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101話 ワイバーン撃破


 峠で土砂の除去作業をしている。残りが1/3程になり、ブラインドコーナーをクリアすると終点が見えてきた。

 そして、3時休みに一服していると、上空にデカい黒い鳥がいる。

 大きな翼を翻し尻尾がすごく長い――だが、それは鳥ではなかったのだ。


「ワイバーンだ!」

「ワイバーンって、ドラゴンか?」

「ドラゴンだよ! ドラゴン!」

 ワイバーンって飛竜のはずだから、そりゃドラゴンだ。

 ニャメナが叫ぶ。商人達のキャラバンもパニック状態だが、こんな狭い谷の道じゃ、どこにも逃げ場がない。

 ワイバーンは、こちらに狙いを定めたのか、ゆっくりと螺旋を描きながら降下を始めた。


「皆、壁に貼り付け!」

 壁際なら、上空からの攻撃を躱せるだろう。

 だが、敵もそのぐらいは知っているのか、谷側から滑空して攻めてきた。

 鋭い鉤爪を剥き出し、大きな翼を広げて降下してくる。


「シャァァァ!」

 ベルが盛んに毛を逆立てて威嚇をしているが、いくら彼女でも空飛ぶ敵には打つ手がない。


『光の矢よ敵を討て! その力を与えしは、深淵より汲みえし我なり! 魔法矢マジックミサイル!』

『む~憤怒の炎(ファイヤーボール)!』

 メリッサとアネモネから撃ち出された魔法だが――光の矢は躱され、火の玉は命中したのだが、ダメージにはなっていない。


「「「うわぁぁぁ!」」」「「「ぎゃぁぁ!」」」

 街道に並んでいた商人達の馬車が、何台かワイバーンの爪によってズタズタに引き裂かれた。

 全身を黒く光る鱗に覆われ、巨大な蝙蝠のような翼をばたつかせ小ジャンプ攻撃を繰り返す。

 足下の白い爪は、軽自動車ぐらいなら握り潰せそうだ。顔は馬面なトカゲといった感じ。

 おそらく、商人が乗っている荷馬車に食料などがあるのを知っているのだろう。

 当然、商人達自体も魔物の餌となるが、上手く逃げているようだ。


「旦那、召喚獣は?!」

「相手が空飛ぶ魔物じゃ無理だ! メリッサ、あいつを魔法で飼いならしたりは出来ないのか?」

「あんな空飛ぶ魔物相手に無理に決まってるでしょ!」

 彼女が使う本物の召喚獣にするためには、色々な魔法の儀式が必要らしい。

 メリッサと2人で顔を見合わす。


「――そうだ! メリッサ、崖下に捨てた土砂を使って、ゴーレムを作れないか?」

「た、多分、なんとかなるかも……」

「デカいゴーレムを盾にすれば、ビビって逃げるか、攻撃してきても防げるんじゃないか?」

「わかった、やってみる」

「リリス様とメイドさん達は、家の中へ! プリムラも!」

「承知した!」

「解りました」


 商人達には悪いが、ここは王女を守るのが先決だろう。ここまで来て、あとちょっとで街道も開通するのにワイバーンの餌食になるなんて、運が悪いとしか言いようがない。

 まさに天国から地獄だ。


「姫様、こちらへ!」

 王女の避難を確認すると、アイテムBOXからメリッサのコアを出す。

 すぐさま彼女は、ゴーレムの起動の準備に入った。


「アネモネ、爆裂魔法エクスプロージョンは使うなよ、商人達まで吹き飛んでしまうぞ」

「う、うん」

 崖下へ落としてしまった瓦礫を集めて、ゴーレムを作っているので、少々時間がかかる。

 だが形を成した巨大な人形を見て、ワイバーンが谷底へ飛び降り、翼を広げて滑空に入った。

 わけの解らん巨大な生物を見て、警戒し一旦距離を取ったのだろう。


 その隙をつき――商人達は荷物を捨てて、王女が隠れている俺の家の周りへ集まってきた。

 命あっての物種だからな。とりあえず生きていればチャンスもある。

 巨大なゴーレムが盾になっているので、いくらワイバーンでも簡単には突破出来ないだろう。

 しかし、このデカい土塊の寿命は1時間程である。

 後は、アネモネのゴーレムを使うか、それとも、至高の障壁(ハイプロテクション)を使うしかないが、どちらも短時間しか保たない。


「おい! お前たち儂を守れ! そのために金を払っとるんじゃぞ!」

「このクソ爺! 相手がワイバーンじゃ、手も足もでねぇだろ!」「あんなのとどうやって戦えっていうのさ」「そうだね……」

 商隊の獣人達と、商人が侃々諤々とやっている。

 相手が盗賊や野盗なら、なんとかなるだろうが、相手が空飛ぶ飛竜じゃな。

 俺のコ○ツさんだって打つ手なしだ。だが、そうも言ってはいられない――何か武器は……。

 クロスボウなんかじゃ傷も付かない。圧力鍋爆弾じゃ飛んでる敵に当たらないし……大体、起爆のための爆裂魔法エクスプロージョンが当たらないだろ。

 何かいい方法は……そうだ! 爆弾をくっつけられればいいんじゃね?


 アンホ爆薬だと、起爆に爆裂魔法エクスプロージョンを使わないとだめだが、以前作ったタイマー式の爆弾がある。

 くっつけて起爆させれば、ダメージが通るかもしれない。アイテムBOXから、タイマー式のパイプ爆弾を出す。

 鉄パイプに自作の黒色火薬が詰まっており、デジタル式のキッチンタイマーで起爆出来る。

 さて、これをどうやって、ワイバーンにくっつけるかだ……。


「旦那! また来たぞ!」

 ワイバーンは翼を広げてやって来ると、ゴーレムの頭に攻撃を仕掛けた。

 奴は人形を生物だと思っているので、頭を狙っているのだろう。

 バサバサとホバリングしながら、しきりに鋭い爪をゴーレムへ叩きつけている。


 どうするどうする? ガムテープか? いや、そんなもんじゃくっつかないだろう。接着剤か?

 いや違う――ペタリと強力にくっつけるためには……。


「トリモチはどうだ?」

 トリモチなんて、しばらく見たことがないけど、あれなら強力だぞ?

 しかし、トリモチなんて売っているのか? 早速、シャングリ・ラで検索。

 トリモチ、トリモチ――あるじゃん! 平らで丸い缶に入ったトリモチが売っている。

 どんなのが来るか解らんから5個ぐらい買おう。特級品って奴で1缶2000円だ。


「ポチッとな!」

 ガラガラと落ちてきた缶の蓋を開けると赤い。トリモチって白いイメージがあったのだが、赤いのか。

 アイテムBOXから箸を取り出し、タイマー爆弾に塗りたくる。ベタベタだが、よくくっつきそう。


「よし! こんなもんだろう、タイマーのセットカウントは30秒、これが最後の決め手だよゲ○ル君」

 ゲ○ルって誰だよ。

 タイマーをセットして、ニャメナに渡す。


「ニャメナ! 急いでこいつを、あのワイバーンに投げつけろ! 赤いネバネバには触るなよ! 取れなくなるぞ!」

 ワイバーンは、まだゴーレムの頭を攻撃中だ。

 スタートボタンが押された爆弾を受け取ったニャメナは、大慌てでワイバーンへ向かって投げつけた。

 こいつが、大木を吹っ飛ばす程の威力があるって知っているからな。


 続いて、もう1つタイマーをセットして、ミャレーへ渡す。


「ミャレーも頼む!」

「にゃにゃにゃにゃー!!」

 獣人によって投げられたタイマー爆弾は、上手くワイバーンの胴体と翼の部分へくっついたようだ。


「退避ー! 逃げろー! 爆発するぞー!!」

 皆でバラバラと街道の上り下りに逃げ始めると、メリッサの集中力が途切れたのか、ゴーレムが崩れ始めた。

 ワイバーンもそれにつられて、攻撃を止めたのだが――1発目のタイマー爆弾が起爆。

 大きな爆発音と共に、ワイバーンの翼が折れて道へ叩き付けられた。

 ついで、2発目の爆発。うつ伏せになっていたワイバーンの身体が爆発でひっくり返る。


「やったぜ!」

「まだ生きてるよ!」

 翼が折れたので飛べないようだが、未だピンピンしている。さすがにしぶとく、バサバサと翼をばたつかせている。

 タイマー爆弾では少々威力が足りないようだ。


「キシャァァ!」

 奇声を上げ、威嚇しながらバタバタと暴れる魔物――これでは、コ○ツさんも近づけない。

 それを見た、アネモネが叫んだ。


「ケンイチ、私のコアを出して!」

「お、おう?」

 急いでアイテムBOXから巨大なコアを取り出して、地面へ寝かせる。


「む~!」

 アネモネが精神を集中すると、崩れたメリッサのゴーレムや、崖下から土砂が集まってきて、巨大な人形が立ち上がった。


「「「おおおお~っ!」」」

 驚く俺達に、ゴーレムが創りだした黒い影が覆い被さる。

 そして、巨大な土塊の腕がゆっくりと回転運動を始めた。


「ロケットパーンチ!」

 アネモネの掛け声と共に、ゴーレムの身体から、ぐるりと回した腕が切り離された。

 非常にゆっくりとした動きに見えるのだが、飛び出したゴーレムの腕は時速数百kmだろう。

 超高速の石塊を食らったワイバーンは、谷底へとふっ飛ばされた。さすがの魔物も、この攻撃は効いたらしい。


 皆で崖の縁まで駆け寄ると下を覗く。谷底でまだワイバーンが動いている。だが間違いなく瀕死だ。


「よし! 俺が降りて止めを刺してくる。あのワイバーンも欲しいしな」

 レッサードラゴンが食えるなら、ワイバーンだって食えるだろう。これで数年は肉に困らんで済むぞ。

 ドラゴン系の肉なんて珍しいだろうから、精肉としても高く売れるかもしれない。

 シャングリ・ラから20mの登山用ロープを3つ購入した――3000円×3だ。レーザー距離計で測ったところ、谷底までは40m弱。

 色々なロープが売っていたが、登山用のロープが売っていたので、餅は餅屋――ちょっと意味が違うか……こいつを買ってみた。

 ロープの塊をばらして3本を繋げれば、長さは十分だろう。実際にロープを谷底へと垂らしてみたが、問題なし。


 そして、シャングリ・ラからクライミングハーネスを購入する――7000円だ。

 胴体と太ももにベルトを巻いて、ロープを繋げるためのハーネスだ。

 とてもじゃないが、腕一本では支えられない。


 しかし、ロッククライミングをするには、色々と足りない気が……。

 ロープを送ったり、止めたりする器具があったはずだ。

 関連ページを検索すると、アセンダーという器具が3200円で売っている。

 購入して説明書を読むと、やはりこいつでロープをコントロールするようだ。

 体重が掛かっているときはロックするが、フリーになるとロープがするすると動く。

 なるほど崖を降りる時に、ポンポンと跳ねるように降りる映像をよくみるが、こいつを使っているのか。

 このアセンダーとハーネスを繋ぐための、カラビナという輪っかも購入。


「よっしゃ、これで行けるだろう」

「旦那、大丈夫かい?」

「力持ちの獣人達に引っ張ってもらえば平気だろ?」

「そうじゃなくてさ……」

 こんな事を見るのも、やるのも初めてなのだろう。この世界にロッククライミングなどあるはずもないからな。


「大丈夫だ。さっさと止めを刺さないと暗くなってしまう」

 放っておいても死ぬとは思われるが、一晩放置したら肉が傷み、食えなくなってしまう。

 とっとと仕留めてアイテムBOXへ入れないと。せっかくのお宝だ。


「プリムラ、飯の準備をしておいてくれ。商人達も疲れているだろうから、炊き出しを兼ねてな。周りにいる連中にも手伝わせればいい」

「はい、解りました」

 アイテムBOXから、道具や食材をタップリと出す。レッサードラゴンの肉も切り出して、アイテムBOXに入れてあるので、いつでも食える。


「獣人達は、俺の縄を引っ張っててくれよ」

 うちの獣人達に加えて、商隊の獣人達もいる。これだけいれば俺1人を引っ張り上げるくらい余裕だろう。


「任せるにゃ」

「にゃー」

 ベルが心配そうな顔をして、俺のところへやって来た。彼女の目には俺が自殺でもするように映っているのかもしれない。

 獣人達に縄を持たせて、崖の縁に脚を掛けた。人生初ロッククライミングが異世界かよ。

 どうしてこうなった!


「ケンイチ!」

「アネモネ、心配するな」

 家から王女も出てきた。俺が崖下へ降りようとしているので驚いているようだ。


「其方、何をするのじゃ!」

「ワイバーンがまだ生きているので、トドメを刺してまいります」

「待て! 魔物は瀕死なのだろう? 放っておけば死ぬではないか」

「そんな事をしたら、肉が食えなくなってしまいますよ」

「なっ! ほんに、呆れたわぇ!」

 どうも、王女には俺の行動が理解できないようだ。

 まぁいい――縄を掴んで岩を蹴りながら、崖を降りていく。

 こんなの初体験だが、実戦をやりゃすぐに覚える。しかし降り始めて解った――手が痛い。

 こりゃ、しょうがないな。慣れるしかないのだろう。


 谷底へ降りると、カラビナを外す。


「旦那ぁ! 大丈夫か!?」「にゃー!?」

 上から獣人達の声が聞こえると、周りからコダマがかえってくる。


「ああ、大丈夫だ!!」

 さて、しぶといワイバーンはまだ動いている。だが崖から落ちた衝撃で、手足は曲がってはいけない方向へ曲がり、文字通りのグチャグチャだ。

 こいつに止めを刺さないといけないわけだが――幸い、重機を出すだけのスペースはあるようだ。

 ――とはいえ、ちょっと足下が不安だな。ユ○ボなら大丈夫だと思うが、コ○ツさんはちょっとまずいかもしれない。

 だが、トドメを刺すなら、コ○ツさんじゃないと、ちょっと無理っぽい。


「う~ん、そうだ! ユ○ボで地ならししてから、コ○ツさんを出せばいい」

 アイテムBOXからユ○ボを出し、排土板を使って辺りを整地。随分と悠長だが、魔物は瀕死で危険はない。

 このままアイテムBOXへ入れられれば、なんの問題もないのだが、生きているうちは入らないからな。

 綺麗に整地を完了して、いよいよ本番に入る。


「コ○ツさん召喚!」

 地響きと共に、黄色の車体が現れた。早速運転席に乗り込み、エンジンを始動させる。

 ガタガタとワイバーンの下へ行くと、アームを9mの高さへ振り上げた。


「コ○ツアタック! それは、黒い魂を冥府へと送り返す、慈悲の一撃!」

 鋼鉄のバケットが魔物の頭を叩き潰すと目が飛び出し、口から血反吐を吐き出す。


「おりゃ! もう一発!」

 もう一度、バケットが再度振り下ろされたが、反応はない――完全に息の音が止まったようだ。

 しかし、かなりデカい! 身体は小さいのだが、翼を広げて尻尾まで入れたら完全に10mオーバーだ。

 だが翼を折りたたみ、尾は丸めれば10mの範囲に収まるだろう。


「アイテムBOXへ収納!」

 息の根が止まり、コンパクトに折りたたまれたワイバーンの死体が目の前から消える。


「ふう……全く、どうなることかと……」

 これでレッサードラゴンに続き、ワイバーンも手に入ったぞ。しばらくは肉に困らんで済むな。

 コ○ツさんを収納して、下流を見ると――アネモネがゴーレムで落とした巨岩がすっぽりと谷に嵌まりダムを作っている。

 そこへ歩いて行ってみる。ドンドンと岩を脚で踏んでみるが、当然びくともしない。

 完全に固定されているので、こいつが山津波の原因――って事にはならないと思う。


「こりゃいい、せっかくだ、水を汲んでいこう」

 ここで水を汲めば、シャングリ・ラから高いペットボトルの水を買わないで済む。

 幸い、水は澄んでいて綺麗だ。飲水には煮沸させないとダメだろうが、風呂の水には十分に使える。

 アイテムBOXからプラ容器を出して、次々と清水で満たしていく。

 ついでに、プラ容器も追加購入して、たっぷりと水を持っていこう。


 そうか――ここにワイバーンやレッサードラゴンを入れれば肉を冷やせるが……。

 明日、ここへ降りてくるのが面倒だな。それに告死鳥って鳥もいたから突かれる可能性がある。

 アイテムBOXの中に入れておけば問題はないし、川か湖のある所まで待つとするか。


 水を汲み終わったので、ロープの所へ戻る。


「お~い! 引っ張って上げてくれ~!」

「にゃー!!」

 ミャレーの声が聞こえると――そのまま崖をズルズルと引っ張られて登っていく。

 本職のロッククライマーなら、自力で登れるのかもしれないが、俺は無理だ。

 最後は手を引いて上げてもらう。獣人なら、女でも男1人を軽々と持ち上げる。


「旦那~っ! はふはふ!」

 地面に立ったところで――いきなり、ニャメナに抱きつかれた。また明らかに目がおかしい。


「ちょっと待て! お前、また始まったのか?」

「なぉぉぉん!」

「にゃぉーん」「なーん」「みゅーん」

 商隊の女獣人3人組も、俺に抱きついてきた。皆が同じ症状だ。


「ぎゃー! 皆がおかしくなったにゃ!」

「さ、酒だ。酒を飲ませよう!」

 シャングリ・ラから、ブランデーをまた買う。4人いるから、4本でいいだろう。


「おら! お前等の好きな酒だ!」

 スクリューキャップを取って、俺に抱きついてる奴らに酒の匂いを嗅がせると、皆がそれに飛びついた。


「「「「んぐんぐんぐ!」」」」

 そして、ブランデーを1本ラッパ飲みすると、皆がぶっ倒れた。


「こいつら、なんなのにゃ。自制がなさすぎにゃ。ウチだって我慢しているのににゃ」

「すまんな、ミャレー」

「もう、後でたっぷりと貸しは返してもらうにゃ」

 ぶっ倒れた獣人達だが、放置は出来ない。


「メリッサ、すまん。結界を張って中にこいつらを寝かせてやってくれ。放置すると男共に襲われてしまう」

「世話の焼ける連中ね」

 文句を言いつつ、メリッサがテントに結界を張ってくれた。種族は違っても同じ女だ。察しはつくのだろう。

 俺は結界をキャンセル出来る魔石をもらっている。女達を担ぐとテントへ寝かせた。


「ふう……重労働だぜ」

「にゃーん」

 ベルがやって来て、身体をスリスリしてくれる。


 それにしても腹が減った。ワイバーンの肉を食ってみたいが、プリムラの料理がスタンバっている。

 だが怪我人もいるので、そっちが先決だろう。


「ふう――アネモネ、魔法の残りは大丈夫か?」

「まだ大丈夫だよ」

「怪我している商人に回復ヒールを掛けてやってくれ。相手が商人なら金を取ってもいいぞ」

「解った」

 アネモネがぐったりとしている商人達の所へ駆けていく。俺も彼女と一緒に商人達の様子を見る。

「どうした? そんなに重傷か?」

 座り込んで、うなだれている男に声を掛けた。


「いや――馬車が壊れてしまってな」

 ワイバーンによって大破した馬車は二台。う~ん、そうだ。身投げした商人が残した空馬車がアイテムBOXへ入っているな。


「こいつを使って、なんとか出来ないか?」

 俺はアイテムBOXから空馬車を出した。


「いいのか?」

「元々、死んだ商人の空馬車だ。馬車を失った商人同士で協力して、散らばった荷物を集めて何とかならないか?」

「わ、解った、やってみよう。お~い!」

 男は周りの商人達に声を掛けて交渉を始めた。この空馬車を牽引していた馬もいるからな。

 そいつを譲ってもらえばいい。とにかく、荷物さえ運べれば利益は出るらしいからな。


「ヒャヒャヒャ、兄さん、随分と甘いのう」

 笑っているのは、獣人の女達を雇っている、年寄りの商人だ。


「まぁ、あの馬車は俺の物じゃないからな。それに街道が開通すれば、王家からタップリと謝礼が取れるだろうし」

「その通りじゃな。まったく、長生きすると珍しい物が見れるわい! ヒャヒャヒャ、それにしても笑いが止まらんのう!」

「何がそんなに面白いんだ?」

「勝負に勝った事じゃよ。これだから、博打は止められん」

 商売を博打だと言うこの爺さんは、プリムラ――マロウ商会とは相容れない存在だな。


「ソバナにつくまでが勝負だろ? 喜ぶのはまだ早いと思うぞ」

「そうじゃな、いや全く。お前さんの言うとおりじゃ」

「爺さんが雇っている護衛の女達は、今日は使い物にならないぞ」

「全くしょうがない連中じゃ」

 商人達は大丈夫そうなので、王女の所へ戻ってきた。


「其方のアイテムBOXの中には、ワイバーンが入っておるのか?」

「はい、谷底から拾ってまいりましたので」

「妾にも見せてたもれ」

 アイテムBOXから、王女のリクエストにしたがって、ワイバーンを出して見せた。


「「「おおおお~っ!」」」

 道の上に姿を現したワイバーンに商人達から驚きの声が上がる。

 血まみれで腕は折れ曲がり、頭は潰れている。それを見た商人達が駆け寄ってきた。


「う、売ってくれ!」「儂にも売ってくれ!」「俺は、翼の膜が欲しい」

「膜? 膜は何に使うんだ?」

「軽くて丈夫、魔法を弾く外套に使えるぞぇ?」

 王女がワイバーンの商品価値について説明をしてくれた。


「ああ、それじゃダメだな。俺も利用したいし。肉はウチの家族で食うからだめ。鱗も、とりあえずは無理」

 俺の言葉に商人達がしょんぼりと引き下がる。目の前に王女がいるので、あまり醜態は晒せないのだ。

 出しておくと、肉が傷むので早々にアイテムBOXへ収納した。


「ふう――全く、レッサードラゴンに続き、ワイバーンも一撃かえ。こんな事は前代未聞じゃぞ?」

 王女の話では――ドラゴンクラスになると普通は軍隊が出るようだ。


「レッサードラゴンはメリッサの召喚獣ですよ」

「それにしてもだ! ケンイチ! 其方は、王族を救ったのじゃ!」

「私だけの力ではありませんが――皆が協力一致した結果でありまして……」

「そんな事はどうでもよい! そこへ直れ!」

 王女が、自分の目の前を指さす。


「はい?」

「いいから、早う!」

 なんだか解らんが、王女の前にひざまずく。

 すると、王女は手を広げて、何かを唱え始めた。言霊に伴い、彼女の身体が金色に輝き始める。


「「「おおおお~っ」」」

 商人達の驚く声が聞こえる。


「なんにゃー!」

 テントの前にいるミャレーも、騒いでいる。


「なんだ? なんだ?」

 魔法か? 王族も魔法が使えるのか?


いにしえより連なる王家の血筋を使い、リリス・ララ・カダンの名において、聖なる契約コントラクトを結ぶものなり』

 王女は俺の所へ歩み寄ると、膝をついて俺の首に手を回した。


聖なる契(エンゲージメント)

 王女が俺の唇に、自分の唇を重ねる。

 その瞬間、俺の身体に何かが流れこんでくるのを感じる。まるで体内を火炎放射器で炙られているような感覚。


「はぁはぁ! 一体、何を!?」

「聖なる契は済んだ」

 まるで力を使い果たしたように倒れこむ王女の身体を支える。

 まだ身体が燃えるようだが、病気のような気分の悪さではない。まるで、身体の奥底から力が沸き上がってくるような――。


「リリス様。これは魔法ですか?」

「たった今から、其方は聖騎士となった……」

「はぁ? 騎士ですか? 私は王家に忠誠を誓ったりしていませんけど?」

「そんな物は関係ない。王国の危機を救い、妾の命を救ったのだ。其方には十分にその資格がある……」

 王国の危機を救ったって、まだ工事の途中なんですけど……。

 この光景をみたメイドさん達が駆けてきた。


「姫様! お身体は?!」

「大丈夫じゃ。大事無い」

「しかし、よろしいのですか?」

「よろしいも何も、妾が望んだ事じゃ」

「……陛下や王妃様、王族円卓会議の面々が何と仰るか……」

「そんなものは知らぬ! 国を救い、民を救い、妾の命も救った者に王族の祝福を与えて何が悪い! いざとなれば身分など捨てればよい! マイレンも妾を見捨てて構わぬぞ?」

「私は、姫様のお側にずっとおりますので、そのようなご心配には及びません」

 ちょっとちょっと、また面倒事に巻き込まれる予感なんだが……勝手に巻き込んでくれるなよ。

 

 だが、王女がぐったりしてしまったので、メイドさん達に彼女を家まで運んでもらう事にした。

 王女の様子からみて、かなり消耗しているようだ。

 彼女の話では――王国の危機を救った者に対して、王族から与えられる祝福らしい。


「マイレンさんは、これが何か知っているのですか?」

「あの……王族の力は秘匿されているので……その」

「よい……」

 ぐったりとしている王女が、許可を出した。


「本家王族の中には、死ぬまでに一度だけその力を行使する事が出来るお方がいらっしゃるのです」

「リリス様はその1人だと?」

「はい……」

 心配そうにやって来た、プリムラにも尋ねてみるが、知らないようだ。


「私も初めて聞きました」


 聖騎士ってのは何なのか。

 もしかして魔獣の革と筋肉で作ったオーラナントカに乗れちゃう? あれは「聖戦士」だっけ?

 王女の回復を待って、詳しく聞いてみない事には、なんとも言えない。

 

 う~ん、とりあえず飯を食おう――腹が減った。

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