132話 湖畔での生活がスタート
元、子爵夫人のカナンを乗せて、子爵邸を出た。
行先はマロウ商会アストランティア支店。
すぐ近くなので、運転席の後ろにプリムラが立って、案内をしてもらう。
俺はまだ、街の地理に詳しくない。
「お義父さんが支店にいるなら、挨拶をして、弁明もしなけりゃ……」
「さきほど、子爵邸に出入りしているマロウ商会の者に聞きましたが、父はダリアにいるそうです」
「そうか、落ち着いたらダリアにも行かないとな」
「父は――ケンイチが辺境伯になったなんて聞いたら、大喜びだと思いますけど……」
そうならいいが……プリムラがそう言うなら、間違いないのだろう。
マロウ商会のアストランティア支店へ到着したので、プリムラを降ろすと、俺も一緒に降りて話をする。
「私は、ここで仕事がありますので、2~3日戻りません」
「解った。それじゃ、いざという時のために、これを渡しておく」
俺は、アイテムBOXから、青いマウンテンバイクを取り出した。
ダリアの森を抜ける時に買ったものだ。オフロードバイクを買ったので、すっかりとアイテムBOXの肥やしになっていたが、街の中なら使えるだろう。
「こ、これは――なんて素晴らしいドライジーネ……」
プリムラが隅々までマウンテンバイクを眺めている。
興味を持ったものを見つめる視線が、マロウさんにそっくりだ。
車や重機は、理解の範疇を超えているのだろうが、自転車はどういうものか理解できるのだろう。
お手本で乗ってみせる。
「練習すれば――こうやって自分で漕いで乗ることができる。湖までも自力でやって来れるぞ」
「素晴らしいですわ! 解りました!」
吟遊詩人のポポーも、ここで降りるようだ。
「ここまで連れてきていただき、ありがとうございました」
「あまり酷い話を広めないでくれよ」
「そんなことしませんよ、もう!」
「それからな――辺境伯領が領民を募集していると、宣伝をしてくれ。本当に、なにもない所なんで、来るつもりなら覚悟を決めてくるようにと――」
宣伝料として、金貨2枚を彼女に渡す。
「こんなに! 解りました~!」
彼女が金貨を受け取り、深々と礼をした。
後からやってきて、車から降りたアキラにも声をかける。
「アキラ――宿屋やら借家のことなら、マロウ商会に世話してもらえばいい。俺が保証人になってもいいから」
「いつもすまないねぇ……ゴホゴホ」
「おとっつあん、それは言わない約束だよ」
俺とアキラの寸劇に呆れているプリムラに、彼らのことを任せる。
「プリムラ、彼らのことを頼むよ。君なら解ると思うが、彼らは金になるぞ?」
「解っておりますわ」
ニコニコしている彼女は、アキラたちの力を理解しているのだろう。
金の匂いに敏感な彼女のことだ、こんな極上のコネを見逃すはずがない。
「あ、プリムラ。仕立て屋に服とローブを注文していただろ?」
洞窟蜘蛛の糸で特注してもらっているのだ。
「はい、あとで行って、様子を見てきましょう」
「頼むよ」
俺が、プリムラと話していると、獣人たちがマイクロバスから降りてきた。
「ちょうどいいところに来たな、ニャメナ」
「なんだい、旦那」
「お前は、プリムラの護衛なんだから、残るんだよな?」
「うっ! そうだけど……」
俺の言葉に、ニャメナがたじろぐ。多分、自分の仕事を忘れていたのだろう。
彼女は、プリムラの護衛として雇われたのだ。
「にゃはは! トラ公、ケンイチのことは、ウチにまかせるにゃ」
「てめぇ! クロ助! 抜け駆けする気か?」
「にゃはは!」
「くそ~っ! こんなやつを信じた俺が馬鹿だったぜ」
その会話に、プリムラがため息をついた。
「解りました。私の護衛は別の人を雇うことにしますよ」
「す、すまねぇ、お嬢!」
ニャメナが頭の上で両手を合わせた――この世界もそういう謝り方をするんだな。
「いいんですよ、あまりに信じられないようなできごとが色々とありすぎて、全部有耶無耶になっていましたから」
プリムラが、呆れた表情で俺のほうを見る。
「給料も払ってなかったしな」
「え~? 色々と稼がしてもらってるし、住む所ももらって、美味い飯は食い放題だし、美味い酒は飲めるし、金なんてまったく要らねぇ。逆に俺が身体で払いてぇぐらいだ」
「そうだにゃー、ウチの金も全然減ってないにゃー。ウチもいつでも身体で払うにゃー」
ミャレーが俺に抱きつき、尻尾を腕に絡めてきた。
「おい、クロ助! 俺も行くことになったんだから、旦那から離れろ」
ニャメナはミャレーを引き離そうと、手を伸ばしてきたのだが――。
それを素早い動作でミャレーが躱すので、二人が俺の周りをグルグルと回り始めた。
「べ~にゃ」
「てめぇ!」
「ほらほら、喧嘩するな。湖に帰るぞ。それじゃプリムラ、マロウ商会の人たちによろしくな」
「承知いたしました」
プリムラとアキラたちをアストランティアに残したまま、マイクロバスは街を出た。
街道を右に曲がると、サンタンカの村へ行く曲がった道路を走る。
湖が見えたら右折、俺が作った橋を通って、やっと湖畔へ戻ってきた。
キラキラと光る湖面、少々雑草が生えてしまった敷地。湖と反対方向を見ると白い筋が流れ落ちる滝。
トウモロコシを植えた畑は誰の手も借りずに実っていた。
マイクロバスを止めると、皆を降ろす。ドアを開けると真っ先にベルが飛び出した。
「ここか! 中々良い所ではないかぇ!」
王女が、湖面のキラメキに目を細めるが、王妃は自動車のスピードに驚いているようだ。
「こんな短時間で、王都からここまでやって来てしまうとは――聖騎士様の力、恐るべし……」
「文字通りの神速――さすが、ご主人様ですわ」
マイレンがやって来たので、メイドたちに意思の確認をする。
「ほら、メイドたち。ここを見てみろ――本当になにもないんだぞ? ここで暮らせると思うか?」
「ご主人様なら、大丈夫なのでしょう?」「アイテムBOXから、なんでも出てくるし……」
「そのとおりですよ。なにも心配はありません。メイドはメイドの仕事をすればよいのです」
「「「はい、メイド長!」」」
だめだこりゃ。諦めて、リリスにも声をかける。
「王都で何かあっても、数日で戻れるぞ」
「別に戻るつもりはないのだが?」
俺を睨むリリスではあるが、本当に帰る気はないのだろうか?
一緒にやって来たアマランサスも、嘘や冗談で奴隷になったり、王族籍を捨てたりするはずがないとは思うのだが。
やっと帰ってきたが、やる事が山ほどある。人数が増えたし、ここを本拠地にするなら本格的な屋敷が必要になるだろう。
「地図でしか見たことがなかったが、本当に大きな湖だの。向こうが見えぬ」
リリスが向こう岸を見ようとしているが、惑星は丸いから、3~4kmぐらいしか先が見渡せないんじゃなかったか。
ここは地球じゃないから、どのぐらいの大きさの星か解らんけど。
人が住む環境も同じだし、重力も同じように感じる――ということは、地球とほぼ同じ大きさの惑星なのではあるまいか。
「水はたっぷりとあるし、開墾するだけの土地もある。もしかしたら高地の上も畑にできるかもな」
「あの砂糖ができる草やら、チョコの元を育てるのじゃな?」
「ああ、そのとおり」
紋章官のユリウスにも、この場所の感想を聞いてみる。
「景色が良いところですね。ここに街ができれば、さぞかし美しい街になることでしょう」
「その前に周りを見てみろ、なにもないんだぞ? こんな僻地に来て、後悔はしていないのか?」
「ええ、それよりも――どんな街になり、どんな人が集まってくるのか、今から期待が膨らみますねぇ。ケンイチ様の手腕が存分に発揮されるものと信じております」
マジで? 話を聞いても、まったく後悔の「こ」の字もないようだ。
皆の様子を見ても、不安顔している者は誰もいない。
これだけの人数を連れてきてしまって、正直どうなるか、まったく解らない俺だけが、不安に頭を抱えている。
これって不公平じゃないのか? などといっても、後のカーニバル……。
話は、ここまでだ。暗くなる前に泊まる場所を作らねば。
領主になっちまったんだから、俺には責任がある。
アイテムBOXから草刈機を出し、シャングリ・ラから鎌を買って、メイドたちに配る。
外国で見かける、死神の鎌みたいな巨大なやつを探したのだが、シャングリ・ラには売ってなかった。
「メイドたち、これで草を刈ってくれ。人数がいれば時間が短縮できるだろう」
「「「承知いたしました」」」
俺から鎌をもらったメイドたちが、周りの草を刈り始めた。
見れば結構手慣れている。お城の草刈りも、彼女たちの仕事だったようだ。
「お~い! アマランサスは周囲の警戒を頼む」
「心得た」
「ケンイチ、私にも鎌をたもれ」
やって来たのは、元子爵夫人のカナンだ。
「大丈夫か? 草刈りなんて、やったことがないだろ?」
「食客なのに、少しでも役に立つところを見せねば、追い出されてしまう……それに、小さな貴族領では、領主や夫人が作業をするのも普通だぞ?」
「よほどの穀潰しでなけりゃ追い出したりはないけどな。実家に帰ればいいじゃないか」
「嫌だ! 大体、子爵様にも離縁同然で放り出されたのに、父や母が迎え入れてくれるはずがない!」
別に放り出してはなかったろ。側室になるなら、そのままでもいいと言っていたし。
まぁ、彼女のプライドからすれば、それは許し難いことだったのかもしれないが。
そう考えると実家に戻れないのは、間違いないな。
「それに……」
「それに、なんだ?」
「辺境伯様の愛人ともなれば――父や母の鼻を明かすこともできるし……」
「あそこにいる、怖い女たちの目にも、ひるまないのであれば、それでもいいけどな」
俺は、元王族の二人をチラ見した。
「真か!」
カナンの顔がパッと明るくなる。
とりあえず、やる気はあるようなので任せるが、白いドレスのままでは作業ができない。
開いているスペースに家を出して、その中で作業着に着替えさせることにした。
作業といえば――ジャージだろ。シャングリ・ラから、側面に2本の白い線が入ったグレーのジャージを買う。
「カナン、コレが作業着だ。着替えてからやってくれ」
「承知した!」
俺の渡したジャージを抱えて、カナンが家に飛び込んだのを見て、獣人たちもやってきた。
「旦那! 俺たちもやるぜ!」「にゃー」
「そうか、それじゃ頼む」
獣人たちにも鎌を渡す。人力での草刈り作業だが、人数が多いので、あっという間に家や大テントを置くスペースができた。
「ケンイチ! 私はパンを焼くよ」
「おっ! そうか、頼む」
アネモネのために、テーブルやコンロなどを出した。
「妾は、草刈りなどはできぬ故、アネモネからパンの作り方を習うとするか」
「教えてあげる!」
まさか王女が、パンを焼くことになるとは思わなかっただろう。
ここで重要な食事の準備だが、お城の料理人であるサンバクさんがやって来たら、任せてしまったほうがいいだろう。
俺の持っている料理のレシピなどを渡せば、寸分違わないものを作ってくれるはず。
たまに、ジャンクフードが食べたくなったら、シャングリ・ラで買えばいい。
家に小屋、大テントを全部設置して、ここが拠点となる。
元々、ツリーハウスに使っていた小屋は、ユリウスの個室になった。
中には、灯油ランプとベッドだけがある。
「ユリウス、これでしばらく我慢してくれ。他になにか必要なものはあるか?」
「小さな机をいただければ……」
「ちょっとまってくれ」
シャングリ・ラを検索――引き出しつきで、本棚と一体化しているパソコンデスクにした――1万円だ。
合板だが大丈夫だろうか。本当はスチールデスクの方が丈夫でいいんだがなぁ。
椅子は、2つで1万4000円。
「ポチッとな」
机と椅子が部屋の中に落ちてくる。
「うわっ! こんな立派なものを……」
「本棚と一緒になってるから、便利だろう」
椅子は木製だが、折りたたみ式で板状になる。
「椅子を使わないときは、こうやって、折りたたんでおける」
「これは、素晴らしい! カールドンがはしゃぐわけだ」
この小屋は彼に任せよう。
アキラたちが使っていた大テントは、メイドたちと元王族二人の荷物置き場になった。
盗難が怖いのだが、夜中は巡回を立てるそうだ。もちろん、そういうのもメイドの仕事に入っているらしい。
夜な夜なお城の中をチェックするのは、メイドたちの仕事だったようだ。
それに、彼女たちは武術の心得もそれなりにあるし、メイド長のマイレンはかなり強いという。
作業が完了する頃には、日が傾き始めていた。
「よ~し! 飯の準備をするか~」
プリムラがいないので、俺たちはインスタントのスープにするが、メイドたちは、ちゃんとスープを作るようだ。
肉はもちろん、ドラゴンの肉。どんどん食って、どんどん消費しないとな。また獲れる可能性もあるし。
次の肉が手に入ったら、古い肉は売ってもいいかもな。
まぁ、古いといってもアイテムBOXの中じゃ、いつまでも新鮮なままなんだけど。
太陽電池パネルで電気が作れるが、アイテムBOXがあれば冷蔵庫はいらないし、アネモネの魔法で洗濯機もいらない。
凄いぞ異世界。
飯を食い終わったので、風呂だ。数日、風呂に入っていなかったからな。
空き地に衝立を立てて、風呂をアイテムBOXから出す。
屋敷には風呂も作りたいから、こうやって外で風呂に入ることもなくなりそうだな。
風呂釜じゃなくても、アネモネの魔法があれば風呂は沸かせる。
風呂の準備はできたが――今まで男は俺だけだったのだが、ユリウスが増えた。
彼まで女たちと一緒に風呂に入るわけにもいくまい。
「ユリウス、お前も風呂に入るか?」
「いいえ、ケンイチ様とご一緒するなど、滅相もございません。川があるので、そこで身体を洗わせていただきます」
大テントで自分たちの荷物を整理しているメイドたちの所へいく。
「メイドたちは、どうする? 温かい風呂だぞ?」
「滅相もございません。メイドがそんな贅沢を覚えては、日々の暮らしが辛くなるだけでございます」
メイド長のマイレンが、メガネをくぃっと上げながら答える。
贅沢を覚えると後が大変なのは確かだ。獣人たちも、俺が用意する料理を食べて、街で食事ができなくなったと言っていたからなぁ。
メイドたちの顔を見ると――入りたいと思っている顔だ。
女性だし、いつも綺麗にしておきたい、という思いも解る。
「それじゃ、石鹸と洗髪の薬だけやるよ。俺のメイドたちには、いつでも綺麗でいてほしいからな」
「ケンイチ様のお心遣い、誠にありがとうございます。お気に召したメイドがいたら、いつでも御用をお申し付けください」
「……ああ、まぁ――その時には頼むよ」
そんなつもりはないのだが――ここで否定すると、彼女たちのプライドを傷つけてしまうかもしれない。
シャングリ・ラで石鹸やシャンプー、リンスを買って、プラケースに入れると彼女たちに渡す。
タオルや、バスタオルも必要だろう。
箱に詰まったシャンプーやリンスを見て、メイドたちがキャッキャウフフしている。
彼女たちの姿が実に微笑ましく見えるのだが、それは俺がオッサンだからであろうか?
辺りが暗くなったので、LEDランタンを点ける。
衝立を立てて、湯船に水を張るのだが、ここには川があるので、水を入れるのは簡単。
アイテムBOXから出した湯船を川に沈めて、再び収納すればいい。
これで、いくらでも水が汲める。
湯船を設置したら、アネモネの魔法で温めてもらう。
「温め!」
これから建築する屋敷に風呂を作ったら、油を使うボイラーを設置できないだろうか?
アキラがいれば、いくらでも油は出し放題だからな。
その対価に、彼には生活必需品を供給すればいい。
外に置いた湯船は3つ。
俺が湯船に浸かると、裸のアネモネとリリスが飛び込んできた。
「まてまて! 三人は無理だろう!」
「ええい! アネモネ、そなたは一人で入るがよい!」
「私がいつも、ケンイチと一緒に入っていたんだから!」
「妾は辺境伯の正室じゃぞ?!」
「私なんてリリスより、ずっと前からケンイチといるんだから!」
「はいはい、喧嘩しないの」
あ~もう、リリスの裸まで見てしまった。まぁ正室だっていうんだから、いずれはこうなったってことなんだが……。
白く美しいリリスの身体は、もう15歳というだけあって、アネモネよりは女の身体つきだ。
ちょこんと突き出た胸は、まだまだ小さいが、彼女の実母は巨乳だったらしいので、大きく成長する可能性を残している。
小さな湯船に、無理やり三人で入る。ぎゅうぎゅうだ。
風呂場は衝立で隔離されているのだが、すぐ近くにはメイドたちが控えているので、リリスが呼べば飛んでくるはず。
もちろん、俺が呼んでも同様だが、アマランサスはどうなのであろうか?
リリスは王族でなくなったとはいえ、辺境伯夫人だが、アマランサスは奴隷――。
メイドたちの対応が気になるが、アマランサス自身もメイドたちに、なにか頼む風でもない。
そのアマランサスは一人で湯船に浸かっていて、ひたすらマイペースだ。
さすが、実質的に一つの国を治めていた女傑。
贅肉一つついてないアスリートのような身体もよく見える。どう見ても、素人の身体ではない。
そのすぐ近くにバスローブで胸と股間を隠した、カナンが立っている。
「子爵夫人、どうした? 入らぬのかぇ?」
「いいえ、王妃様とご一緒するなんて、恐れ多い……」
「妾はすでに王妃でも王族でもない。ただの奴隷じゃ。遠慮することはないぞぇ?」
そう言われて、カナンはバスローブを衝立にかけると、アマランサスと一緒に狭い湯船に浸かり始めた。
アマランサスも美人だが、辺境の華と呼ばれたカナン。
二人揃うと、ゴージャスさが倍増。この世が春爛漫になり、花びら舞う上空からいまにも天使が舞い降りてきそうな雰囲気。
そんな二人が、なんでこんな辺境で露天風呂に入っているのか、まったくの謎だ。
アマランサスたちの隣には、獣人たちが二人で一緒に風呂に入っている。
相変わらず、喧嘩しながらだが仲がいい。
獣人たちの様子を見ていると、一緒に入っていたリリスが俺の股間に手を伸ばしてきた。
「ちょ、ちょっと! 待て待て!」
「なにを言っておるのだぇ。妾とそなたは夫婦なのだ、このぐらいするのは当然じゃろうが?」
「それじゃ、私もする!」
リリスに対抗するように、アネモネも俺の股間に手を伸ばしてきた。
「ちょっと、二人とも待ちなさいって!」
「ケンイチ――そなた、湖に着いたら、妾を抱くという約束を違えるつもりではないであろうの?」
「そ、そんなことはないけどさ……」
少女二人に迫られる俺だが――いくらこの世界ではこれが普通だといわれても、元世界の常識が俺の邪魔をする。
いやいや、リリスはいいのかもしれないが、アネモネはこの世界でも完全にアウトだろ。
「ちょっと、アマランサスからも、アネモネになにか言ってやってくれ。彼女は若すぎるだろ?」
「そうだのう……そういうのが趣味の貴族連中もいるようだが、普通は疎まれる行為じゃの」
「ぷー!」
そこに獣人たちも入ってきた。
「アネ嬢。あまり旦那を困らせちゃいけないぜ? 確かに、アネ嬢みたいな小さな子どもとやるのが好きなやつもいるけどさぁ」
「変態にゃ」
「子どもじゃないし!」
「俺も変態じゃないし、アネモネが子どもじゃないのは解っているけど、せめてリリスぐらいの歳になってからな」
「むー!」
皆の話を聞いて、この世界の文化に照らし合わせても、アネモネぐらいの歳の少女に手を出すのは、やはりまずいようだ。
皆に説得されて、アネモネも引き下がった。
「そういうわけじゃ、それでは続きをしようぞ?」
「いやいや、そうじゃない」
「なにを躊躇っておるのじゃ。そうじゃ、ケンイチは妾の女陰を洗うがよいぞ。洗いっこじゃ」
「ずるーい! 私もぉー!」
「アネモネ――全然、解ってないみたいだな。お~い、マイレン!」
俺が呼ぶと、すぐにマイレンが風呂場にやって来た。
「お呼びでしょうか?」
「アネモネのような小さな女の子と一緒に風呂に入るのは、まずいよな?」
「それが、ご主人様のご趣味であれば、我々に止める術はございませんが――はっきり言って、人としていかがなものかと」
はっきり言い過ぎ!
「ほら、アネモネ。まずいって、皆が言ってるだろ?」
そこに暗闇からベルが、パトロールから戻ってきた。
「お母さんも、アネモネになにか言ってやってくれ」
「にゃー」
「ぷー! 私だけ、のけものにするぅ」
「そういうつもりではないんだよ。リリスぐらいの歳になるまで待ちなさいって言ってるの!」
俺に少々強く言われて、アネモネはそれ以上、なにも言わなくなった。
俺を怒らせれば――風呂どころか、一緒に寝たりもしなくなるからな。
実際、彼女の歳は少々微妙だ。大人扱いはされる歳ではあるが、性行為は禁忌。
実に難しい年頃である。ひねくれて、グレなければいいのだが。お父さんはそこが心配である。
アネモネは、おとなしくなったが、リリスとはやらねばならない。
アイテムBOXからテーブルを出して、その上にジェットヒーターを並べる。
「ふぅ~こいつはたまらねぇ」「この魔道具は凄いと思うにゃ」
ジェットヒーターは、獣人たちのお気に入りだ。彼女たちは、家の隣に出した小屋で寝るようだ。
髪の乾燥が終わったので、ナイトガウンを羽織り、家の中にアイテムBOXからベッドを出して並べる。
ここで、いつもは皆が一緒に寝るのだが、俺はリリスとの約束を果たさねばならない。
暗闇の中、俺の手に握られたLEDランタンが、辺りを青い光で照らしている。
リリスと手をつなぐと、家からちょっと離れた場所へ、一緒に向かった。