118話 ドラゴンのホルモン焼きを食え
皆を車に乗せて、峠頂上の宿場町までやってきた。
途中で事故を起こした商人を救ったが、治療の結果――命に別状はないようだ。
この世界の奇跡の御業である祝福持ちが2人、そして大魔導師が2人である。
これでなんとかならないようであれば、もう運がなかったと諦めるしかない。
けが人を宿場町へ預けたあと、ちょっと早いが晩飯の準備を始める。ずっと峠を走っていたので、皆昼飯を食べていないのだ。
カレーを作るらしいので、プリムラが準備を始めると、レイランさんが手伝いを申し出た。
「あの、野菜の皮むきを手伝います」
「センセ! 無理しなくてもいいと思うけど」
アキラの言葉どおり、彼女は全く料理ができないらしい。
一緒に、アンネローゼさんがウロウロしているが、彼女も全く料理ができないようだ。
まぁ、元貴族だからなぁ。それを見ている女騎士は最初からあきらめている。
レイランさんが包丁を使い始めたのだが、危なっかしくて見ていられない。
「皮むきは、これを使ってください」
彼女にアイテムBOXからピーラーを出す。
「これは?」
「こうやって、簡単に野菜の皮むきができる刃物です」
デモンストレーションをしてあげると、レイランさんが驚く。
「これなら、私にも皮が剥けます!」
「あの……それは私にもできますか?」
アンネローゼさんも、ピーラーなら皮剥きができると思ったのだろう。
彼女にもピーラーを渡して、皮剥きを手伝ってもらうことにした。なにせ量が多い。
「ケンイチたちは何を食べるにゃ?」
「ドラゴンの内臓を食べようとしているが――」
アイテムBOXから、ドラゴンを解体した時に出た、腸の一部を取り出す。
アネモネに冷却してもらって、そのままアイテムBOXに入れていたので、手の上でひんやりと冷たい。
「ぎゃー! 臭いにゃ!」
「うおっぷ! 旦那! これから飯を食べるのに、止めてくれよ!」
皆から非難轟々で、ちょっと離れた場所にやって来て、テーブルを出した。
アイテムBOXから、デカいプラ容器を出し、水を入れるとジャブジャブと洗う。
水は川から汲んだので、いっぱいある。最終的には、焼いて食うので川の水で洗っても平気だろ。
「すげーデカい腸だな、直径20cmぐらいか?」
「まぁ、そんな感じだな」
白くて肉厚でブヨブヨしている環形。内側にはヒダやイボ。においは確かに臭いが――まぁ、腸ってのはこんなもんだ。
「ケンイチは、ホルモン焼き食ったことがあるのか?」
「うちの母方の婆さんが、食堂でホルモン焼きを出してたことがあるんだよ」
「へぇ~、俺は大阪で食ったが、まさか異世界でドラゴンのホルモンを食う羽目になるとは……」
「俺だってそうだ」
水を換えて何回か洗う。
「水はあとで捨てるのか?」
「ここだけの話――俺のアイテムBOXには捨てる場所があるんだ」
「マジで? 穴みたいのが開いてるのか?」
「そう、そこに要らない物を捨てることができる」
「なんてこったい! じゃあ、気に入らない奴ら殺って、そこへ入れれば完全犯罪……」
アキラが、腕を組んでニヤニヤしている。
「まぁ、そういうことだ」
「誘拐もし放題……」
「一応、心にダムはあるから悪事には使わんぞ。家族に嫌われたくないからな。アキラだって、レイランさんに嫌われたくはないだろう」
「モチのロン」
「まぁ、ゴミの処理などは任せてくれ」
「オッケー」
腸が綺麗になったので、テーブルの上で切る。肉が分厚いので、なるべく薄くカットしなくては。
内臓ってのは、弾力があり肉が固いのだ。
普通の包丁では薄く切れないので、シャングリ・ラから1万円ぐらいのふぐ引き包丁を買う。
薄くて刃に弾力があるので、スパッと薄く切れる――それを大皿に並べていく。
「フグさしみたいだな」
「こうしないと、歯ごたえがありすぎて、噛めないぞ」
「確かに、かなり分厚いからな」
切り身の数が揃ったので、アイテムBOXからカセットコンロを取り出して焼いてみる。
「カセットコンロかよ」
「ちゃんとガスもあるぞ。向こうで使っているのは、魔導コンロだ」
アキラも魔導コンロを持っているそうなので、カセットコンロは要らないだろう。
シャングリ・ラから、ホルモン焼きのタレを買う――3本で2000円だ。
アイテムBOXからスツールとタレ用の小皿も出す。
「ここだけ、場末の一杯飲み屋みたいだな」
俺の言葉にアキラが笑っている。
「異世界で座って飲める立ち飲み屋でござ~い! ははは」
2人でスツールに座り、コンロに焼肉用の鉄板を置くと、その上で腸を焼く。
鉄板には溝が彫ってあり、油が下へ落ちる仕組みだ。ジュウジュウと物凄い煙がでるが、ここは外なので、いくらでも煙を出してもOK。
火が通ると、香ばしい香りをともに肉がくるくると丸まっていく。
「おお~っ! いい匂いだな! 匂いは合格だぞ?!」
はしゃいでいるアキラに割り箸を渡す。
「味はどうかな? 不味かったら、山ほどある腸を全部捨てないと駄目だが」
「そりゃ、勿体ねぇ――はふはふ、あ~ん。んぐんぐ」
「どら、俺も食ってみるか――んぐんぐ」
「「美味い! 美味すぎる!!」」
2人の声がハモった。クニクニとした歯ざわりと、濃厚な脂の味が、口の中で香辛料が利いたタレとハーモニーを奏でる。
「なんだよこれ、マジで美味いじゃねぇか!」
アキラが自分のアイテムBOXから、エ○スビールを取り出して栓を開けた。
「もう、飲むのか?」
「ホルモン焼きって言ったら、ビールだろうが! んぐんぐんぐんぐ――ぷはぁ! たまんねぇ!」
「ホルモン焼きとビール。鬼のようなプリン体攻撃。異世界痛風一直線だな」
「てやんでぇべらぼうめ、祝福持ちが痛風になるかってんだ」
アキラの言うとおりか。常にナチュラル回復がかかっている俺たちが病気になることはあるのだろうか?
「アキラ、実家はどこなんだ? なんか色々と方言が混じってるような……」
「え~? 実家はねぇなぁ――親父の仕事の関係でさ、1年から半年単位で、日本全国を巡ってたからな」
「あ~なるほど。バイクで日本1周して、貧乏旅行で世界1周もしたんだっけ?」
「ははは! その通り!」
「それじゃ、この異世界も、旅人生のついでって感じなのか?」
「そうかもなぁ……帰りたいって故郷ってのが、まったく思いつかん。異世界の帝国へ来てからも、全然定住してねぇし」
「でも、そろそろ落ち着きたいと考えている――?」
「そうだなぁ――センセもいるしなぁ」
レイランさんも腰を落ち着けて、魔導の研究をしたいようだが、帝国にいると有無をいわさず徴発されてしまうので、中々それがかなわなかったらしい。
「まぁ、国の金で魔導師になったから、仕方ないような気もするが」
「防衛大学校に入った自衛官みたいな感じだからな」
日本だと任官拒否もできるのだが、帝国では無理だ。
「にゃー」
俺の足元にベルがやってきた。
焼いたホルモン焼きをタレをつけずにやる。とても美味しそうに食べている。
ベルが、これしか食わなくなったらどうしようか……。
俺とアキラがホルモンを食べながら話していると、王女がやって来て、白い煙を出して焦げている腸をじ~っと見ている。
「リリス様、お召し物に臭いが移りますよ」
「じ~っ」
「はいはい――」
アイテムBOXから椅子を出して、王女を座らせる。
「こんな下賎な食べ物を召し上がるのですか?」
「下賎かどうかは妾が決める!」
「王女様はそう言うけど、王族や皇族が動物の内臓は食べないよな。これは庶民の味だし」
アキラの言うことも、もっともだが、王女は俺たちの話を聞かず食べてみるらしい。
皿をもう一枚出して、タレを注ぐ。
彼女は箸を使えないので、フォークで食べている。
「むぐむぐ、これは歯ごたえがあるな!」
「味は、いかがですか?」
王女はしばらく肉を噛んでいたが、ごくりと飲み込んだ。
「美味い! これは、美味いな! なんという濃厚な味。まさに肉の味!」
「――というか、脂の味だよなぁ」
「この白い煙も脂が焼ける煙だしな――ケンイチ、足りなくなりそうだぞ?」
王女が入ったことで、ホルモンが凄い勢いで減る減る。
慌てて追加で腸を切り始めた。少々乱雑になってしまうが、致し方ない。
「動物で一番美味いところってのは、内臓だからな」
ビールを飲みながら、アキラがつぶやく。
「ライオンとかも獲物を仕留めたら、まずは内臓から食うよな」
「ああ一番旨くて栄養があるからな。アバラの肉なんてハイエナの餌だぜぇ」
「そうそう、ハイエナって犬みたいだけど、犬じゃないんだってな」
「へぇ~そうなのか」
「ジャコウネコや、マングースの近縁らしい」
王女がひたすらホルモン焼きを食い、俺とアキラが話していると――。
アキラが、ビールの缶を咥えながら、後ろを指さした。
「おい、ケンイチ後ろ」
「後ろ? うわぁ!」
後ろを振り向くと――口からだらだらと、よだれを垂らしながら、獣人たちが立っていた。
ミャレーやニャメナだけではない。ミャアや宿場町にいたと思われる男の獣人たちも肉の壁のごとく、立っている。
漂う肉の匂いを嗅ぎつけてやって来たのだろう。
「お前等、気配を消して近づくなよ。びっくりするだろう」
「旦那ぁ……金を払うからそれを食わせてくれぇ……」
「もう、我慢できにゃいにゃ……」
「うむ、獣人たちも、本能的なものには逆らえぬか。それぐらいに美味い」
これは、王女の言うとおりかもしれない。
獣人達に石で竈を作らせて、アネモネの魔法で火をつけてもらった。
その上に鉄板を置く。
「魔導コンロなら貸すが――」
アキラの申し出だが、なにもコンロを汚すことはない。
「いや、多分脂だらけになって汚れると思うし、俺のカセットコンロだとガスの臭いがするんだってよ」
「ガスの臭い? ああ、獣人は鼻がいいからな……」
それに直火で焼いたほうが美味いだろ。
「ほら、これが肉だから、なるべく薄く切ったほうが美味いぞ」
「「「おおお~っ!」」」
獣人たちが、ドラゴンの腸に群がった。だが、薄さなんてお構いなしに、ぶった切ってジュウジュウ焼き始めた。
「うめぇぇぇ!」「この歯ごたえは最高だぜ!」「このタレが美味い! 香辛料たっぷりだ!」
獣人たちの顎は強靭なので、このぐらいの歯ごたえは平気のようだ。
ついでに酒も出してやる。ビールはアルミの缶の処理が面倒なので、焼酎だ。
「ほら酒だ。手酌でやれ。ひーふーみー全部で10人か」
アイテムBOXから、カップを10個だす。そして、4Lの大○郎を2つ。
「「「うひょー!!」」」
「大○郎かよ!」
思わず、アキラのツッコミが入る。
「あれでも美味いって評判はいいぞ」
「まぁな。変な臭いやら酸っぱいのやら、とりあえずアルコール発酵してれば、なんでも酒だからな」
「どんな酒でも蒸留すれば大分違うと思うんだが……」
「酒の蒸留なんて聞いたことがないぜ?」
「アキラが蒸留所でも始めてみたらどうだ? 売れると思うぞ」
「う~む……」
錬金術士が乾留を使っているという話も聞くので、蒸留も教えればできるはずだと思う。
アキラに俺が持っている魔道具を見せる。
「こういう魔道具を使っているんだ。液体の成分を分ける装置だ」
「へぇ~、これでアルコールだけ分ければ、濃度を上げられるって寸法か」
「そうだ。俺はバイオディーゼル燃料を作るために使っているけどな」
「この世界で酒を作るのも悪くねぇな」
彼にも何かやりたいことがあるだろう。それを見つければ、定住もはかどるのではないだろうか?
「ガチャポンプとか、ソロバンとか複式簿記とか持ち込んだのも、アキラなんだろ?」
「なんと! 真なのか?」
肉を食べていた王女が、俺の言葉に驚く。
「ああ、店の権利をゲットするのに、ギルド長に複式簿記を教えてやったんだよ」
「そいつは帝国の商業大臣になったって話だったが……」
「はは、そのことで俺に弱みを握られているからな、たっぷりと利用してやったよ」
「なんと、ドラゴン殺しだけではなく、そのような重要な発明までしていた人物だったとは……」
唸る王女を横目に俺はプリムラを呼んだ。
「はい、なんでしょう?」
「帝国で複式簿記を発明したのは、こちらのアキラだそうだ。君も素晴らしいと絶賛していたよな」
「ええ? 本当ですか?」
「ああ、本当! 本当の話――実は――なんちて! ははは!」
「アキラ――ちょっと酔いが回ってきたんじゃないのか?」
「大丈夫、酔ってないから! 複式簿記で分からないことがあれば聞いてね。手とり足取り、腰取り教えちゃうから」
酔ってないと言うやつは、酔ってるの法則。
「おいおい、ウチの家族に手を出すなよ?」
「大丈夫、大丈夫! そんなことをしたら、センセにコロコロされちまう、ははは!」
酔っていないと言いつつも、酔いが回ってきたのか――アキラが女騎士を呼び寄せた。
「なんだ? アキラ」
「さて! 盛り上がってまいりました! ってことで、これを着てみろ」
アキラは自分のアイテムBOXから、赤い鎧らしきものを取り出した。
赤い部分は丁寧に磨かれており、縁は金細工のようだ。ピカピカと光を反射している。
「こ、これは……ここで着るのか?」
「嫌か? ほら、ドワーフの店で買ってやった剣もあるぞ。この鎧もお前のために大枚をはたいて、作らせたんだ」
「くっころ……」
「はいはい――ケンイチ、着替えに家を借りるぞ」
「いいぞ」
アキラは女騎士の手を引っ張ると、家の中に入っていった。
しばらくして2人で出てくると――女騎士の鍛えられた素肌に鎧が着せられている。
大事な所だけをカバーするように、最低限の金属だけを用いて造られた鎧。
レイランさんほどではないが、大きな胸とムチムチの太もも。
きらめく鎧を着た女騎士は、恥ずかしそうに顔を赤くして、腕で胸と股間を隠している――そう伝説のビキニ鎧である。
「ファイヤー!」
「「ジャストミート!!」」
俺とアキラの声がハモる。
「こりゃ、中々結構なお点前ですなぁ」
「ははは! そうだろ? 一品物だぞ? 帝国金貨200枚使った」
帝国金貨200枚ってことは――2000万円か。アホすぎる(褒めている)。
「「「おおお~っ!!」」」
ホルモン焼きを食べていた獣人の男たちも、目をギンギンにして、食い入るように見ている。
股間には絶賛テントが設営中だ。
「くっころ……」
それを見ていたプリムラだが、家に入り毛布を持って出てくると――女騎士に被せた。
「もう! なんて恰好をさせているんですか?! 可哀想じゃありませんか!」
「そうは言うけど、プリムラ嬢ちゃん。こいつは、こういう事をすると、喜ぶ変態なんだよ。なぁ、こんな尻丸出しの恰好して嬉しいよな?」
アキラが女騎士を抱き寄せて、尻に指を食い込ませる。
「くっころ……」
「アキラ様! それでは、私もその恰好をいたします!」
アキラに詰め寄ったのは、アンネローゼさんだ。
「いやいや、アンネローゼには、似合わないだろ?」
「アンネローゼさんは、お姫様コスプレじゃないか? やっぱり……」
「そう思うよな?」
オッサン二人が語り合うその光景を、黙って見ながら食事をしていたレイランさん。
皿を置くと、つかつかと無言でアキラの方へ向かう――。
「センセ! すみません! 調子に乗りました! すぐに止めますんで!」
アキラが女騎士を家の中に押し込めたので、ここでお開き。
ショーは閉幕したが、プリムラがぷりぷりと怒っている。
「もう! 複式簿記を発明した凄い方なのは分かりますけど、ああいう方は好きになれません!」
「フヒヒサーセン!」
アキラはゲラゲラと笑っているが、反省している節はない。
「まぁまぁ、酔っぱらってるみたいだし、悪いやつじゃないと思うんだが……金儲けの秘訣に、気に入らない人物でも、商売のためなら付き合うべし――ってのがあるだろ?」
「あ、ありますけど……」
「アキラが出せる油だけでも、かなりの取引になるぞ? 彼が油をいくら出せても販売網がない。そこにマロウ商会が食い込めれば――」
「……」
彼女と話をしつつ……女騎士のビキニ鎧姿を思い出す。
俺が、プリムラの身体をジーっと見つめていると――それに気がついたのか、彼女が腕で身体を隠して悲鳴を上げた。
「私は、あんな恰好は絶対にしませんから!」
「残念――それじゃ」
シャングリ・ラから2000円で白いビキニを買って、ホルモン焼きを食っているミャレーとニャメナに見せた。
「これをつけてみてくれ」
「なんだい旦那、こんな布をつけるのかい?」「ペラペラにゃ」
「それで、手足だけ鎧をつけるんだ」
彼女たちにドワーフの店で買った、鎧と剣を渡す。
「いいけど……」「にゃ! すぐ着るにゃ!」
鎧と剣を持って獣人達が、家に駆け込む。コスプレ大会になってしまったが、獣人達なら平気だろ。
裸になってもなんとも思わないからな。
しばらく待っていると――彼女たちが、毛皮の上から白いビキニを着て外に出てきた。
引き締まったボディに、鎧がマッチしている。
毛皮の分だけ、ふっくらしているように見えるのだが、水に濡れたりすると筋肉質で贅肉一つない鋼の身体が露わになる。
「イイね!」
「ケンイチ、獣人にビキニは中々似合うな。う~む、只者ではない」
アキラが腕組をして唸っている。オッサン2人でなにをしているのか。
「獣人は無駄な肉がないからな。こういうコスプレにピッタリだ」
「でもよぉ旦那、こんなの腹に食らったら終了だろ?」「全然防御になってないにゃ」
ニャメナが自分の腹の部分を指さしている。
「そういうお遊びなんだよ、はは」
それを見ていたミャアが、アキラに抱きついた。
「にゃ!? アキラも、ああいうの好きかにゃ?!」
「ああ好き好き、大好き!」
「ウチも着るにゃ!」
――ということで、ミャアにも白いビキニを買って渡すと、家に駆け込む。
彼女は、すぐにビキニと鎧を着てくると、剣を構えるポーズをとった。
「おお~っ! 似合うぞ! ミャア!」
「ホントかにゃ? アキラは、こういうのが好きなのにゃ! いつでもしてあげるにゃ!」
ミャアがアキラに抱きついて、喉をゴロゴロと鳴らしている。
それを見た、ミャレーとニャメナも俺に抱きついてきた。
「この恰好は、毛並みが分かっていいな」
「俺たちは、こういう恰好しても構わないんだけどな」「そうにゃ」
獣人たちは裸で暮らしても平気なのだが、それをすると他の住民から苦情がくるので、服を着ているのだ。
「けど、兜も被ったほうがいいかな?」
「ケンイチ、獣人は耳があるから無理だと思うぞ?」
「ああ、そうだな――それじゃ、ガスマスクはどうだ?」
ミャレーに、シャングリ・ラで買った、ガスマスクをつけさせてみた。
「おおお~っ――これはちょっと中二っぽいな、はは」
「これ、なんにゃ?」
くぐもった、ミャレーの声が聞こえる。
「毒の霧を防ぐ覆面だよ」
「ははは、ちょっとマニアック過ぎるぜぇ!」
オッサン2人で大笑いしながら、そんな遊びをしていたら――徐々にプリムラとレイランさんの目が釣り上がってきたので、お開きにする。
「むー!」
アネモネも、絶賛ごきげん斜め中だ。
「そんなに怒ることないだろ?」
アネモネを抱き上げる。
「私も、ああいう恰好をする!」
「ええ? アネモネには、ちょっと早いような」
「なんで、早いの?!」
「もっと、胸が大きくなって、脚も伸びないとなぁ」
「むー!」
アホなことをやっていると、周りは暗くなっていた。火を燃やして暖と明かりをとる。
この世界ってのは、暗くなるとやる事がなくて困る。マジで寝るしかない。
アネモネとプリムラはランタンの明かりでバックギャモンをやっている。
レイランさんと、アンネローゼさんにも教えているようだ。
ルールはそんなに難しくはないからな。
アキラの家族がいるのだが、女騎士の姿が見えない――家に引きこもってしまった。
「アキラ、女騎士――クレメンティーナさんは大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫。いつもああだから」
「……」
アキラは俺が訝しげな顔をしているのに気がついたようだ。
「別に、俺がクレメンティーナの奴を魔法などで束縛しているわけじゃあ――ないぞ」
「そういうものも、あるのか?」
「ある――奴隷契約を結ぶアイテムとかな」
「なるほどなぁ……」
アキラの話では――リング状のアイテムで、奴隷契約を結ぶ双方の指を入れて契約を結ぶらしい。
やっぱり見聞ってのは必要だな。百聞は一見にしかずってやつだ。
アキラとしばらく話していたが、やる事がない――暇だ。寝るのにはまだ早いし……。
俺は、いいことを思いついた。せっかく日本人のアキラが目の前にいるのだ。
「そうだ! アキラは麻雀は出来るか?」
「出来るが……」
「それなら、2マンが出来るな」
「2人で麻雀かよ」
「結構、面白いぞ。2マンで徹マンした事もある」
俺はアキラと一緒に麻雀をしてみることにした。
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