旅立つ前に
Wing2 旅立つ前に
地下に帰ると、人が集まっていた。野次馬のようだ。中に何か言い争っている人がいる。
「俺がこんなの無料で修理するわけがねえだろ!!しかも最高級のミスリルを使って、これじゃ大赤字じゃねえか!!」
鍛冶屋らしきおじさんが女の人に怒鳴っている。
「ふんっ!あんたが無料で修理してくれるって聞いた証人が何人もいるんだ?!だから、あたしはお金は一切出さないからね!!」
「俺も聞いたぞ!!」「鍛冶屋のぼったくりめ!!」
女の人は、三つ編みでポニーテールのような髪型をしていた。両手で剣を持っている。そして、スリットの入ったスカートに胸元が見えるチャイナドレスのような格好で、スタイルも良かった。そのせいか、周りの野次馬の男たちは女の人の味方で、鍛冶屋のおじさんに罵声を浴びせた。
「くっ!!どうせ呪術師のお前のことだ、また俺に剣を修理するように呪術でもかけたんだろ?」
「さあね?かけた覚えはないと思うが・・・?」
女の人は首の後ろをさすりながら言った。
「絶対かけただろ?!!」
「うっさい!!!かけてないって言ってるだろ!!あんた、あたしの胸元見て鼻の下伸ばしてたから、修理代無料にしたの覚えてないだけじゃない??!」
女の人が大声で言った。
「やっぱりあのおっさんそういうやつだったんだ・・・。」「エロじじい・・・。」「やらしい・・・。」
周りから、ひそひそと小言が聞こえてきた。鍛冶屋のおじさんに冷たい視線が集まった。
「お、俺はそんなつもりじゃ・・・!!!く、くそっ!!持ってけ泥棒!!」
みんなの視線に耐え切れなかったのか、鍛冶屋のおじさんはその場から走り去ってしまった。
「泥棒じゃなくお客様だ!!あんたみたいなやつはとっとと帰って水でも啜っときな!!」
「よっ!さすが姐さん!かっこいい!!」「ミーシャ姐さん最高!!」
野次馬から次々と口笛や叫び声が聞こえる。
「ん?」
女の人は何かに気付いたのか手を振った。
「ミーシャ!!また揉め事を・・・!!」
女の人に男の人が野次馬を押しのけて駆けつけた。男の人は伝助だった。
「売られた喧嘩を買って何が悪い・・・・っ?!」
ミーシャは腕を組んで浮かない顔だ。
「・・・でもかけたんだろ?・・・呪術。」
伝助が頭を呆れ返った顔をして言った。
「・・・・・少しだけかけたような気がする。」
「少しだけって・・・・あんまり呪術を悪いことに使うなよ。後で罰が当たるぞ。」
伝助は左手で頭を抱えた。
「悪いことに使った覚えはない・・・・ぁ・・・!!」
ミーシャは、ライトに気付き、手招きした。ライトは小走りで駆け寄った。
「目が覚めたんだね。あたしは、ミーシャ。うちの旦那があんたを教会に運んだんだよ。ああ、旦那ってのは・・・」
「俺のことだ。」
伝助はどうやらこのミーシャという女の人と結婚しているらしい。
「そうだったんですか。ありがとうございました。あと、僕はライトって言います。」
ライトはペコリとお辞儀した。
「結構礼儀正しい子だね。ああ、あとコレ。あんたの剣折れてたから直しといたよ。にしても、細い剣だね。こんなだからすぐ曲がっちまうんだよ。まあミスリルで加工しといたから大丈夫だろうけど・・・それにあたしの呪も施してあるしね。」
ミーシャはライトに剣を手渡した。
「剣まで直して頂いて、本当にありがとうございます。」
ライトは早速腰に鞘ごと剣を提げた。
「そういやぁ、ライト、おまえセシディアに行くんだろ?王を倒しに。」
「ええ、そのつもりですが・・・?」
「・・・なら、俺も連れてってくれ!!」
「何言ってるの?!赤ん坊だって生まれたばかりなのに・・・!!あなたはうちの亭主なのよ・・・・いなくなったら・・・・・。」
伝助の言ったことにすぐさまミーシャは異議を唱えた。
「大丈夫、すぐ帰ってくるから。それまで、キリクのこと、頼んだぞ。」
伝助はミーシャを抱き寄せた。キリクとは、二人の子供らしい。
「・・・・・分かった。行っといで、必ず帰ってくるように・・・。」
ミーシャはそっとキスをした。
「・・・これも何かの呪か?」
伝助が頬を赤く染めて言った。
「さあね・・?」
ミーシャは伝助に背を向けた。ライトから見た横顔からは、微笑んでいるように見える。けど、涙が零れていた。
「さて、それじゃあ旅の用意をしなくちゃね!食料も水も衣類もいるね。そういえば、義手もいるかも・・・。」
「義手はいらないって!!」
ミーシャと伝助はすぐに荷造りに入った。
「それじゃあ出発しましょう!!」
着替えてきたクレスが弓矢を掲げて叫んだ。
「本当にクレスも行くんだ・・・・。」
ライトが小声で言った。
「まあ、心配すんな。あれでも一級の弓術師だ・・・」
「きゃっ!」
ズザーーーーーーッ
クレスが足を踏み出した途端、小石も何もないのにダイナミックにこけた。
「・・・・・・まあ、弓術以外のことは大目に見てやってくれ!ははは・・・」
ポンッポンッ
伝助が苦笑いして、ライトの肩を叩いた。
To be continued