117話 峠を車で上る
帝国から元日本人の魔導師と、その家族を亡命させ王都へ連れていく。
戻ったら一悶着ありそうだが、それは着いてから考えよう。
元日本人のアキラも車を運転できるので、ラ○クルプ○ドを任せて、彼の家族を運んでもらっている。
マイクロバスの購入も考えたのだが、この先に待ち構えている地獄峠を小回りの利かないバスで越えるのは無理――というか自信がない。
サバイバビリティを上げるためにも2台に分けた。
途中にあった川で水を補給した。飲水には使えないが、風呂などに使えるからな。
公爵邸の井戸でも良かったのだが、井戸から水を汲むのは大変だ。
アイテムBOXへ水を収納したあと――街道をひた走り、王都へ向かう荷馬車を次々と追い越していく。
左側を見ると、ドラゴンを解体した湖の湖面がキラキラと光っている。
眩しい光に目を細めていると、後ろからついてきている、アキラから無線だ。
『目の前に山があるが、あそこを越えるのか?』
無線で話す時は、ハンドマイクのボタンを押す。
「そうだ。かなり険しい峠なんで、気をつけてな」
『沢山の馬車が走っているが、こいつらも王都へ向かっているのか?』
「ああ、命がけだぞ」
『んで、その分稼ぎはいいと――』
「王都では慢性的な物不足だ。持ち込めば持ち込むだけ売れる。一攫千金のチャンスだ」
『ははは、帝都でもそんな感じだったな。魔物が跋扈する地帯を突っ切ったりするんだ』
「どこでも、やることは同じか」
後部座席を確認していないが、プリムラが今の話を聞いて、渋い顔をしているだろう。
「久々の車だろうけど、大丈夫か?」
『はは、モーマンタイ! 身体で覚えたことってのは中々忘れないな』
「そういえば、バイクも乗りこなしてたしな」
『バイクで日本1周したんだぜ? もう、手足のごとくってやつだ』
それは、ちょっとうらやましい。日本1周とはいわなくても、北海道1周ぐらいはやってみたかった。
峠に入る手前の宿場町で小休止する。女性陣はお花を摘みたいだろう。
軽く飲み物を飲む。プ○ドから出てきた、アキラが伸びをしている。
「ん~っ! あの峠を越えるのか?」
アキラが峠の入り口を指さした。
「ああ、かなり険しい峠だからな。缶コーヒー飲むか?」
俺は、アイテムBOXから缶コーヒーを取り出した。
「おおっ、マジか! かっちけねぇ!」
アキラは嬉しそうに、缶コーヒーを飲んでいる。
「ゴミは俺に渡してな。一括で処分するから」
「おう! なんか変な金属に、変な触媒効果があったりするからなぁ、ゴミも迂闊に放置できねぇ」
「そのとおりなんだ。パウチの袋とかカップ麺の蓋とかにもアルミ箔が貼ってあったりするし」
「ヤバイよな」
アキラと話していると、俺の足元にベルがやってきた。
「にゃーん」
「お母さんも、おやつを何か食うか?」
シャングリ・ラのお勧めに、チュ○ルというチューブに入った猫のおやつが出ている。
ふ~ん、これが流行っているのかね? とりあえず、一袋買ってみた。
パッケを開いて、中からチューブを取り出して封を切る。
「ん? なんだそりゃ?」
「猫用のおやつらしい」
「森猫に食わせて平気なのか?」
「猫缶も喜んで食べるし、トラやライオンにもマタタビが効くって話だから、一緒じゃね?」
「ああ、マタタビの話は聞いたことがあるな……」
アキラが俺から受け取ったチュ○ルのパッケを興味深そうに見ている。
「パッケには、このまま食べさせる写真が載ってるから、こうやるんだよな……」
チューブから、押し出した練り状のおやつを、ベルに舐めさせる。
「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ……」
一心不乱に舌を出して舐めているけど、美味いのだろうか?
そこへ、ミャレーとニャメナがやってきた。
「なにを食べてるにゃ?」
「森猫のおやつだよ」
「にゃ? ウチも食べるにゃ!」
「ええ? いいのかな?」
「大丈夫なのか?」
アキラも心配顔なのだが、猫缶も食べてたしなぁ。
「カレーが主食になる前は、猫缶が好物だったので、平気だと思うが……」
「こうやって食べる」
チューブから、少し出して舐める真似をして、ミャレーに渡す。
「こうにゃ? ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ……」
すごい、真顔で一心不乱に舐めているのだが――それを見た、ニャメナも食べてみたいようだ。
「ほら、ニャメナにもやる」
「いいのかい? ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ……」
2人とも凄い真顔だ。
それを見たアキラが叫んだ。
「お~い! ミャア!」
「なんにゃ?」
尻尾をふりふりやってきたミャアに、アキラがおやつを渡す。
「これ、食べてみろ、美味いらしいぞ?」
アキラは先に舐めている獣人達を指さした。
「こうにゃ? ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ……」
舐め始めると、ミャアも真顔になった。獣人の女が3人、揃って真顔でぺろぺろしている。
「真顔になるほど美味いのか? 何か入っているんじゃねぇのか?」
アキラがそんなこと言うのだが、そんな物を売ったら大問題になるだろうが。
食べ終わった、獣人達に感想を聞く。
「そんなに美味いのか?」
「……美味いにゃ」「ああ……美味い」「美味いにゃ!」
なんか、表現に苦しんでいるようだが、美味いらしい。
「アキラ、美味いんだってよ」
「へぇぇ」
「でも、もっと塩気が欲しいような……」「そうだにゃ」「にゃ」
「そういえば、猫缶も塩気が少ないな。人間の食べ物を食わせると病気になるって話だし」
「塩気があったら、酒のツマミに最高だな」
ニャメナがそんなことを言う。
アキラと話をしていると、王女たちや、レイランさんたちも戻ってきた。
指差し点呼をする。置いていったりしたら、大変だ。
「レイランさんたちも、大丈夫ですか? 乗り物酔いとかは?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「馬車に比べたら、かなり乗り心地がいいですね」
アンネローゼさんは元貴族だ。上等な馬車に乗った経験があるのだろう。
それと比較しても、プ○ドの乗り心地はいいらしい。
「何やら、化け物の腹の中にいるようで気味が悪いが――慣れれば、なんてことはない!」
一番怖がっていた女騎士が、大丈夫だって言うんだから、大丈夫か。
「さて、峠へ行くか?」
「おう! どんなサンダーロードか、楽しみだぜ」
皆で車に乗り込むと、峠へ向けて出発した。
街道は徐々に上り坂になり右側が崖になってくる。
日本と同じ左側通行なので帰り道のほうが安全だが、遅い馬車に追い越しをかける時には緊張する。
後ろのアキラから、無線だ。
『うひょー! こいつはすげぇぜ!』
「地獄街道っていうらしい」
『パキスタンだったかな? フェアリーナントカ道路ってところが、こんな感じだったぞ』
「パキスタン? パキスタンに行ったのか?」
『ああ、大学休学してな、貧乏世界1周旅行をしたんだぜ。ははは!』
彼の話では、バスに乗って峠を越えたらしいが――。
『もう、いつ落ちるか、ヒヤヒヤだったな。だって、下にバスやトラックの残骸がゴロゴロ転がってるんだぜ?』
「ここも、下には馬車の残骸が転がってるぞ」
無線から他の人の声が聞こえてくる。
『おい! アキラ! こんな所を走って大丈夫なのか?』
『うるせぇ! クレメンティーナ! ヘボ騎士は黙ってろ!』
無線からアキラが怒鳴る声が聞こえる。マイクのボタンを離せばいいんだが。
「パニクってるようだが、大丈夫か?」
『ああ、大丈夫大丈夫! デカい口を叩くくせに、一番ヘタレなんだ』
『私は、ヘタレなどではない!』
あ~、うるさい。だが退屈しないで済むのは間違いない。
『丘を越え~行こうよ~っとくらぁ!』
スピーカーから聞こえてくるアキラの歌に、助手席の王女が笑っている。
「其方と同じ歌じゃな。ほんに同郷なのじゃな」
「嘘を言ってどうします」
「むう――其方、妾に隠していることがあるじゃろ?」
「申し訳ございませんが、個人の秘密はありますよ。これは、私の家族だって知りませんし」
「……」
そして、しばらく進み――峠の頂上までの中間地点に到達した。
かなりゆっくりと進んでいるのだが、馬車に比べたら数倍早い。
「リリス様――これなら昼過ぎには頂上へ到着できますね」
「うむ」
後ろを見ると、アキラのプ○ドが少々遅れているようだ。
「少しスピードを落とすか……」
その時、俺達のハ○エースの横を猛スピードで、馬車が通り過ぎた。
咄嗟に、ハンドマイクを取り、後方に連絡を入れる。
「アキラ! スピード出した馬車が行ったぞ、注意してくれ」
『了解!』
そして、アキラたちを待つために少々スピードを落とすと、彼から無線が入った。
『おい! ケンイチ! 馬車が落ちたぞ!?』
「ええっ?! マジか!」
『ああ! 目の前で落ちた!』
「リリス様、確認いたします」
「うむ!」
停止して、ステッキのようなサイドブレーキを引くと――車から降りて崖下を見ながら歩く。
ブラインドコーナーを過ぎると、停止している車が見えてくる。
アキラのプ○ドも止まっているが――そこまでは100mほど離れているようだ。彼も車を降りていた。
ハ○エースもバックで下がれないこともないが、止めておく。こんな場所でバックはしたくない。
崖の下を見ながらアキラの所までいくと、下に馬車が落ちている。
「お~い! 生きてるかぁ?!」
返事がない。だが布のようなものが動いている気がする。
アイテムBOXから、双眼鏡を出して覗く。
「あ、動いているな、生きているらしい」
「マジか?」
アキラに双眼鏡を渡すと、プ○ドの扉を開いて、ハンドマイクを取る。
「あ~あ~! ミャレーにニャメナ! ちょっとこっちへ来てくれ!」
彼女たちは無線機の使い方は分からないので、返事はない。
「落ちた人が生きているのですか?」
「ええ、レイランさん達は乗っていてください。ミャア、ちょっと手伝ってくれるか?」
プ○ドに乗っていた、ミャアに協力を頼む。
「分かったにゃ」
ミャレーとニャメナもすぐに車を降りて、俺達の所までやって来てくれた。
だが、そのあとを、王女とアネモネがついてきている。
俺は、アイテムBOXから、ロープとクライミングハーネスを取り出した。
この前、崖下に降りたように、再びクライミングに挑戦だ。
それに、前に降りた場所より高さは低い。ロープを崖下に降ろして、獣人達に持っててもらう。
「崖下に降りるのか?」
「ああ、以前やったから、大丈夫だ」
「崖下に降りて、ワイバーンの死体を回収したにゃ!」
「マジか! ケンイチも結構、危ない橋を渡ってるじゃねぇか」
「けど、俺のは自発的な行為だからな。強制じゃないし」
「うむ!」
王女が強制しているわけではないと、念を押しておく。王国もブラックだと勘違いされると困るからな。
まぁ、多少ブラックっぽいところがあるのは事実だが。
「ロープを持っててくれよ」
「旦那、任せろって!」
「大丈夫?」
アネモネが心配そうな顔をしているが、ここで彼女の魔法の出番はないな。
獣人達の言葉を信じて、崖を蹴って下へ降りる。ゴツゴツとした岩肌を目の前に見ながら、下に降りていくと脚が地面に着いた。
すぐに馬車の所へ向かう。そこでは商人の男が残骸の下敷きになっていた。
「おい、大丈夫か? 助けに来たぞ」
「うう……」
息はあるようだ。だが完全に馬車の残骸に挟まっていて、手では持ち上がらない。
「足場は――大丈夫だな。よし、ユ○ボ召喚!」
重機を置けるスペースを確認して、アイテムBOXからユ○ボを出した。
「よし!」
座席に乗ると、エンジン始動。けが人を傷つけないように、そっと瓦礫の下にユ○ボのバケットを差し込み――持ち上げる。
これで、けが人が引き出せるだろう。白いシャツに緑色のベストを着た男を残骸の下から引っ張り出した。
頭を打ってるかもしれないので、動かすとまずいかもしれない。
「そうだな……」
シャングリ・ラを検索すると、アルミ製の担架が売っているじゃないか。
ニュースの映像で出てくるヘリコプター救助などで使われているような立派なやつだ。
だが、5万円と少々お高い――だが人命救助のためだ。
「ポチッとな」
ガシャっと落ちてきたアルミ製の担架に怪我人を寝せると、落ちないように3本のベルトで固定する。
マジで、ヘリコプターで釣り上げるみたいな感じになった――そうそう、こんな感じだ。
シャングリ・ラでロープを追加購入して、上から垂れているロープと担架を結んだ。
ちょっと引っ張ってみるが――大丈夫だ。
「お~い! 怪我人を引っ張りあげてくれぇ!」
「分かったにゃ!」
獣人たちの怪力で――担架に乗せられた怪我人が、するすると崖の上へ引き上げられていく。
その間に――可能な限り、破損していない荷物をアイテムBOXに回収する。
木箱や樽が割れて、散乱している荷物などは拾っていられない。
上にはアキラがいるので、ベルトの外し方などは分るだろう。こういう時に日本人がいると連携が取りやすい。
担架が引き上げられたあと、再びロープが降りてきた。俺のハーネスを接続して上に引っ張りあげてもらう。
崖下から戻ってくると、すでにアキラが治療を開始していた。
「どうだ? 怪我人は?」
担架の上で寝ている怪我人の頭に、アキラが手をかざしている。
彼も、皇帝から祝福をもらい、ナチュラル回復が使えるのだ。
「今、治療をしている。頭も打っているみたいだが、俺の経験則からすれば大丈夫だ」
「良かった」
「こいつはアルミなんだな。最初、力がオーバーロードしそうになって焦ったぜ」
「祝福にもアルミの触媒が使えるのか?」
「ああ、戦場で使ったことがある」
これは貴重な情報だ。彼は戦場を渡り歩き、俺より経験値が上――力の使い方にも手慣れている。
アキラのために、エナジーバーとバナナを出す。
「力を使うと腹が減るだろ? 食ってくれ」
「おおっ! バナナかよ! サンキュー! 同じ力を使えるやつがいると、話が早くていいな」
「にゃ? 産休がどうしたにゃ?」
獣人達が俺たちの会話に首を傾げているが、まぁそのうち慣れるだろ。
「はは、バナナなんて2年ぶりに食ったよ!」
「俺もこの前に、久しぶりに食った」
手足もボキッとはいってないが、ヒビが入っているようだ。
そちらの治療は俺が担当、身体の治療は、アネモネの回復を使ってもらう。
「アネモネ、軽くでいいからな。この金属が魔法の触媒になる」
「分かった」
プ○ドの窓を開けて、レイランさんがこちらの様子をうかがっている。
「アキラ! 私も手伝いましょうか?」
「センセ! 座ってて大丈夫だから、もう終わるし!」
「祝福持ち二人と、大魔導師に治療をしてもらうなど、全く運の良い商人だの」
治療をじっと見ていた王女がつぶやく。
「多分、一生分の運を使い果たしたのでは?」
「そうかもしれぬ」
王女が唸っているが――治療をしているアキラは俺が使ったユ○ボが気になるようだ。
「それよりも――ケンイチ、あんな重機まであるのか?」
「ああ、もっと大型の重機もある」
「マジでなんでもありだな」
「でも、俺のは対価が必要なんだよ。プ○ドは王国金貨5枚。ハ○エースは10枚、大型重機なら50枚必要だ」
「そりゃ大金だな」
「それに大型重機を動かすと、1日にバイオディーゼル燃料を400L消費する」
「400か――ハンパねぇな。チートとか魔力で燃料の補充とかできないのか?」
「それができればどんなに楽か……」
とにかく治療は終わって、容態は安定している。
プ○ドには担架は乗せられないので、獣人達にハ○エースまで運んでもらう。
担架のあとを、王女とアネモネがついてくる。
「ミャレー、ニャメナ、座席の間の通路に寝かせよう」
「わかったにゃ」「おう」
「大丈夫なのですか?」
プリムラが心配そうに、通路に横たわる怪我人を覗きこみ、ベルがクンカクンカしている。
「アキラの話では大丈夫のようだよ。あいつは怪我人を沢山治療したベテラン――いや熟練者だ」
「あの者は相当修羅場をくぐったようじゃの」
治療を手伝ってくれたアネモネを労う。
「アネモネ、ありがとうな」
「任せて!」
そうしているうちに、プ○ドがハ○エースの後ろまで来ていた――無線が入る。
『ケンイチ、大丈夫か?』
「大丈夫だ。怪我人は通路に寝かせた。それじゃ出発する」
『了解!』
けが人を乗せたハ○エースと、アキラの運転するプ○ドが再び、つづら折りの峠を走り始めた。
『こんな峠じゃ、毎日事故だろう?』
無線機からアキラの声が聞こえてくる。
「まぁ、そんな感じらしい」
ちょっと予定外の時間をくってしまったが、事故では致し方ない。
午後2時頃――峠の頂上にある宿場町に、到着した。
「ふぅ……やっと到着」
車から降りると、王女がマイレンさんに指示を出す。
「マイレン、宿場町の町長を呼んでくるのじゃ」
「承知いたしました」
一礼すると、メイド服のマイレンさんが、宿場町の中へ走っていく。
その間、俺達は怪我人をハ○エースから降ろすと、プ○ドからアキラ達も降りてきた。
俺と一緒に降りたベルは、辺りのパトロールを始めた。
「いやぁ――すげぇ峠だったな。今日はココで一泊か?」
「ああ、予定より遅れたしな。下っている間に暗くなってしまうだろ」
「暗闇の中、この峠を下るのは勘弁だな」
「だろ?」
アキラと話していると、町長が走ってきた。
「これは王女殿下! ようこそお越しくださいました」
「挨拶はよい、怪我人を受け入れてくれ」
「崖から落ちたそうで、よく助かりましたな」
「我が聖騎士が崖の下まで降りて、助けてくれたのじゃ。そして、そこな大魔導師が、治療をしてくれた」
王女が、アキラを紹介する。
「ありがとうございます。このような場所で事故を起こして助かるなど、正に地獄で神!」
「うむ!」
獣人たちに、宿屋まで怪我人を運んでもらう。
「それから、破損していない荷物も引き上げましたので、預かっていただくと助かります」
俺がアイテムBOXから、谷底から拾った荷物を出すと、町長は町の者に運ぶように命じた。
「何から何まで……あの者もきっと感謝するでしょう」
「それで町長さん。我々は町の前で宿泊するので、また場所を貸していただきたい」
「承知いたしました」
一応、町長の許しを得たので、空きスペースに家を出す。
「王女と女性陣は家で寝てくれ。俺らは天幕で寝るから」
「ウチは、ケンイチと寝るにゃー!」「俺も!」
「それじゃ、ウチはアキラと寝るにゃ!」
獣人達は、テントで寝るようだ。さすがに、獣人達まで一緒では家に入りきらない――ぎゅうぎゅうだ。
それに王族と一緒では気が引けるらしい。
「私もケンイチと一緒!」
アネモネも俺と一緒に寝るらしい。
「それじゃプリムラ、ちょっと早いが飯の準備にするか」
「はい」
テーブルやら、調理器具を出してプリムラと話をする。
「プリムラ、レイランさんたちの相手をしてやってくれ。何か商売のネタになることがあるかもしれんし」
「分かりました、帝国の大魔導師様ですからね」
レイランさんも商売をやりたいようだが、あの身体だ――男どもがわんさか集まって、商売にならないかもしれない。
彼女もそういうのは嫌みたいだしな。
「ケンイチ、今日は何を食うんだ? それとも、材料だけ提供してくれれば、鍋も魔導コンロもあるから、こちらでも調理ができるが」
アキラは今日の献立が気になるようだ。
「まだ、お客様だから、こちらで用意するよ」
「カレー!」
「カレーにゃ!」
アネモネとミャレーが手を上げる。
「こうやって献立のリクエストを取ると、カレーになっちゃうんだよ」
「別にカレーでも良いが……」
「いや、俺たちは、レッサードラゴンのホルモン焼きを食ってみようぜ?」
「何? ホルモン焼き? そいつは美味いのか?」
アキラの目が光る。
「分からん……肉は美味いんだから、内臓も美味いはずだ。アキラはレッドドラゴンを倒して肉は食わなかったのか?」
嫌なことを思い出したのか、アキラが俺の言葉にむっとした表情を見せる。
「そんなの有無をいわさず、皇帝に――あの時はまだ皇太女だったが――接収されたからな。話を聞いた限り肉は美味かったらしいが……」
「倒した本人が食えないなんて、不憫だな……」
「そうだよ、泣くしかねぇ」
「まぁまぁ、いずれまたドラゴンを倒して、肉にありつけるかもしれないだろ」
「ええ? 冗談! あんなんは二度と御免だけどな」
俺はアイテムBOXから、レッサードラゴンの腸を出して、下拵えを始めた。
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