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和風ヤンデレ乙女ゲームの脇役に転生しました?  作者: 千我
一章「脇役に転生しました?」
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間話「鷺を烏」


「あ、電話」


さゆちゃんがそう言って、携帯電話を開いた。ちなみに、さゆちゃんは私と同じ開くタイプ。つまりはガラケーである。そして、付け加えるのなら、蘇芳くんもガラケーだった。

この一帯、ガラケー地帯なのである。


「ちょっと出てくるね」


そう言って、さゆちゃんが席を立った。休憩時間は、十分。まだ始まったばかりとはいえ、電話内容の如何によっては、さゆちゃんの遅刻もありうる。


「いってらっしゃーい」


私は軽く手を振ってさゆちゃんを見送った。隣の蘇芳くんは、どうやら眠いようで、机に突っ伏していた。



「……はーい」


人気のないところまできた小百合は、ピッと通話ボタンを押す。ただし、壁に背を預けて口元を手で覆い、視線も常に廊下の左右を見る。そうして全方位を警戒しながら、小百合は電話の相手の反応を待った。


『もしもし、さゆ?』

「はいはーい。あなたの愛しのさゆちゃんですよっ」


ぴし!

ピースまで決めた小百合に電話の向こうの彼は、一時的に沈黙する。

いや、ごほ、と咳き込んでいる音がする。咽たのかもしれない。まったく、軟弱モノの弟だ。それに、電話の向こうの姉の可愛い姿に咳き込むとは、何事か。小百合は自分の返しを忘れて、むふーと鼻を膨らませた。


『まさかずっとそのノリ、じゃないよね』

「あははー。まさか、さゆちゃんのテンション、あげあげのりのりですぅ。

 今日は、サヨちゃんとハイタッチしちゃったし、桧皮さんと固い握手も交わしちゃった!」


今度は、額に拳をぶつけてみる。所謂、てへぺろというポーズだ。

ごほごほ。また咽た音がする。いい加減、このテンションの自分に早く慣れてしまえばいいのに。そっちの方がラクだよー、と小百合は、心の中でうんうんと頷く。

しかし、慣れてしまったら、自分としての何かが終わると、相手が思っていることを、小百合は知らなかった。暫くして咳き込む音が止み、変わらず周囲に視線を向けながら、小百合は緩く彼の名前を呼んだ。


『接触はやめてっていったはずだけど』

「うふふ。女の子なら、あれくらい当たり前だよ?

 むしろ、あの状況でサヨちゃんのハイタッチ断ったら、サヨちゃんの好感度下がってたと思うな~」

『別に』


彼は、間髪入れずどうでもよさそうに言った。

小百合は眉を寄せて、あーあ、と小さく心の中でため息をつく。かわいそうだった。好感度下がってもいいと思われているのに、あんなに目、きらきらさせちゃって。可愛そうだよう、という抗議を口の中でもごもごする。

でも、まあ少しだけ優越感もあった。小百合は、自分と似た名前の女生徒に、それなりに愛着を持っていた。素直なところが可愛いよね、と思う。ポンコツっぽいところも、愛嬌の一種だ。だけどやっぱり、彼が女の子に興味を持っているのは、応援するけれどいろいろフクザツなのだ。

小百合は、こほん、と咳払いした後、首を傾げる。この廊下は、ほんとうに人通りが少ない。


「……で、そっちはどう?慣れた?」

『そうだね。慣れたよ』

「……そっか」


小百合は小さく頷いた。くるくると、人差し指で髪の毛を巻き取る。

慣れたならそれでいい。こっちも大分なれてきたよ、と小百合はもう一度返して、腕時計を見た。休み時間が終わる、二分前。もう戻らないと、次の授業に遅刻してしまう。

それは向こうも同じだろう。誰かが呼ぶ声が聞こえて、小百合は、明るく声を上げた。


「それじゃあ、また後でね、菫」

『うん。……小百合、気をつけて』


お互いの名前を呼び合って、同時に通話ボタンを押す。

今回は、菫の方が早かったようだ。通話の切れた携帯電話の画面を見ながら、小百合は小さく息をついた。


だれも、だれも、ここには居ない。

だからだれも、だれも、見ていない。

胸元の勾玉を、制服の上から握り締める。

小百合は、大きく息を吸い込んだ。

大丈夫。コレがある限り、小百合は大丈夫なのだ。じんわりと熱を持ち始めたような気がする勾玉から手を離して、小百合は携帯電話をスカートのポケットに仕舞った。


「……さて、と。行かないと、だね」


気合を入れなおして、小さく笑う。

明るく、ではなく清楚に。笑う様は、可憐に。


そんな少女の仮面を被りなおして、白鷺小百合は小走りで教室に向かった。



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