表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/275

113話 亡命のススメ


 帝国の街を訪れて、俺と同じ元世界からやって来たという男に会った。

 名前はアキラ――日本人だ。噂通り、大量のマヨネーズを作り出すという、わけの解らん能力を持っている。

 そして俺と同じように――帝国皇帝から、簡単には死ななくなる祝福を授かったらしい。

 俺がここへやって来た本来の目的――亡命の勧め――その事を話そうか迷っているうちに、彼が手を出した女が訪ねてきて修羅場になってしまった。


 そこで俺は、もうひとつシャングリ・ラからタルトを買った。今度はフルーツタルトだ。

 箱から、色とりどりの果物が載ったタルトを取り出し、テーブルの上に置くと、皆の視線が集まる。

 すると皆が黙ってテーブルについて、黙々とタルトを食べ始めた。


「なんという至福の甘さでしょう! あの、ものすごく美味しいですね、これ!」

 商人の元妻だという女性もタルトに舌鼓を打っている。彼女は元々、貴族の娘らしい。


「落ち着いたところで話していいか? アキラ」

「ああ……」

「皇帝とは完全に切れたのか?」

「ああ、もう戻るつもりはない。なんで、あんなにこき使われなきゃならねぇんだよ、意味が解らん。多少給料がよくても、命がけじゃ割に合わない」

「どうやって逃げてきたんだ?」

「あまりに人使いが荒いんで、ブチ切れてな。『一発やらせろ!』って言ったんだよ」

「ええ? マジか」

 それで本当にやったというのだが……。


「そりゃ、まずいんじゃないのか?」

「ああ、そりゃそうなんだが、やったの……ほら別の方だから……」

 アキラの言葉で大体を察した。


「それでな――祝福の力を使いまくって、俺の作った魔道具も使いまくって、皇帝が白目剥いてぶっ倒れるまでやりまくって、ガバガバにして逃げてきた」

 何がガバガバになったのかは問うまい。


「なんだそりゃ。そんなの捕まったらクビが飛ぶんじゃないのか?」

「まぁ、飛ぶかもなぁ……だから、この街に逃げてきたんだよ」

 この街はソバナに接しているので、ここに討伐隊を送り込めば、王国への侵略を疑われて一気に両国の緊張が高まる。

 皇帝は玉座についたばかりで地盤固めをしている真っ最中だ。他国との戦闘をしている余裕はない。

 アキラ達は、そこにつけ込んだわけだ。


「もう逃げる時にな、白亜の御殿を油で満たして、赤猫這わしてやろうかと思ったぐらいだ」

 赤猫ってのは火をつけるって意味らしい。


「やってたら、マジでやばかったかもな」

「俺もそう思ったし、一歩手前で踏みとどまった」

 なるほど事情は解った。しかし、かなり剣呑な奴だな。

 こんな奴を亡命させて大丈夫だろうか? 一抹の不安が残るが……。


「そんな貴方がたに朗報です。王国へ亡命してみませんか?」

「「「ええっ!?」」」

 皆の声がハモった。俺が王国側からやって来た事も話した。


「王国へ来れば、帝国も手出しが出来ないぞ」

「確かにそりゃそうだが……」

「それに、俺の近くにいれば、元世界の物資もある程度、供給出来る。無論、金はもらうが。それに、王族に掛け合えば、ある程度の地位は保証されると思う」

 アキラだけに解るように話しているので、他の人には何がなんだか解らないかもな。


「また、こき使われるだけじゃ……」

 どうも、アキラは疑心暗鬼になっているようだ。余程、過酷な労働環境だったらしい。


「まぁ実力者なら、お願いはされるけど褒賞は出るよ。それに帝国と違って、問答無用で徴発されたりしないし。まぁ王侯貴族の理不尽さは多少はあるけど」

 俺も、それに巻き込まれた口だ。


「やっぱり……」

「だがまぁ、それはどこの国へ行っても似たようなものだろう? 俺は、国王から天下御免の書状を貰っているからな。貴族共は排除出来るぞ?」

「そんな物を貰えるとか、何をやったんだ?」

「まぁ、色々と――ははは」

 アキラ達は顔を見合わせている。そりゃ迷うだろうな。


「帝国の王国への侵攻はしばらくなさそうだし、危ないのは共和国だな」

「それは皇帝からも聞いた。こんな世界にも共和国があるってだけで、びっくりだが」

「後は、魔物退治ぐらいだよ。それに――俺とアキラがいれば、ドラゴンだって余裕なはずだ。なんたって、ドラゴンスレイヤーが2人だから」

「ケンイチもドラゴンをやったのか?」

「俺がやったのは、レッサーとワイバーンだがな。うちにも大魔導師がいるし、『夜烏のレイラン』も味方になってくれるとなりゃ、百人力だ」

「う~ん……」

 アキラ達は悩んでいるようだ。


「結論が出るまで、結構かかりそうか? 数日なら、俺は外でキャンプして待っているぞ」

「ウチの前でか?」

「ああ、その道具はアイテムBOXの中に全部入っているし」

「お前のパーティは?」

「王国側のソバナにある公爵邸にいる」

「ソバナの公爵とも知り合いなのか?」

 俺のパーティに王女が同行している事をアキラに話す。彼は、その話を興味深そうに聞いている。


「王女から、お前たちの引き抜きを任された」

「なんだって……そりゃ、かなり本腰を入れたスカウトなんだな?」

「その通り」

 そうはいっても簡単には結論は出ないだろ。


 俺は、外に出るとキャンプの準備を始めた。アイテムBOXから草刈り機を出すと、草を刈り始める。

 バリバリとけたたましい音に、アキラが玄関から出てきた。


「そんな物まであるのか?」

「ああ、便利だぞ。チェーンソーもある」

「バイクとか車は?」

勿論もちろんある」

「マジでか? 燃料はどうしてるんだ? 魔力で補充とかいうチート?」

「いや――ディーゼルエンジンしか使えないが、俺が薬品と魔道具でバイオディーゼル燃料を作っている。アキラの作る油も植物油だろうから、バイオディーゼル燃料に使えるぞ」

「それでも、チートすぎるだろ……」

 彼は、かなり呆れているようだ。


「それに引き換え、なんなんだよ、『マヨネーズ能力』って、ふざけてんのか?! 責任者出てこーい! こんちくしょう!」

「まぁ、そんなに腐るなって」

「そうは言うけどな……パソコンとかも作れるのか?」

「出せるが――ネットがなきゃタダの箱だぞ?」

 電卓等で計算するだけなら、そろばんがある。実際、ノートPCは買ったが、本の取り込みにしかつかってない。

 表計算ソフトは、経理などに便利そうだとは思うが……。


「……そりゃそうか……しかしなぁ、こんな世界に放り込まれて、こりゃ一体なんだと思う?」

「さぁなぁ……あれじゃね? 上で誰かが暇つぶしで見てるとか……」

 俺は空を指さした。


「それで――誰が面白い事をやるかを見ているのか? さしずめ俺の能力は、外れ能力ってやつだな」

「でも外れ能力で、レッドドラゴンを倒したんだから、大穴だぞ? 賭けをしていたら万馬券だ」

「ありえそうな話なので、そういうのは止めてくれ。洒落にならねぇ。大体、大穴だったのに、なにも褒賞を貰ってないぞ? ……ああ、アイテムBOXが使えるようになったか……」

 アキラのアイテムBOXは家1軒分ぐらいの容量だと言う。大きさの限界は3m程。

 俺のアイテムBOXの方がかなり性能がいい。


 彼に見せるために、アイテムBOXからオフロードバイクを出した。


「おおっ! 本○の2ストじゃないか!」

「普通のガソリンが手に入らないからな。草刈機やチェーンソーに使う混合燃料を使っている」

「乗っていいか?」

 そういえば、アキラはバイクで旅をしていたと言っていたな。

 彼がバイクに跨るとキック一発。エンジンが始動した。

 そして、その場でアクセルターンを決めると、ウィリーをしたまま草の中の小道を走りだした。

 かなり運転が上手く、乗り込んでいるのが解る。100m程疾走して戻ってきた。


「はははっ! こりゃすげぇ! 俺にも売ってくれ!」

「そりゃ、やぶさかじゃないけど。俺の近くにいないと燃料が供給できないぞ? アキラの油じゃ動かないし。壊れたら修理も出来ない。工具もないし、メンテに使うオイルとかもないだろ? パンクやチェーンが切れたら終了だぞ?」

「そう――だよなぁ……」

 バイクの話をしながら、草を刈り終わったので、小さなテントを出した。

 1人ならこれで十分だ。デッキチェアとパラソルもだそう。


「アイテムBOXの拡張とか出来ないかね?」

「さぁな。ステータス画面にも何も書いてないし……」

 俺の呟きにアキラが食いついた。


「ステータスって見れるのか!?」

「俺は見る事が出来るが、名前と歳しか書いてないぞ」

「なんじゃそりゃ……」

 彼は、かなりがっかりしたようだ。スキルとか、アーツとかそういう物が後付出来るかと期待したらしい。

 俺はデッキチェアに座り、シャングリ・ラで電子書籍を読み始めた。

 アキラは家に戻って、家族会議の続きをするようだ。

 さて、どのぐらいで結論が出るだろうか?


 ------◇◇◇------


 遠くから昼の鐘の音が聞こえてきた。

 腹が減ったので、飯を食うことにした。鍋に入ったままのお湯をアイテムBOXから出す。

 沸かしすぎた時は、こういう事も出来るから便利だよな。

 カップ麺を取り出して、お湯を入れていると、アキラがやってきた。


「カップ麺か?」

「お前も食うか?」

「いいのか?」

 食いたそうなので奢ってやる事に。彼は一旦家に戻ると、俺の所へやって来た。

 彼の仲間は家の中で食事をとっているようだ。


「マジで何でも作れるんだな? 金が必要って言ってたけど、日本円じゃないよな?」

「普通に金貨とか宝石でもいい」

 オッサンが2人で、カップ麺を啜る。


「それで、結論は出たのか?」

「ああ、亡命する事にした。元々、そのつもりだったんだ。ここで下準備をしていたんだが、色々と問題があってな……」

「問題? どんな?」

「金だよ」

 彼の話だと、仲間の財産の殆どが、ギルドカードというカードの中に入っているそうだ。

 大量の金貨とか持って歩けないからな。その金額は5億円にのぼるという。


「なるほどなぁ。帝国のギルドカードってのは王国じゃ使えないからな。一旦換金して王国へ持ち込む必要があるってわけだ。換金するだけでも時間が掛かるな」

「そうなんだよ」

 え~と、アキラの財産が5億として――王国金貨だと2500枚だから、金貨1枚30gとして75kg……。


「金貨だけで100kgぐらいか? まぁ、アイテムBOXがあるなら余裕だろう?」

「ああ、もう俺のアイテムBOXの中に入っている――よし! 決まりだな! 飯を食ったら準備をするから待っててくれ。ズルズル~! うまっ! 久々に食うと美味いな!」

 アキラは、美味そうにカップ麺を啜っている。


「すぐに飽きるけどな。この啜るってのも、こっちの人間は出来ないんだよな」

「ははは。こりゃ日本人特有のスキルみたいだからな」

「この家は?」

「大丈夫だ」

 この家は半年契約で借りた物だという。家賃は一括払い。


「家を借りるにも保証人がいるからな」

「帝国でもそうなのか。王国もそうだな」

「でも、やっと逃亡生活に別れを告げて、ゆっくりと落ち着けそうだぜ」

「おすすめは、俺が住んでいた地方都市のダリアか、アストランティアだな。王都は人も多いし物資も不足している」

「ああ、帝都もそんな感じだよ。離村した連中も、帝都に行けばなんとかなる――とか考えちまうんだろうなぁ」

「スラムがあるって事は、どっちも先進国ではないってわけだな」

 アキラも、話が通じる人間が出来て嬉しそうではある。横文字を使っても通じるからな。

 カップ麺を食い終わったので、彼と一緒に家の中に入る。

 中では、女性達は荷物をまとめていた。


「しかしアキラ。どうやって国境を越えるつもりだったんだ? 門を抜けるには許可証がいるぞ?」

「それなんだよ。センセが闇で許可証を手に入れようと頑張ってくれてたんだが、せいぜい1通ぐらいなんだよ――それで!」

「それで?」

「裏の壁を乗り越えようと思ってた」

 それで、こんな壁の近くにキャンプ地を作っていたのか。


「そうだな……俺が一度王国側へ戻って、許可証を取ってくる事も可能だけど――面倒だな。壁を越える事にするか?」

「アイテムBOXに梯子はしごとかが入っているのか?」

「梯子もあるけど、もっといい物がある」

 皆を連れて家から出ると壁際に行く――そしてアイテムBOXから単管の足場を取り出した。

 目の前に現れた鉄パイプのジャングルジムに、その場にいた皆が驚く。


「なんじゃこりゃ! 単管の足場かよ! こんなデカイ物まで入るのか?」

「この大きさがギリギリなんだけどな」

「これを作ったのか?」

「パイプを出して、俺の家族に手伝ってもらって組み立てた」

「信じられねぇ……」

 これで向こう側へ行けるが、少々問題がある。アキラとレイランさんの格好だ。

 いかにも帝国軍人らしい格好のアキラと、見ただけで魔導師と解るレイランさん――しかも爆乳。

「確かに俺達の格好は、ちょっとまずいかな……」

「まぁ、役人に捕まっても、公爵の知り合いだって言えば、すぐに釈放されるとは思うんだが、トラブルは避けたいからな」

 他の女達は大丈夫だろう。シャングリ・ラから、アキラとレイランさんの服を買ってみた。

 アキラはズボンだけでいいと思う。


「とりあえずアキラは、ズボンを替えるだけでいいんじゃね? ウエストは?」

「確か、日本にいた時は88だったはず……」

「ほい」

 シャングリ・ラから白っぽい作業ズボンを購入した――2000円だ。

 レイランさんには白いブラウスと、紺色のマキシのスカート。


「この世界って女物でも右前なんだよな」

「そう、娼婦は別だがな」

 以前、ダリアで女達に買ってやった上からスッポリと被るタイプのブラウスを買ってみた。


「はい、レイランさんにはこれを。公爵邸に到着するまでですから、少々我慢して下さい」

「解りました」

 服を受け取った、アキラとレイランさんは、家に戻って着替えるようだ。

 そして、しばらく待っていると、アキラが走ってきた。


「おいケンイチ! ダメだ、服にセンセの胸が収まらねぇ!」

「マジでか! どんだけデカいんだよ」

「くくくっ、おそらくは、この世界一のオッパイだからな」

「それは認めるが――どうしよう」

 ――となると、伸縮性のある素材の方がいいか。シャングリ・ラで検索して、ニットのセーターを買うことにした――1600円だ。

 色は黒で、肩口の部分が大きく開いているデザインだ。丈は長いし、これなら胸も収まるだろう。

「ポチっとな」

 落ちてきたセーターをアキラに渡した。


「確かに、これなら伸びるな。それじゃ、センセに渡してくるぜ!」

 レイランさんにセーターを手渡したアキラが戻ってきた。

 彼と話をしていると、黒いセーターを着たレイランさんが俺達の所へやってきた。


「こ、これでいいのですか?」

 さすがに、セーターは伸びるので、胸は収まっているが――胸の形がパツンパツンに浮き出てなんという破壊力。

 顔を赤くして、もじもじしているレイランさんを見たアキラが叫んだ。


「ファイヤー!」

「「ジャストミート!!」」

 俺も釣られて一緒に叫んでしまう。そしてアキラが、レイランさんの後ろに回りこむと、爆乳をもみ始めた。


「こ、こらぁ! アキラ、やめなさい!」

「ふひひっ! これか!? これがええんのか!?」

 はっきりいって、オッサン丸出しである。まぁ、本当にオッサンなので致し方ない。

 奴の指が、柔らかそうな胸に食い込む――正直、羨ましい。俺も揉みたい。

 帰ったらプリムラにセーターを着せて、俺もやってみよう。


「ちょっとぉ! ああっ!」

「こんなの見せられて、揉まずにいられようか! いや、いられるはずがない! カッコ反語!」

「おいおい、アキラ――まさか、ここで始めるつもりじゃないだろうな?」

 俺の冷静なツッコミに、アキラも我にかえったようだ。


「ふう……こんな事をしている場合じゃなかったな。この俺に我を失わせるとは、さすがセンセのおっぱいは只者ではない」

「もう、いいかげんにしなさい!」

 レイランさんは怒っているのだが――男には揉まずにいられぬ時がある。


「フヒヒサーセン!」

「もう! やるなら……人のいない所でしなさい……」

 なんか、端から見ているだけで、ラブラブなんだが……。

 

「逃亡中なんだろうけど、悲壮感の欠片もないなぁ」

 俺の言葉にアキラが反応した。

 

「そりゃ、そうさ! どんな時にも、明るく楽しく! ナントカ団心得!」

「「人生エンジョイ&エキサイティング! ははは!」」

 俺とアキラの声がハモる。

 

「また、訳の解らない言葉を話してるにゃー」

 アキラの家族は楽しそうだ。

 

「本拠地を決めて、家でも構えたら、そんなの好きなだけ出来るからさ」

「そりゃそうだな! 安住の地を見つけるのが先決だ。俺達のサラーイの地ってやつをよ!」

 サライって歌もあったが、ペルシア語らしいな。


「あの……アキラ様。私もあのような服を着た方がよろしいですか?」

 レイランさんのセーター姿を見たアンネローゼさんが、アキラに抱きついた。


「ふふ、そうだな。それは、家を見つけて落ち着いてからでいいだろう。たっぷりと可愛がってやる」

「あ、あの……いつも綺麗にしてありますので、アキラ様のお気に召すまま欲望のはけ口になさってくださいませ……」

「こんな上品そうな元貴族の女が馬みたいに鳴くんだからな」

「は、恥ずかしい……」

「恥ずかしがる事はないぞ、アンネローゼ。そこにいる俺のチ○○に負けた女騎士なんかは豚みたいに鳴くからな」

「くっ! 殺せぇぇぇ!」

 女騎士がアキラに掴みかかった――また始まった。


「でもな、ケンイチ。ここで一番凄いのは、センセだからな」

「そ、そんな事はありません!」

「もうな――食いついたら離してくれないんだ」

「すっぽんか」

「ああ、すっぽんだ」

 頷く俺とアキラの横で、ミャアがクビを傾げている。


「すっぽんにゃ?」

「ミャア、俺達の故郷にはそういう動物がいたんだよ。亀に近いな」

「あんなに大きいのきゃ?」

「いや、そんなに大きくはない」

 亀? アキラの話では、大型のワニガメみたいのがいるようだ。へぇ、そいつは見たことがない。


「亀か……美味そうだな」

「実際に美味いぞ。誰も食わなかったんで、俺だけ食ったんだが、美味かったぜ。肉が、クソ固かったけどな」

「すっぽんも美味いからな。すっぽん系か?」

「俺もすっぽんを食った事がないから、比較出来ないが――凄くこってりしてて、旨味が凝縮されている感じだった。ゼラチン質も多くて美容と健康にもいいかもな」

 そいつは機会があれば是非とも食べてみたいところだ。


「やっぱり日本人なら、とりあえず食うよな」

「もちろんだな。食えるのか、食えないのか。不味いのか、美味いのか。気になるからな」

「ウチの家族は食わず嫌いが多くてな」

「はは、こっちもだ」

 アキラが後ろにいる女性達を見る。


「しかし、女性が沢山だと大変だな」

「ケンイチの所も、そうじゃないのか?」

「俺の所は、妻と獣人が2人だからな。獣人はあまり主張してこないし……もう1人は子供だ」

「そうだなぁ――皇帝から加護をもらってよかったのは、これだけだな。祝福がなかったときは、怪しげな薬とか怪しげな魔法とか使われて搾り取られたし」

「そ、そんな事はありません!」

 咄嗟とっさに否定したのはレイランさんだが――。


「何言ってんだよ、センセ。もうセンセが一番酷かったのに」

「……」

 レイランさんが、身体の前で腕をクロスさせて、もじもじしているが、挟まれた胸が大変な事になっている。

 イカン! どうしても、そこに目がいってしまう……。


「おほん!」

 気を取り直して続きをしよう。


 俺のアイテムBOXから出したパレットに、彼等の荷物を載せてもらう。こうしないと、荷物を1個1個収納する羽目になってしまう。

 俺がプレゼントした、ビールとコーラもあるが、その他の荷物は鞄や袋など最低限の物しかない。

 本当に着の身着のまま逃げてきて、その日暮らしをしていたようだ。

 それでも、皇帝にこき使われるよりはマシって事なんだろう。


「おっしゃ! 収納したれや!」

 アキラの声で目の前から彼等の荷物が消えた。

 聞けば、アキラのアイテムBOXの仕様も、俺や他の人間のアイテムBOXに準拠しているようだ。


「生き物以外はなんでも入るよな」

「そこら辺の線引はどうなっているんだろうな」

 アキラの疑問も一理ある。


「詳しくは解らん。例えば、植物なんかは引っこ抜いた直後はまだ生きているだろうけど、アイテムBOXに入るしな」

 普通に収納しても、空気中の微生物も巻き込んでいるはずで、そこら辺はどうなっているのかは不明。

 アイテムBOXに入れておいた種を地面に撒けば発芽するし、植物にはかなり甘い判定のような気がする。

 虫等は半死状態でも収納できるが、再び出すと完全に死んでいる。

 ちょっと動物には厳しいルールがあるように思える。


「そんな事より、覚悟はいいのか?」

「おう! 覚悟完了ってやつよ」

 アキラの家族も頷いているので、覚悟は決まっているのだろう。

 皇帝に逆らってしまった彼等に、帝国では安住の地はないのだ。

 そう考えると――俺も王族と喧嘩別れしなくて良かったな。結果オーライだ。

 あのままガチンコでやりあえば、俺達も王国には、いられなくなる。

 そしてアキラ達も帝国から追われている身――彼と会ったとしても、2人で頭を抱えていた事だろう。


 しかしながら、このまま王都へ戻っても一悶着ありそうな予感はするけどな。

 ――とはいえ、超強力な魔導師が2人も味方についてくれた。


 まぁ、なんとかなるだろう――人それを希望的観測というが。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124fgnn52i5e8u8x3skwgjssjkm6_5lf_dw_a3_2
スクウェア・エニックス様より刊行の月刊「Gファンタジー」にてアラフォー男の異世界通販生活コミカライズ連載中! 角川書店様より刊行の月刊「コンプティーク」にて、黒い魔女と白い聖女の狭間で ~アラサー魔女、聖女になる!~のコミカライズ連載中! 異世界で目指せ発明王(笑)のコミカライズ、電子書籍が全7巻発売中~!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ