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105話 レッサードラゴン解体指令


 峠の頂上にあった宿場町に一泊して、俺達は国境の街ソバナへ向けて出発した。

 皆を乗せたハ○エースで峠を下る。メリッサが抜けたので、乗員は1人少なくなった。

 ずっと下り坂だ。蛇のようにうねる道をひたすら下る。エンジンブレーキを使っているので、ずっと3速。

 ブラインドコーナーは特に注意をする。いつ突っ込まれるか解らないからだ。

 この世界は左側通行なので、俺達がいる方が崖側で、当てられると不利。

 伊達に地獄街道とか呼ばれていない。だが王都への帰りも、この道をどうしても通らなければならない。

 考えるだけで不安で一杯になる。


 途中で上りの馬車とすれ違い、遅い馬車をなるべく見通しの良い所で追い抜く。一歩間違えば谷底だ。

 時速30~40km程で、ゆっくりと下っていく。だが、これでも馬車に比べればかなり速い。


 だが途中で馬車の列が見えてきた。上りと下りで車列が出来ている――どうやら事故らしい。


「リリス様、事故のようですよ」

「うむ」

 こんな所で、もたもたしていられない。峠の途中で1泊はしたくないからな。

 だが馬車の連中は、峠の途中で止まって何泊もしながら難所を乗り越えるという。

 ドアを開けて、様子を見に行く。暇なミャレーとニャメナが一緒に降りてきた。


 馬車の列を通り越して、事故現場へ向かう。

 どうやら、コーナーで曲がりきれず馬車同士が衝突したらしい。車輪が大きく破損している。

 絡み合った2台の馬車が街道を塞いでいるのだ。

 商人達が集まって馬車を動かそうとしているのだが、うまくいかない様子。


「お~い! 俺に任せてくれ」

「なんだ? あんた?」

「先を急いでいるんだよ。この馬車をどければいいんだろ?」

「急いでいるのは俺達も一緒――」

 説明するのも面倒なのだが――。


「この馬車に生き物は積んでいないよな?」

「はい」

 俺は馬車の1台をアイテムBOXへ入れた。


「「「おおおっ!?」」」

 そして、少し離れた場所に再び出した。


「「「おおお~っ!?」」」

「アイテムBOX持ちか? しかも、かなりの大容量だぞ」

「まぁ悪いが、俺がどけたんだから、最初に通らせてもらうよ」

 車に戻ると、ゆっくりと発進させて、馬車の間を縫って走る。


「なっ、何だ?!」「馬なしで動いておるぞ!?」「魔法か?!」

「悪いね、お先~!」

 開けた窓から、驚く商人の列に手を振りながら、事故現場をパス。

 再び峠を下り始めた。


 それなりに馬車は多いな。開通したと同時に、獣人の伝令が麓の宿場町に向かっているから、情報は伝わっているのだろう。


「其方のアイテムBOXは便利じゃのう。軍の資材も運べるのではないのか?」

「まさか、そんなに多くの物は入りませんよ。大型の魔物が2頭も入っているので、いっぱいです」

 実際、どのぐらい入るのかは、本人でも解ってないからな。

 そう言っておかないと、行軍に駆り出されてしまう――といっても、今の段階でも可能性は十分だが。


「それがあれば、どんな商売でも出来そうじゃの」

「金を稼ぐつもりなら、いくらでも稼げます故、王侯貴族様の後ろ盾もあまり興味がないのですよ」

「むむ……」

「しかし、商売が成功してくると、やっかみのいやがらせ等が酷くなりますから。今回、陛下からいただいた、天下御免の書状が、さぞかし役に立ってくれると期待しています」

「其方は変わっているのう。普通は貴族や家名をもらえる日を夢見て必死になるものじゃが」

「その通りです!」

 いきなり、座席の間を通り後ろから顔が出てきた――プリムラだ。俺達の話を聞いていたのだろう。


「私の父も、家名を頂いて大店になるのが夢だと、常日頃から言っていたのに、ケンイチのお陰でそれが叶いました」

「それは、マロウさん――いや、お義父さんが優秀だからで……」

「いいえ、家名を頂いた父は大層感激して、ケンイチに何があっても、マロウ商会を投げ打ってでも支えてみせると……」

「そりゃ大変ありがたいし、名誉な事であるけど。マロウ商会で働いている人もいるし、その家族もいる。そんな事は頼めないよ」

「いいえ! 頼んでください!」

 プリムラの真剣な眼差しと勢いに押される。


「ああ、解った解った」

「それにのう、ケンイチ。このまま王都へ其方が戻れば英雄扱いじゃ。爵位は間違いない」

「え~? そんな面倒そうなの要らないんですけど……それって断れないんですか?」

「こ、断るだと?! 其方、今までの話を聞いておったか?!」

「聞いてましたけど……王都の王侯貴族に対する心証が最悪なんですけど」

「其方の気持ちも解るが……」

 授爵がどれだけ名誉な事かと、王女に延々と語られるのだが――正直、全く興味がない。


「う~ん、プリムラ的にはどうなんだ? やっぱり、俺に授爵してほしいのか?」

「そ、それは……ケンイチにお任せいたしますけど……やっぱり、貴族の身内となれば、その……商売的にもあの……ケンイチを利用したくないとは言いましたけど、あの……私は最低な女です。罵ってくれても構いません……」

「そんな事ないけどな――解った解った。考えておくよ」

「本当ですか?」

「ああ」

「ケンイチ!」

 プリムラが後ろから抱きついてきた。こんなに喜ぶとは思わなかったが、地方なら貴族の権力は絶対。

 彼女の気持ちもなんとなく理解出来る――遠くの王族より近くの貴族ってな。

 それ故、彼女にもノースポール男爵との縁談の話が来ていたのだ。


「待て待て、危ない危ない! 崖に落ちたらどうする!」

「ふぁぁぁ……」

 俺に抱きついているプリムラが恍惚の表情を浮かべている。


「こら、プリムラ離れなさい」

「プリムラ、近い! それなら、私も抱きつく!」

 そんな事を言いながらアネモネもやって来た。


「こら! お前等ダメだっての! 危ないから!」

 崖に落ちたらどうする! だが、話を聞いていた王女が神妙な顔をしている。


「プリムラ、其方それでいいのかぇ?」

「リリス様、どういう事でしょうか?」

 王女の話では――1代貴族や男爵なら商人の娘の正室もありえるだろうが、俺の成した偉業とやらからすれば、もっと上の爵位を授爵される可能性が高いと言う。

 それぐらいの爵位になると――正室に平民の女が収まる事はまずないらしい。


「それでは貴族の女を押し付けられる可能性が高いと?」

「うむ、それに其方は聖騎士となった。相手が王族となる可能性も十分にある」

「ええ~っ? あの王妃様と親戚になるのは勘弁していただきたいですねぇ。それに、私に嫁いでよしとする王族の方がいらっしゃるので?」

「……た、例えば、妾とか……」

「ええ~? それは冗談ではなかったのですか?」

「なんじゃそれは! 嫌なのかぇ?!」

「嫌って事はありませんが、話が飛躍し過ぎでは。それに、お相手が決まっているとのお話が……」

「あくまで、婚約者候補じゃ!」

 王女は、聖騎士となった事の重大性を説いてくるのだが……。


「どうするプリムラ? 俺が貴族になったら、やっぱり色々と面倒な事になりそうだぞ? 君はそれでもいいのか?」

「あううう……そ、それでも……マロウ商会金儲けの秘訣――金儲けの為には自分の魂に嘘をつく事も必要……」

 それはまた随分と過酷な秘訣だな。『金は命より重い……!』そんな台詞が何かであったが――プリムラは真剣に悩んでいる。

 正室じゃなくても、高位貴族の側室に収まれば、商家として多大なメリットがあるという事だろう。

 地方商人なら誰もが夢見る王都への進出にも弾みがつく。商人としての本能に抗えないって事か。


「其方の妻の意志に関わらず、貴族共が自分の娘を連れて押し寄せてくるぞ?」

「陛下からいただいた、天下御免の書状があるじゃないですか」

「無論、使えるとは思うが、善意でやって来た貴族も追い返すと、彼等共の心証が悪くなるぞぇ?」

「貴族の心証なんて、いくら悪くなっても構いませんが……」

「そこでじゃ! 妾が相手に決まっておれば、貴族共は一切手出しが出来ん! ――というわけじゃ!」

 自分の計画に自信満々な王女なのだが、そんなに上手くいくかよ――って思うが。


「大体、そんな事を陛下や王妃様がお認めになるはずがないでしょう」

「故に! その時は王族を捨てると申しておる!」

「ちょっと落ち着いて考えましょう、リリス様。何が悲しゅうて、こんな平民のオッサンに嫁ぐ必要があるんです」

「其方は救国の英雄なのだぞ?!」

 王女も俺に抱きついてきた。


「ふわぁぁぁ! なんじゃこれは! 確かにこれは堕ちる! 今すぐ股を開いてしまいそうじゃ!」

 何を言い出すんだ、このお姫様は。


「ちょっとちょっと危ない!」

 慌てて、ブレーキを踏んで停止する。


「リリス、ケンイチに近すぎ!」

「何をいうアネモネ。妾とケンイチは『聖なる契』を結んだのじゃぞ?」

 いつの間にかアネモネと王女は名前で呼び合う仲になっていた。


「ちょっと、リリス様。どういう事ですか?」

「聖なる契を結んだ者同士は、来世でもまた巡りあうと言われておる!」

「なんですかそれ? 初めて聞きましたけど」

「当然、今初めて言ったからの」

「それじゃ私は、来世の来世でもケンイチと一緒になるもん」

「それなら妾は、来世の来世の来世じゃ!」

「「ぐぬぬ……」」

 小学生かよ。まぁ歳的には小学生と中学生なのだが……。


「はいはい……解りましたから出発しますよ。急がないと暗くなったら大変だ」

 再び車を出発させる。馬車で上り下りしている連中は暗くなったら進めないので、峠の途中でも何泊かするみたいだし。


「トラ公、聞いたかにゃ? ケンイチが貴族になるだってにゃ。ちょっと前言ってたけど冗談じゃ済まなくなってきたにゃ」

「これだけの事をやったんだ、旦那が貴族になってもおかしくねぇ。俺達も貴族の愛人になれるかもしれねぇ――ってこの前話してたろ?」

「そうにゃー、でも貴族なんかになったら、女なんてよりどりみどりにゃ。きっとウチ等なんかは、お払い箱にゃ」

「旦那に限って、そんな事はねぇ!」

「男なんてみんな同じだにゃ」

 後ろからそんな会話が、ハ○エースのエンジン音に混じって聞こえてきた。

 すると、一番後ろの席から、ニャメナが運転席の後ろまでやって来た。


「旦那ぁ! クロ助があんな事言うんだぜ! 違うよな?!」

「そんな事しないっての。なんでこんな美人で働き者の女を捨てなきゃいけないんだ。死ぬまで一緒にいてやるから心配するな」

「旦那ぁ!」

 ニャメナまで俺に抱きついてきた。


「ちょっと、危ないから止めろっての」

「クロ助! 旦那は違うって言ってるぞ?」

「ホントかにゃぁ~?」

 ミャレーは一歩引いて考える癖があるようだ。それを使って、いつもニャメナをからかっている。

 自分で理性的とか言っていたが、こういう事を言っているのかもしれない。


「ミャレー、もうお前はでてやらなくてもいいんだな?」

「おっ! 旦那! その分、俺をでてくれよ!」

 俺の言葉にニャメナが反応した。


「ああ、そうだな」

「ちょっと待つにゃ! にゃんでそうなるにゃ!?」

 慌てて、ミャレーも後ろの座席から飛んできた。


「だって、クロ助は旦那の事が信じられないんだろ? それじゃ俺が代わってやるよ」

「冗談じゃないにゃ!」

 俺の座席の後ろで、侃々諤々が始まってしまった。


「お前等、危ないからちゃんと座ってろっての」

 皆にぺたぺたと触られたので腹が減った。困った事に、人に触られても能力が発動してしまうので、腹が減るのだ。

 俺はアイテムBOXから、バナナを取り出した。だが飲み物も欲しいな……。

 ちょっと車を停止して、シャングリ・ラからトマトジュースを買った。


「リリス様も食べますか?」

「うむ!」

 つ~か、食うのかよ。一体どこに入っているんだ。後ろの乗客にも、リクエストを聞いて飲み物等を出してやる。

 プリムラは以前食べた、か○ぱえ○せんが食べたいようだ。


「妾にもその菓子をたもれ」

 王女にか○ぱえ○せんとトマトジュースを渡して、また車を発進させた。

 トマトジュースは大丈夫かな? 元世界でも嫌いな奴が結構いたんだが……。


「ほう! カリカリと香ばしい菓子じゃ! 塩辛い菓子とは珍しい。そしてこの飲み物は、また塩辛い果物の汁とは、また珍妙なり」

 意外と、か○ぱえび○んとトマトジュースを楽しんでいるようだ。本当に好き嫌いがないお姫様だな。

 アネモネにもトマトジュースを一口飲ませてみたのだが、ダメのようだ。凄い顔をして拒否されてしまった。

 他の皆は牛乳を飲んでいる。


「塩辛いお菓子なんて! でも、すごく美味しくて、後をひきます」「カリカリと変わった歯触りですね」

 後ろで食べているメイドさん達にも好評だ。


「丘を越え~行こうよ~っとくらぁ」

 その後はハンドルを巧みに操ると順調に進み、昼前には峠下の宿場町が見えてきた。

 そして、その向こうには見渡す限りの金色の畑――大穀倉地帯が広がる。


「へぇ~! これは凄い穀倉地帯だな! 一面金色だ」

「であろ! 『永遠(とわ)に揺れる黄金こがねを進み、御国の光輝かせ』――と歌に歌われるぐらいじゃ」

 そして俺達の前を走っている3台の馬車の列を追い越した。


「なんだか、見たことがあるような馬車だな……」

 追い越して横を見ると、獣人の女の3人組が乗っている。


「ほう、あ奴らにもう追いついたか。たった1日で峠を下りてしまうのじゃから、当然じゃのう」

「もっと道が良ければ、1日で上って下ることも可能ですよ」

「なんともはや……」

 俺達を見た獣人達が手を振って何やらわめいているのだが聞こえない。

 旅は道連れ世は情けって言うが、一緒には行けない。だが、あいつらの行き先もソバナだ。

 どこかで会うかもしれない。


「リリス様、旅は一緒にした方が楽しい――みたいな諺は王都にはありませんか?」

「ふむ――それに当てはまるかは解らぬが『一緒にいれば、楽しみも悲しみも分かち合える』というのがあるが……」

 へぇ、中々良い言葉だな。


「さて、もう少しだから注意しないとな。何があるか解らん。『森を抜けるまで、気を抜くな』ってな」

 ここら辺なら、『峠を下りきるまで気を抜くな』――だろうな。


「其方は慎重だの」

「私の故郷に、木登り名人がおりましてね。登る時は何も言いませんが、降りる寸前には声を掛けるんですよ」

「そうなのか? 何故じゃ?」

「降りる際、気を抜いた時の事故が多いそうで」

「なるほどのう」

 勿論もちろん、徒然草の高名の木登りから作った嘘話だ。


 車を走らせ峠下の宿場町を通り過ぎる。そろそろ昼飯の時間だが……。

 食料も持っているのに、宿場町のイマイチな食事を取るために寄る必要もない。


「さて、飯を食うのにいい場所はないかな……」

 そんな事を考えつつ、しばらく車を走らせると――。


「ケンイチ、木の間に湖が見えるにゃ!」「おおっ、結構デカい湖だぜ」

 獣人達の言う通りに右手を見ると――まばらな木の間から、キラキラと光る水面が見える。

 道がちょっと高い場所にあるので、見下ろす格好になっている。


「いいねぇ、向こうへの道はないかな?」

 湖への脇道を探すと発見したので、そちらへ車を向けた。


「そろそろ腹が減ったところだしの」

「それもありますが――アイテムBOXに入っている、魔物を処置したいのです」

「なるほど大量に水があればそれも可能か。何せ大物じゃからの」

 その通りで――人がいなくて広い場所が欲しい。湖の畔ならば、スペースは十分にあるだろう。

 脇道はちょっと悪路だが、一応このハ○エースは4WDである。ラ○クルのようにデフロックは出来ないが、オプションのLSD(リミテッド・スリップ・デフ )が入っている。

 かやのような長い草の間をくぐり抜けて湖へ到着した。車を降りて、辺りを見渡すと――2~3km離れた場所に漁村があるようだ。

 ベルは、一番に降りて、辺りのパトロールを始めた。久々の見回りだろう。獣人達も思いっきり、伸びをしている。

 アイテムBOXから双眼鏡を出して、周囲を確認する――問題なし。

 右手山側から川が流れ込んで、左手の村の辺りから下流へ流れ出ているようだ。

 双眼鏡で覗くと、イカダらしき物が見えるので、山から切り出した木を川を使って下流に運んでいるのかもしれない。


「マイレン! 花摘みじゃ!」

「はい、姫様」

 まぁ、ベルが警戒してないって事は、魔物等はいないんだろう。マイレンさんも手練らしいしな。

 テーブルと椅子をアイテムBOXから出して、軽い昼食の用意をした後――皆で食事を取る。


「魔物の血抜きをしたいから――今日は、ここで一泊していいか?」

「ああ、いいぜ。別に怪しい気配もないし」「そうだにゃー中々良いところだにゃー」

「うむ、其方に任せる。上手く肉を処理出来れば、もっと美味い肉が食えるのであろう?」

「その通りでございます」

「楽しみだのう」

 王女は『花より団子』ってタイプだな。アネモネとプリムラも賛成なので、アイテムBOXから家を出して、設置した。

 ここなら水がタップリとあるので、使い放題だ。


「魔物を解体するので、内臓系がダメな人は家に入っていた方がいいぞ」

 そう言うと、プリムラが慌てて家に駆け込んだ。


「リリス様はよろしいので?」

「はは、血に慣れるためだと申してな――母上に戦場やら粛清の現場へ連れていかれたわ」

 そりゃまたヘビーな教育だな。王族なら、それぐらいで怯んでいては、務まらないんだろう。


 先ずは、コ○ツさんを出して、湖畔に穴を掘る。途中で水が出てくるが、お構いなし。

 そして――その穴へ、シャングリ・ラで買ったブルーシートを敷く。

 ここへ臓物を溜めて、ブルーシートごとアイテムBOXへ入れてから、ゴミ箱へ入れればいい。

 地面に埋めても良いが、相当深く掘らないとダメだろう。


 最初にレッサードラゴンだな。コッチのほうがデカい。

 腹を横にしなければならないので、アイテムBOXから出したホイールローダでひっくり返した。


「何と力強い事よのう。普通は数百人でやる作業じゃぞ?」

「よし! これで腹が割ける。ミャレーとニャメナ、これを着て手伝ってくれ」

 シャングリ・ラから、よくお世話になっている、使い捨ての防護服を再び買う。


「はいよ~、またその白いのを着るのかい」「それ、汚れなくていいけど、暑いにゃー」

「臓物塗れになるよりは、いいだろ?」

 俺は全身を完全防御したが、獣人達は頭だけ出している。

 本当は感染症やらの心配があるから、着てほしいんだがなぁ。まぁ、アネモネに続いて俺も治癒ヒールが使えるようになったから、なんとかなるか。


 レッサードラゴンの腹を覆っている鱗を剥ぎ、一直線に腹を割くと腹圧で浮き輪のような内臓が飛び出してきた。


「ぎゃー! 血まみれだコンチクショー!」

 防護服を着ていなかったら、マジで臓物塗れだな。しかも、倒してすぐにアイテムBOXへ入れたので、まだ温かい。

 さっさと終わらせたい作業だが、内臓が傷つくと肉が食えなくなってしまうので、この作業に重機は使えない。


「お~い、大丈夫か?」

「はは、こりゃ凄いぜ」

「ケンイチ! 穴に落ちたはらわたは割いていいかにゃ?」

「いいけど、どうするんだ?」

「なるほど、龍香かぇ?」

 王女は、獣人達の行動を理解したようだ。


「龍香って、香に使う石ですか?」

 元世界でも、クジラから出た龍涎香が高い値段だとかなんとか。


「その通りじゃ。よし! もしも石が出てきたら、妾が買い取ってやろう」

「値段はどのぐらいなんですか?」

「大きさにもよるが、金貨200枚(4000万円)から400枚(8000万円)というところじゃのう」

「え~? そんなに高い物なんですか?」

「うむ、もしもワイバーンに石があれば、そちらの方が高いはずじゃ。値段がどのぐらいになるか見当も付かん」


「よっしゃ! クロ助、王族の保証付きだぞ、気合入れて探せ!」

「任せるにゃ! 一世一代の大勝負だにゃ!」

 ニャメナが内臓を掻き出し、ミャレーが割いて、内容物を漁っている。

 その間に、アネモネに魔法を使って冷却を頼む。最初は湖に沈めようと思ったのだが、身体がデカいので冷えるのに時間が掛かる。

 その間に肉が傷んでしまう。王女に見えないように、魔法の触媒に使うアルミの板を渡す。


「む~! 冷却(リフリジレイション)!」

 身体が大きいので、何回かに分けて冷却をしてもらう――だが冷却が終わると、アネモネは逃げてしまった。

 そのぐらい物凄い臭いなのだが、そんなのが苦にならないぐらいの大金が待っている。

 そりゃ獣人達も気合が入るってもんだろう。なければ骨折り損のくたびれ儲けだけどな。


 内臓を出し終わったので、ホイールローダで吊るして血抜きをする。

 だが尻尾が長くて、地面についてしまう。尻尾の根元にも切れ込みを入れて、ユ○ボを召喚。

 尻尾を釣り上げる事にした。ホイールローダとユ○ボで、レッサードラゴンの死体がV字型に――。


「こ、こんな巨大な召喚獣が3体も同時に出せるのかぇ? 其方は一体何者なのじゃ?」

「辺境の魔導師ですけど……今は、王女殿下の聖騎士ですか?」

 実は全部アイテムBOXに収納されているなんて、口が裂けても言えない。

 この他にも、ラ○クルや大型ダンプ、高所作業車も入っているしな。そうそう、9mの足場とか丸太も入っている。

 改めて考えると、凄いな――まさにチートといえる能力。


 しかし、高所作業車はアネモネのゴーレムがあれば要らないか――下取りに出すか?

 いや、何でもアネモネの魔法に頼ってしまうのも……でも、彼女は頼ってほしいみたいだし……。

 アイテムBOXの容量がなくなるなら、中の整理もしなくちゃならないが、未だにどのぐらい入るのかは不明。

 しばらくこのままでいいか。


 吊り下げられた巨大なかばねの下からは、ダバダバと血が流れ出ている。

 だが、王女の話では――竜の血も売れるということなので、プラケースに溜める事にした。

 本当に売れるのか? それと、心臓と胆嚢が価値があるらしいので、冷やしてからアイテムBOXへ収納した。

 それと、食えるかもしれないので、肝臓と獣人達が切った腸は別分けにする。

 ホルモンとして焼いたり鍋にして食えば美味いかもしれん。


「竜の血なんて何に使うんですか? 飲むんですか?」

「うむ、飲めば不老長寿に効くらしいが――」

 腸詰めにしてブラッドソーセージはどうか。


「リリス様も飲みますか?」

「遠慮しておく」

 どうも、王女は信じていないようだ。心臓と胆嚢は万病に効くという。

 当然、亜種のドラゴンより、本物のレッドドラゴン等の方が価値が高い。


 その間にも、ミャレーとニャメナは臓物の池の中で泳いでいた。


「ねぇぇぇ!」「ないにゃー!」

 石があれば匂いがするはずだという。臓物の中でも高性能な獣人の鼻が、その匂いを逃さないだろう。

 

「お前等、諦めろ」

「旦那、龍香はないけど、これはあったぞ!」

 ニャメナが持ち上げたのは、大きな黒い石。龍香ではなく、魔物に含まれているという魔石だ。

 使う予定もないが、とりあえずアイテムBOXへ入れておく。

 

「畜生! ダメか!」「次に賭けるにゃ!」

 皆に手伝ってもらい臓物の詰まったブルーシートの4隅を合わせて、袋状にする。

 これで、ブルーシートを収納すれば一緒に臓物もアイテムBOXへ入るはずだ――だよね?

 入らなかったら、コ○ツさんで埋めるだけだが。


「よし、収納!」

 目の前にあったブルーシートが消える――成功だ。そして、肝臓と腸以外は、すかさずゴミ箱へポイ! ――完璧。


 そして俺は、次なる獲物――ワイバーンの解体に移った。


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