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106話 湖で露天風呂


 俺達は国境の街、ソバナへ向かう途中だ。

 だが、アイテムBOXに入っている魔物の血抜きをしたい。せっかく美味しい肉なのに、ダメにしてしまっては、あまりに勿体ない。

 これだけあれば、数年は食える肉の量だ。

 腸の一部もカットして保存したので、食べてみようかと思う。


 珍しいレッサードラゴンの肉――とはいえ、やっている事はいつもと同じだ。

 内臓を抜いて冷やして吊るして血を抜く。ただ、獲物は巨大なので、重機を使って吊り上げて血を抜いている。

 流れ出る血の量も凄く、滝のように流れ出る。


 なんとか大物のレッサードラゴンを処置出来たので、次に移る――ワイバーンだ。

 こちらは、レッサーよりは小さいので、時間は掛からないだろう。

 寸法的には同じぐらいでも、ワイバーンは殆どが翼。処理しやすくするために、翼が付いている腕を切断した。

 大きな翼を持っているが、鳥というよりは巨大なコウモリのよう……。


 再びブルーシートを敷いた穴に、魔物の臓物を流し込む。


「うにゃー!」

 そのはらわたの中をミャレーが歩きまわって、高価な香になるという石を探している。

 内臓が全部出たので、コ○ツさんを使ってワイバーンを吊り上げて血を抜く。

 再び、下にプラケースを置いて血を集める。心臓と胆嚢もだ。


「お~い、あったか?」

「うぉぉぉ! どこだぁ!」

「クンカクンカ、なんか臭いがするような気がするにゃ」

「ああ、何か臓物とは違う臭いがするぜ」

 獣人達はそんな事を言っているのだが、臭すぎて鼻が馬鹿になって、なんだかよく解らん。

 こいつも尻尾が長いので、高所作業車で尻尾を吊り上げた。


 臓物と格闘する事10分程――ミャレーが大声を上げた。


「あったにゃ! 多分、これだにゃ!」

「くさっ! ここまで臭ってくるぜ!」

「多分、この臭いのが高いにゃ、知らないけどにゃ」

 ミャレーが掲げているのは、野球のボールぐらいの大きさの玉。玉といっても、凸凹していて丸ではない。


「おおっ! やったな。 それでどうするんだ? 2人で山分けか?」

 だが、俺の言葉に2人はキョトンとしている。


「何言ってるにゃ? ケンイチが倒したんだから、ケンイチに権利があるにゃ」

「そうだよ、旦那」

 2人は呆れているのだが、どうすりゃいいんだ?


「ええ? そうなのか? それじゃ――アネモネはどうする?」

 アネモネは鼻を摘んで、首を横に振っている。


「そんな臭いの要らない」

「それじゃ、3等分か?」

「俺達なんて何もやってないのに、そんなにもらえねぇよ」

「ええ? え~、それじゃ俺が半分もらって、2人は残ったのを半分ずつにしろ」

 王女に聞くと、最低でも金貨500枚(1億円)以上すると言う。


「さすがに、その値段だと妾も小遣いで払うのを躊躇するの。それに競りに掛ければもっと上がるぞ?」

「それじゃ、俺が金貨250枚で、ミャレーとニャメナが金貨125枚ずつだ」

「……え~と」「にゃ?」

 獣人が頭を傾けている。彼等は1桁の計算がやっとだ、10枚以上になると、『1山いくら』状態になる。


「ミャレーがシャガ戦で貰った報奨金と同じぐらいの金額か、もっと沢山もらえるって事」

「ええ~っ そうなのか? かなり大金だって聞いたぞ!?」「やったにゃ! 多分、ウチは獣人で一番金持ちにゃ!」

「そうかもしれないな、はは」

 だが獣人を見ていた王女が、不思議そうな顔をしている。


「どうしました?」

「ん? なに――大金を使う獣人ってのがピンとこなくてのう」

「そんな事ないにゃ! シャガの金をもらった男共は、酒と女にバラ撒いてあっという間になくなったと思うにゃ」

「そうなんだよ、お姫様。俺たちゃ美味いものを食って酒飲むために稼いでるのに、旦那の所にいると全部それが叶っちまう」

「そうにゃ、ウチ等ケンイチの所へ来てから、殆ど金を使わないにゃ」

 まぁ、そうだな。娯楽があるわけじゃなし、高価な高級車があるでなし。

 獣人に宝飾は似合わないだろうし。屋敷を買っても、獣人は定住しない事も多いようだし。


「貴族みたいに宝飾をまとって、ぶくぶくと太ってみたらどうなんだ?」

「ぎゃー! そんなの獣人じゃないにゃ!」「そうだよ、旦那! そんなのありえないって」

 彼女達によると、太った獣人は獣人じゃないと言う。実際、太った獣人は見た事がない。

 たまに横に太い奴はいるけど、そういう体型で太っているわけじゃないからな。


 話はそのぐらいにして、ワイバーンの臓物もアイテムBOXへ収納してからゴミ箱へ。

 だが、レッサードラゴンと同じように、内臓の一部は保存した。

 そしてレッサーと同じように黒く光る魔石を回収。これ等も高く売れるようだが、後回しだな。

 討伐した証として、コレクションしてもいいだろう。

 

 作業が終わったので、白い防護服を脱いでこいつもゴミ箱へ。

 しかし、汗だくになってしまったので、湖に飛び込んで身体をジャバジャバと洗う。

 水がいくらでもあるので、使いたい放題だ。やっぱり住処の近くには水があったほうがいい。


「ケンイチ、温かい風が起こる魔道具出してにゃー」

「よっしゃ、任せろ」

 水辺にテーブルを出して、ジェットヒーターを設置した。

 ここならいくらセクシーダンスを踊っても平気だ。


「お前等、頭だけ出してたんで、臭いがついたんじゃないか?」

「石鹸で洗ったから多分、大丈夫にゃ」

「そうかな? 毛に染み込んだ臭いって中々取れないからな」

「だから、身体は旦那の白い服を着たんだけどな――クンカクンカ」

 獣人達が自分の身体の臭いを嗅いでいる。


 巨大な魔物の血が抜ける頃には辺りは暗くなり始めた。作業の終わりを確認したプリムラが、恐る恐る家から出てきた。

 収納する前に魔物の肉を触っても冷たいままだ。これだけ大きいと温まるのにも時間がかかるらしい。

 冷えるのも温まるのも、普通はゆっくりと外側から温度変化していくが、魔法だと内部まで均一に温度が変わる。



「さて、ちゃんと処理したワイバーンの肉を食ってみるか?」

 俺は肉を調理するが――その間、アネモネとプリムラには食事の準備とパンを焼いてもらう。

 せっかくの良い肉だ、ミディアム~ミディアムレアといきたいところだが、野生の肉はしっかりと火を通さないと危ない。

 病気や寄生虫、何がいるか解らんからな。


「う~ん、要は60度ぐらいまで温度を上げられればいいんだ」

 何かで、低温調理器なる物を見た記憶が蘇ったので、シャングリ・ラで検索してみた。

 あった――電気式でサーモスタットがついており、自動で設定した温度で低温調理出来る代物――8000円だ。


「なになに――真空パックの機械がいるのか」

 肉を真空パックに入れてから、お湯で温めるらしい。

 王女がいるし、大食らいが多いから大量に肉がいるな……一番大型の真空パック機を買って、分厚く切った肉を透明な袋に詰め込んでいく。


「透明な箱に透明な袋かぇ――それは全部、其方が錬金術で創りだした物かぇ?」

「そうですが……お教え出来ませんよ?」

「解っておる!」

 教えたくても、プラスティックやビニルなんかの作り方は解らんしな。

 

 そして真空パック――みるみる、袋の中の空気が抜けていく。その様子を王女が興味深そうに眺めている。


「ほう? それは何をする魔道具なのじゃ?」

「袋の中の空気を抜いているんですよ」

「何? 空気を? 何故、そのような事を……」

「肉の旨味を逃さないためです」

 そしてプラケースに水を入れて、アネモネに魔法で温めてもらう。


「アネモネ、風呂より熱いぐらいの温度にしてくれ」

「解った」

「姫様、いったいどんな料理になるのでしょう?」

「解らぬ……」

 メイドさん達も、俺の調理風景を不思議そうに眺めている。

 しかし肉が大量で水も多い。電気式の低温調理器1つだけではどう見てもパワー不足。2個購入した。

 アイテムBOXから発電機を出すと、調理器をセット。

 これでもパワー不足のようなら、アネモネの魔法で手伝ってもらおう。


 ――そして、おしゃべりをしながら1時間後。

 皆、腹が減っているのに、じっと待っててくれた。

 これで不味かったら、どうしようと思うのだが――まぁ、その時は謝るしかない。

 とりあえず、ちょっと切って口へ放る。ほとばしる濃厚な肉汁と、鼻に抜ける香り。

 何の獣臭さもない。これは間違いなく美味い! 脂身が全くないので、ローストビーフっぽいが、食べた事がない味だ。

 こうなると――レッサードラゴンの味にも期待しちゃうな。


 皿にワイバーンのステーキを載せて、シャングリ・ラで買ったソースを掛ける。

 獣人達には、にんにくソースがいいだろう。

 そして、ステーキを食うためには、ナイフがいる。

 この世界でも、分厚い肉を食うときには細長いステーキナイフと似たような物を使う。

 フォークはないので、そのままナイフで刺して食う。

 獣人達にもステーキナイフを渡そうとしたら、自前のナイフで豪快に切って口へ運ぼうとして、停止した。

 肉の切り口をしげしげと眺めている。


「……旦那? これって生じゃ?」「生っぽいにゃ」

「大丈夫、火は通ってるよ。肉に火が通るって事は、火傷と同じだ。ちょっと熱い風呂に手を突っ込んだら沸騰してなくても火傷するだろ?」

「そう言われればそうだけどよ……」「ケンイチが言うなら食べてみるにゃ」

 獣人達は肉を沢山食うから、この肉の美味さを解ってくれるはずだ。


「ぱく…………なんじゃこりゃ! これって本当に肉か?」

「にゃー! こんな肉、食べた事ないにゃ!」

「ソースも臭ぇ! けど、このくせぇ香辛料は食欲をそそるぜ!」

 そう――にんにくの臭いって食欲をそそるよな。臭いのに何故なのか?


「うおお! ナイフが止まらねぇ!」

「にゃー! こんなの食べたら、他の肉が食えなくなるにゃ!」

「そして、赤ワインで流し込むと――かぁ~! たまんねぇ!」

「うにゃー! またケンイチから離れられなくなるにゃ」

「なんだ、クロ助。旦那から離れる機会を窺っているなら、俺に全部任せて行っていいぞ?」

「そうはいくかにゃ!」

 獣人達の様子を見ていた王女も、肉に挑戦してみるようだ。王女のソースは果物をふんだんに使った物。

 ナイフで肉を大きく切ると、自分の口へ運んだ。


「むぐ……ふおっ! なんじゃこれは! これが肉だと言うのか? いや、これが純粋な肉の味だとすれば、妾達が食べていた物は……」

「これは、本当に美味しいですわ。街で食べているような普通の肉ではないとはいえ、峠で食べた物とはまったく別物……肉の処理の仕方でこんなに違うなんて」

「ふぁぁぁ……口の中が幸せで一杯……」

 アネモネとプリムラにも好評のようだ。

 周囲のパトロールから戻ってきたベルには、皆が食べているのと同じ肉と、猫缶をあげている。


「低温で調理するので、時間はかかるのですがね」

「なるほどのう……肉を調理するのには、沸騰したお湯や火――そんな固定観念がひっくり返ったわ。肉の調理が火傷と同じであれば、熱めの風呂の温度でも火傷するのう」

「少々難しいですが、お城でも再現は出来ると思いますよ」

「うむ、これで城の料理がまた美味くなるの!」

 凄い勢いで肉を平らげている王女の後ろで、メイドさん達がそわそわしている。

 おそらく食べてみたいのだろう。

 肉を切って、小さなフォークと一緒に皿に盛ってあげる。


「マイレンさんも食べてみませんか?」

「ええ……?」

「よいぞ、マイレン。其方も、この驚愕の料理を食してみるがよい」

「はい」

 肉を食べたマイレンさんが、赤い顔をして固まっている。


「どうしました? 喉につまりましたか?」

 俺がワインを差し出したのだが、ちょっと違うようだ。


「こ、このような料理を食べてしまったのでは、日頃の食事が辛くなります……」

「はは、旦那の料理を食べた連中は、皆同じ事を言うんだよなぁ」

「ウチ等なんて、外で食事出来ない身体になってしまったにゃ」

「街の酒なんて、不味くて飲めねぇ」

 そんな事を言って、ニャメナがカップのワインを飲み干した。


「ほら、お代わりか?」

 ニャメナのカップにワインを注いでやる。


「かぁ~! 至れり尽くせり」

「なるほどのう。これでは、外で金を使う事もなくなるわけじゃ!」

「そうなんだよ、お姫様。金をだして外で不味い物を食べる必要なんてないからな――あはは」

 飯を食いながら王女と、この地方についての話をする。


「リリス様、この湖は川に繋がっているようですが、このまま街道沿いにソバナへ向かっているのですか?」

「む? む~、確かそうだったと思うが……」

 なるほど、それじゃ切り出した木をイカダにしてソバナに運んでいるんだな。

 川ってのは、重要な交通機関のような気がするのだが、カダン王国では利用されている節がない。

「王都の近くにも川が流れていますが、水運には余り使われていませんよね?」

「その通りじゃな。せいぜい城下町近辺で物を運んだりするぐらいにしか使われておらん」

「下流に荷を運ぶための水路として使われないのにはわけがあるのでしょうか?」

「アニス川の広さは十分なのだが、森の深淵を通っているのじゃ」

「それじゃ、川を使うと魔物に襲われる可能性が高いと……」

「その通りじゃ」

 俺達のいたアスチルベ湖という大きな湖の――山を挟んで反対側をアニス川という大河が流れているらしい。

 平地で蛇行を繰り返し、三日月湖や湿地帯が広がりスライムだらけだという。


「それでは、川のそばは誰も住んでいないのですか」

「そうじゃな、いるのはエルフぐらいか。それにエルフでも、湿地帯には住まぬからの」

 湿地帯か――それじゃ街は作れないな。重機を使って森を切り開き、湿地帯を埋めればいいのかもしれないが。


「物好きのケンイチは大湿地へ行きたいとか言うかもしれないけど、絶対にダメだにゃ」

「そうそう、デカいスライムの巣だぜ」

 スライムなんて可愛い物――ではないらしい。小屋ぐらいの大きさがあると言う。

 獣人曰く――沢山いる。獣人の言う沢山は、100とか1000の単位だろう。

 魔法で1つ2つ始末しても、数で押されるわけだ。確かにそれは無理だ。

 それに水の中にいると、同化して見分けが付かないらしい。それは怖い。

 RPGだと雑魚のイメージがあるのだが、全然雑魚ではないようだ。


 楽しい食事が済んだので、後片付けは皆にまかせて――俺は血抜きしていた魔物を収納する。

 重機から降ろして、小さくコンパクトにまとめる。内臓と血がなくなったので、腹に大穴が開き大分軽くなった気がする。

 

「よっしゃ、収納×2」

 当然、綺麗に収まる。


「これで、しばらく美味い肉に困らないにゃー」

「お嬢、ドラゴンの肉は売らないでくれよ」

「とても美味しいので、売り物のスープに入れるのは勿体ないですね。単体で売った方が高いと思いますけど……」

「俺も――これは売りたくないな。色々と料理をして自分で食べたい。多分、何年も美味い肉にありつけるぞ」

「私も、それがいいと思う」

 アネモネも売るのには反対のようだ。


「やったにゃ!」

「ひゃっほう! いくら食っても大丈夫だな。それに旦那の事だ、そのうち違うドラゴンも仕留めるぜ」

「ありえるにゃ! レッドドラゴン辺りを頼むにゃ!」

 無茶言うなよ。

 

「食いきれないぐらい大量にあったら、そりゃ売ってもいいけどな」

「ああ、ドラゴンを売ることが出来るなんて……」

「プリムラ、レッサーとワイバーンの心臓と胆嚢は売ってもいいんだぞ」

「うふふ……商人冥利につきますわ」

 プリムラの目が据わっている――怖い。


 水が沢山あるので、皆で風呂に入る事にした。


「アネモネ、魔法は大丈夫か? 魔物の冷却で結構魔力を消費したと思うが……」

「お湯を沸かすぐらい大丈夫だよ」

「旦那! 俺達の風呂は、ここに穴を掘ってくれ!」

「ああ、穴に溜まった水を使って風呂にするのか」

「そういう事だにゃ」

 どうだろう? すぐに冷えるのではないだろうか? まぁ面白そうだから、とりあえずやってみるか。

 上手くいけば、俺達がいた湖の湖畔でも同じ事が出来るかもしれない。


「しかし、溜まる水は泥水だぞ?」

「そのぐらい心配ないにゃ」「虫にたかられた時には、泥の中に飛び込んだりするし」

 話を聞いた王女が、露天風呂に興味を示しているのだが――まさか、年頃の王族が外で裸になるわけにはいくまい。

 マイレンさんにもたしなめられて、すごすごと俺が用意した小屋の風呂に入るようだ。


 アイテムBOXからユ○ボを出して、5人で入る穴を掘る。

 こういう露天風呂は石を加熱して入れたりするんだが、ここには魔法が使えるアネモネがいる。


「む~! 温め(ウォーム)!」

 すぐに水が温かくなってくる。まるで温泉だ。


「ひゃっほう!」「にゃー!」

 素っ裸になって、獣人達が湯気が出ている露天風呂へ飛び込んだ。

 普通の風呂ではこんな事は出来ない。俺も風呂に飛び込んだ。


「こりゃいいな。滝の所へ帰ったら大きい風呂でも作ってみるか」

「こんな感じで、湖の近くに作るにゃ?」

「いや、滝の上がいいんじゃね? 川から水を引けばいいし、眺めも最高だと思うぞ」

「それは、すばらしそうですわ」

 プリムラも裸になって湯船に浸かった。


「あ~あ、プリムラもすっかり人前で裸になるのも平気になってしまって……」

「ケンイチに染められてしまったのですわ。口に出せないような恥ずかしい事も一杯させられましたし……」

「旦那! 俺にもしてくれよ!」

「何言ってんだ、さんざんやったじゃねぇか」

「え? だって記憶にねぇし……」

「ぎゃー! ウチとも、それをやるにゃ!」

「むー! 私とも!」

 アネモネが裸のまま俺に抱きついてきた。


「ふぁぁぁぁ!」

「こら、抱きつくんじゃないっての! 腹が減るんだから」

「俺も俺も!」「ウチもにゃー!」

 皆に一斉に突進されたので、お湯の中に沈んでしまった。


「ぶはっ! 鼻にお湯が入った!」

「ふぁぁぁ!」「にゃぁぁぁ!」

 俺に抱きついた女達が、喘ぎ声を上げている。


「こら、離れろっての!」

 無理やり皆を引き離す。


「もう、飯食ったばかりなのに、腹が減っただろ」

 アイテムBOXからバナナと、シャングリ・ラからエナジーバーを買う。


「本当に腹が減るにゃ?」

「本当だよ――むしゃむしゃ……」

 カロリーめちゃくちゃ消費するって事だから、ダイエットにいいかもしれないが。

 低血糖やらで、ぶっ倒れたら厄介だ。ブドウ糖の錠剤とかも買っておいた方がいいかもしれない。

 風呂から上がると、湖で水を被って泥を落とす。皆で素っ裸でバシャバシャやっても、周りには誰もいない。

 元世界じゃ、こんな事考えられないよな。そして、ジェットヒーターを使って皆で乾燥だ。

 小屋から白いバスローブを着た王女も出てきて、髪の毛を乾かしている。


「妾も外で入浴してみたかったの……」

「ダメですよ姫様。この状態でも、かなりまずいんですから!」

 やっぱり、色々とまずいだろう。だが、こんな場所で王女が風呂に入っているなんて、誰も思わんだろうな。


 俺は髪の毛が短いからあっという間に乾いたので、寝るための準備をする。

 俺達の寝床にするための大型テントをアイテムBOXから出した。このテントは中々使えるな。

 今日はプリムラも俺達と一緒にテントで寝るようだ。


「皆、一緒に寝るけど、俺に抱きつくなよ。腹が減って途中で起きちゃうからな」

「「「「…………」」」」

「ほら、返事は?」

 皆、解ったような、解ってないような生返事をしている。


「よし、妾に良い考えがあるぞ。ケンイチは妾と一緒に家で寝るがよい」

「そんなのダメ!」

「アネモネが言う前に――年頃の王族と同衾どうきん出来るはずないでしょ」

「ぐぬぬ……」


 ちょっと勘弁してほしい。


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