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131話 アストランティアに帰ってきた


 この世界での故郷ともいえる、湖の畔まであと少し。

 朝食を食べたあと、家やテントを片付けると、次の街――アキメネスに向かう。

 そこを治める、ツンベルギア子爵に挨拶するためだ。

 アストランティアがあるユーパトリウム子爵領に、少々ちょっかいを出していたようなので、あまり仲良くはしたくないのだが、これも仕事だ。

 

 アキラと一緒に、車にバイオディーゼル燃料を入れる。

 アストランティアまで十分に保つと思うが、備えあれば憂いなしだ。

 給油が完了すると、皆が次々と車に乗り込む。

 俺たちと一緒に乗車する、紋章官のユリウスに声をかける。


「ユリウス、天幕の寝心地はどうだった?」

「中々、快適でございました」

「本当か? 屋敷や家ができるまで、天幕暮らしなんだぞ? どうしても馴染めないなら近くのアストランティアに滞在する手もあるが」

「いいえ、それではケンイチ様にお仕えする、紋章官の仕事になりません」

「なにか改善点があれば、指摘してくれ。話は聞く」

「閣下は変わっておいでですねぇ」

「まぁ、よく言われる」

 この世界とは違う価値観を持つ世界からやってきた、異世界人なのだから、しょうがない。

 プ○ドに乗っているアキラに無線で連絡を入れる。


「アキラ~! 出発するぞ!」

『よっしゃ! オッケ~!』


 車は、ほぼ直線の道路を、なにごともなく進むと、1時間ほどでアキメネスの街に着いた。


「ほぇぇ! 本当にアキメネスに着いたのですか?!」

「どうやら、そのようですねぇ」

 マイクロバスの窓から、吟遊詩人のポポーとユリウスが外を見ている。


「ここは間違いなく、アキメネスの街ですよ」

 プリムラの説明に、ポポーだけではなく、メイドたちも驚いている。


「ここまで馬車で来るとなると、数週間は……」「うん」「それをたった一日で」

「これが辺境伯様が操る、鉄の召喚獣の地を駆ける速さですか。これは歌のネタにぴったりで、聴衆が食いつきますよ」

 後ろから聞こえてくる会話に、不安に思う――おいおい、あまり変な話を広めないでくれよ。

 娯楽の少ないこの世界の住民に、そんなことを言っても、無駄なんだろうけど。


 吟遊詩人に少々の不安を感じているうちに、アキメネスの街に入った。

 当たり前だが、前に来たときと変わっていない。

 この街の作りは、アストランティアによく似ている。

 南北にメインストリートが通っており、東側に高級住宅街がある。

 その高級住宅街の一番奥が、子爵邸だ。


 街の通りを走る鉄の召喚獣に注がれる好奇の視線に耐えながら、後ろの車に連絡を入れる。


「アキラ、ちょっと子爵邸に寄るぞ。大通りを左折な」

『了解』

 街の真ん中にある大通りの交差点を左に曲がると、辺りに上等な住宅が増えてくる。

 その一番奥が子爵邸で、白い石造りの豪奢な建物と黒い飾りのついた鉄柵。

 アストランティアの子爵邸より、かなり立派な造りに見える。


 アストランティアがあるユーパトリウム子爵領は、肝心の子爵があまりまつりごとに興味がない御仁だったので経営が傾きかけ、私腹を肥やすこともなかったと思われる。

 俺が重機で手伝った用水路の完成式典で、ツンベルギア子爵にも会ったが、中々の狸親父という印象だった。

 隙あらば、ユーパトリウム子爵領の乗っ取りを計画していたように思える。


 正面門に到着したので、降りて銀色の鎧を着た門番と話をする。


「ケンイチ・ハマダ辺境伯である。お会いする約束はしていないが、近くを通りかかったので、挨拶に参った次第。子爵にお取次ぎ願いたい」

「へ、辺境伯様? 少々お待ち下さい!」

 門番は慌てて、屋敷の中に入っていった。まぁ、アポなしだからな。追い返されても仕方ない。


 しばらく門の所で待っていると、門番と黒服の紳士がやって来た。

 ロマンスグレーで、白いヒゲを生やしている、いかにも執事っぽい。


「はじめまして、辺境伯様。この屋敷で執事頭をしておりますガウラと申します」

「突然の訪問を許してくれ。近くを通りかかったので、子爵に挨拶しておこうと思ってな。ハマダ辺境伯など、聞いたことがないと思うが、1週間ほど前に授爵して拝領したばかりだ」

 辺境伯の方がかなり位階が上なので、敬語は使う必要はない。


 彼に、王家の印が入った授爵と拝領の証文を見せる。


「こ、これぞ正しく、国王陛下からの上意の証。失礼をいたしました」

 ヒゲの紳士が深々と礼をした。


「それで、ツンベルギア子爵は?」

「申し訳ございませんが――主は、ただいま外遊に出かけておりまして……」

「それは残念。それでは、アストランティアの近くに、ハマダ辺境伯領ができる旨を伝えてくれ、それと――これは贈り物故、子爵に渡してくれ」

 シャングリ・ラで買った箱に入った、1オンスのプラチナ硬貨を渡して、中身を見せた。


「これは?」

「これは、白金貨だ」

「なんですと、白金貨?!」

 コインを摘んで力を使うと、それが薄っすらと光りだす。


「なんと、本物!」

「子爵への贈り物だというのに、偽物のはずがあるまい」

「失礼をいたしました!」

「それでは――子爵には、よしなに頼む」

「はは~っ!」

 子爵が留守じゃ仕方ない。もしかして居留守かも? 俺としても、あまり会いたい人物じゃないしな。

 どうせ良からぬ企み事などを持ちかけられるに違いない。


 アキラのSUV車を方向転換してもらい、俺もマイクロバスに乗り込む。

 ユリウスの話によれば、下級貴族では紋章官を雇わず、先程のような執事が代行していると言う。

 紋章官を雇うのは、侯爵級ぐらいからのようだ。

 給料が特別高いというわけでもないのだが、優秀な紋章官は、王族や上位貴族に取られてしまうので、下級貴族まで回ってこないのが実情らしい。


 マイクロバスを大通りに戻すと、ツンベルギアの街を出る。


「居留守を使われたかのう」

「そうかもしれないな、リリス。でも、会いたい人物でもなかったし」

「ほう」

 リリスに、子爵領同士のいざこざらしきものを話す。


「確かに、ここらへんでは用水路工事が行われていたのう」

「これは、アマランサスのほうが詳しいかな?」

 アマランサスを運転席へ呼ぶ。


「そうじゃな、聖騎士様のおっしゃるとおり――ツンベルギア子爵から幾度と書状が届いておったな」

「なんて書いてあったんだい?」

「ユーパトリウム子爵には、陛下がお定めになった国家事業を完遂する能力が欠如していると――」

「隣の子爵領を合併しても、私なら治めることができますので、どうか伯爵にしてください――みたいな?」

「そのようなことがしたためてあったわ。それに、ユーパトリウム子爵の統治能力が問われれば、本当にその可能性があったのも事実じゃ」

 その事実確認のため、忙しいにもかかわらず子爵がお城へ呼び出されたりしたのだろう。


「それを、俺が一人でひっくり返してしまったのか……」

「そうじゃ! この世にあらざる特異なる力! これは聖騎士様に相応しい人物が現れたに違いないと――妾はそう思ったのじゃ!」

 どうやっても間に合いそうにない普請を、鉄の魔獣を召喚して、完遂してしまった。

 アマランサス当人から、そう言われれば、なるほどなぁ――と思う。

 裏舞台じゃ、そういうことになっていたのが解ったが、これでツンベルギア子爵が、ユーパトリウム領を狙っていたのが、確定的になったな。

 それじゃ、なおさらツンベルギア子爵とは仲良くはできんな。


 車列が、ほぼ真っ直ぐの街道を走っていくと――それは次第に、ゆっくりと右カーブを始め、深い森がチラチラと見えてくる。

 しばらく進むと、左手に用水路の水源になっているカズラ湖が見えてくる。


「これがカズラ湖で、用水路の源になっているんだ」

「ほう――城で見た、普請の計画書に載っておったの」

 アマランサスが窓からきらめく湖面を眺めている。


「王族が、現地まで視察に来るなんてことはあるのか?」

「よほどのことがない限り、ないの」

 ないのかよ。実際に現地や地方がどうなっているとかは、報告任せなんだろうな。

 工事していなくても、工事しました――で金を巻き上げることも可能なわけだ。

 勿論、そんなことがバレたら物理的に首が飛ぶだろうけどな。


「城から密かに監察官が現地に送り込まれるので、そのようなことは難しいと思うぞぇ」

 リリスがそう言うのだが――昔でいう隠密みたいなものか?


「それじゃ、貴族からの報告がどうであれ、その監察官からの報告が逐次入るってことか」

「そうじゃ」

 そうでなければ、嘘をついて人を貶めることも可能だからな。

 なるほど、俺のことも監察官が報告してたのか……ということは、アストランティアの子爵邸にも、その隠密がいるんだな。


「その話が本当なら、ユーパトリウム子爵領が経済的に傾いて、マロウ商会が経営に加わったというのも……」

「無論、知っておる。だてに数百年この地を治めているわけではないぞぇ」

 アマランサスが、自分のアイテムBOXから出した扇子をパッと開いた。

 若いリリスは、そこまで知らなかったようだが、アマランサスには情報は伝わっていたようだ。


 ゆっくりとした右カーブを走り続けていると、右手には高地が見えてきた。


「リリス、あの高地の上も全部、俺の領地になるんだよ」

「あのような広大で未開な土地を、どうやって利用するつもりなのじゃ?」

「とりあえず、測量をして広さを確認してからだなぁ」

 木も草も生えているから畑にもなりそうだけど、無理だろうか?


「本当に誰も入ったことがないのかぇ?」

「祠があったりしたから、物好きがいたみたいだけど―― 一人か二人はいたんじゃない?」

 高地の反対側――左手には俺が掘った用水路に水が流れ、開けた場所には、開拓団が入っており、畑が作られ始めている。

 緑で縦に伸びる植物が見えるのだが――。


「あれは、トウモロコシか? もう植えてたのか」

 子爵に、トウモロコシのタネを分けたのだが、早速植えているようだ。

 見た分には、問題なく生育しているように見える。

 後ろの車に連絡を入れた。


「アキラ、ここの畑でトウモロコシの栽培が始まっているぞ」

『ケンイチがタネをやったのか?』

「ああ、ここの子爵に泣きつかれてな」

 でも間引いて甘くするとか、やらないだろうから、味はいまいちかもしれない。

 それにシャングリ・ラで買ったタネを自家採種して大丈夫だろうか?

 先祖返りしそうだけど……。


「アキラ――右手が、例の高地だ」

『本当に、テーブル・マウンテンで、ギアナ高地みたいだな』

「あれほど標高は高くないから、生物圏が違うとか、そんな感じにはなってないみたいだけどな」

『へぇ~』

 そのまま2時間ほど車を走らせると、徐々に森が増えてきて、アストランティアの街が見えてきた。

 日は高く、昼を過ぎた頃だ。


「アストランティアに到着したぞ」

 見慣れた街並みが俺を出迎えてくれる。戻ってきたんだなぁ――という感じが、じんわりと心の奥底から湧き上がってくる。


「ええ~っ!」「もう、アストランティアまで来たんですかぁ?」「一泊二日で、王都からアストランティアまで……」

「さすがご主人様ですわ」

 マイレンの決めセリフが聞こえるのだが、それを毎回言うのだろうか? ちょっと恥ずかしいので止めてほしい。


「本当に、アストランティアみたいですよ……」

「カールドンから、ケンイチ様は信じられないような魔法を使うと聞かされていましたが……これほどのものとは」

 ポポーとユリウスが驚いているが、彼らの言うとおり、この世界ではありえないスピードなのだ。


 アネモネが運転席の近くにやって来た。


「帰ってきたね!」

「ああ、アネモネ――今ちょっと思いついたんだけど、土で平らなゴーレムを作って、その上に乗ったら、速く動けるんじゃね?」

「なにそれ! 面白そう! 今度やってみる!」

 アキラは、ゴーレム技術を油を撒くのに使ったと言っていた。

 水をゴーレム技術で動かせれば、船も速く動かせるのではないだろうか?

 無線機のマイクを取る。


「アキラ、油をゴーレム技術で動かせるってことは、水も動かせるんだよな?」

『ああ、多分いけると思うぞ』

「水をゴーレムで制御したら、浮かんだ船を高速で動かしたりできないか?」

『サーフィンに乗るみたいにか?』

「まぁ、そんな感じ」

『う~ん、面白そうだな。センセに聞いてみる』

 アキラもやったことがないようだ。


「そなた――相変わらず、とんでもないことを考えるのう」

「アマランサスは、水のゴーレムやスライムみたいなゴーレムって聞いたことがないか?」

「ないわぇ。ゴーレムというのは、人型に近づくほど優秀で高度と崇められてきた故」

 なるほどなぁ――人型にして、人を模倣することだけに技術が特化してしまったのか。


「仕事をさせるだけなら、人型などにする必要がないからな」

「そんなゴーレムの使いかたを知ったら、王都の大魔導師たちが腰を抜かすぞぇ、ほほほ」

 アマランサスが、扇子でパタパタと仰いでいる。


「それとも真っ赤な顔をして、邪道だと否定するか、どちらかだの」

 リリスの言うのも一理ある。

 元世界でも、ロボットは人型を模倣して進化してきた。人型に似せる――それも高度な技術ではあるが、特定の仕事をさせるだけなら、人型である必要はない。

 工業用に作られた腕だけのロボがそれにあたるだろう。


 車を街に入れると、挨拶をするために子爵邸に向かう。

 通りを進み大交差点を左に曲がる。アキメネスと同じように、高級住宅街の終点がユーパトリウム子爵邸。

 王都やらの立派な屋敷群を見てしまうと、ここの子爵邸もこじんまりとした印象に見えてしまう。

 マイクロバスを降りると、正面の門にいる門番に伝える。


「こんにちは、約束はないんだが、子爵様に会いたい。ケンイチが来たと伝えてくれ」

 ここの門番とは顔見知りなので、銅貨を数枚握らせると、すぐに屋敷へ行ってくれた。

 ここでは辺境伯だと言わないほうがいいだろう。多分、混乱すると思う。


 屋敷からすぐに門番が走って戻ってきた。


「お会いになるそうです」

「良かった」

 車をそのまま入れてもいいらしいので、そのまま入る。

 後ろのアキラにも連絡を入れた。


「アキラ、そのままついてきてくれ」

『了解!』

 子爵も子爵夫人も、俺の召喚獣のことは知っているからな。

 車を屋敷の庭に入れると、玄関に横付けした。


「リリスとアマランサスだけ、ついてきてくれ」

「承知した」

「聖騎士様の意のままに」

 車を降りると、アキラの所へ行く。


「30分か1時間ぐらいだろうから、待っててくれ」

「はいよ~」

 黒く立派な玄関の扉を開けると、3人で屋敷の中へ入った。

 

 すぐに子爵と夫人が出てきたのだが――。


「「はは~っ!」」

 突然、目の前に現れた元王族に、子爵夫妻は床に這いつくばった。

 俺の横にいる二人は元王族なのだが、お城であったできごとなどを、この僻地にいた子爵夫妻が知る由もない。

 元々は子爵領だった湖の土地が俺のものになったので、その報告をするわけだ。

 国王陛下から賜った書状を読み上げる。


『アスチルベ湖畔の土地とそれに付随する高地を、ケンイチ・ハマダ辺境伯に割譲するもの也。カダン王国国王――ラナン・キュラス・カダン』

 同時に、湖の湖畔にハマダ辺境伯領ができて、俺が治める旨を伝える。


「「はは~っ!」」

「まぁ、お隣さんなので、仲良くやりましょう」

「あ、あの――それは委細承知いたしましたが、なぜ王妃様と王女殿下が?」

 子爵夫人がおそるおそる、王妃に尋ねる。


「妾は既に王妃ではない。聖騎士様の奴隷である」

「え? はぁ? 奴隷って……た、確かに首に奴隷紋がありますが、いったい――?」

「それは、ちょっと話すと長くなるので。王女は、辺境伯の正室になるのを条件に王族籍を抜けたのです」

「な、なぜ、そのような?」

 子爵夫人の言葉に、リリスが不機嫌そうな顔を見せる。


「妾が、辺境伯の正室になったことに、なにか不満でもあるのかぇ?」

「い、いいえ! 滅相もございません! でも……ケンイチ殿の所へ遊びにいけなくなってしまう……」

「カナン様、遊びに来ても大丈夫ですよ」

「真か?!」

「ケンイチ? 其方、子爵夫人にも手を出しておったのか?」

「やめてくれよリリス。子爵の前でそんなことを言うのは。なんにもないんだからさ」

 言い訳をする俺だが、それを聞いていた子爵が、とんでもないことを言い出した。


「あの~、辺境伯殿。可能なら、カナンをもらってはくれまいか?」

「はぁ? 何の話ですか?」

 子爵の話では――王室と同じく、子供が生まれないので世継ぎで困っているらしい。

 それを打開するために子爵が囲っている愛人を正室にしたいようなのだが、夫人を側室に降格させるのは――少々問題があるようだ。


「カナンも子爵領を出たがっているようですし」

「あんな豚が正室で、私が側室だと言うのですよ! こんなことが我慢出来ると思いますか?」

「カナン、彼女のことを悪く言うのは止めてくれ。彼女は素晴らしい女性なのだ」

 この子爵の好みは、夫人のような美女ではなく、ふくよかな女性。いわゆる――デ○専。

 貴族の習わしに従い、言われるままに夫人と一緒になったが、それを止めたいようだ。

 それに子爵の心は夫人からすっかりと離れてしまっているように思える。

 これでは彼女は、つらいだろう。


「わぁ~っ! 子爵様は、かのようにおっしゃるのだ!」

 夫人は泣き出すと、俺に抱きついてきた。


「夫人には、ご実家があるでしょう?」

「こんなことを伝えたら、勘当されてしまうであろ!」

 そういえば、娘を良いところの貴族に嫁入りさせるのに必死な親だと言っていたな。


「贅沢は言わぬ、抱いてくれとも言わぬ! 片隅でよいので、私を置いてたもれ!」

 涙を流す夫人の真剣な眼差しに気圧される。

 二十歳過ぎた女の涙は信用しない俺だが、この場合は仕方ないか……本当に行く所がなさそうだし。

 

「もう、しょうがねぇなぁ……解りました。お預かりいたしましょう」

「真か?!」

 夫人の顔がパッと明るくなったが、それを見ていたアマランサスが嫌味を言う。


「聖騎士様――まさか困っている女子おなごがいたら、全て助けるつもりかぇ?」

「そうじゃないけどな――まぁ知らない仲でもないし」

 リリスとアマランサスが呆れているが、行き場所がないんじゃ可哀想じゃないか。


「それから、辺境伯殿」

「なんでしょう?」

「そちらが望むなら、この子爵領のまつりごとも譲ってもいい」

「なんですって? 本気ですか?」

「私は、もはや領のまつりごとに興味はないのだ」

 この子爵は作家希望なのだ。性分的に向かない領の経営を放り出して、クリエイト作業に没頭したいのだろう。


「それは、やぶさかではありませんが――辺境伯領がどうなるか、まったく解りませんので……」

「いや、貴殿なら、なんなくこなすと思われる」

 リリスとアマランサス、子爵夫人も頷いているが、財務はマロウ商会とプリムラに丸投げするつもりだったからな。

 もちろん、そういう人材を抱えていることも含めて言っているのだろうけど。

 

 その後、贈り物として白金貨を渡そうとしたが、その資格が無いと固辞された。

 領を放り出すかもしれないから、受け取れないのだろう。


 少々予想外の展開だったが――とりあえず話し合いは終了した。

 俺と一緒に子爵邸から出てきた夫人――カナンを見て、獣人達が叫んだ。


「ちょっと! お嬢! まだ増えるようだぜ? いいのかよ?」

「ほほほ――よ、余裕です」

 プリムラの笑いが引きつっているが、あとが怖い。


「なんか、凄い面子になってきたにゃ」

 カナンの荷物をまとめてもらい、後で取りに来ることになった。

 彼女が、マイクロバスを見て驚く。


「これも、ケンイチ――様の、召喚獣なのですか?」

「ケンイチでいいけど」

「王族様の手前もありますし……」

「二人とも、もう王族じゃないからな」

「それでは、ケンイチでいいか?」

「ああ」

 出発の前にアキラの所に行く。


「アキラ、どうする? 俺が向かう場所にゃ、マジでなにもないから、領が立ち上がるまでアストランティアに滞在しててもいいぞ。車も預けておくし」

 俺が子爵邸にいる間に、アキラの家族で話し合いをしたようだ。


「ケンイチ――悪いが、ウチの女たちは、やっぱり街のほうがいいみたいだ。車を貸しておいてもらっていいか?」

「いいぞ。人材の送り迎えを頼んだりすると思うけど」

「オッケー! どうせやることもないしな」

 プ○ドなら、彼のアイテムBOXに入れられるので、駐車場要らずだ。

 彼に、バイオディーゼル燃料が入ったプラタンクを2個ほど渡す。


「サンキュー、恩に着るぜまったく」

 マイクロバスに戻ると、プリムラが運転席にやって来た。


「ケンイチ、マロウ商会へ寄ってください」

「解った」

 マイクを取って、後ろの車に連絡を入れる。


「お~い、アキラ。この街にあるマロウ商会の支店へ向かうから。そこで泊まる所とかの相談をすればいい」

『了解!』


 俺は、アキラたちを引き連れて子爵邸を出ると、マロウ商会のアストランティア支店に向かった。

 

 

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