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和風ヤンデレ乙女ゲームの脇役に転生しました?  作者: 千我
一章「脇役に転生しました?」
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六話「三つの決意」


ダンボールを開けた私は、早々に投了の気配を感じ取っていた。

コンパクトなサイズの箱の中に詰め込まれていたのは、長袖のパジャマ、私服がスカート一枚、ズボン一枚。上が二枚。あと、カーディガン。

下着や靴下類が三日分。タオル二枚。手鏡や櫛、筆記用具やノートなどは、シンプルながらも可愛らしいけれど、入っているというのが……これだけ、なのだ。後、奥底に入っていた、茶封筒に入った万札三枚。

すっっっっくな!! 少ない、なにこれ少ない! 

これどうなの。これで私は生活していけるの? むしろしていけていたの?


「……えーと」


ちらりと携帯電話に視線を移す。

「母」からのメールには、「足りないものがあったらメールしてね」とは書いてあったけれど、「そんなに少ない荷物で大丈夫?」とか「次の荷物はいつ頃送った方がいい?」とかはなかった。

つまり母的認識で、このダンボールの量は正常なのだ。ちょっと心配だけど、みたいな。

試しにカーディガンを引っ張り出してみる。サマーニットカーディガンのようで、思ったより薄手だった。色は淡いベージュ。私の好みとは、そう外れてはいない。が。


「はあ……」


けど、これは手がかりが少なすぎるよ……。

がっくりと肩を落としながら、カーディガンを畳む。普通寮に住むんだから、お気に入りの本とか持ってこない? こっそりゲーム機とか入れちゃわない? 私だったらノートパソコンは絶対持ち込むよ。ネット関係がないかもとか関係ない。ガンガンPCゲーム入れて満杯にしておくねっ。あと、携帯ゲーム機でしょ、ケースに、ああもうちょっと服欲しいし。

手をワキワキさせながら頷く。健全な女子高生も大して違わないと思うの。私ったらどれだけシンプルイズベストさんだったんだろう。

とりあえず――今は、こっちだ。

制服のポケットの財布を取り出す。私は、ダンボールの中身を確かめる間、脳内の片隅でシミュレートしていた状況を思い返していた。


『ねえねえ、白鷺ちゃんっ。これって、白鷺ちゃんの持ってたやつじゃない?』

『え? 私はちゃんと持ってるけど……』

『ええっ。あっれー? ほんとだ! でも、ほんとにそっくりなんだよコレ見てみて』


そして、白鷺ちゃんに勾玉の欠片を手渡す、と。多少強引でお節介で、押しが強すぎると思うけど……し、しり込みしてても始まらない! いくんだ卯月サヨリ、女は愛嬌!


「あっ」


わざとらしく声を立てて、白鷺ちゃんの方を見る。ちょうどこっちに向いた白鷺ちゃんと目が合った。なんというグッドタイミング!


「どうかした? 卯月さん」

「うん、ええっと今、思い出したんだけど……」


財布の中から勾玉の欠片を慎重に取り出す。

ちらと白鷺ちゃんを窺う。すこし驚いてるみたい? 掴みはオーケー?


「ねえねえ、白鷺ちゃん。これって、白鷺ちゃんの持ってたやつじゃない?」

「え、ああ……いいえ。私、ちゃんと持っているよ」


白鷺ちゃんは、勾玉を見ながら――いや、凝視しながら、首を振った。少し予想とは違うけれど、概ね予想の範囲内だ。ここで白鷺ちゃんが、勾玉を見せてくれないかな、とちらっと思ったけれど、彼女は勾玉の欠片を凝視したまま。ん? 私も見られてる、ような……いや、勾玉持ってるから、だよね。


「そうなの? でも、ほんとにそっくりなんだよ。コレ見てみて」


そっと勾玉を彼女の方に差し出すと、白鷺ちゃんはハッとした様子で首を振った。

それでも、まだじっと勾玉の欠片を見て……アレ? さっと冷や汗が背中を流れる。

私、もしかしてまたやってしまったんじゃないのか。あの勾玉は、持ち主である白鷺ちゃんや周りに守護を与えてもくれるが、同時に問題も引き寄せた。

……勾玉を、狙う者たちによって。近づいてきた笑顔の人に騙されたり、白鷺ちゃんの学校の机が荒らされたり、時には泥棒に入られたこともある。それだけじゃない。彼女がここまで慎重になっているのは、自分だけが被害にあっているからじゃない。白鷺ちゃんの弟くんは、――勾玉の情報に踊らされた「人間」に誘拐されかけたのだ。

弟くんを誘拐した相手は、白鷺ちゃんの当時の親友……の親。

勾玉に関わることは、白鷺ちゃんにとって重要だが、同時に悲しく辛いことなのだ。

うわあああ。もう、もうもうっ。わたし、なーにーやってるの!? 

あきらかに!初対面の私が、こんなこと言い出すなんて明らかに、あれでそれで疑わしいじゃんっ。ばかばかばかー!


「……ごめんなさい。ちょっと、びっくりしちゃった。

 ほんとうに、そっくりね」


そう微笑んで、白鷺ちゃんは勾玉を手に取ってくれた。緑色の勾玉が、白鷺ちゃんの手の中で、きらきら輝いているように見える。


「卯月さん、いまなにか言った?」

「ううん、なんにも言ってないよ?」

「そう。聞き間違いかな」


白鷺ちゃんは首を傾げながら、私に勾玉を返してくれた。その後は、お風呂入って、食堂でご飯食べて、ふかふかの布団に入るのである。私は、カーテンから漏れる月明かりを頼りにノートを開いた。

白鷺ちゃんの態度は、あの後も何も変わらなかった。話しているときに、時々ちょっとだけ笑ってくれて。私がなんかヘマをすると心配してくれて。

いい子だな。私、彼女のこと……なんも考えてなかったのに。

ただ、白鷺ちゃんが主人公だから、勾玉を見せなくちゃって――。


「自分が嫌になるなあ……」


小さくぼやいて、顎でシャーペンの蓋をノックする。優しくて、可愛くて、素敵な白鷺ちゃん。たった一日で、私はもうメロメロだ。そんな彼女はこれから大変な目にあう。異形の者と心を通わせることも、あるいは敵対することも――大切な人と、別れることも。

この世界はゲームじゃない。だけど、ゲームの中だ。私が知っている乙女ゲームの中。

だから、……。

ノートの一ページに、三つの言葉を書く。


・世界を救う

・卯月サヨリを助ける

・何があっても、白鷺小百合の味方


どれも言うは容易く行なうは難しい。

難しいどころじゃなくて、身一つでエレベストに登山するが如くだろう。

とくに一番。情報のなさなら二番も。私が今一番持っている情報。それは、このゲームについての情報だ。

暗号を駆使しながら、私はそれをノートに書き出した。五頁に及んだそれを、さらに一ページ三等分にして、ファイリングする。

シャーペンで穴を開け、通す糸は何故かダンボールの奥底に入っていた、糸をよりあわせたものだ。

じつに原始的。じつに涙ぐましい、チープさである。


「卯月さん、あかりつけても大丈夫だよ?」

「えっ。いやもう寝るよ!」


白鷺ちゃんの言葉に、私はパッと蓑虫になった。用意は万端、でもないけど次善くらいにはできている。目指すは、世界平和と卯月サヨリの平和と、白鷺ちゃんの恒久平和である。

がんばれ、私。がんばれ、私。私は、自分で自分を鼓舞しながら、目を瞑った。

即席メモ帳を、枕の下に敷きながら。



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