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108話 ドワーフ


 帝国との国境の街、ソバナという所に来ている。

 晩飯まで時間があるので、とりあえず散策だ。プリムラは公爵の屋敷で留守番をしてもらい、皆でラ○クルプ○ドで走りだした。


 人混みを縫って走るが、馬車も多い。子供の飛び出しもあるので、スピードは出せない。

 何せ交通法規がない世界だ。


「おい、ありゃなんだ?」「馬なしで動いているぜ?」「魔法か?」

 あちこちから、声が聞こえる。まぁ、これはどこの街でも同じなので慣れっこだな。


 10分程走って、市場へ到着したので、車をアイテムBOXへ収納する。


「おおっ!」「アイテムBOXか?」「らしい……」

 人々からのざわめきは無視して、皆で市場を歩き出す。

 見渡す限りの露店が並ぶ市場、今の買い物客は晩飯の食材探しか?

 色とりどりの服、色とりどりの露店の屋根、様々な人種――活気に溢れている。

 辺りを見回していると、1人の男が近づいてきた。背中を丸くした、ネズミのような顔をした男だ。

 ダリアにいた時もこんな男に声を掛けられた記憶が――まさか同じやつじゃないだろうな。


「旦那! アイテムBOX持ちかい? 良い仕事があるんだがなぁ?」

「お前、ダリアにいた事がなかったか?」

 男は、まじまじと俺の顔を覗きこんだ。

 

「え? ……ああ! 市場でベッドを運んでた、アイテムBOX持ちの旦那!」

「マジで本人かよ」

 なんでこんな所で、こんな奴に会うんだ。


「へへへ――ここで会ったのも、何かの縁って事で」

「生憎、俺は王侯貴族との取引があるので、間に合ってるよ」

「げっ!? 王侯貴族?」

「ああ」

 一応、驚いた男ではあったが、簡単には引き下がらないようだ。


「旦那、冗談は言いっこなしですぜ? 貴族様の名前を騙るだけで罪になるのに、王族って」

「本当だからな。今も、ここの領主のレインリリー公爵の屋敷に滞在している」

「ほ、本物かよ……!」

 男は捨て台詞を吐くと、人混みの中へ消えていった。どうやら俺が成り上がったのが、気に入らない様子だったが、そんなの知るか。


 そのまま、皆と一緒に露店の並ぶ市場を歩く。今度は、俺達と一緒に歩いている、森猫のベルが注目の的だ。


「森猫だぞ?」「見事なもんだな……」「かなりの高齢だと思うが……」

 高齢なのか? 他の森猫を見た事がないからな。


「ミャレー、他の森猫って見たことがあるのか?」

「森の中では、あるにゃ」

「ベルの大きさは、それと比較してどうなんだ?」

「この森猫は、かなり大きいにゃ」

 そうなのか――それじゃ、もしかして高齢なのかもしれないな。その前に、森猫がどのぐらい生きるのかも解らないし。

 ベルと同じぐらいの大きさだと元世界の豹か。でも、彼等も家猫と同じぐらいか、若干長いぐらいの寿命だったはず……。

 そんな事を考えながら歩いていると、デカい身体の獣人に囲まれた。

 柄は虎柄、白黒、ハチワレ――様々の猫人だ。周りには犬人もいるのだが、争いや揉め事が起きている節はない。


「その森猫様は、旦那の眷属かい?」

「そうだ」

「頼む、拝ませてくれ! こんな場所で森猫様に会ったのも、何かの運命に違いねぇ」

「それは良いが……」

 ベルは、獣人達の前で、凛と座っておすましポーズをとっている。


「「「へへ~っ!」」」

 その前で、獣人達が土下座して拝み始めた。やれやれ――と思うのだが、こんな所に普通は森猫はいないからなぁ。

 東京の真ん中で、神様の使いに会ったようなもんだろう。そう考えると彼等の気持ちも解る。


「ミャレーやニャメナは拝んだりしないな」

「そんな事ないにゃよ。いつも森猫には敬意を払っているにゃ」

「そうだよ、旦那」

 まぁ、彼女達はいつも一緒にいるからな。その度にペコペコするわけにはいかないか……。

 ついでに、拝んでいる獣人達から、道具屋の場所を聞く。地元の事は地元の人間に聞くのが一番。

 本屋もあれば良いんだが――王女に聞いたところ、この世界に本は少なく、専用の本屋ってのは滅多にないようだ。

 本屋の代わりになっているのが、ダリアの爺さんや、スノーフレーク婆さんの所のような道具屋だ。

 道具屋といっても、何でも屋に近いんだけどな。

 本が多いと言ったら、お城にあったような王侯貴族の書庫。もしくは大学の図書館が確実らしい。


 獣人達に教えてもらった道具屋にやって来た。古めかしい2階建ての石造り。建物の半分をつたが覆っている。


「ちわー」

 ドアを開けると、チリンチリンと音がする。ベルには、ドアのところで待っててもらう事に。

 店の中は雑多なアイテムで一杯。家具まで置いてある――まさしく道具屋だ。


「いらっしゃーい。あら、見かけない顔ねぇ」

 出迎えてくれたのは黒いドレスを着た、色っぽい女性。歳は40過ぎてるな。

 小さなカウンター越しに、気だるそうに座っている。

 歳の割には胸の谷間は見せているし、スカートのスリットからは、脚も出ている。

 無理すんなBBAと言いたいところだが、なかなか似合っているので、これはこれでよしとしよう。

 この世界はあまり化粧は発達していないので、化ける事は出来ない。

 この女は格好からして魔導師なのだろう。


「今日、この街へやって来たばかりだ」

「あら、そう……」

「ちょっと聞きたいんだが、魔力を抑える道具ってのはないか?」

「魔力を抑える――う~ん」

「ないかな?」

「うふふ……あるんだなぁ、これが」

 女は、戸棚の薄く重なった引き出しの一つから、銀色の指輪を出した。

 表面に何やら、細かい文字や模様が彫られている。


「この指輪がそうなのか?」

「この国じゃ、需要がないんだけどぉ、おとなりの帝国じゃ、よくある道具なのよねぇ」

「ああ――帝国じゃ魔力があるとバレると、強制的に徴発されるんだっけ?」

「そうなのよ。それで、こういう道具を使って、徴発を免れるってわけ」

「それじゃ、これは帝国産か……」

「そゆこと」

 アイテム自体が帝国から流れてきたか、それとも帝国から亡命した奴が不要になったので売ったか……。


「値段は?」

「銀貨2枚(10万円)」

「その値段なら、買いたいが……試してみてもいいか? 使えないのを買っても仕方ないからな」

「いいわよ」

 店主の話では、指輪の他にイヤリングやネックレス等もあるという。

 指のサイズは――左手の人差し指に丁度いい感じだ。

 アネモネを呼んで、彼女の頭をでてみる。


「どうだ?」

「……つまんない……」

「それでいいんだよ、その歳で変な事を覚えられたら困るし」

「私は大人だから!」

「そこんところ、年長者のお姉さんの意見はどう?」

「ん? 詳しい事情は解らないけど、察するに――もうちょっと待った方がいいかなぁ……身体も小さいしぃ。私も女だから気持ちはわかるけどね」

「ふん」

 アネモネは横を向いてしまったが、指輪の効果はあるようだ。

 ――ということは、王家の力ってやつも魔法の一種なのか?


「はっ!」

 俺は慌てて、シャングリ・ラを開いてみた。大丈夫だ――いつもと同じように使える。

 そしてアイテムBOXも使えるようだ。

 これらから、シャングリ・ラとアイテムBOXは普通の魔法とは関係はないようだな。

 そういえば、魔法が全く使えないマロウさんもアイテムBOX持ちだしなぁ……。

 王妃も魔法が使えないようだが、アイテムBOXを持っているという話だし。

 だが指輪が使えるのは解った――購入する。


「ほい、銀貨2枚」

「毎度~! 金払いのいい客は大好きさ。他に何か欲しい物はないかい? 色々と出してあげるよ」

「それじゃ、魔導書はないか?」

聖なる盾(プロテクション)ならあるよ、金貨20枚(400万円)」

「よっしゃ! 買った!」

「ほ、本当かい!」

 女性が黒いドレスを翻して、カウンターから出てきて、俺に抱きついた。


「随分と気前がいいじゃないか。金を持ってるなら、私も雇わないかい?」

「ウチには小さな大魔導師様がいるから、間に合ってるな」

 だが、俺に抱きついた女に、獣人達が毛を逆立てた。


「このBBA何やってるにゃ!」「ざけんなぁ!」

「暗闇から伸びる漆黒のつたよ、生きとし生けるものを絡めとり、その動きを封じよ――拘束バインド!」

 女の言葉と共に、獣人達が金縛りに遭ったかのように動かなくなった。


「へぇ、そういう魔法もあるんだ」

「激しく動く相手にゃ、使えないけどね。物がデカいと数秒しか止められないし」

 そう言ってるうちに獣人達が動き始めた。


「しかし、攻撃する間は十分にあるな」

「まぁ、そういう魔法だからね」

「くそ、離れやがれBBA!」「そうだにゃ!」

「まぁまぁ、待て待て。魔法の話を聞いているところだから」

 この世界は情報源が少ないからな。僅かな情報でも、機会を逃さず集めていかないと。


「ねぇ? その指輪がないと、どういう事になるの? ちょっと興味があるんだけど?」

「やめとけ、オススメしないぞ」

「いいからぁ」

 女が俺の首に腕を回してきたので、指輪を外して胸をもむ。

 すると女は、すぐに俺から離れてしゃがみこんだ。


「おほっ! やだ! これはヤバいじゃないの! 上がってた生理がまた来そう!」

「子供の前でそういう事を言うんじゃない」

 指輪を指に戻したが、これは使える。


「魔導書の登録は1週間ぐらい掛かるんだよな? この街にいつまでいるか解らん。急いでやってもらえるか?」

 そう言って、金貨を21枚出した。


「上客の頼みじゃ仕方ないねぇ。私と一晩付き合ってもらえれば、明後日には出来ると思うけど?」

「いや、妻もいるので、それは遠慮しておく」

「なんだい、獣人の女を2人も囲っているのに、随分と堅いねぇ。あの森猫もあんたのなんでしょ?」

「そうだけど、森猫も勘定にいれるなよ」

 まぁ、もうちょっと若い女なら、俺の気持ちも揺らぐんだけどな。


「むう……」

 アネモネが睨んでいるので、ここら辺にしておく。

 ついでに、ドワーフがやっている鍛冶屋の場所を教えてもらった。ちょっと通りから離れた場所にあるらしい。

 俺がアイテムBOXから出した紙に、地図を描いてもらう。


「ドワーフは気難しいから、気をつけな」

 職人の爺さんって、そんな感じはするよな。

 俺が持っている紙を女が欲しがっていたので、ついでに売ってやった。これで魔導書の登録もすぐにやってくれるだろう。

 彼女曰く、今日の稼ぎは店の3ヶ月分の利益らしいからな。


 ドワーフの鍛冶屋は、それほど離れた場所ではないので、歩いていく事にした。

 途中に、アクセサリーの店を見かける。

 う~ん――たまには、プリムラに贈り物をした方がいいかな?

 だが、アクセサリーならシャングリ・ラで買った方が良い物が買える。

 真珠はまずいだろうが、その他の宝飾でもクオリティが段違いだ。この世界では実現するのに、多大な金と時間がかかりそうな物がすぐに買えるのだから。


「アネモネも何か装飾品が欲しいか?」

「魔導書を買ってもらったからいらない。本も一杯読ませてもらっているし」

「獣人が装飾品ってのは、あまり見たことがないな」

「動く時に邪魔になるだけだぜ」「そうにゃ」

 だが、ゴブリンを倒した時に手伝ってくれた獣人が動物の牙か何かで作ったネックレスをしていた。


「そういうのはあるにゃ。デカい獲物を仕留めた記念に作るにゃ」

「それなら、ワイバーンの歯とかで作るか? 穴開けて紐を通すだけだろ?」

「旦那、それが結構大変なんだけど……」

 まぁ、この世界にはドリルじゃなくて、キリしかないからな。獣人じゃキリも持ってないだろうし。


「欲しいなら、俺が作ってやるよ」

「本当かい?」「にゃ?」

「ああ」

「やったぜ!」「にゃー!」

 そんなに喜ぶとは思わなかった。

 はしゃいでいる獣人達を引き連れ道を進み、運河に架っている橋を渡る。

 道の途中でも、ベルを見かけた獣人達がペコペコとお辞儀をしてくる。


 道具屋でもらった地図の通り、それらしい鍛冶屋があった。

 分厚い屋根の2階建ての建物。石造りで奥に長い造り。そこが鍛冶場になっているのだろう。

 鉄を叩く音も聞こえる。周りにも住宅があるようなのだが、1日中この音が鳴り響いてて大丈夫なのだろうか?


 だが俺の目を引いたのは、店の正面玄関に飾られた、巨大な剣。刃渡りは3m以上あるだろうか?


「でっかい剣にゃ!」「こんなの飾りのナマクラだろ?」

「けど、ちゃんと研がれて刃もついているように見えるが……」

 サビも浮いてないし手入れもされている。それに刃先に何か黒い物が割り込まれている。なんだろうか?


 店の中に入る。板の床――そして白い壁は漆喰だろうか?

 所狭しと武器や防具が並んでいる。何やら店内に漂う焦げ臭さと、鉄と油の臭い。

 一緒にやってきたベルは、玄関の扉の横に座り込んだ。


「良いのがあったら、買ってやるぞ」

「本当かにゃ?」

「いや、旦那ぁ――防具や武器まで買ってもらっちゃ、俺達の金の使うところがますますなくなるじゃねか」

「細かい事は気にするなっての」

「いや旦那! 全然細かくないから!」

 いかにも商品を購入しそうな俺達を見て、揉み手をしながら店員がやってきた。

 分厚いズボンと麻のエプロンをした、その男は普通の人間で、ドワーフではない。


「何かお探しでしょうか?」

「ケンイチ、これがいいにゃ!」

 ミャレーが指さしたのは、軽そうなレザーアーマー。だが要所には鋼板の補強が入っている。

 見るからに物が良くて――ダリアやアストランティア辺りで売っていた物とは造りが違う。


「それは、金貨2枚(40万円)となっております」

「げ! 金貨2枚にゃ?」

「ミャレーは驚くけど、この造りは凄いぞ? これなら高くても当然だと思う」

「みゅみゅみゅ~」

「そんな悩むなよ、金は俺が出すんだから。よし、これをくれ。ミャレー、合わせはどうする?」

「そ、それは自分でやるにゃ……いいのかにゃ?」

「いいって」

 だが、一方では別の黒いライトアーマーの前でニャメナが唸っている。


「そちらは、魔法防御が織り込まれた逸品でして、金貨3枚となっております」

「金貨3枚って、俺の半年分の稼ぎ……」

「よし、これをくれ」

 あっさりと決断を下した俺に、ニャメナが口をパクパクさせている。


「ちょ、ちょっと……旦那」

「ん? 要らないのか?」

「いや、欲しいんだけど……」

「こちらも合わせは自分でやる」

「承知いたしました」

 店員に金貨5枚を支払って、アーマーをアイテムBOXへ入れる。


「ほう! アイテムBOXですか?」

「ああ」

「旦那、大事にするぜ……」「にゃー!」

「道具なんて使ってなんぼだ。でも物が良いから、直しながらでも一生使えるかもな」

「当店でも自信を持ってオススメ出来ます」

 金払いがいいところを見せて、本題に移る。


「店の外に飾ってある馬鹿でかい剣は、ちゃんと鍛えてあるのかい?」

「はい、勿論もちろんですよ。ここの親方が丹精込めた逸品です」

「幾らだ?」

「はい?」

 店員は何か信じられない事を聞いたような顔をしている。


「だから、あの剣の値段だよ」

「え~あの~?」

「売り物じゃないのか?」

「し、少々お待ちを――親方ぁ~!」

 店員は奥へ走っていってしまった。


「ええ? 旦那、マジで買うのかい?」「にゃ?」

「ああ、あれは俺でも絶対に作れないからな。金を払う価値がある」

 元世界でも、作れるかな? 動画サイトで巨大な剣を作る映像を見た事あったから、作れるのかもしれない。

 だが元世界では、分厚い鋼板やらが普通に売っているから作れるのであって、巨大な剣を一から鍛造となると簡単にはいかないだろう。


 そして奥から背の低い男がやって来た。鋭い眼光と長い髭、浅黒い肌、そしてミャレー達のウエストぐらいある極太な腕。

 髪の毛は黒だな――だが、光の加減で青っぽくも見える。


「あんたか? 物好きってのは?」

「ああ、外のあれは売り物なんだろ?」

「その前に買ってどうする?」

 男は鋭い眼光を飛ばして俺をジロリと見た。


「俺の召喚獣に持たせて使う」

「ああ? 召喚獣だと?」

 ドワーフは長い髭をでているが――信用していない顔だ。


「ちょっと広めの場所はないか? 見せてやる」

「あんた魔導師か?」

「まぁな」

 男が奥の扉を開けると、それについていく。すると横の空き地に出た。

 どうやら、材料や燃料の木炭などの集積場みたいだな。だが、コ○ツさんを出すスペースはなんとかなりそう。


「よし! 我が呼びかけに深淵より現れよ! コ○ツさん召喚!」

 俺の言葉に導かれて、空中から巨大な黄色い重機が現れて、地面を揺らした。


「な、なんじゃこりゃ!!」

「だから、俺の召喚獣だよ。今、動かしてやる」

 運転席に乗り込むと、エンジン始動。車体をスイングさせて、長い鋼鉄の腕を振り回した。


「こいつは、おったまげたぜ。鋼鉄の魔獣とは……」

 エンジンを止めて、ドワーフに説明をする。


「この召喚獣に、あの巨大な剣を持たせて、魔物を退治しようかと思ってな」

「た、確かに、こいつならあの剣を振れるだろうよ。それに、あいつの刃先はアダマンタイトだ、竜の鱗だって切れる」

 ファンタジー物質、アダマンタイトキター! 刃先に割り込みしてあった黒い物質はアダマンタイトか。


「ドラゴンって、レッサーとかじゃなくて、本物か?」

「ああ、自信があるぜ」

 騒ぎに、鍛冶場にいた他のドワーフ達もやってきた。


「見物人が多いんで、俺が仕留めた獲物も見せてやろう」

 アイテムBOXから、レッサードラゴンとワイバーンを取り出した。


「「「おおお~っ!」」」

「レッサーか?」「こっちはワイバーンか?!」「すげぇ……」

「血抜きをして少し食っちまったがな、ははは」

「あんたがやったのか?」

「ああ、そこの獣人達と、その小さい大魔導師様と一緒にな」

 ドワーフ達の視線がアネモネに集中する。


「こんな小さな子供が大魔導師?」

「ああ、爆裂魔法エクスプロージョンも、憤怒の炎(ファイヤーボール)も使えるし、巨大なゴーレムも動かせる」

「……」

「これで、売ってもらえるか?」

 ドワーフ達が顔を見合わせている。


「……ちょっと、中で話そうや」

 彼等の顔を見ると、あまり嬉しくない様子。何か事情があるようだ。

 店の中に戻ると、カウンター越しにドワーフの親方と話す。


「値段は金貨300枚(6000万円)だ」

「大丈夫だ。手持ちはあるから今にでも払える」

「「「おおっ」」」

 だが、ドワーフ達の表情は冴えない。


「何か事情があるのか?」

「ああ、あいつを渡すなら、ちょいと仕上げをしたい」

「それなら少々待つが……」

「いや、仕事で注文打ちがまとめて入っていてな、材料(鋼材)が足りねぇんだ……それで、同業者に頭を下げるぐらいなら、あいつを潰して材料にしようかと話し合っていたところなんだよ」

 なるほど、ドワーフ達の冴えない表情はその心配をしていたせいか。


「勿体ない」

「俺も腕試しに作ったんで、愛着はあるんだが……背に腹は代えられねぇ」

「それじゃ、鉄の材料があればいいんだな?」

「まぁな」

 鉄か――シャングリ・ラにナイフ鋼材は売っているが……。ちょっとオーバーテクノロジーだし、値段が高い。

 ――といいつつ、男爵様には渡してしまったが。

 H鋼とか鉄道のレールがいいんだけどなぁ。とりあえず、シャングリ・ラで検索しても見つからず。

 後、巨大な鉄の塊とか鋼板っていったら何があるかな……。


「あの森猫も、あんたの眷属かい?」

「ああ……」

 そうだ! 重機の排土板ドーザーブレードはどうだ? あれは鋼鉄だろ?

 何も新品を買う必要はない。鋼材として使うなら、錆びてボロボロの中古でいいんだ。

 早速、シャングリ・ラで検索を掛ける――あった。2m×0.8m程の中古の排土板ドーザーブレード

 サビサビで塗装も剥げてボロボロだが、火にくべて打ち直すのだから関係ない――値段は10万円だ。


「親方、俺のアイテムBOXに材料に使えそうな物が入っている。見てみるかい?」

「なんだって?!」

 親方と他のドワーフも引き連れて、再び空き地へ。そこへ、シャングリ・ラから買った排土板を出した。


「「「おおお~っ!」」」

「これが使えないか? 材料は鋼鉄だと思うんだが……」

 ドワーフ達が、排土板をゴンゴンと金槌で叩いている。


「こりゃ、確かに鋼鉄だ」

「使えそうか?」

「そりゃ使えるが――こんな物をいったいどうやって作ったんだ? こんな物を作れる職人を抱えているなら、そいつにデカい剣を作らせればいいじゃねぇか」

「生憎、人間の鍛冶は、ドワーフ程長生きじゃなくてな」

「……そ、そりゃそうだな……」

「それに、アダマンタイトなんて、加工出来なかったし」

「それについては、俺も自信がある。あいつを加工出来るのは、ここら辺じゃ俺だけだ」

 シャングリ・ラにもアダマンタイトなんて売ってないからな。

 それに、ファンタジー物質をシャングリ・ラの買い取りに入れたらどうなるんだろう? 興味は尽きない。


 だが部下のドワーフ達は異議があるようだ。


「しかし親方、こんなデカブツを放り込める炉はありませんぜ?」

「あの剣は、どうやって作ったんだ?」

 俺の疑問に親方が答えた。

 

「ありゃ、専用の炉をこさえたんだよ。若気の至りだったなぁ――あんなすげぇもんを作れるって自惚れてた」

「いや十分に凄いと思うが」

「しかし世の中には、こんなすげぇもんを作れる奴がいるって解っただけでも、感謝するぜ」

 このドワーフ達は重機を見て、どう思ったのだろうか? 石のゴーレムが動く世界なら、鉄の生き物がいてもおかしくない――そんな感じだろうか?


 それはさておき――排土板は、このままじゃ使えないか……。

 さて、どうするか?

 

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