてもおかしくないが、木が倒れてきたのだから、この大木を一刀両断できたのだ。
俺が喜んでいると、慌てて皆が駆け寄ってきた。
「すげぇぇ! こりゃ、使えるぞ?!」
「旦那、喜ぶのはいいけど、今のは、やばかったぜ?」
「そうだにゃ」
「悪い! 早くこいつを試してみたくて、あまり注意を払ってなかった」
「ケンイチにしては、珍しいにゃ」
「だが、さすがアダマンタイトだ。ドラゴンでも切れるっていうのは嘘じゃないみたいだな」
この鋼鉄の野獣の振り回す剣が、本当にドラゴンに通用するかは未知数だけど。
「ケンイチ、このような化物をどうするのじゃ?」
「どうって……使うだろ? 辺境伯領を守らんとダメだし」
「でも、こんなのを使ったら、相手が騎士団でも鎧ごと真っ二つだね」
アネモネが凶悪な武器を見て、つぶやく。
「う、多分な」
そんな使い方はしたくないが、皆を守るためなら、決断しなくてはならないだろう。
そういう立場に、なってしまったわけだし。
とりあえず平和的な利用法として、倒した大木がアイテムBOXに入るように10m以下にカットするのに使う。
大剣の刃先を立てて、大木を輪切りにする。半分にすればアイテムBOXに入るだろう。
ずんばらりん――と面白いように切れる。こりゃ凄い。
まるで、原子の鎖をカットするような感じで、スッと切れる。
作業をしていると、アキラのプ○ドが俺たちの所へやって来た。
運転しているのは当然アキラだが、他にも誰か乗っているようである。
俺は、アキラを出迎えた。
「よぉ! アキラ、よく来たな!」
「オッス! なんだよ、いいところじゃねぇか。コテージとか建てれば、別荘地だぞ」
「あそこに、滝もあるしな。この世界の住民は、観光旅行とかしないみたいだし」
「ああ、そうだなぁ。大貴族は別荘地へ行ったりすることがあるけど」
そんなことができるのは、よほどの大貴族だけだろう。
隣のダリアを治めている伯爵でも、王都に小さな宿泊用の別邸を持っているだけだというし。
「やっぱり、俺だけでも、ここに住もうかな?」
「もし、そうなら、歓迎するぞ? なにもないけどな」
「そんなの、美味い飯と酒と女がいれば――って、なんじゃありゃ?」
アキラが大剣を取り付けた重機を見つけて驚いている。
「ソバナで、ドワーフから買った巨剣を、重機に取り付けて兵器として転用しようかと。名付けて戦闘機械獣!」
「そりゃ、相当いかれてるな――むろん褒めてんだけど」
「はは、サンキュー。当面、騎士団やら軍は持てないから、それに代わる兵力が必要だろ?」
「まったく領主様ってのは大変だな。俺は、貴族なんかは御免こうむるねぇ」
とりあえず、重機をアイテムBOXに収納しよう。
俺の行動に呆れるアキラの後ろから、プリムラがやって来た。卸したての青い上着を着て、腕には青い布を持っている。
その横にヒゲの生えた背の小さい男がいる。白いシャツに、茶色のズボンとベストを着て、背は低いがガッチリとした肉体労働系だ。
いかにも、頑固な職人風――歳は俺と同じか、ちょい上と思われるが、この世界の男は年齢より老けて見えることが多い。
若く見られる日本人とは逆だな。それだけ苦労が多いのかもしれないが。
それとプ○ドの近くに、白い毛皮を着た女の獣人がいる。
おそらく、プリムラが雇った新しい護衛だろう。
メインのお客は、目の前にいる男のほうだ。
「プリムラ、そちらは?」
「アストランティアの大工の親方、ドラクラです」
「辺境伯様には、ご機嫌麗しく」
親方が堅苦しい挨拶をしようとするのを止める。
「そういうのは、いらないよ。ケンイチでいい」
「それじゃ、ケンイチ様。お屋敷を建てなさるそうで?」
「ああ――」
彼に建てる屋敷の大きさを伝える。アストランティアにある子爵邸のより一回り小さいサイズでいいだろう。
勿論、木造だ。いつ消滅するか解らない領のために、贅沢な石造りの建物なんて必要ない。
「それから、メイドたちの宿舎が必要だ。今後を考えて20人ぐらいが利用する造りにしてくれ」
親方が俺の注文をメモっている。
「本当は、屋敷を崖の上に建てたいんだがなぁ」
「はは、そいつは面白そうですな」
「そいつは面白そうだし、景色がよさそうだな! 秘密基地っぽくていい」
アキラも賛同してくれた。
「だろ?」
男たちは乗り気なのだが、リリスから物言いがついた。
「ケンイチ、あまり酔狂な建物にすると、後々大変なことになるぞぇ? そういう無駄遣いをした貴族が沢山おる!」
「私も、そう思います」
リリスとプリムラの言葉に、男のロマンから現実に引き戻された。
「ケンイチ、自宅ってのは奥様の意見も大事だからな。ちゃんと聞いたほうがいいぞ?」
「そうだな」
とりあえず、男のロマンは諦めるしかないようだが、建築の契約をマロウ商会を介して結んでもらう。
なぜマロウ商会経由だといえば、できたてホヤホヤの辺境伯領に信用がないからだ。
位階が高いのは確かだが、こんな野っ原と森しかない僻地にできた貴族領を誰も信用なんてしていないってわけ。
屋敷を建てた途端に破産した――なんてことになったら、大工の経営も危なくなるからな。
日本でいう連鎖倒産だ。
「材木は――開拓のために、ここの森から切り出すから、それを使ってほしい。できるか?」
「そのためには、ここに製材所を作らにゃなりませんねぇ」
この世界の大工は、材料の切り出しを手配して運搬などをする材木屋の仕事も兼ねている。
ここに製材所を作れば、木材をアストランティアへ運んで加工するより、手間が省けるはずだ。
「丸太の運搬は俺のアイテムBOXがあるから、楽だぞ」
俺のアイテムBOXから、丸太を取り出す。
「ひぇ!」
突然、極太の丸太が出現して転がり、親方が声を上げた。
「いやはや、お嬢さんから領主様がアイテムBOX持ちだとは聞いてましたが……」
「あちこちで、加工して運んでくるより楽だろ? 屋敷だけではなくて、住民たちの住居も建ててもらうつもりだし」
「こりゃ、大仕事だ。下手をすると、ここがアストランティアより大きな街になるかもな」
「私は、そう思っておりますよ」
プリムラが、得意げに大きな胸を張る。
「それじゃ、ここに製材所を作るのは決定なのか?」
「実は、アストランティアでは、もう仕事がそれほどないのでございます」
「ここの人口が増えるとなれば、いくらでも仕事が増えるからなぁ」
「その通りでございます」
最初の計画として――アストランティアまでの直通道路を作るつもりだから、工事で伐採木がでる。
「道を作るために切り倒した丸太も、場所を決めて積んでおくから、それを使ってくれ」
「切り倒す手間がいらないなんて、ありがてぇことですよ」
俺は、大事なことを忘れていた。
「そうそう、屋敷の建築を始める前に、これを組み立ててくれないか?」
俺は、シャングリ・ラから、ログハウスのキットを購入した。
以前に買ったものとは違うが、似たような板を積み重ねるタイプのログハウスだ。
同じものを検索したのだが、売っていなかった。モデルチェンジしたのか、別の商品に切り替えたのかもしれない。
この手の商品は、ある程度まとめて材料を加工してあるはずで、それがなくなったら販売終了なのだろう。
五坪で150万円――俺が使っていたものと似たようなスペックの小屋だ。
「ポチッとな」
購入ボタンを押すと、空中からバラバラと板が落ちてくる。
降ってくるのは前と同じだ。途中で売り切れたら、他のタイプを購入するしかないだろう。
まぁ雨風しのげれば、それほど文句は出ないはずだ。こんな組み立てキットの家だが、街に建っている住宅と比較しても、結構上等な部類に入る。
「こりゃいったい!」
親方が、バラバラになったログハウスの材料を見て、驚いている。
「材料は、すでに加工してあるので、これを10棟ぐらい組み立ててほしいんだ。素人の俺たちがやるより専門業者のほうが早いだろ?」
彼に一緒に落ちてきた、組み立て説明書を見せる。
「ふ~む、この紙に組み立ての方法が書いてあるって寸法ですか……」
「そう、同じ家を沢山建てるなら、予め加工した材料を使ったほうが効率がいい」
「なるほどなぁ……」
親方は感心するように、説明書を眺めているが――。
「どうだ? 組み立てはできそうか?」
「あそこにある、あの家や小屋も、こういう具合に組み立てたものでございましょう?」
親方が、俺たちの家を指さした。
「実はそうなんだ。あの家は、俺が一人で組み立てた」
「それじゃ大工のあっしらが、できねぇと泣き言を言うわけにはいかねぇ」
まぁ、彼らは家造りのプロフェッショナルだ。家の構造については、俺より詳しいだろう。
「それと、こいつは台所も便所もないので、その改造もしてもらいたい」
「勿論、それはあっしらの領分ですので」
シャングリ・ラで売っている元世界準拠の家とはいえ、その構造はこの世界のものと、ほとんど変わらない。
それは俺も確認済みだ。
「色々と決まったところでだ! アキラ隊員、君に頼みがある」
「なんだい? ケンイチ隊長」
「バイトしないか?」
「ああ、荷物運びだろ? ハ○エースでやるのか?」
「いいや、これだ」
俺は、皆を下がらせると――アイテムBOXからM菱キ○ンターを取り出した。
長いボディが空中から現れて、地面でバウンドする。
「4tロングかよ!」
「アキラ、運転は?」
「任せろ、ダンプでもOKだ。でも材木やらを運ぶんなら、ユ○ック付きのほうがよくね?」
そうか、確かにそうだな。アキラの言うとおりだ。
「アキラは、クレーンの操作もできるのか?」
「ああ、免許は持ってないけど、闇でやってた。ははは」
とんでもないやつだな。彼の話では、玉掛けもできるそうなので任せるとしよう。
彼の言うとおり、色々な作業や積み込みがあるなら、クレーン付きのほうがいいだろう。
アイテムBOXから出した4t車を再び収納して、下取りに出した。
ついでに高所作業車も要らないな。アネモネのゴーレム魔法があれば、高所作業車やクレーンの代わりを十分に果たせる。
よし――高所作業車も下取りに出そう。
「ポチッとな」
2台を下取りにして300万円ほどになったので、そいつを資金にする。
検索してみると、M菱のキ○ンターよりワンランクアップしたフ○イターが500万円で売っていた。
おあつらえ向きに4tのクレーン付きだ。走行距離12万km。トラックで12万kmはまだまだ序の口。
これにしよう。
「ポチッとな」
空中から、白い大きなトラックが落ちてきた。搭載されているクレーンは赤色で、荷台に対して水平に伸びている。
「お~っ! ワンランクアップしてフ○イターになったな。マジでなんでも作れるな!」
彼には、シャングリ・ラのことを言っていない。俺の魔法で作り出していると言ってあるのだ。
「なんでも作れるってわけじゃないけどな」
「ス○パーグレートは?」
俺は知らなかったのだが、フ○イターの上位車種の大型車らしい。
「10mを超えるのは無理だ」
「ああ、そういう制限があるのか……」
実際、シャングリ・ラで購入するのは可能だろうが、アイテムBOXに入らなくなる。
入らないと、下取りも出来ない。いや、試していないが、購入も出来ないかもしれないな……。
考え込んでいると――アキラの言葉で現実に引き戻された。
「ちょっと動かしてみてもいいか?」
「もちろん」
アキラが、トラックのディーゼルエンジンをかけて、クレーンを動かす。
「クレーンは4tみたいだぞ」
「はは、上等!」
アキラは扱えると言っていたのだが、彼の言うとおりに、クレーンは動き始めた。
手足のように自在に動かしているので、はっきり言って俺が操作するより全然いい。
それを見た、大工の親方が驚いた。
「これは!? 魔法で動く起重機でございますか?」
この世界にも、起重機という言葉はあるらしい。親方の話では、組み立て式の人力クレーンのようだ。
元世界でもレオナルド・ダ・ビンチの時代からクレーンはあったようなので、似たようなものかもしれない。
大型の石を使う建築には、ゴーレムをクレーン代わりにするという。
ゴーレムを使うのなら、俺の領にもそれを扱える大魔導師がいる。
うねうねと動くクレーンを見て、獣人達もやって来た。
「すげー! 旦那、また新しい召喚獣かい?」
「にゃ!」
クレーンの先についているフックに、ミャレーが飛びついた。
眼の前で動くものが気になるのだろう。ぶらぶらとぶら下がり遊んでいる。
アキラも面白がって、グルグル回したりしているが、大丈夫だろうな?
リリスもやってみたいような顔をしているのだが、当然危ないので止めた。
「ケンイチ、あんなデカい重機があるなら、もっと遊べるぞ?」
彼の話では、バケットをグルグル回して、湖に放り込むのだそうだ。
「遠心力で飛ばすのか?」
「そうそう、もしかしたら、この世界でもトレビュシェットみたいに石を飛ばしたりできるかもな」
「それならゴーレムを使ったほうが早い」
「なるほど、その手もあるか」
「なにやら、楽しそうな話をしておるの? 戦かえ?」
俺の横に、日傘をさしたアマランサスがやってきた。
「違う違う、物騒なことを言うなよ」
アマランサスが残念そうな顔をしているのだが、どれだけ武闘派なんだ。
お城の連中が煙たがるのも無理もない。
「ケンイチ、妾もその天幕が欲しい!」
そうか、リリスに日傘をやるのを忘れてたな。
シャングリ・ラで購入して、リリスにはアマランサスと色違いの日傘を渡す。
「おお、これはよいのぅ! 軽い!」
「外に出なくても、よくいる王侯貴族のように深窓の佳人に徹すればいいじゃないか」
「つまらん! そういうのが嫌で、このような僻地までやって来たというのに!」
そこに、俺の知らない声が割って入ってきた。
「面白そうなことをやっているじゃないか」
俺の前に現れたのは、白い毛皮を着た女の獣人。白毛なのだが、大きな三角形の耳と手足の先が黒くなっているシャム猫みたいな色。
茶色のブルゾンのようなものを羽織り、胸には黒いビキニのようなものをつけている。
この水着みたいなものは初めてみたな……。白い太ももが覗くミニスカに、ブーツを穿いて腰にはベルトと剣を装備。
腹には、なにもつけていないので、へそが出ている――鋭い目をした美人さんだ。
「てめぇは、ニャレサ! なんでこんな所に!?」
「ああ、ニャメナ。しばらく姿を見ないんで、死んだかと思ってたら~、こんな所にいたんだぁ」
どうやら、彼女たちは知り合いらしい。
虎柄のニャメナと、シャム柄のニャレサという獣人が、俺を挟んで睨み合いを始めた。