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和風ヤンデレ乙女ゲームの脇役に転生しました?  作者: 千我
一章「脇役に転生しました?」
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十二話「体育祭の話・一」



体育祭の花形競技といえばなんだろうか。チアガールや応援団長の気合入った応援合戦? 確実に五個は変なモノが指定されるという借り物競争? 他にも騎馬戦、組体操、エトセトラ、エトセトラ。いくつも出てくる。

だが、私はこう思うのだ。……体育祭のプログラムの最後にある、種目が花形競技だろうと。

紅緋学園体育祭。

プログラムの最後を飾るのは、学年別対抗リレー。


私はそのトップバッターを任され、ぼうぜんと、そうボーゼンとリレーのバトンを握っていた。


なん……なんで……

どうして……どうしてこうなった……!



話はちょっと遡り、中間テストのあたりに戻る。

最後の答案用紙が返却され、私は、ガッツポーズしていた。ぎりぎりセーフ! ぎりぎりセーフだけど平均点越え!! 

いやったあああ! 高校の勉強なんて楽勝でしょうとか思っていたけど、とりあえず勉強していた自分に拍手喝采を送りたい!


「さゆちゃん、いぇーい!」


私はノリノリで、前の席のさゆちゃんにハイタッチを求めた。人形の如き美少女であるさゆちゃんは、多分いつもなら、すこし恥らってそれに応じてくれただろう。

だがしかし、今は彼女も全てのテスト返却が終わり、開放感に溢れていた。


「いぇーい」


のりのりでハイタッチをしてくれる。いやー! さゆちゃんの「いぇーい」です。いただきました!頂きました!! ウルトラスーパー可愛いです! 私が男だったら、鼻の下をでれでれと伸ばしていた自信があります! 黎という可愛い弟が居なかったら、妹にほしがった自信もあるね!

そんな私たちを、蘇芳くんは半目で見た。それくらいで騒ぐなよ、とでも言いたげだ。

くっそ。さすが、クラストップの余裕は違いますね、コノヤロー。しかし、今の私は、地の底から這い上がるサブ・キャラ。

主人公を味方につけた脇役なのだ。普段なら周りの目が怖くてできないことも、やってのけることができる。


「ほらほら蘇芳くんも! いぇーい!」


ぴし!隣の蘇芳くんに向けて、両手を構える。のりのりなさゆちゃんも、同じようにハイタッチ体勢を蘇芳くんに向けた。


「……お前ら、恥ずかしくないのか?」


蘇芳くんはそんな私たちを、憐れみの眼で見た後、ぺしぺし、と掌をぶつけてくれた。

その耳が赤かったことを、私はしっかりバッチリ覚えておこうと思う。

私は浮かれたバナナみたいな気分で、真正面を振り返った。

最後となった英語のテスト返却は、四限目に行なわれ、今は昼休み時間。

未だに空いている私の前の席に移って、さゆちゃんとご飯を食べる前に、ぱかと携帯電話を開いた。

朝出したメールの返信チェックだ。黎はわりと筆不精だからね。昨日出したメールが今日返ってくることもザラだ。だが、しかし、今日は休み時間に返してくれたらしい。

十時過ぎてるから――ちょうど二限目が終わった辺りかな。


『From:黎

 Title:Re:おはよー!

 おはよ。

 体育祭がんばって('A`)』


私は、読みながら、軽くパシパシと自分の机を叩いた。

隣の蘇芳くんが、怪訝な目でこっちを見てくるが気にしていられない。

――もう、もう! ほんとにもう! 黎ったら黎ったら!

ぱしぱしぱし!机をたたく音は止まない。蘇芳くんが視線を向けることも諦めたようだ。

またあいつやってる、みたいなため息の音も聞こえる。あははは、すみません。実に申し訳ない!だけど、だけどね。蘇芳くん!


「だって蘇芳くん。蘇芳くんや」

「……なんだ」

「これ見てよ見て」


私はノリノリテンションのまま、黎と自分のメールを見せた。ちなみに私のメールはこんな感じである。


『To:黎

 Title:おはよー!

 おはよう、黎。起きた?

 今日は最後のテストが返ってくる日だよ~><

 黎はどう? そろそろ返ってくるんじゃない?

 そういえば、体育祭の種目決めもあるみたい。

 黎のとこは、9月だっけ。

 と、気をつけていってらっしゃーい(^ω^ )/’’’ 』


「……」


蘇芳くんはなにが?と言った風に首を傾げる。その顔がややうんざりしていることに私は気づいた。……さすがに奇行がすぎたかもしれない。こうした積み重ねが友達を失っていくのかも。だが、しかし!


「いやだってね。どうしてこんなに短いのかな? それになんで頑張っての後に落ち込み顔がつくのー!だー!」


ぱしぱしぱし。机を叩く私に、蘇芳くんは緩く息をつくと。


「メール、長いんじゃないか?」


とだけ返して、さっと視線を逸らした。悲しい! 私は悲しいぞ蘇芳くん!


悲しさを胸の奥にぎゅっぎゅっと押しやりながら、さゆちゃんとお弁当を食べ、他愛ない話をし、蘇芳くんのもとにやってきた山吹様を、腹ごなしと称した校内マラソンで避ける。深緑くんとは最近会わないが、天使こと新橋会長は三年廊下に踏み入ると、時々見かけた。だいたい人に囲まれて、大変そうだ。私は遠目から拝むだけにした。

まだまだ、私の目的達成には遠いが、大切な友達が居る。記憶は戻らないが、可愛い弟の仲も順調。うん、これぞ我が世の春かな?  


「さっきの子、茜の友達ですか?」

「ん……クラスメイト」

「サヨちゃん、じゃなかった。卯月さんだよ、山吹くん。この前会った……」


さゆちゃんの言葉に、山吹様が視線を逸らし、蘇芳くんが考え込む。それも一瞬のことだった。


「……朽葉?」

「いえ、彼女、いい走りっぷりだな、と。リレーの選手にいいかもしれませんね」


山吹様は輝く笑顔でそう言った。

これを私が見ていたら、ムンクではなく、自由の女神のごとく戦っただろう。

わが身の選択の自由の為に。


「山吹様、あの子を推薦なさいますの?」


クラスの中で女子のリーダー的な子が、山吹様にそっと話しかけた。彼女は山吹の傍系で、無論、鬼の一族である。鬼の中でも位が高い方である彼女は、このクラスの鬼の一族のまとめ役のようになっていた。ここには、赤の蘇芳の跡取りが居るのだ。クラス内の輪を乱さないために、多かれ少なかれ、早かれ遅かれ、そういう人物は台頭していただろう。


「いえ、学年別対抗リレーの話だけど、僕は他クラスですから」


そう言って、山吹様はやんわりと否定した。

けれど。リーダーの少女は、冷静に計算していた。

普段、誰か一人に目のかけない山吹様が、気にする素振りを見せた人間の少女。

たとえ、それがどんな興味であろうとしても見逃せない、と。

ちなみに、彼女は、山吹朽葉とそーいう関係にない一人である。どうでもいい余談であった。

そう。

問題ごとと言うのは、良くも悪くも、油断したわき腹にボディーブローをかまされるがごとくだったのだ。


「卯月サヨリ!」

「え?」


教室に入った途端、私はわき腹にボディーブロー以下略だった。


「学年別対抗リレーに出なさい」


キッと私を睨みつける、このクラスの女子リーダー的存在。

そして、私とその子を交互に見るさゆちゃん。彼女は何かを決意したようにきゅっと唇を引き締めると。


「まっ、まって! 私も、出る!」


ぱ!と手を上げた。


私は幻覚的に痛む脇腹を押さえて目を白黒させる。

えっと。どういうことなの、これ。


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