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和風ヤンデレ乙女ゲームの脇役に転生しました?  作者: 千我
一章「脇役に転生しました?」
19/63

十五話「情報収集の結果と彼女の秘密」



体育祭間近。詳しく言うと、五月二十六日まであと三日。

私は、深緑くんに呼び出されて――古典方法、ベランダに投げ込まれた丸めた紙を実行され――、早朝。

すっかりなじんだ気配のある寮裏に居た。五月とはいえ、この時間帯は眠い。いや寒い。

既に十年来着続けているかのように、肌に馴染んだ慣れたセーラー服の上から、腕をさすりながら、私はあたりをきょろきょろと見回す。

うん、居ない。……と思ったら、茂みに突き出るプラカード。そっちに歩いていくと、プラカードががさりと揺れた。


『おはようございます』

「あ、うんおはよう」


そう返すと、プラカードがにゅっと沈んで、深緑くんが現れる。何故、プラカードが本人より先に登場していたのだろう……。

そんな疑問が過ぎるが、新たに出現したプラカードによって、疑問は私の頭から去った。


『調査終わった』

「おおっ、ありがとう!」


私はぐっと拳を握り締めた。

彼に「調査」を頼んで、まだ三日。けれど、深緑くんはスーパー忍者なのである。

大抵の調査は一週間以内で終わるらしい。……これが凄いのかは、実はよく分からないのだが(何せ、比較対象がゲーム中には出てこない)、こうしてたった三日で結果を受け取るとなると、凄いとしかいいようがない。

深緑くんは、私の礼にこくんと頷いた後、どこからともなく新たなプラカードを取り出した。


『まず、蘇芳茜がもっとも仲いい女子は、卯月サヨリと白鷺小百合』

「うんうん」


ここは予測範囲内だ。大きく頷いて、次の報告を待つ。深緑くんにお礼と引き替えに頼んだこと。それは、「攻略キャラ」の皆さんがどの女の子と仲がいいかだ。

ただ、さゆちゃんとは限定していない。

「深緑くん」はこういうことをぺらぺら喋る人柄じゃないけど、「彼の主」に直接的なことが伝わるのはまずい。何事も用心に用心を重ねるのだ。

五月も後半。

ルート決定まで時間がまだあるとはいえ、ここである程度友好関係を築けていないと、後半が厳しい。具体的に言うと、数ある選択肢のうち、ベストなものを「全て」選ばなければいけないくらいには。

前半の好感度が不足していると、サブイベントもいくつか発生しないしね。


『山吹朽葉は、特定の女子と仲がいいとはいえない。

 一定以上の関係にあるといえるのは……』

「あ、それはいいです。ごめんなさいありがとうございます」


思わず条件反射的に、丁寧語になった。頭を下げた。深緑くんが、こてんと首を傾げている。いやいやいや。もう二か月近くまともに話してないけど、未だにトラとウマです。

こういう態度はたぶんよくないんだろうなあと思うんだけど、いかんともしがたい。怖い。


「次、次の方はどうでしたか」

『新橋縹も同じ。彼に恋愛感情を寄せる女生徒は多数居る者の、告白されても断っている』

「なるほど……」


ううむ。これは、さゆちゃんは順当に蘇芳くんルートとして判断していいのかな。

でも問題が一つある。

さゆちゃんと蘇芳くんの間で、恋愛イベントが進展している様子がないのだ。クラスも同じ、席も前後となれば、けっこう話す機会は多い。だけど、そこには必ず私も、他の面子も居るし、最近のさゆちゃんは昼休みアクティブに動き回っており、以前のようにお昼休み何となく一緒に食べるということはほぼゼロに近い。体育祭の種目決めのときといい、さゆちゃんって意外と行動的だったんだなー。

――まあ、それは置いておいて。


「ヘンなこと頼んじゃってごめんね、ありがとう。深緑くん」


頭を下げると、深緑くんは小さく首を振った。よし、あとは最後の仕上げである。

隠しキャラは、六月以降だから今は心配しなくてもいい。


「深緑くんは、えっと仲のいい人って誰?」


ごそごそとポケットをあさりながら尋ねる。

なんか、私、友人ポジキャラ的仕事を、今凄くしている気がする!

友人キャラに好感度やキャラクターの好きなもの教えてもらえるって、定番だよね。

だけど、あまりやりすぎてはダメだ。主人公は、たしかにさゆちゃんだろうけれど、攻略キャラの――彼らにだって、自由に好きな人を選んだり、誰に気兼ねなくくつろいだり、笑ったり。学園生活を楽しむ、義務と権利と自由がある。

そこら辺の線引きを、ちゃんと決めておこう。……えーと。


一、プライベートにはあまり首を突っ込まない! 

  好きなお菓子とかそんなレベルまで!

ニ、やるのはあくまで情報収集! 

  意図的に噂を流したりとかそういうのはナシ!

三、深緑くんに頼むのは今回で最後!


あと、いろいろと細かいことはあるけど、こんなところだろう。私は、友人ポジのちょっと情報通を目指すのだ。たしか、千年の恋歌の友人ポジキャラも、そんな感じだったはずというのもある。まあ、一番は世界の為自分の為、家族の為、さゆちゃんの為である。


『卯月サヨリ』

「……」


ぴ、とプラカードが上がった。

私は沈黙した。さ、さゆちゃんは!? さゆちゃんより好感度あるってことですか!?

一緒にソフトクッキー食べた後、深緑くんとは別れて、私は自分の部屋に戻った。

うーーん。ううーーん。

早起きの寮母さんに頭を下げ、階段をそうっと上がりながら悩む。

ここはやっぱり、さゆちゃんにずっばりびし!と、「今だれか気になっているひと居る?」と聞くべきなのだろうか。考えてみれば、それが一番単純で間違いない方法なのだ。

もっとも、最初は悪印象から始まるルートもあるし、そもそもこの段階では、恋愛イベントっぽいものは起きていないだろう。

第一、そのう、なんですか。

「誰か気になってるひと居る?うふふ」と、どのタイミングで切り出せばいいんだろう。

あと、「だれも居ない」って言われるのはいいんだけど、攻略キャラ以外の生徒をあげられたときは……どうしよう。――どうなるんだろう?


「よし!」


扉の前で仁王立つ。案ずるより産むが易しっていうより、はっきり聞いちゃうんだ!

私がさゆちゃんの味方なのは、なにがあっても変わらないし。

――最近、お昼はまったく一緒に食べないけど!

――最近、放課後は桧皮さんや他の女の子と一緒のときのほうが多いけど!


……。

………。


「まさか……」


これって避けられてますか。いやいや!だって、寮の部屋ではいつもと同じように話するし! 互いの弟について語り合うし! さゆちゃんだって、他の友達も作りたいだけだよ! そうだよ!


「……ただいまー」


私はそーっと部屋に入った。

部屋を出たとき、さゆちゃんはまだ寝ていた。あれから三十分くらい。そろそろ起こしたほうがいいかな。音を立てないように、玄関のドアを閉め、寝室兼居間のドアを開ける。


「おかえり、サヨちゃん」

「あ。さゆちゃん、起こしちゃった?」


完璧に朝の支度をしたさゆちゃんが、テーブルの前に居た。ううん、今日も素敵な美少女ぶりである。


「起こしてないよ。いつももうちょっと早く起きてるから」


そうなのか。さゆちゃん、朝早いとは思っていたけど、こ、こんなに早起きなのか。

いやはや、まったく気づいてなかった。それだけさゆちゃんが静かで、私がぐっすり眠っているのだろうけれど、凄い。さゆちゃんなら、スパイとか忍者とかくのいちなれそうだよね! 


「サヨちゃん、お散歩?」

「うん、そんな感じ」


一つ頷いて、さゆちゃんの向かいの席に座る。うん、ちょっと手汗がにじんで頭がくらっとして、息が――緊張してる。私、いまかなり緊張してるぅっ。


「小百合ちゃん。ただいま、お時間宜しいでしょうか」

「いいけど、どうしたの。そんなに畏まって」


小さく口元に笑みを浮かべるさゆちゃんに、一瞬、ぽかんと見惚れてしまった。……なんかすごく、さゆちゃんの笑顔を久しぶりに見た気がする。

淡い笑み。仄かに新緑が香るような、朝露に濡れた葉を見ているような――おかしいな。最近、さゆちゃんの笑顔が増えたかなって思ってたのに。うーん、ヘンな感じ。


「そ、それはですね。これから大事なことを聞きたいという希望というか……き、気になっている人って居ますか!?」


しどもどから一転、私は一気呵成に尋ねかけた。迅速さが大事である。こういう物事は、あとからとても尋ねにくくなる。

誰のルートかを早めに見極める。

それは、今後の被害予測という観点からも大事……さゆちゃんは、ぽかーんと口と目を開けていた。うん。そうですね、唐突過ぎましたね。

朝ご飯の和食が、いきなりエスニックに変わるような唐突さ、だめだ私なに言っているのか分からない。


「気になる人、かあ」

「す、好きな人でももちろん可デスヨ」


私は怪しい日本語発音を披露した。さゆちゃんは、ちょっと視線を遠くに向けた。


「居るよ。……ずっと忘れられない人が」


さゆちゃんは、口元に笑みを刷いて言った……。


衝撃発言である。

もう一度言う。

衝撃発言だった。

さゆちゃんが出会う攻略キャラたちは、全員が初対面といってもいい。さゆちゃんを知っている人は居ないし、さゆちゃんも会ったことはない。いや、ちょっと微妙なキャラも居るけどね。だけど、「彼」のことをさゆちゃんが思い出すのは、彼ルートのルート後半である。

だから。もし、さゆちゃんが忘れられない、気になる人と、といえば……。


「そろそろ行かないとね。サヨちゃん、一緒に行こう」

「うん」


促されるまま立ち上がって、私は立ちくらみを起こした。さゆちゃんが心配そうに大丈夫?と尋ねてくれる。首を振って、私は大丈夫と答えた。しかし、頭の中は大混乱。大反乱である。気になる人? 木になる人? ちがう!ちがーうっ。

さ、さゆちゃんに好きな人? えっ、誰? この美少女のハートを奪って離さない人って誰? 幼馴染的存在ですか、それとも前世関係ですか、大穴で禁断の姉弟愛ルート!?

息を止めていたらしく、頭がくらくらとして来る。

もしも、もしも。さゆちゃんの好きな人が、攻略キャラクターでなかったら。

いったいこの千年の恋歌は、どこに行くんだろう。現実とゲームは違うから、私が危惧していることなんて起こらなくて、ずっと続けばいいと願った日常が、当たり前のように十月以降もあるのだろうか。


「……わからん……」


とりあえず言えることは、ただひとつ。

こ、これから、ほんとにどうしよう……。



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