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和風ヤンデレ乙女ゲームの脇役に転生しました?  作者: 千我
一章「脇役に転生しました?」
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十一話「はじめてのともだち」



私、嘘つきました。

白鷺ちゃんは、暫く怪訝な顔で私を見ていたものの、私が弟・黎のことを話しだすと、ああとすぐに納得してくれた。

ベッドとベッドの間に置いたテーブルに――これも実は備え付けというか、寮母さんにこういうのありませんかって聞いたら、持っていっていいわよーとくれた。大抵のものは、頼めば貸し出してくれるらしい。凄い。

そんなテープルに白鷺ちゃんと向かい合って座る。何気に、このテーブルをこうして使うのは初めてかもしれない。対面に美少女が居るって、恥ずかしいね!うん!


「そ、それでね、弟が、その……か、可愛くって!

 お姉ちゃんって呼ばれて感動しちゃって」


恥ずかしさを誤魔化すように、ぱたぱたと手を動かしながら言うと、白鷺ちゃんは微笑んだ。こっちもかわいい。


「分かる分かる。

 私もね、別の学校に通っている弟が居るんだ。メッセージがしょっちゅうくるの」


そう言って、白鷺ちゃんは微笑から、頬をゆるっとさせた。あれだ。

あれは私と同じ、弟の可愛さに、微笑がだらしなくとろけてしまうあれである。

すなわち、弟・ノロケモードとでも名づけようか。うへへ、つまり私もそれを発動中というわけですね、ふふふふ。サヨ姉、サヨ姉。うふふふ、リピートアゲイン! ブラコンとはむしろ褒め言葉ですから、えへへ。

――いけないいけない。だらしなすぎるのは、いけない。私はお姉ちゃんであると同時に、白鷺ちゃんのルームメイトでクラスメイトなのだ。彼女を失望させたくはない。


「いいなー。黎……うちの弟ってば、メール全然くれなくて」


これは事実である。だけど言いながら、私はちょっと凹んだ。そうだった。私の弟じゃないかもしれないんだった。憑依かも知れんもんね、私。


「それは寂しいな。卯月さんからはメール送ってるの?」

「……送ってない」


思わず、白鷺ちゃんから視線をそらした。正確に言うと、送れないが正しいけれど、まあそこは置いておく。視界の端で、白鷺ちゃんが、しゅぴんと眉を吊り上げる。


「それじゃあ向こうも送りづらいよ。

 きっと、黎くんも卯月さんからのメール、待ってると思うな」

「そ、そうかな?」

「絶対そうだよ!」


白鷺ちゃんは、握りこぶしで宣言した。私は腕組みして考える。黎のことはまだあまり知らない。迂闊なことを言って不審な眼を向けられたくない。だけど、私が動かなくちゃ、事態は動かないのだ。今回のことで、よく分かった。

恥を忍んでメールをしなければ、黎が偶然、電話に出ることもなかった。その場合、私と黎が話すのは、きっともっと後になっただろう。それを考えると、ちょっとブルブルしてしまう。だって、仲良くしたい。もっと知りたい。もう一度、「サヨ姉」って呼ばれてみたい!!

拳を作ってぶるぶる震え始めた私に、白鷺ちゃんがどうしたのという視線を向けてくる。

いけないいけない。煩悩のまま、突っ走ってはダメだ。

私と、黎はまったくの無関係かもしれないし。それどころか、彼の本当の姉の「卯月サヨリ」を乗っ取っている悪霊かもしれないのだ、私は。

クールダウン、クールダウン。かき氷、ソーメン流し、金魚すくい! ……よし、よしよし。

胸に手を置いて深呼吸してから、私は頷いた。


「ありがとう、白鷺ちゃん。私、頑張ってみる!」

「うん、がんばって」


もし私が憑依だとしても、卯月サヨリの為に、姉弟仲良くしておくのは悪いことではないはずだ。きょうだいは、仲いい方がいいもんね。

いや決して、弟と仲良くなりたい姉心はちょっとしかありませんよ。耳掻き一杯分くらいですよ。


「でも、白鷺ちゃんも弟さん、大好きなんだね」

「え? ……う、うん。いきなりどうしたの?」

「いやいや、同じ姉として見習いたいなぁって」


へらっと笑って、それからちょっとだけ心の中で続ける。多分、さっきの言葉は、白鷺ちゃんの実体験からくるものだ。

弟くんは、白鷺ちゃんと学園が違うのが寂しいと洩らしたことがあるのかもしれない。

もしくはなんらかの行き違いで、弟くんから白鷺ちゃんにメッセージを送れない日々が続いたのかもしれない。そして、なにか気に障ったと勘違いした白鷺ちゃんが、連絡を控えめにした日々が、あったのかもしれない。そういう実体験から来る重みが、白鷺ちゃんのさっきの言葉にはあった。

だけど、二人はもう乗り越えているんだなぁ。……私もそう、なれるかな。弟だけではなく、家族と。

何となくそのまま、いろんな他愛ないことを話して、私と白鷺ちゃんは、名前呼びにランクアップした。弟って凄い!



さゆちゃんと分かれ部屋を出て、私はダッシュで男子寮へと向かっていた。

私と違い、真面目に寮案内を受けていたさゆちゃんは、男子寮のATMも知っていた。伝え忘れたことを申し訳無さそうにして謝るさゆちゃんに、私は大きくて首を振って、それから感謝した。

さゆちゃんの話によると、ATMは土日もやっているらしい。何せ、寮に居るのは平日、朝から夕方まで教室に詰め込まれる高校生である。部活もあるし、ATMの利用は、むしろ土日が本番なのだそうだ。

だが、このATM、午前九時から、午後五時までしか使えない。平日は本当に使えない代物なのである。そして、土日は更に、稼働時間が短い。午後四時だ。

私は、元の世界のおばあちゃん家の郵便局を思い出した。こっちも午後四時にしまった。そして土日も開いてなかった。いったいいつ使うんだろうここ、と高校生の時、ポストに郵便物を入れながら思ったことがある。

そう、今の時間は、午後三時三十分。後三十分で、ATMは無慈悲に閉まる。私は、1万2千円を引き出せない。


「はあ、はあ、はぁ……!!」


私は走った。息を荒げながら、セーラー服姿で爆走した。なぜ、休日なのにセーラー服姿なのかというと、私服がほとんどないからである。制服は、とても便利だ。何せ、これ一着で冠婚葬祭から、お宅訪問までこなせる制服とはまさに外出着のスペシャリストなのである。

午後四時ジャスト。私と同じく、期限ギリギリに駆け込んできた人たちに待たされながらも、私は無事、二万円を引き出すことに成功していた。


「くぅぅ」


お財布の中身が、二万三千五百十二円。

増えた。体操服ジャージ代に、私は打ち勝つことが出来る。

まだ荒い息を整える為に、私は男子寮の壁に寄りかかった。隅っこである。寮の住人にも、通りがかった人にも邪魔にならないと思う。

だけど、くいくいと私の服の裾を引っ張る手があった。

……。

なんかすごくデジャヴだな、これ!

そろそろと壁の向こうを覗き込む。ここは、女子寮と同じく、ちょっとした花壇になっているはずで……。


「……」


じぃ、とこっちを見る深緑の目。白い髪。座り込んでいるが、倒れるのも時間の問題、いや残存体力の問題と言った感じの、彼。


ぐぎゅううう。


お腹がなった。

私は、ポケットの中のふわふわクッキー(100円)を深緑くんにそっと差し出した。



そんな感じで私の四月は、最初こそ波乱万丈だったものの、白鷺ちゃんとは順調に仲良くなり、弟の黎とも、ちょっとずつ交流も始めた。

蘇芳くんとは相変わらず、隣の席と言う以上の接点もなく。

山吹様は見かけるたびに、全速力で走り去ることに。

新橋会長は、体育館裏での木登りがちょっとした趣味なことを誰にも言っていない。

深緑くんにあげるために、私はちょくちょく購買でお菓子を買う羽目になっていた。

おにぎりよりお菓子が喜ばれるなんて、解せぬ。

まあ、脇役のメインキャラ遭遇率なんて、こんなものである。できれば遭遇したくはない。でも、さゆちゃんに余計なことしないか見守りたい。ジレンマだ。

とにかく、私の周りは、至極、平穏だったといえるだろう。

だが、五月。今からが勝負の時だ。体育祭があるこの月の終わりにも、バッドエンドがある……。


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