120話 再びの謁見
俺の家族と、帝国から亡命したアキラという日本人と、その家族を引き連れて、王都へ戻ってきた。
早速、王女は道中でのできごとを報告すべく、お城へ戻った。
彼女は王家の力を使ったことに対して、他の王族の説得もしなければならない。
俺たちはやることがないので、車をアイテムBOXへ収納。
入れ替わりに家を出して設置、ここには井戸もあるし、その井戸には俺が取り付けたガチャポンプがそのままになっている。
「アキラ、あそこにもガチャポンプがあるぞ」
「本当だ。こちらでも普及しているのか?」
「帝国から入ってきたばかりだが、王国でコピーが作られるのも時間の問題だ。プリムラの実家でも帝国から取り寄せたものを、研究していたし」
「ここには特許がないから、パクリ放題だよな」
「でも、簡単には作れないものもある」
俺はアイテムBOXから、マロウ商会の定番商品の洗濯バサミを取り出した。
「ほら、この簡単そうな洗濯バサミが、実は簡単には作れない」
「はぁ――なるほどなぁ。これを1個1個手作りしてたら、とてもじゃないが売れないな」
家の準備が終わったので、飯の準備を始めた。
「ケンイチ、材料だけ提供してもらっていいか? 俺たちの料理はこっちでやるぜ。いつまでも食わせてもらってちゃ悪いからな」
「オ~ケ~! でも、金を払ってくれれば問題ないが」
「いやいや、量が増えるとプリムラ嬢が大変だろう」
アキラは自分のアイテムBOXから、テーブルやら食器類、そして料理器具を出した。
こちらからは、野菜と、レッサードラゴンの肉を提供した。
「え? 日本の野菜か?」
「ああ」
「こんなものまであるのか?」
「俺たちのいた所で畑も作ってたぞ。トウモロコシの種を近くの子爵に渡したので、上手く栽培できれば広まるかもな」
「へぇ~すげぇな。しかし、そう聞くとトウモロコシが食いてぇな」
「前に採ったやつが、アイテムBOXに入ってたと思ったが……」
アキラの前に黄色のトウモロコシを出した。
「ひぃぃ!」
だが、それを見た女騎士がひるんだ。
「すげ~! マジでトウモロコシだぜ! 食っていいか?」
「もちろん」
アキラは自分の魔導コンロを出すと、トウモロコシを焼き始めた。
「アキラ、何をする! まさか、その得体の知れないものを食べるつもりなのか?」
「うるせぇ! クレメンティーナ! これは穀物だってーの!」
「そんな穀物があるものか!」
アキラに醤油を渡す。プラ製の容器に入っていて酸化しないと謳われているやつだ。
「おっ! 醤油か! もしかして味噌もある?」
「もちろんあるぞ」
彼に味噌も渡した。味噌も日にちがたつと悪くなることがあるが、アイテムBOXに入れておけば、それも防げる。
アキラたちの料理は彼に任せて、こっちも料理をしよう。
アイテムBOXから大型の圧力鍋を出す。
「おい、なんだよ! 圧力鍋じゃねぇか! 売ってくれ!」
「いいぞ。日本円で5万円だな。だけど、パッキンが死んだら、交換部品は手に入らない可能性大だぞ?」
「その時はまた、ケンイチから買えばいいんだろ?」
「それは構わんが、俺たちの家の近くに住むのか?」
「どう考えても、ケンイチの近くにいたほうが便利だろ! こんなのが手に入るんだからさ」
アキラは、味噌と醤油を指さした。
この世界の豆でも、発酵食品を作れないことはないと思うが、多大な苦労を伴うだろう。
レイランさんとアンネローゼさんはピーラーで芋の皮を剥いている。
じゃがいもではなくて、この世界の芋だ。
じゃがいもみたいにはぜないし、少しもっちりしている。里芋などに近いかも知れない。
それ故、煮物にしたりスープに入れると美味い。
アキラは焼いていたトウモロコシを食い始めた。
「うひょ~うめぇ! どうだ、アンネローゼも食ってみるか?」
「はい!」
アキラがポキンと折ったトウモロコシを彼女に差し出すと、黄色の粒を指でもぎ、口に運んだ。
さすが元貴族、上品だ。まるかじりとかはしない様子。
「これは甘くて美味しいです!」
「アンネローゼ、こう見えても、こいつは麦の仲間なんだぜ?」
「本当でございますか?」
「縦にすると麦の穂に似ているだろ? 麦の粒が大きくなったものだと思えばいい」
「まぁ、確かにそう言われれば……」
だが、それを見た女騎士がそわそわしている。
「アキラ、私にも……」
「なんだよ、クレメンティーナ。お前はキモいとか言ってたじゃねぇか! 俺のチ○○に負けた女騎士は、そこら辺の草でも食ってろ!」
「なんだと! なんで私ばかり……」
マジでションボリした女騎士に、アキラが慌てた。
「解った解った、うぜぇ! ケンイチ悪いが、トウモロコシまだあるか?」
「あるぞ」
アキラの注文で、3本追加した。レイランさんは真剣な顔をして黙々とピーラーで皮を剥いていたが、一緒に食べるようだ。
湖に戻ったら、作つけを増やしたほうがいいかもしれないな。
トウモロコシは利用価値も高いし、栄養もある。
「これは、甘くて美味い! 果実か?!」
女騎士はニコニコしながら、トウモロコシを頬張っている。
「ったくもう、泣いたカラスが、もう笑ってやがる」
「なんだ、カラスというものは!? 私はカラスとやらではない!」
アキラたちの家族は、いつも賑やかだ。
「ケンイチ、私もあれ食べたい」
アネモネが、アキラたちが食べている黄色い穀物を指さした。
「トウモロコシか?」
「うん」
だが、料理に使ったりするなら、生トウモロコシより缶詰のほうがいいだろう。
シャングリ・ラでトウモロコシの缶詰を購入する。3缶パックで300円ほどなので、1缶100円だ。
6缶購入し、皆に缶詰のプルトップを開けてもらう。半分を鍋に投入してコーンスープに、残りの半分は、フライパンにバターと一緒に炒めてバターコーン炒めに……。
炭水化物にバター ――最高に身体に悪い組み合わせだが、身体に悪いものイコール美味いの法則に当てはまってしまう。
バターコーンの煙が立ち上り、周りに香ばしい匂いが立ち込める。
「かぁ~たまんねぇ匂いだ……」
ニャメナが、よだれを流しているが――料理をしているうちに、日が傾き始めてお城の裏庭が影で覆われる。
料理が完成したので、皆で夕食を食う。
「うみゃー! この黄色いのは甘くてうみゃー!」
「この炒めたのだって、酒の肴に最高だって!」
ニャメナがバターコーンをツマミに焼酎を飲んでいる。炭水化物にバター、そして酒――絶対に身体に悪い。
「スープが甘くて美味しい!」
「この穀物の栽培が子爵領で上手くいけば、皆がこういう料理を食べられるようになりますね」
プリムラの言うとおりだ。この世界では麦が沢山作られているが、病気や不作などになると、飢饉になる可能性がある。
作つけする農作物を分散させて、リスクを減らすべきだ。
トウモロコシの種を子爵に渡した時は、メリットがないと思っていたが――周りが飢饉になって生きるか死ぬかって時に、俺たちだけがシャングリ・ラの恩恵で悠々自適ってわけにもいくまい。
「ケンイチ! そのコーンの缶詰売ってくれ!」
飯を食っていると、後ろからアキラがやって来た。
「これか? バターコーンを作るのか?」
「ああ、見たら食いたくなった」
「それなら、皆に作ってやったら? バターはあるのか?」
「へへ、実はある!」
なんと、アキラはレイランさんと共同でバターを自作しているらしい。
「魔法で作るのか?」
「魔法というか、器に入れた牛乳を魔法で回転させて、遠心分離する」
「はぁ、そんなことができるのか」
考えてみれば、魔法で土塊を動かしてゴーレムにすることも可能なのだ。
器を回転させるぐらいは、できるのかも知れない。
「アイスとかは作ったことがあるのか?」
「おお、牛乳アイスも作ったぞ。冷却の魔法で作れる」
彼も色々と試しているようだ。アキラがフライパンの上に缶詰を開けて、バターコーンを作り始めた。
しかし、こんないい匂いをさせているのに、王女はやってこない。
やはり、相当もめているのかもしれない。それに、チラチラとなにやら人影が見える。
「アキラ、見張られているな」
「ああ――まぁ、心配するこたぇねぇよ、大魔導師が2人もいて、祝福とチート持ちが2人だ。下手に手を出したら、この国が滅びるぞ」
「まぁ一応、この国を救ったのだから、それなりの礼儀を示してくれると思うんだが……」
俺の考えと裏腹に、国を救った英雄を迎えるにしては、なんの反応もない。
偉業を手放しで褒め称えることができず、お城の中でもめているのが容易に想像できる。
結局、王女はやってこないまま、皆で風呂に入る。
王女がいれば、お城の風呂が使えたと思うのだが、仕方ない。
その後、レイランさんに結界を施してもらい、俺たちは寝ることにした。
女性陣は俺の家だが、獣人たちは俺やアキラと一緒に大テントの中。そしてアネモネとベルが俺と一緒だ。
アネモネが寝袋の中に潜り込むと、俺のシャツの中に頭を突っ込み、腹の上をもぞもぞ動いて襟の所から頭を出そうとしている。
「これ! そんなことをしたら、シャツが伸びるからやめなさい!」
綿のシャツなら伸びるのだが、この世界のシャツは麻だ。
「えへへ」
本人は大人だと言うのだが、こんな仕草をみていると、まだまだ子供だ。
その様子をアキラが眺めているが、彼の寝袋にも獣人のミャアが一緒。
「いつもそんな感じなのか」
「やんちゃ盛りなんだよ」
「他の女とする時は、どうしてるんだ?」
「ちょっと離れた場所にテント出すとか、本拠地にはツリーハウスを作ったから、そこでやってた」
「やっぱり女が沢山いると苦労するよなぁ」
「まぁな」
「俺もセンセがいないときにしたりとかさ、はは。でも、うるさいのはセンセだけだな。ミャアは元娼婦なので全然気にしねぇし。クレメンティーナは変態だから、なんでもOKだし」
アキラは、一緒に寝ているミャアの頭をナデナデしている。
「アンネローゼさんは?」
「多分、平気だな。貴族にゃ、側室やら愛人がいるのが普通だからな」
「どうでもいいが、アキラ。そこでしないでくれよ?」
「はは、大丈夫だって」
そんなアホな会話をしているうちに、夜はふけた。
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――次の日。
一応、王女の食事分も作ってみたが、やってこない。
幽閉でも、されてるんじゃないだろうな?
昨日の夕方と同じように、俺とアキラの家族とに分かれて朝食を取っていると、お城から使いがきた。
メイド長のマイレンさんだ。昼から国王が謁見すると言う。
王女のことが心配なので、様子を聞いてみる。
「マイレンさん。リリス様はどうなさいました?」
「姫様は、深夜まで王族の方々と大論争なさいまして、疲れて眠っておいでです」
「あれま――やっぱり」
「姫様を、よろしくおねがいいたします」
マイレンさんは深くお辞儀をしてお城に戻った。
さて、謁見か――なにがあるか解らん。相手はあの王妃だ。一応、準備をしておこう。
アイテムBOXから、ソバナのドワーフの店で買った獣人たちの防具を出す。
「ミャレーとニャメナ。防具を装備してくれ」
「へへへ、旦那やるのかい?」
「相手次第だな。王族の連中は、なにを考えているか解らんからな。王女がいれば人質にできるんだが」
「多分、王女が戻ってこないのは、それを防ぐためだにゃ」
「そこまでは考えたくないが……」
獣人たちは、俺から防具を受け取ると、サイズ合わせを始めた。
「少し慣らしをしたかったがね」
ニャメナが黒い防具の着心地を確かめている。
「時間がないからな。武器と大盾はその時に渡す」
武器もドワーフの店で買ったものを出して確認する。
「ケンイチ、ヤバそうなのか?」
準備をしているところに、アキラがやってきた。
「ははは、俺の取り越し苦労で、すんなりと褒美をもらって帰れればいいけどな。心配なのは、あの王妃だけだな。なにを考えているか、まったく解らんし――しかも武術の達人で、アイテムBOX持ちときてる」
「俺たちチーターに匹敵する能力の、持ち主か……」
「そうなんだよ」
シャングリ・ラで使えそうなものを買う。帝国の宿屋で襲撃された時に使った、熊スプレーがいいか。
怪我をさせずに無力化できる。それから――スタンガンだな。
一番強力なやつを、2万円ほどで購入。100万Vらしいが、電撃の威力は電圧より電流だろ?
電圧が低くても、電流が大きければ深刻なダメージとなる。
自動車などのバッテリーは12Vだが、電流が大きいため感電するとかなり強烈だ。
じっと裏庭で待っていると――昼になった。
その時、柱の陰から迎えがやって来た。前の謁見の時と同じ深緑色のローブを着た若い男だ。
皆で一列に並び、案内人の後ろを歩きながらお城の中へ入る。
案内人の男に質問してみた。
「イベリスへの橋の復旧は始まりましたか?」
「ええ、多数の貴族様が全精力を投じて仮橋を架橋中です」
本橋ではなくて、あくまで仮橋。それでも数ヶ月はかかるだろう。
街道は王都の命を繋ぐ大動脈。開通を一刻も争うのだ。
同じ大動脈のベロニカ峡谷の峠を、この世界ではありえない早さで開通させたというのに、どうにも扱いが悪い。
まぁ道中で色々とゲットできたし、貴重な体験もできたので無駄ではなかった。
サクッと褒美だけもらって、さっさと帰りたいところだ。
王女が言ってたように、拝領という話になるだろうか?
平民が成り上がり、貴族に――そして聖騎士になったという、ありえないことに、反対をしているお偉いさんもいそうな感じ。
前と同じく、赤い絨毯が敷かれた少々薄暗い石造りの長い廊下を列になって歩く。
前は俺の家族だけだったが、今日はアキラとその家族もいる――大所帯だ。
俺の横にはベルが足音も立てずに付き添う。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。楽しみだな」
後ろでアキラが笑っているのだが、あまり洒落にならない。
「普通に、『よくやってくれた』で終わってほしいよ」
謁見の間でドンパチやった前例があるので、皆も緊張気味だ。
アネモネには、アルミの飾りを渡して万全を期すが、非戦闘員のプリムラやアンネローゼさんも一緒だ。
「――なにかあったら俺の召喚獣を出すから、プリムラとアンネローゼさんは、その中に」
車の中に隠れれば、多少の攻撃は防ぐことができる。
「はい、解りました」
返答するプリムラも緊張気味だが、俺だって緊張している。全く予想がつかないのだ。
歓迎してくれるなら、最初から諸手を挙げてくれるだろうしな。
長い廊下が終わり、大きな両開きの扉が俺たちの前で再び開かれると――眼の前に飛び込んでくる高い天井の大広間。
「へぇ! 帝国の白亜の御殿ほどじゃないが、立派だな」
アキラが謁見の間を、ぐるりと見回している。
以前と違うところは、俺が重機を乗り回して引き裂いてしまった赤い絨毯が取り除かれているところか。
その時に傷ついた、ツルツルの床石も交換されていない。
前回のように、貴族たちは並んでおらず、色とりどりの法衣のような服を着た、初老から老年の男性陣が並ぶ。
前の時はいなかったが、風体から見て――この国の大臣か宰相たちだと思われる。
お偉いさんたちから一歩下がり、脇に並ぶ騎士団の面々。黒い制服の近衛騎士団と、重そうなアーマを着た重装騎士もいて、物々しい。
その奥、左側には玉座に座った国王陛下、右には王妃様。
そして、その横には白いドレスに戻った王女殿下が立っていた。
幽閉でもされているんじゃないかと心配していたが杞憂だったな。
「あの男が、帝国の竜殺し……」「黒いドレスの女は夜烏のレイランらしいぞ」「なんという胸じゃ……」
シーンとしているので、ひそひそ話が聞こえてくるのだが、帝国のドラゴンスレイヤーより、レイランさんの爆乳のほうが人気らしい。
いい年して、男は男ってことか。
俺の所に、アキラがやってきた。
「おい、ケンイチ。あれが王妃か?」
「そう」
「いい女じゃねぇか」
「まぁ、見た目はな」
右の列から白い法衣のような服を着た長いひげの爺さんが出てきた。
「皆のもの静まれ。陛下からのお言葉がある」
俺の家族とアキラが、平伏して床に片膝をつく。
「魔導師ケンイチよ。この度は王国の危機に際し、奇跡のような御業を使い、困難を取り除いた偉業に国王として深謝いたす」
「はは~っ! 国王陛下直々にお言葉を賜り、このケンイチ、恐悦至極にございます」
俺の言葉が終わると、王妃が玉座から立ち、俺たちのほうへやって来た。
流れるような白いドレスと、輝く金髪――そして、左目の下には泣きぼくろ。
彼女がやってくると、辺りの空気がいっぺんする。まさに王族が持っているオーラのようなものが漂っているのだ。
「そちらが、帝国から亡命してきたという、竜殺しとその家族かぇ?」
「はは~っ! 帝国近衛魔導師アキラでございます」
その後、アキラの家族の紹介が続くが、外野から愚痴が漏れ聞こえてくる。
「しかし、あんな大物を亡命させたと帝国に知れれば新たな火種に……」
「それどころか、それを理由にソバナに侵攻される恐れが……」
そんな話が聞こえてくるのだが――昨日の夜も、そこら辺で揉めたのだろう。
その話に水を差すように、俺が答えた。
「恐れ多くも、その件に関しては、王女殿下の許可もいただきましたので」
「そのような重要案件を我々に相談もなしに決められては……」
その言葉を奥で聞いていた、王女が叫んだ。
「それでは、其の方らが、竜殺しの引き抜きをできると申すのかぇ?!」
「恐れ多くも王女殿下――それは勿論、無理でございますが、一言相談があってもよろしいのではと申しております」
「戦場は常に臨機応変じゃ! 其の方らに一々相談などしておっては、みすみす好機を逃してしまうではないか! 議論云々より、結果が全てじゃ!」
「確かにのう――帝国の竜殺しと夜烏のレイランといえば、その名を大陸に響かせる名高い大魔導師。王国にとっては、大きな戦力になるのは間違いないの……」
王妃が、どこからか出した扇子をパッと開いた。
「それにの! 帝国皇帝の面子を潰したのだぞ! いままで、王国の人間でそれをなし得た者がおるのか?」
「それ故、帝国皇帝の逆鱗に触れる可能性が――」
「其の方らは、帝国に尻尾を振る犬かぇ?!」
「いくら王女殿下とはいえ、そのような、あざけりのお言葉は心外でございます」
「ふん!」
王妃が王女を制した。
話を聞いていたアキラが手をあげて、王妃に発言を求めた。
「あの~お言葉ですが……」
「竜殺し、なんぞ申してみよ」
「新皇帝ブリュンヒルドは――現在、地盤固めの真っ最中ですから、王国に侵攻する余裕はないです。それに、我々は有名ではありますが、皇帝にとっては使い捨ての駒です」
「ほう、そなたほどの大魔導師が使い捨ての駒だと……」
「はい――実力のある魔導師は帝国にはいくらでもおりますので、我々を引き抜いたからといって、激怒することはないと思いますがねぇ」
アキラの話を聞いた大臣たちが、またざわめく。
「やはり、帝国との戦力の差は圧倒的じゃ……」「ソバナが落とされれば、王国は詰む……」
「ケンイチは、どう思うのだぇ?」
「私ですか? う~ん、帝国より共和国の方が危ないって話ではありませんでしたか?」
「「「うっ!」」」
大臣たちが一斉に口ごもる。
「それなら、戦力は多いに越したことはないと思いますが」
「そのとおりじゃ!」
俺の言葉に王女が叫んだ。
「しかし……」
王女と、大臣たちの間に侃々諤々が始まってしまう。
「静まれ!」
王妃の一喝で、ホールは静まり返った。
「様々な要因があろうとも、超越的な御業で国を救い、あまつさえ王族をワイバーンから救った偉業には王国として報いねばならぬ。さて、ケンイチ――褒美になにを望む?」
そう言って、王妃がニヤニヤと怪しい笑みを浮かべている。
なんだよ、そっちからの褒美の提案じゃなくて、俺に選ばせようというのか?
褒美の話はともかく――聖騎士の話はまったく出ないな。おそらく宰相や大臣たちは知っているのだろうが、下級の騎士などには知られたくないのかもしれない。
王族の祝福の御業も一般には、まったく知られていないようだしな。
俺は少々考えた。実は、なにを対価にもらうか、ずっと考えていたのだ。
最初は無難な選択をしようと考えていたのだが――王妃の顔を見て考えが変わった。
ちょいと意地悪をして、高慢ちきな王族を困らせてやりたくなったのだ。
ここにいる奴らが慌てふためく姿を見たくなったのだ。
そして俺は、無理難題ともいえる褒美を選択をした。
「それでは、王女殿下をいただきたい」
その俺の言葉にホールは騒然となった。