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和風ヤンデレ乙女ゲームの脇役に転生しました?  作者: 千我
一章「脇役に転生しました?」
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間話「濃い赤」



もうすぐ体育祭らしい。

蘇芳茜は、自分の席でくあと欠伸をした。

昼休みの教室は、少なからずその話題が出ているようで、ちらほら聞こえるそれを茜は時々拾うだけだ。


「応援団員ってだれだったっけ」

「優勝ってやっぱ三年だよなあ。新橋会長居るし」

「朽葉様、リレーに出るんだって。あたしも立候補すればよかったなあ」

「でも桧皮さんと、白鷺さんだよ? あんたじゃムリムリ」


茜はごろと机へとうつ伏せになった。眠くはない。聞きたくないわけでもない。かといって、クラスメイトと話さないわけでもない。単純に、面倒くさいだけどいうと、一組の朽葉や、前の席の白鷺小百合は、肩を竦めて「違いますよね(でしょ)」という。そこまで想像して、茜は眉を寄せた。もう一人忘れていた。うっとうしいのを。


「うぎゃぁぁぁ」


その鬱陶しいのは、横で変なうめき声を上げていた。

うぎゃあって。生まれるのか、何か。茜は突っ込んで、僅かに視線をそっちに向ける。


「……そうだ、お弁当なかったんだよ。玉子焼き!」


隣の席の少女、卯月サヨリは玉子焼きともう一回、語尾にしながら、くっと拳を握った。

その声は、隣の茜を気遣ってか、ややひそめられてはいるものの、突っ伏している茜にも、充分届いている。


「どうしようかな。今から購買いっても、ロクなのないだろうし。

 かといって学食はちょっと高めだし。ていうかなんで学食あるんだろうね?」


お弁当作ってもらえるのに、と卯月サヨリは悩み始めた。どうでもよくないか、と茜はいちいち心の中で突っ込む。もし、サヨリがこの茜のいちいち突っ込みを知ることになったら、攻略キャラからの突っ込み、とがくがくぶるぶる震えてちょっと喜んでいただろう。しかし残念ながら、茜は一生、この突っ込みを口にするつもりはない。

ひっそりと見守る(いや眺める)茜からの視線に気づかずに、卯月サヨリは、今度は、携帯電話を取り出した。ご飯より大事なことを思い出したらしい。

ぱか、と開いたガラケー。かちかち、と小さくボタンを押す音が聞こえる。

とうとううつ伏せから、頬杖の体勢に移行した茜は、やっぱりソレを見る羽目になった。


「ぅぅう、かわっ、かわい!」


ばしばし。机を叩く三ミリ手前で止め、また振り上げを繰り返している右手。

がっちりと携帯電話を握っている左手。やにさがった中年親父のような笑顔。

きもちわるい。とてもきもちわるい。

茜は、見ていたことを悟られないように、そっと隣の女子力マイナスを突っ走っている、

女生徒から目を離した。

一分ほど、その悶え地獄が続いて、かちかちという音がし、茜も逸らしていた視線を戻す。


「蘇芳くん?」


ぱち、と目が合った。茜はひっそりと見ていたことを、まるっきり感じさせない不自然さで、小さく息をつき。


「……もう昼、食べた?」

「!!?」


瞬間、茜はサヨリの後ろに稲光が走ったのを見た気がした。


「あああありがとううっ。じゃ私、購買行って来る!」


立ち上がって頭を下げ走り出す。それと同時に礼の言葉が言われ、まるでドップラー効果のように、遠ざかっていく。

飛び出していく少女を見送って、茜はため息をついた。そんな茜のため息を遮るように、がらりと扉が開く。


「こんにちは、茜。ご飯食べました?」

「……まだだけど」

「ありがとうございます、待っていてくれたんですね」


友人の朽葉が都合よく解釈して、購買のパンと野菜ジュースのパックをサヨリの机に置いた。


「違うっての」

「はいはい」


くすくす笑う朽葉の様子に、うっとりとしている女子生徒が目に入る。

それを横目で見ながら茜は鞄から弁当を取り出し、朽葉と適当に話して食べた。

赤の蘇芳と黄の山吹。二人の様子を一年二組の生徒は、表面上は穏やかにけれど時折露骨な視線がやってくる。

だが、話しかけることはしない。

話しかけやすいと思われている朽葉ならまだしも、最高位の鬼かつ自分からはあまり口を利かないと思われている茜も一緒なのだ。それを狙って朽葉がだいたい茜の居る教室に来るのも、もちろん、ただそれだけではないのも茜は知っている。


「……いつもありがとうございます、茜」

「はいはい」


適当に返事をして朽葉のパンを見る。購買限定全部のせ惣菜パンだ。焼きソバ、コロッケ、魚のフライ。

定番の惣菜パンの具材が入ったそれを、茜は眺めて、野菜ジュースのパックを見る。

山吹朽葉と言う王子様然とした人間には甚だ似合わないものだったが、ファンからするとそれがいいらしい。スマートフォンを取り出す姿が見えて、視線で牽制し、茜は玉子焼きを口に運んだ。


「そういえば、僕が席を借りている子って誰なんでしょうか。一度も会ったことないんですけど」

「……俺もよく知らないな」


そらっととぼける茜に朽葉はなるほどと肩を竦めた。蘇芳茜はそらっととぼける時、視線が上向くのである。これは、長い付き合いの朽葉と、既に知っているサヨリしか知らない彼のクセであった。


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