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和風ヤンデレ乙女ゲームの脇役に転生しました?  作者: 千我
一章「脇役に転生しました?」
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七話「もろもろとの遭遇・一」

翌日。朝のニュース番組を白鷺ちゃんと一緒に見ながら、私はこくこくと頷いた。

寮のリビングには白鷺ちゃんと私以外にも、朝ご飯を食べ終わった寮生たちがちらほら居るが、何故か視線を合わそうとするたびに避けられる。うーん。白鷺ちゃんと一緒だからかも。鬼の一族にとって、勾玉を持つ白鷺ちゃんは、どうにも気になる存在らしいのだ。もちろん勾玉のことを把握しているのは、一部生徒と教師だけらしいけど……。

惹かれる、のと。近づき難い、のと。

力の大小に関わらず、鬼の一族は白鷺ちゃんにそういうものを感じるらしい。

故にゲームでも友達は、私一人だったんだよね。人間にはそういうの関係ないから。

でも……友達、かぁ。

高校時代の友達ってずっと友人ってこともあるって聞くし、私の前世にも進む大学は違っても、連絡をちょくちょく取り合って遊ぶ高校時代の友達っていた。

だけど、このままじゃ白鷺ちゃん、私以外の友達ってできるのかな。人間の子も、鬼の生徒が遠巻きにしているのを見て、白鷺ちゃんから距離取るはずだし……。

さ、さすがに、初日でここまで考えるのはお節介ダヨネ!うん。


「卯月さん、私ちょっと早めに行くね」

「ん。わかった。私、これ見てから行くことにする!」

「……占い好きなの?」


ニュースからちょうど占いコーナーに移ったテレビ画面を見て、白鷺ちゃんが首を傾げている。私は大きく首を振った。


「ううん、運気が必要なの」

「なるほど? がんばってね、卯月さん」

「あ、白鷺ちゃんのも見とくから! 何座だっけ?」

「うーん。気にしたことないから分かんないや」


そう言って肩を竦めた後、白鷺ちゃんは「多分、獅子座か、みずがめ座だったような」と付け加えた。果たして白鷺ちゃんの誕生日は、夏か冬のどっちだ。手を振ってよいしょっと立ち上がる白鷺ちゃんを見送ってテレビ画面に視線を固定する。

よしよし、今日は5位か。入賞圏内ならいい数字である。ガッツポーズしながら、鼻歌を歌った。べつに、占いが凄く好きというわけではない。嬉しいがそれとこれとは別である。

これも、私の使命への布石なのだ。何せ、次は運が試されるのだから。


勾玉の欠片イベントは、全三回。三箇所から探し出さなければならない。

しかもどの勾玉の欠片も、入手できる期間が決まっているという難易度の高さ。

1つ目を無事入手できはしたが、慢心せずに次へ進むべきってことだね。

そして、次の欠片は――。

校舎一階の「開かずの扉」を下り、地下につくられた校舎の一室にある。

だが、十畳ほどのがらんとした部屋に、勾玉の欠片が落ちているわけではない。きらきらしているわけでもない。

首を傾げるプレイヤーに、いきなりどどんっとメッセージが出る。


「部屋をクリックして、勾玉の欠片を探そう!」と。 


ちなみに、このメッセージは八割のプレイヤーに「私は乙女ゲーをしにきたのだ、作業ゲーをしにきたわけではない」と言わせたらしい。

私も言った。

なにせやることは、床、天井、壁。ありとあらゆる場所をクリッククリック。

運がよければ一回、一日目で。運が悪ければ、一週間後の期限ギリギリまで見つからない。一日でクリックできる場所は、三箇所のみ。

まあ、時間経過で、見つかる確率は高まっていって、最終日はほぼ百パーセントの確率で見つかるというのは攻略本知識である。つまり、期限ギリギリに見つけるほうがラクなのであった。


しかし、しかしなのだよ!


異世界に転生だか憑依だかしてしまって、挙句の果てに記憶喪失(仮)になった私の運がいいと言えるのだろうか。いや言えない。絶対ない。運があるとしても不運のほうだね!

ゲームではぎりぎりになれば、「よっぽど運が悪くなければ」見つかるようになっていた。何週もしているプレイヤーは、一週間最後の日の最後の行動時間にセーブ&ロードを駆

使して一発で取り、その時点のセーブデータを周回用に残しておくらしい。

だけど、私にはセーブロード機能はないし――ないよね?――何より、二日目の今日なのに、既にゲームから外れている展開が二、三個ある。

ゆえに、きたる六月の第一週に向けて、今から運気を上げておくべきだろう。

それ以外私にすることもないと言う。あとは、学生の本分をまっとうすべきか。六月までは、記憶探しに、白鷺ちゃんと仲良くなるかなあ。

いつの間にか占い番組も終わっていたので立ち上がる。テレビー、消したほうがいいかな。それとも、誰かまだ見て……ん?


「だ、誰も居ない……!!」


朝のリビングで、私は名画ムンクの叫びになった。



急いで教室に向かうと、もうクラスメイトみんな着席して、先生が教壇に立っていた時の、居た堪れない感ったらない。

私は、意を決して前から入り、先生に「おはようございます」と挨拶して、ちょっと怒られてから堂々と自分の席に向かった。

嘘です。早足になりました。早足で自分の席を目指しました。

隣の蘇芳くんが、呆れたように見てました。なにやってんだコイツ的な視線でした。

斜め前の白鷺ちゃんは、こっちをちらっと心配そうに見てくれた。

ふ、二日目から嫌な意味で目立ってしまった……。


心の中で五体を投げ出していると、今日一日は、ホームルームのような扱いらしい。

九時からぐるぐる校舎内の主要施設を歩き回り、十時半から体育館で新入生歓迎会。歓迎会は十二時まで続いて、お昼休み。

お昼休みの次には、業者が来て教科書の販売を行なうのだとか。なるほど……あの三万円は、教科書代か!! 私は深く納得した。あとで、ベッドの下に貼り付けたブツを回収しなければ。でも貰ったプリントによると、五千円くらいあまりそうなんだけど、その分は着服もとい、お小遣いにしてもいいかな。

先生のちょい長めの話が終わり、時刻は8時45分。各々みんなが立ち上がる中、私は、前の席の「井上東子」嬢を見た。入学式に欠席していた彼女は、今日も欠席していた。


「卯月さん、間に合ってよかった。ごめんね、先に行っちゃって。

その、私、ちょっと用があって……」


こちらをくるりと振り返った白鷺ちゃんの申し訳無さそうな声にハッと顔を上げる。隣では、蘇芳くんが、くぁと欠伸した。用……用。

ちょっと気になる。聞いてみようかな、いやいやまだそこまで親しくない?

ぐるぐる悩む私の脳裏にパッとイベントの四文字が躍り出る。

今日ってなにかあったけ? 二日目だもの、そりゃあるよね。たしか一週間くらいは、イベント目白押し、で……サーッと血の気が引いていく音がした。がってむ!


「う、ううん。いいの、ぼうっと占いガン見してた私が悪いんだし!」

「ありがとう、卯月さん。卯月さんは優しいね」


にこと白鷺ちゃんが柔らかく微笑む。

私は、さっきのことも忘れてきゅんとした。でも、すぐにさっきのことを思い出して胃が痛くなった。一日目は、蘇芳くんとの固定イベント。

そして、二日目朝は、あの鬼とのイベントである。金髪金目で、笑顔がきらきらの……まるで聖職者のような顔をしたドS。立ち並ぶヤンデレバッドエンドは、拉致監禁に精神破壊、親兄弟の命乞いを主人公にさせる(でも僕以外はいらないですよねで助けない)、自分の言うことしか聞かないように洗脳するといったラインナップ。

絶対に近くに居てほしくない鬼ランキングのトップ3に入る、山吹朽葉とのイベントなのだ。

白鷺ちゃんは、そんな彼が女の子に、まあ、接吻している姿を見ちゃうんですよね。そして、見られた山吹様(一部のゲームキャラにも、ファンにもこう呼ばれている)は、主人公ちゃんに笑顔で口止め。唇に指を当てて、「内緒ですよ」というイベントだ。

ちなみに、私が昨日神社で大失敗をかました相手でもありますね。何で??何でよりによって山吹様相手にやらかした??

ついでに言うと、この後の新入生歓迎会が、生徒会長クーデレツンデレもとい、新橋縹のCG付きイベントである。もちろん、山吹様のイベントにもCG付いてた。言わずもがな、「内緒ですよ」のシーンである。

加えて、ですよ。ですよ。そのイベントの、後、新橋会長の、前……。


「茜。あ、居ましたね」


麗しい声が聞こえた。瞬間、ざわざわと女子の声がする。

このクラスには、高等部からの編入生が多いとはいえ、中等部上がりの子もやっぱり居るのだ。ざわつきの元は、そんな彼女達――山吹様や蘇芳くんのことをよく知る子らだろう。

というか、蘇芳くん、どこに……ああ、ここに居ましたね。

どうしてアウトロー気質な君が、真っ先に出て行かないのかなって思ってたけど、友人の山吹様をお待ちしていたのですね、うん。うん。

友情大事! 友達ってすってき、サヨリさんも白鷺ちゃんと仲良くなりたいなー!


「ん。あれ?」


山吹様が、白鷺ちゃんを見る。私かもしれない。いや、主人公の白鷺ちゃんであってくれ。

心の中で神様仏様アッラー拝火教の神様とりあえず、紅花神社の主宰神以外に祈りまくっていると、山吹様がこちらに近づいてきて、蘇芳くんが立ち上がった。山吹様は――

視線をこっちに向けて、にっこりと笑っていた。ひゃ、ひゃあああ!? いや、いやいや、白鷺ちゃんが微妙に顔を赤くしてるし、多分こっちたぶんこっち。


「ああ、やっぱり」

「わ、わわわたし、ちょっと忘れ物したから、とりにいってくるね、白鷺ちゃんっ」


私は小声でそう言って、猛ダッシュで部屋を飛び出した。ごめん白鷺ちゃん、たえきれませんでした。



罪の意識と、なにかあることないこと言われるんじゃないかと言う恐怖感から、私は、ほんとうに寮まで戻ってきてしまっていた。ここまでの時間、計5分。行きは倍かかったのに、やればできるじゃないか私。うんうんと頷いてから、寮の壁に背を預けてずるずると腰を下ろした。


「なにやってんの、私、めっちゃ不審者だよ……」


顔を両手で覆う。

私は大女優にも、極悪犯にもなれまい。フォーエバー一般市民だ。細く長く息を吐く。心臓がまだドキドキしていた。うーむ。

だけど、あまり落ち込んでもいられない。時間は有限なのだ。はたして校内ぐるぐるツアーに間に合うか謎だが、この俊足を生かし間に合わせなければならない。二日目で遅刻常習犯は嫌だしね!


「よし」


意を決して立ち上がろうとしたとき、くい、とスカートの裾を引っ張られた。

思わずそっちを見る。

白い髪。緑の目。黒尽くめの格好の細長い腕の男の子が、地面に倒れ伏して、私のスカートの端を掴んでいる。


ぐぎゅるるる……


その子のお腹が、鳴った。


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