13話 ユ○ボ召喚! でも燃料は?
商売が上手くいき、持ち金も増えた――異世界でのスローライフを満喫するために、拠点を構える事にした。
森に小さなログハウスを建てるために、大木を切って、整地をしようと試みたのだが――。
俺は非力過ぎた。大木の切り株を処理するのもままならず――ブチ切れた俺は、シャングリ・ラからバックホーパワーショベルを召喚してしまったのだ。
購入したのは、緑色の重機。街の道路工事等で使われ普通に見かける中型の物だ。少々使い込まれてサビも浮いている物だが、排土板も付いているし動けばOKという事で、値段は120万円程。
デカい買い物だが、あれば何かと便利だろう。例えば、シャベルで深い穴を掘るのは超大変だが、重機を使えば1分も掛からないし、疲れない。
壊れたら、修理不可能ではあるが……なんとかなるだろう。
シャングリ・ラには、溶接機や旋盤、フライス盤まで売っているのだ。電子部品等のトラブルでなければ、何とかなる……はず。
どうしてもダメなら、新しいのを買えば良い。その頃にはもっと金を稼げているだろう――あくまで、希望的観測だが。
何はともあれ、動かしてみよう――。少々破れた、黒いビニール製の座席に座ると、右側を見る。
キーは座席の横に付いているので、そいつを捻ればエンジン始動だ。無事に重機が咆哮を上げて、座席にブルブルと振動が伝わる。
だが、エンジン音を聞いて――俺は、はたと思った。
「これ、ディーゼルじゃね?」
そりゃ、そうだ。重機といえば、ディーゼルじゃねぇか! 燃料どうするんだよ。
慌てて、シャングリ・ラで軽油を検索する――当然売ってない。だが、添加剤は売っているのを見つけた。
灯油を軽油に変え、ディーゼルエンジンで使えるようにする薬剤だ。こんな物を買わなくても、○ストオイルを混合すりゃ良いという話もあるのだが……。
元世界で、それをやったら脱税で捕まるので注意だ。だが、私有地のディーゼル発電機等に使うのなら、OKだったはず。
それじゃ、灯油でも良いのだが、以前ランプを使った時に灯油を検索したら、無かったよなぁ……。
万事休すか? いや、待て待て。こんなデカい買い物をして、簡単に諦められるか。灯油をもう一度検索して、最後まで調べてみると――。
関連商品に、パラフィンオイルという物を見つけた。商品の説明欄を読むと、白灯油だと書いてある。
白灯油ってのは、灯油を精製して煤や煙を出さないようにした油で、ランプなどに使う。これなら使えるかもしれん。
さらに、白灯油で検索を掛ける――なるほど、白灯油ならキャンプ用品で売っているな。1L1800円と高価だが、これしか無い。
街で売っている海獣油の灯油が使える可能性があるが、中位の壷一つ――おおよそ4Lで1万円。
シャングリ・ラの白灯油なら4L買っても7200円だ。こちらの方が品質も安定しているだろうし安い。
これと、灯油をディーゼルエンジンで使えるようにするための添加剤が4Lで5000円。一応、燃料のセタン価を上げるための添加剤も2000円で買ってみた。
色々と計算してみると――リッター2500円~3000円ぐらいになる、恐ろしく高価な燃料だ。
だが、重機が動けば、俺1人では出来ない事も出来るようになる。致し方無い。
「しかしなぁ、本当に使えるのか、これ?」
確かに心配だ。この燃料を入れて動かなかったらヤバい。何かいい方法は……。
何か良いヒントは無いかと、ディーゼルエンジンで検索してみると――某国製のディーゼル発電機が9万円程で売っている。
そうだ――コイツを買って、この白灯油改燃料で動かしてみるか。また金を使ってしまうが、120万の重機を壊すよりはマシだし、発電機も色々と使い道がある。
「よし! 発電機召喚! ポチッとな」
梱包もしていない、黄色いディーゼル発電機がドス! という音を立てて森の腐葉土にめり込む。
しかし、発電機はよく使ったが、ディーゼルは初めてだな。一緒に付いてきた説明書を見てみる――読めねぇ。日本語じゃねぇし!
本当に使えるのか? 少々怪しくなってきたが……まずは試してみるしかないだろう。白灯油改燃料をタンクに入れてみる。
ガソリンエンジンじゃないので、始動のチョークは必要ない。スイッチを入れて、リコイルスターターを引こうとするのだが、クソ重い!
ディーゼルエンジンで、圧縮が凄く高いために、スターターが引けないようだ。
「なんだこりゃ、どうすりゃいいの?」
日本語で書いてない漢字と英語の説明書を一応読んでみる――なるほど、デコンプレバーがあるようだ。
デコンプってのは、圧縮を抜くための装置だな。昔、ヤ○ハ製の単気筒エンジンのバイクに乗っていたが、そいつにもデコンプが付いていた。
デコンプレバーを引いて、エンジンのピストンを上死点まで持ってきてから、リコイルスターターを引く――と書いてあるらしい。
その通りにしてみる。
「やった!」
けたたましい音を出してエンジンが動き始めた 白い煙を吐いているが、動いてはいる――しかし、キンキンガンガンとクソやかましいエンジンだ。
これで、1時間程放置して、様子を見てみよう。燃料に問題があるなら、これで解るはずだ。
無負荷で長時間稼働させると問題がありそうなので、シャングリ・ラからドラム式の延長コードを買って、100wの電球を2つ点灯させてみた。
オレンジ色に明るく灯る電球――。
おおっ! この世界で初の100V電気の明かり。だが、電圧の変動が大きいのか、電球がパカパカと波打っているように見える。
これでは、電子部品が入った家電などは使えないだろう。さすが某国製――勿論、PCなどを繋ぐのは論外だ。
――そして、2時間後。
念の為に2時間、発電機を回してみたが、問題なく回り続けている。長期的に使うと、燃料ポンプやらの問題が出るのかもしれないが、この世界に軽油に相当する物はこれしか無い。
辺りは既に暗くなり始めている。せっかくスペースを作ったんだ、今日はここに泊まってみよう。
煩い発電機は、何もかもぶち壊しなので、早々にアイテムBOXへ収納した。こいつの出番はもう無いかもしれない。
試しに、買い取りへ入れてみたら、査定が4万円と出たので、売ってしまうかもしれない。
発電機を買うなら、日本製のガソリン発電機の方が、遥かに高性能だし静かだ。
しかし、日本メーカーの発電機もメイドイン某国だったりするんで、注意しなければならない。
大木を切り倒した際に出た、木っ端を集めて焚き火をする。
「そうだ。森の中に住むなら、獣人のミャレーが言っていた、虫除けの魔石ってやつが欲しいな」
恐らく、この世界で生きていくなら必需品だと思うので、この際買っても良いだろう。
俺が銀貨を持ち込んだ――あの爺さんの道具屋で売ってるかもしれない。明日、露店を広げる前に行ってみるとするか。
腹減ったな――さて、何を食うか。
獣人と酒盛りした時に買った野菜が残っているな。なんでも焼きにするか。
なんでも焼きとは、冷蔵庫等に余った野菜をなんでも切り刻んで、小麦で溶いて焼いた物である。
それを、マヨネーズとソースで食べる。まぁ、お好み焼きの亜種だが、こんなのをお好み焼きと言ったら、怒る人もいるかもしれない。
肉が無くなったので、追加で買う。そして、卵が欲しいな。
シャングリ・ラで卵を検索してみると――あった。【訳あり】不揃い卵40個、値段は800円だが、規格外品って奴だな。
規格外でも、中身は一緒だ。沢山買っても、アイテムBOXの中へ入れておけば、腐る事も無いしな。
元世界でも、近所に養鶏場があって、そこで規格外品の卵を買ったことがある。大きさがバラバラとか、変形しているのとか色々とある。
面白いのは、双子だ。双子の卵は気持ち悪いと敬遠する人がいるらしく、検査で事前に全部はねられている。
それが、養鶏場の売り場で売られているのだ。勿論、売ってるのは全部双子。
双子の卵は黄身が多いので、同じ分量でもホットケーキを作ったりすると、味が濃くなったりする。
せっかく薪を燃やしているので、フライパンに入れたこいつを直火で焼いてみるか。遠赤外線が沢山出ているので、美味く焼けるかもしれない。
ジュウジュウと何でも焼きが焼ける音が森の中に流れる。暗闇の中は本当に静かだ。
だが、ここでも黒狼とやらに襲われるようなら、ここでの計画は水に流すしか無いな。
ここを整地した後の計画を頭の中で練っていると、何でも焼きが上手く焼けた。
「おお、なんだかガスで焼くよりふっくらしているような」
そしてマヨネーズとソースを上から掛ける。マヨネーズは普通のキ○ーピーだが、ソースは色々試してお○ふくソースに落ち着いた。
ずっとイ○リソースを使っていたのだが、試しにお○ふくを使って、嵌ってしまった。今はこれが俺の定番だ。
気のせいかもしれないが、いつも食っていた物より、美味く感じる。こんな大自然の中で食っているせいだろうか?
なんでも焼きで腹が一杯になった後、テントを張る。
さて、なんの対策も無しに寝るわけにはいかないな。不測の事態には備えなければならない。
暗い中、焚き火に当たりながら、シャングリ・ラを検索をすると、12Vの赤外線センサーが売っている。
住宅の玄関等に取り付けられていて、人が近づくと明かりが点灯したりする、アレだ。1個400円ぐらいなので、4つ購入する。
生き物が来るとすれば、森の奥からだろう。
12Vのバッテリーと電線も購入して、センサーへ繋ぐ。そして、センサーの出力には、12Vのライトとブザーを繋いだ。
試しに、センサーへ近づくと――ライトが点灯して、ブザーが鳴る――成功だ。
これで、生物等の接近には備えられるだろう。後でスイッチを付けたり等の加工が必要だろうが、このままでも使える。
さて、寝るか――肉体労働したせいか、滅茶疲れたわ。風呂に入りたいが……朝、市場へ行く途中で、川で身体を洗おう。
あ、パワーショベルを出しっぱなしだわ……まぁ、良いか。
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――次の朝。森の中で目が覚める。警報のブザーは鳴らなかったので、生き物はやって来なかったようだ。
アイテムBOXからパンを取り出すと、齧りながらパワーショベルをアイテムBOXへ収納してみることにした。
「こんなデカいのでも入るんだろうな。まぁ、デカい丸太が入ったんだから……」
そんな心配もよそに、パワーショベルはアイテムBOXへ吸い込まれた。表示は【バックホーパワーショベル(中型)】×1になっている。
アイテムBOXから、マウンテンバイクを取り出し、自分の作った道を初めて走ってみる。
中々快適だ。舗装路みたいに速くは走れないが、こんなもんで十分だろ。
だが、待てよ。マウンテンバイクを止め、シャングリ・ラでアスファルトを検索してみると――売っている。
確かに、アスファルトが売ってはいるが、10kg1600円と中々高価だ。これで、この道全部を舗装なんてできっこない。こりゃ無理だな。
森の中から10分程で、川までやって来た。やはり、歩くより断然速い。マウンテンバイクをアイテムBOXに入れて、川で身体を洗おう。
洗おうといっても、獣人達のように素裸で、飛び込むわけではない。水を少々取って、身体を拭くだけだ。
「あ~、風呂入りてぇ」
そうだ、風呂に入ろう。ドラム缶の五右衛門風呂が2万円で売ってたじゃないか。
ポリタンクに川の水を入れて、アイテムBOXに突っ込んで運べば、森の中で風呂に入れるぞ。
それとも――ここでドラム缶に水をいれて、そのままアイテムBOXへ収納出来るなら、もっと簡単だ。
よし! 今日は風呂だな。
道が完成して、森の中に拠点が出来たので、もう宿屋には泊まらなくても良いな。
宿屋に挨拶しに行こう。
------◇◇◇------
「おはようさん」
「あ、ケンイチどこへ行ってたの?」
アザレアが出迎えてくれた。
「住む所を作ってた。ここには世話になったんで、挨拶しておこうと思ってな」
「住むって、どこに住むの?」
「森の中だよ」
「ええ~?」
アザレアが驚くのも無理もない、この街の人間でも、森の中へ住んでいる変わり者なんて、誰もいないらしいからな。
1日中作業してても、実際に人影を見たこと無い。
それに、彼女に聞くと、森の中に住むな――みたいな禁忌があるらしい。
禁忌と言っても、住んでも罰則があるわけでも無く、昔から続く暗黙の了解みたいなもののようだ。
「短い間だったけど、ありがとな」
「本気なの?」
「本気も本気。ハハハ」
彼女は呆れ返っているが、まぁ仕方ない。
「でも、前払いで貰っている宿賃は返せないんだけど……」
「ああ、解ってる。ただ、挨拶に来ただけだから」
宿屋の主人にも挨拶を済ませ、市場へ向かう――と、その前に、道具屋へ行ってみないとな。
俺は、市場を通り過ぎて、爺さんがやっている道具屋へやって来た。
店は相変わらず、薄暗い。魔法を使えるようだったから、魔法で明るくすれば良いのに――と思うのだが。
「本当に、暗いなぁ」
「余計な世話じゃ」
「うおっ! なんだよ、爺さん驚かすなよ」
本当に、暗闇の中から爺さんが出てきたような気がする。本当にいるのかどうかが、解らなかった。何か――そう、隠蔽のような魔法を使っているのかな?
「今日は、何の用じゃ。また、妙な物でも持ってきたのか?」
「爺さん、客に向かってそりゃないぜ。ここに、虫除けの魔石って奴、置いてる?」
「あるぞ。これじゃ」
爺さんは店に置いてある、沢山の箱が並ぶ薬箪笥のような家具から、青い楕円形の石を取り出した。
「銀貨2枚(10万円)って聞いたが」
アイテムBOXから、銀貨を取り出すと、爺さんの目が光った。
「それが噂のアイテムBOXか」
どうやら、市場でアイテムBOXを使っている奴がいると、噂になっているようだ。
まぁ、かなり珍しい能力みたいだから、噂になるのもしょうがない。
「そうだけど……」
「その中に、何か珍しい物が入ってはいないのか?」
「珍しい物? それが入っていたら?」
「魔石を少々値引きしてやろう」
「本当か?」
本当らしいが――まさかオーバーテクノロジーアイテムを出すわけにはいかないな。
アイテムBOXの中身が表示されているウインドウをチェックしてみる。
このアイテムBOXの便利な機能――例えば空箱を入れると、他の小アイテムをドラッグアンドドロップで、その中に入れる事が出来るのだ。
だが、小さい箱に大きな物をいれようとすると、【容量が不足しています】の表示が出る。
その機能を使って、野菜の詰め合わせを買った時に一緒に入っていた、みかんを1個取り出してみた。
「そりゃ、なんじゃ」
「外国の果物だよ」
みかんの皮を剥いて、食べるように促してみる。
「ふむ、こりゃ珍しい――そして、甘酸っぱくて美味い。だが、これだけではな……」
それじゃ次は、こいつも食わせてみるか――アザレアにも好評だったしな。
俺は、皿と牛乳を出して、グラノーラを爺さんに食わせてみる事にした。
「でも、爺さんじゃ、歯が悪くて食えないかな?」
「馬鹿にするなよ」
言うだけあって、牛乳が掛かったグラノーラをパリパリと美味しそうに食べている。
「こりゃ、甘くて美味い! 食った事が無い食い物じゃ! これを、もう少しくれれば、魔石の代金から小四角銀貨2枚(1万円)を、まけてやろう」
「よっしゃ、商談成立だな」
空の小壷を爺さんに用意させると、その中にグラノーラを満たしてやった。
やった、虫除けの魔石ゲットだぜ。
その後爺さんは、俺から貰ったグラノーラをヒントにして、旅行用の保存食を作って売りに出した。
乾燥させた芋やドライフルーツを練り込んで焼いた、塩味の煎餅みたいな物だ。
それをパリパリと割って、皿やカップに入れて、水やミルクを掛けて食うらしい。そして、お湯を入れれば、スープにもなる。
俺の紹介で、マロウ商会にも卸し、結構売れていると言う――爺さん、中々やるな。
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今日の露店の売上は2万円弱だったな。
洗濯バサミも、マロウ商会系列の店でも売り始めたので、そんなに数は出なくなった。
そりゃ、マロウ商会から売りだせば、同じ商品でもブランド物だからな。
夕方近くになり店を畳むと――俺は、風呂計画を実行に移す事にした。