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102話 峠が開通! そして聖騎士とは?


 もう少しで街道が開通するのだが、一難去ってまた一難。

 ワイバーンの襲撃を受けた。だが皆の協力を得て、これを撃退。ワイバーンのむくろを手に入れた。

 この飛竜も食えるそうなので、どんな味か楽しみだ。

 だが、谷底へ落ちたワイバーンを拾って戻ってくると、王女が俺に何やら魔法のようなものを使った。


 王女の話では、俺は『聖騎士』とやらになったらしい。

 しかし、誰もその正体を知らない。各地を渡り歩いている商人達も知らないようだ。

 力を使った影響か――王女は体力を消耗してしまったらしく、俺の家で休んでいる。

 彼女が元気になったら、『聖騎士』とやらがなんなのか、詳しく聞いてみるつもりだ。


 ――とりあえず、腹が減ったので飯を食う。

 商人達にも炊き出しをするために、プリムラが大量のスープ等を作ってくれた。

 アネモネが焼いたパンだけでは、とても間に合わないので、俺もシャングリ・ラからパンを購入した。

 商隊の護衛の面々にはタダで炊き出し、商人達からは金を取っている。

 彼等も商人のプライドがあるから、金があるのにタダでくれとは言わない。

 いくら金にがめつい商人でも、そんなことをすれば、周りから軽蔑の視線が浴びせられる。


 スープを飲み、パンを食べる。スープはレッサードラゴンのスープだ。

 脂もあまり浮かず、あっさりとした味わい。俺は米の飯を食いたくなったので、シャングリ・ラからパックのおにぎりを購入。

 アネモネに魔法で温めてもらう。


「私も、それを食べたい」

 アネモネもおにぎりを食べたいようなので、追加で購入。


「あちあち、おにぎりが熱い!」

 ちょっと温まりすぎたか。


「うみゃー!」

 ミャレーは飯を食べているが、ニャメナ達はテントで寝たまま。酔いつぶれているので、しばらくは目を覚まさないだろう。

 ベルも、猫缶とレッサードラゴンの肉に美味そうに食いついている。


「ミャレー、ニャメナ達がまたおかしくなったのは、俺がワイバーンをどついたせいか?」

「そうだにゃ! もう! あいつらがいなかったら、ウチがケンイチに抱きつきたいところにゃのに! この尻尾のムズムズをどうしてくれるにゃ!」

 そう言われても――とてもじゃないが、獣人を5人なんて相手に出来るはずがない。

 それに、俺なんて最後に止めを刺しただけじゃないか。ワイバーンをぶっ飛ばしたのはアネモネのゴーレムだし。


「まぁまぁ、ニャメナばっかり不公平だから、ミャレーも相手してやるからさ」

「うにゃー!」

 俺の言葉にはしゃぐミャレーだが、アネモネが不機嫌だ。


「むー」

「いつもアネモネばっかり、ケンイチと寝ていて不公平だにゃ」

「それは……そうだけど」

 ミャレーが立ち上がると、俺に抱きついてきた。


「にゃー! ドラゴン殺しと一緒にゃんて、孫の代まで自慢出来るにゃ」

 いや、俺と一緒にいたら、孫なんて出来ないだろ? だって人種と獣人には子供が出来ないんだから。


「本物のデカいドラゴンじゃなくても、レッサーやワイバーンでもドラゴン殺しになるのか?」

「当然にゃ」

 しかし、本物のドラゴンってのはもっとデカくって凶悪なんだろ? そんな相手に、パイプ爆弾や圧力鍋爆弾で効き目あるのかね?


 こんな感じで、うちの家族は元気なのだが――その脇でメリッサがどんよりと暗い。


「メリッサ、どうしたんだ? ワイバーンも討伐したのに暗いじゃないか」

「全部やったの貴方達じゃない。私はゴーレムを立たせてただけだし……」

「いや、あれで随分と時間を稼げたんだぞ。感謝している」

「貴方達と遠征して、自分が役立たずだと思い知らされたわ。王妃様が一緒に行けと言われた理由が、解った気がする」

「まぁ俺達は実戦第一だからな。このメンツで実戦を何回もこなしているし、連携も統率もとれている」

「はぁ……」

 以前と変わったのは、アネモネが積極的に自らの案をだして戦闘に加わってくるようになった事だろう。

 逆に天狗にならないか心配だが――彼女は賢い。心配ないと思いたい。


 皆で飯を食べていると、家からメイドのマイレンさんがやって来た。


「ケンイチ様。姫様が果物をご所望なのですが……ございますでしょうか?」

「ああ、食欲がないなら缶詰がいいか――ちょっと待って」

 シャングリ・ラから缶詰を検索する。いつも桃缶ばっかじゃな。

 桃、パイン、定番のみかん、そして変わりダネでナタデココの缶詰を買ってみた。

 ちょっと小さめなので、1缶200円を2個ずつ購入。


「この取手を引っ張ると、蓋が取れるので」

 この缶詰はプルトップ缶だ。メイドさんに、蓋を開けるデモンストレーションを行う。


「はい! 解りました! これは便利ですね!」

「それから、固形の食べ物があるから、どうぞ」

 俺が渡したのは、固形栄養食のブロック。

 同じ商品で、缶タイプの液体の物もある。10年ぐらい前に飲んだきりで不味かった思い出しかないのだが――。

 シャングリ・ラの商品ページで評価を見てみると、悪い評価はない。

 ここ10年で味がかなり改善したようだ。それなら病中病後の食事として使えるかもな。


「ありがとうございます――あの……」

「まだ、何か必要ですか?」

「いいえ……あの、ケンイチ様は姫様の味方でいらしてくれるのですよね?」

「まぁ、他の王侯貴族様よりは話が通じそうですし、そう思ってくださって結構ですよ」

「ありがとうございます」

 お盆に載せた缶詰と栄養食の黄色い箱を持って、マイレンさんが家へ駆けていく。

 もしかして、あれでも足りないって言うかな?


「相変わらず、ケンイチは女に甘いにゃー」

「俺は女には優しいぞ。あの王妃を除いて」

「ケンイチ、美人に甘いから……」

「甘いから、可愛いアネモネも助けたんだけど……」

「そうだけど!」

 まぁ、アマナの所では商人の経験は積めたかもしれないけど、魔法の力は伸ばせなかっただろうな。


「女に優しくないケンイチなんて、想像も出来ないですから、よろしいのでは?」

「プリムラ、それじゃ女が増えてもいいわけ?」

「うふふふ……」

 俺の言葉に、プリムラが笑っているが怖い。


勿論もちろん、冗談だよ。別に女なら、誰でも助けてるわけじゃないだろ。シャガの所から連れてきた女達には手を付けなかったし」

「確かに、そうだにゃー。テントで寝ている3人組にも手を出さないしにゃー」

 俺の所へ、ベルがやって来た。


「にゃーん」

「なぁ、お母さんもそう思うだろ?」

 彼女の顎を撫でると、いつものように喉をゴロゴロと鳴らしているのだが、ちょっと様子が変だ。

 すごく眠たそうな顔をすると、床へ身体を擦り付け始めた。


「ベル? どうした?」

 なんだか、マタタビを嗅いだ猫みたいな動きだが……。


「それにしてもケンイチ。聖騎士とはなんなのでしょう?」

「解らん。別に身体が変わった様子はない。直後は力が湧いてくるような感じはあったが、今は普通だ」

「お姫様に聞くのが一番早いにゃ」

「まぁそうだな」

 皆で飯を食いながら話していると、メイドさんがやって来た。


「あの、申し訳ございません。透明な四角い食べ物を姫様が大層お気に入りでして、手持ちがあれば追加をお願いしたいのですが」

 透明ってナタデココか。シャングリ・ラから、缶詰を追加購入する。


「ああ、2つぐらいでいいかな?」

「ありがとうございます」

 メイドさんが、缶詰2個を持って、走っていった。

 もう全部食ったのか? 全然、弱ってねぇじゃん。タダの腹減りか?


「ケンイチ、私もそれを食べたい」

 アネモネがそう言うのだが、皆も食べたいようなので、ナタデココの缶詰を小鉢に開ける。

 透明な四角い食べ物に、皆は興味津々だ。


「まぁ! 不思議な食感!」

「コリコリしてるね」

「にゃー! 変な食い物にゃー!」

「ケンイチ、これはどうやって作るのでしょう?」

 プリムラが作り方を聞いてくるのだが、自作して売りたいのだろうか?


「さぁ――これは自分では作った事がないな。確か木の実の汁を発酵させると固まる――だったはず」

 ナタ菌って、南の島の門外不出の菌を使っているとか、ナタデココが流行った時にTVか何かで見たような。


「こんな不思議な食べ物があるなんて……」

「スライムが食えれば、こんな感じかもな」

「「「えええ~っ!」」」

 俺の感想に、全員が一斉に否定する声を上げた。


「いくら悪食でも、それはないにゃ!」

「そ、そうですわ。魔物は食べますけど、スライムはさすがに……」

 ――とはいえ、皆スライムは食った事がないらしい。

 RPG等で雑魚キャラのイメージが強いスライムではあるが、この世界では結構危険な生き物だ。

 水と同化して音もなく近づいて捕食されるという。

 だが、この世界に来てからスライムを見たことがない。ミャレーの話では――湿地帯等の水が淀んでいる場所に生息しているらしい。


「機会があれば見てみたいな」

「ケンイチは、物好きだにゃー。でも、ウチは絶対に食わないにゃ」

「食うなら、俺1人で食うから大丈夫だ」


 飯の後、商人達をチェックしたが問題なし。

 馬車を失った商人も、上手く交渉を果たしたようだ。

 やる事もないので、寝る。王女が使った魔法だか祝福のせいなのか、疲れた感じはない。

 そういう身体になったのだとすれば、結構ありがたい御業のようだ。


 だが、寝袋に入る段階でミャレーから物言いがついた。


「いつも、アネモネばかりケンイチと寝てズルいにゃ!」

「む~」

 まぁ、そう言われれば――何もしないとはいえ、いつもアネモネと一緒に寝ているからな。

 ミャレーにそう言われて、アネモネも一晩を譲ったようだ。

 だが、大人を自称するのであれば、当然大人の仲間に入る事になる。

 つまり、こういう場合も輪番制になるだろうな。


 ただ、皆の寝ているテントで、やるわけにはいかない。

 家から50m程離れた地点に小さなテントを出して、ミャレーと2人で寝袋に入る。

 このテントは、ダリアの森にいた時に、1人で使っていた物だ。

 森のなかで、スローライフとか目指していたのに、こんな場所までやって来て、ドラゴンまで退治してしまうとはなぁ……。

 思えば遠――イカン、版権に引っかかる。


 ここなら邪魔は入らないだろうが、獣人の声は結構デカいからなぁ……。


 ------◇◇◇------


 ――次の日。

 朝起きると、当然俺の上に裸のミャレーが乗っている。二人用の寝袋の中に入っているが、獣人と一緒なら寝袋要らず。

 だが、脇が寒いので、やっぱり寝袋はいるけどな。

 服を着てテントをアイテムBOXへ収納すると、皆の所へ行くのだが、何故かミャレーがくっついて離れない。


「おはよ~さん」

 皆も起きているので、早速朝食の準備をする事にした。

 酔っ払って寝ていた獣人達も起きているが、見た目には問題がないように見える。

 だがニャメナが、俺とミャレーの所へやって来た。


「クロ助てめぇ、デカい声で喘ぎやがってぇ!」

「何言ってるにゃ、お城でやった時のトラ公の方がデカかったにゃ」

「確かにそれは言える」

「うっ! ――そうじゃねぇ! とっとと、旦那から離れろってんだよ!」

「ふみゅ~ん! もう凄かったにゃ~、尻尾の先から耳の先までビリビリになったにゃ~」

 どうやら彼女の話では、いつもと具合が違ったようだ。


「そうなのか? もしかして例の聖騎士とやらの効果かな?」

「もう、こんなの離れられないにゃ~」

「くそ! クロ助、俺にさせろ! コンチクショー!」

「やだにゃ~」

 俺の周りを、クロと虎柄がグルグルと回り始めた。

 虎がグルグル回ってバターになる昔話を思い出す。


「むう……」

 その光景を見ていたアネモネの機嫌が悪いが致し方ない。

 ミャレーとニャメナが揉めていると、商隊の獣人達も騒ぎに加わってきた。


「ちょっと! そんなに凄いなら、あたい達にも分けておくれよ!」「そうだよ!」「あの~お願いします~」

「しっしっ! 分けたら量が減るだろうが! 冗談じゃねぇ!」

「この凄いのはウチのものにゃ~ふぁぁぁぁ。抱きついているだけで、イキそうにゃ!」

「ふざけんな、このクロ助!」

「お前等、朝っぱらから、なんちゅー会話をしてるんだ」

 獣人達を引き離し、朝食の準備の続きをする。

 テーブルを出して、食い物を並べる。スープにパン、そしてグラノーラだ。

 忙しい時は、このメニューが手っ取り早くていい。


 用意をしていると、王女も家から出てきたが、普段と変わらないように見える。


「リリス様、お早うございます」

「うむ」

「朝食を食べながらでよいので、昨日の説明をしていただきますよ」

「無論じゃ」

 メイドのマイレンさんが、俺の所へやって来た。


「あの、ケンイチ様。水があるようでしたら、洗濯をしたいのですが……」

「ああ昨日、谷底から汲んできたので、たっぷりとあるが――アネモネに洗浄クリーンの魔法を使ってもらえばいい」

「ありがとうございます」

 マイレンさんがぺこりとお辞儀をした。ちなみに、王女の使っているシーツなどは使い捨てだ。

 一枚数千円だし、王家からもらった家具の値段からすれば、微々たるものだ。

 この仕事が終われば、褒美だってもらえるはずだしな。


 朝食を食べながら、聖騎士の話になった。


「聖騎士などというものを誰も知りませんが……」

「おそらくは60年ぶりぐらいの誕生だと思われる」

 王女は、ゆっくりと見えるのだが、すばやくグラノーラを口に運んでいく。


「そもそも、どういう物なのですか?」

つづまやかに言えば、剣にも魔法にも耐えられるようになって、治癒能力も底上げされる」

「……え~凄いんですが……王族だと、その御力は誰でも持っていらっしゃるのですか?」

「いいや、現王族では妾だけじゃ」

 彼女はスプーンを止め、俺の方をじっと見つめる。


「そのような希少な能力を、私如きに使ってよろしかったので?」

「昨日も申したが、其方は王国を救い、ワイバーンを討伐して、妾の命も救った! これは偉業じゃぞ?!」

 しかし、この力を使うには、王族OBOGによる円卓会議の承認が必要になると言う。


「はぁ……また、王妃様が怖い顔をしますね」

 俺はテーブルに肘をつき、両手の掌で顔を覆った。


「知らぬ! どのみち、この偉業からすれば、認めざるを得まい! 円卓会議が、気に入らんというのであれば、妾は王族の籍を捨てる!」

 昨日もそんな話をしてたな。


「ええ~っ? ちょっと早まりすぎでは……王都に戻ってから、他の王族の方々とじっくりと話しあってから決定されても遅くなかったのでは?」

「ははは! もうやってしまった事は仕方あるまい!」

 なんか開き直っているというか、やけくそな気が……。


「当然、家出した王女様の面倒は私が見るんですよね?」

「其方は、行く宛もない幼気な乙女を寒空に放り出すのかぇ?」

「そ、そんな事はありませんが――リリス様が家を出ると、もれなくメイドさん達も一緒についてくるのですよね?」

勿論もちろんです」

 メイド長のマイレンさんが胸を張る。


「はぁ……」

「心配する必要はないぞ、ケンイチ。家を出るときは、妾の全財産も持って出るからの。其方に苦労はさせぬ」

「それは頼もしいお言葉、真にありがとうございます……」

 俺達の会話を聞いている獣人達が、後ろでひそひそ話をしている。


「おい、クロ助。また女が増えそうだぞ?」

「そうみたいにゃ」

「今度は王族かよ? もう国を作った方が早いんじゃねぇか?」

「ウチらも王様の愛人にゃ? 出世したにゃ!」

「人生何があるかわからねぇな!」

 獣人達がゲラゲラ笑っているが、こっちはそれどころじゃないし、そんな面倒な事は御免被りたい。

 大体、国の中に国を作るなんて分離独立だ。タダではすまん。


「国王陛下が、そのような事をお許しにならないでしょう?」

「そんなことはしらぬ! それに……」

「それに? 何でございますか?」

「……それは後で話す」

 何やら大事なことがあるようだが、話してくれない。

 しかし、王家にこんな力があるとはなぁ……もしかして、王妃の当たりが強かったのは、この事に関係しているのだろうか?


「リリス様、お城の書庫にも、この王家の力に関する資料があったのではありませんか?」

「む? う~む……ある――はずじゃ! じゃが、そういう秘中の秘は書庫の開かずの間に保管されている故、妾も本当にあるかは解らぬ」

 王女の話では、開かずの間の鍵は国王が持っているらしい。

 やっぱり、王家の秘密を嗅ぎまわっていると勘違いされたのであろうか?


「王族に御業が発現する条件等は不明なのでしょうか?」

「うむ、全くもって解らぬままじゃ。かつては、血の濃さに要因があるものと考えられた事もあっての、極端な近親婚等も行われたそうじゃが、それで王家が滅びかけた」

「そりゃ、そうでしょうねぇ」

 あまり詳しくは聞きたくない話だな。だが、そんな力を人工的に作り出せれば、王家の力をかなり底上げ出来る計算になる。

 躍起になっても仕方ないか……。


 結局、なんだかよく解らないが、簡単には死なない身体になったらしい。

 医者もロクにいないこの世界では、ありがたい能力ではあるのだが。


 話も終わったので、作業を続行する。土砂の残りは後1/3程だ。

 多少デカい岩もあるようだが、ゴーレムでも歯がたたないような巨大な物はないようだ。

 アネモネのコアに土砂を集め小山を作り、そしてホイールローダーで谷底へ落とす――楽勝である。


 夕方、作業が終了したら飯を食い寝る。

 だが獣人の女達がうるさいので、1回だけの約束で相手をしてやったのだが――。

 皆、白目を剥いて腰を抜かした。

 これは、一体――? 例の聖騎士とやらの副作用であろうか?


 次の日の夜――プリムラで試してみると、同様の結果となった。

 だが、あまりに恥ずかし過ぎたのか、プリムラが俺を避けるようになってしまった。ちょっと困る。

 一連の実験の結果、俺の身体に何らかの異変が起きたのは確かなようだ。

 俺が熟考していると、アネモネがむくれている。


「悪い悪い、そんなにむくれるなよ、アネモネ」

「しらない!」

「抱っこしてチューして、ナデナデしてあげるからさ」

 横を向くアネモネを抱きかかえて、ナデナデしてあげたのだが、彼女の様子がおかしい。


「……ふぁぁぁぁ」

 彼女の顔がみるみる赤くなる。


「んぁ? どうしたアネモネ」

「もっと、ナデナデして……」

 イカン! 慌てて彼女を膝の上から降ろす。

 黙考の結果――どうやら聖騎士とやらになったせいで、身体がナチュラル回復ヒール状態になったらしいのだが、俺が触れた者に対しても回復ヒールが効くようだ。

 健康な状態の者に回復ヒールを使うと、所謂いわゆるオーバードーズ状態になるらしい。


「ははは! これは面白い!」

「リリス様、笑い事ではありませんよ」

「それは男でも効くのかの? ちょっと試してみるがよいぞ?」

「勘弁してください……」

 困っている俺に、王女はさらなる生贄を捧げてきた。


「それでは、このマイレンにしてみるがよい」

「え、姫様――あの」

「はよせい!」

 モジっているマイレンさんを、王女は脚で蹴りだした。

 やむを得ず、彼女の両脇を触る。


「ひ!」

 マイレンさんは短い悲鳴を上げ、身体を痙攣させると膝から崩れ落ちて、ひっくり返った。


「ほほ! これは凄い威力だの!」

 王女は完全に面白がっているが、外へも回復ヒールが使えるってのはかなり大きい。

 しかしながら、この能力を使って気がついた事が1つある――腹が減るのだ。

 

 まぁ、それに関しては問題ない。シャングリ・ラから液体やゼリー状の栄養食を買って喰いまくればいいのだ。

 そうすれば栄養を取っただけ能力が使えるって事になる。


 ------◇◇◇------


 ――数日後の昼前。

 峠の開通間近。ベースキャンプに設置していた、家と小屋、そしてテントをアイテムBOXへ収納すると最後の作業に入る。

 残った土砂の向こうには、30台程の馬車がスタンバっている。

 こちら側は、50台程に増えた。王都もソバナも10日以上物資が届かなかったので、物が不足気味になっているだろう。

 そこへ乗り込めば物が高く売れるのだ、商人達は一番乗りをしようと、殺気立っている。

 事故を起こさねばいいが……。

 土砂を軽々と運び、谷へ投げ落とすオレンジ色の重機に、商人達の視線が釘付けになっている。

 そして最後の土砂をホイールローダーで谷底へ捨て、街道に残った細かい石を竹箒で履く。


 やった開通だ!

 俺はアイテムBOXからメガホン型の拡声器を取り出した。


『あ~あ~、本日は晴天なり! え~! 本日、街道を埋めていた土砂は全て取り除かれました。こちらは数々の危険を顧みず、この偉業を指揮してくださいました――カダン王国王女、リリス・ララ・カダン様であらせられる。皆で、崇め奉るように!』

「「「はは~っ!!」」」

 商人達が馬車の前で一斉にひざまずく。


『うむ! カダン王国王女、リリス・ララ・カダンである。王国の危機は去った。商人共は、王国と民のために商売に励むがよい! そして、この峠を埋めていた土砂を取り除き、作業の邪魔をしたワイバーンを討伐! 今回の偉業を成し遂げた、この者の名前は【聖騎士】ケンイチである! この者の名前を国中に広めるのじゃ!』

「聖騎士?」「聖騎士だって?」「聖騎士?」

 向こう側にいた商人達が顔を見合わせている。


『よいな!!』

「「「はは~っ!!」」」

 挨拶が終わったので、商人達が一斉に馬車へ乗って走りだした。

 待て待て、下りでそんなスピードを出して大丈夫なのか?


 何かあってもしらんぞ俺は……。

 確かに急がないと、峠が暗くなってしまう。それまでに距離を稼ぎたいのだろう。

 それにしても、ドンドン俺の名前が有名になってしまう……どうしてこうなった!

 そして丁度、お城から使いがやって来たのだが――。


「城には峠が開通したと伝えるがよい!」

「しかし、陛下からのご命令が……」

「知らぬ! 聞かぬ!」

 王女は使者を追い返してしまった。


「よろしいので?」

「其方と一緒にソバナへ参ると申したであろう?」

「確かにそうですが……」

 年頃の娘を連れ回すなんて、陛下に恨まれそう……。後でまた揉め事になるんじゃないのか?


「にゃー」

 ベルが俺のところへやって来て、身体を擦りつけると、またゴロゴロと転がり始めた。


「すまんなベル。やる事がなくて暇だったろう?」

 ここじゃ狩りも出来ないし、パトロールも不可だ。

 実際、彼女は殆どテントの中で寝ていた。



 峠が開通したので、貴族達はイベリスの手前で落ちた橋の工事に全力を尽くすようだ。

 さすがに大貴族達が全力を出すため、1ヶ月程で橋の修理も終わるらしい。

 平坦だし橋の向こうにはイベリスという大都市もある。

 峠の土砂を取り除くよりは、かなり楽な工事のはずだ。


 俺達が、アストランティアに帰る頃には、橋も直っているかもな。

 しかし王女がいなければ、ソバナから反対周りでダリアへ向かい、そこからアストランティアへ帰るルートもあるのだが……。

 彼女を王都へ送り届けるために、もう一度都へ戻る必要があるだろう。



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