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夢か夢オチか

「あや姉ぇ〜」

学生服を着た少年が半べそをかきながら

公園のベンチに座り読書をしている制服姿の少女に近づく。

「……いじめられたの?」

ため息をつきながら、少女は本を閉じた。

「ちが……あ、あや姉が施設出ていくって聞いて……」

「…………誰に聞いたの、それ」

「た、高橋先生……」

「……口軽いなぁ、先生は」


姉と呼んでいるが、二人は姉弟ではない。

二人には両親がおらず、物心ついたときには福祉施設の中にいた。

少女……小暮綾こぐれ あやと少年……神崎祐かんざき ゆう

施設内でも評判の仲良しコンビ、血のつながりはないが姉弟みたいな関係だ。


「どうして出ていくの?」

「……一人暮らし、しようかなと。もうすぐ高校卒業だし。

18になったらいやでも施設から出ないとといけないから」

何とか福祉法とやらで施設にいられるのは18歳までと定められているらしい。

「……俺も出てく。で、あや姉と二人で暮らす」

「ユウ……」

綾はどう言ってよいのか言葉に詰まる。

「だってあや姉料理ヘタクソだし、掃除もあんま得意じゃないだろ」

「それは……そうだけど……」

「決まり。じゃあおれ帰って先生に言ってくる」

「ちょっと、ユウ!」

止めても聞かないのはわかっている。

綾はふう、と深呼吸して彼の後を追った。



「……昔の夢……」

覚醒した綾はここが今自分の住んでいるマンションの部屋の一室だと認識する。


……そういえば、あれから5年経ったんだよなぁ……


と能天気に考えていた思考はけたたましいノック音に遮られる。

「あや姉ぇ〜早く起きないと会社遅れるよ〜」

「わかった」


手早く着替えてドアを開けリビングにむかうと、

満面の笑みで祐が立っていた。


「……ユウは彼女とか作らないの?」

「……別に必要ないし」

祐の笑みが真顔に変わる。

「いい年なんだから、嫁さん探しがんばったら?」

机にのっていたトーストをかじりながら綾はぼやく。


夢の続きはこうだ。

結局祐の離れたくないという情に負けた綾はシェアという形で

一緒に暮らすことになった。

ただし、施設との約束で

祐が二十歳になるまでは互いに相手に対して恋愛感情があっても

行動に移さないのが条件とされた。


若い男女が一緒に暮らして何か起こらないわけがない、

と思われていただろうが、その点祐は偉いと思う。

手を出すどころか綾の身の回りの世話をしながら高校を卒業し、

そこそこ中堅の一般企業に就職までしたのだ。


「ユウに好きな人ができたら応援するよ?」

「……あや姉、今日は何月何日でしょう」

「4月……!」


思い出した。

今日は4月20日、神崎祐二十歳の誕生日である。


「ごめん、忘れてた。お誕生日おめでとう」

「……オレ、今日が来るのずっと待ってたんだけど」

そう言って伸ばした祐の手は空を切った。

「あ〜会社遅れる〜行ってきます」

足早に玄関のドアをあけて綾は出て行ってしまった。

「オレも会社行こう……」

玄関を見ながら祐はため息をついた。



「そっか……祐くんがとうとう二十歳になったか〜」

「……相変わらず能天気ですね」

綾は居酒屋で施設の恩師、高橋悦郎と飲んでいた。

「……で、あーやは何を悩んでるんだ?」

「あーや、はやめてください」

「別に心配いらんだろ、身近にかわいい子がいるのに手を出してないんだし」

「心配せてるのはそこじゃなくて、ですね」

「結局はそこだろ、ケダモノが手を出してきたらどうしよう。ってことだろ?」

「……まあ、当たってますけど」

「一緒に住むときから覚悟はしてたんだろ?いまさらビビんなくても」

「……自分自身、ユウに対しての気持ちが母性なのか愛情なのかわからないんです」


それを聞いた高橋は真顔で言った。

「母性だろうが愛情だろうが、祐は真っすぐな奴だから正直に受け止めてやれ」



「と、言われてもなぁ……」

帰り道、人気の少ない路地を綾は歩いていた。

「ひとり?」

見るからにチャラそうな青年が声をかけてきた。

「……そんな気分じゃないんで」

逃げたつもりだったが、しつこく男は追いかけてきた。

「こ、恋人と待ち合わせてるんで」

「またまたぁ〜バレバレのウソついちゃって〜」

「……嘘じゃねぇよ」

いつの間にいたのか、綾はスーツのサラリーマン風の姿のユウに肩を抱かれていた。

チャラ男は舌打ちしながら去っていった。

「あ……りがと……ユウ」

「せっかくのオレの誕生日だからプレゼント欲しいなぁ……」

「……それなら、これ」

ネクタイかハンカチであろうプレゼントをカバンから取り出して渡す。

「それでオレが納得できると思う?」

「いつもみたいに『あや姉ありがと〜』って反応だと……」

「……もう子供じゃないんだぜ、オレ」


近くの塀に綾の両肩をつかんだまま押さえつける。


「オレの気持ちは知ってるはずだろ? なんで逃げるんだよ」

「……ごめん」


綾は力を振り絞って去っていった。


「……んでだよ」

ユウは落した綾からのプレゼントを拾い上げて体を震わせていた。



「……つか、逃げる意味ないんだけどね」

マンションの自室で部屋着に着替えるとリビングのソファに座る。

たぶん涙目で『あや姉ぇ〜』とか言いながら帰ってくるに違いないのだから。


「ユウが返ってくるまでDVDでも見るか」

最近会社の同僚にオススメと無理やり押し付けられたやつがあったはず。

探し出してプレーヤーに入れて再生ボタンを押す。


そしてその内容に綾は後悔するのだ。


血のつながらない兄と妹の禁断のラブストーリー。

紆余曲折ありながら、最後は結ばれてハッピーエンド。

ざっくり言えばそんな内容。


「……複雑だわ」

「あや姉はこれはありえない、って思う?」

いつのまにかソファーの後ろに祐がいた。

「姉弟でそういうの、間違ってると思う?」

「間違ってるとか……というかこれはフィクションだし」

「そう……」

祐はムッとした表情でDVDをケースに入れて棚に戻した。


「……まあ、アリかなとは思うよ」

「それって、希望持っていいってこと?」

「……おやすみ」

返事を返すことなく、綾は自室に戻った。



「5年……か」

ベッドに横になりながら綾はつぶやく。

「半べそかいてたユウが二十歳……」

祐は右も左もわからん子供じゃなくなった。

いつまでも祐を頼ってはいけない。

「どうすりゃいいってのよ……」

布団を目深にかぶり直した、

ユウはもう弟じゃない。いっぱしの男なのだ。

そう思えば思うほど、綾はどうしてよいのか判らなくなる。

「……寝よう」

明日も仕事だ。



週末、なぜか会社に祐が迎えに来た。

理由を聞くと、

「会いたかったから」

と答えたので

「おまえは乙女か」

とツッコミを入れておいた。

とはいえ、帰り道は一緒なので並んで歩いていた。


「……どこがいいわけ?」

不意に立ち止まって、綾は祐を見上げた。

「高校時代も社会人になっても彼女作らないし、

『あや姉』のどこがそんなにいいわけ? 」

「……誕生日のやりなおし」

「はい?」

「今夜だけ俺を恋人と思って接すること。

あと、その間おれは綾って呼ぶ」


「いきなり何? 答えになって……」

「デート、しようぜ。綾」

「や、だからね……」

祐に腕をつかまれて、

遊園地に引きずり込まれるまでさほど時間はかからなかった。


ジェットコースター、バイキング、メリーゴーランド……

綾は祐に付き合わされるがままアトラクションをこなしていく

言い出したら聞かない男なのはいつものことだが、

今日は一段と輪にかけてわがままだ。


「綾、……はい」

祐はジュースの入ったカップ渡してきた。

「ありがと」

受け取って一口飲む。何の変哲もない普通のコーラだ。

「お酒、入ってるとよかったのに」

「オレが酒未経験だからダメ」

「二十歳だから飲めるのに」

「だから未経験だっつーの」

彼なりに言葉を選んでたいらしい。

「はいはい。で、次はどこへ?」

「あれ」

祐の指さす先には遊園地定番の観覧車が。


言わるがまま観覧車に乗り込む。

向かい合わせに座る気はないらしく、祐は綾の隣に座る。

「……綾」

祐の手が綾の頬に触れた。

「5年待った。この日が来るのずっと待ってた」

綾は黙ったままだ。

「正直、すぐ他に好きな人ができたら家を出てくつもりだった。

……でも、綾以外いないんだ。俺の……」

頬に触れていた手が綾の唇をなぞる。

綾は少し震えながら目を閉じる。

瞬間、唇が重なる。

「……家に帰ったら抱きたい、っていったらどうする?」

「ユウ……祐が後悔しないなら」

「それってOKってこどだよな」

コクン、と綾はうなずいた。


「祐の部屋、最近入ってなかった気がする」

きれいに整頓されていて、綾の部屋とは大違いだ。

「……綾、オレ限界」

綾はそのままベッドに押し倒され組み敷かれる。

「ごめん、やさしくできないかも」



「……愛してる、綾……って、えっ」

目覚めた祐はいるはずの綾の姿を捜す

「まさかの夢オチ……なのか?」

不安に駆られながら服を整えリビングに向かう。

「おはよ〜」

下手ではないが、ぎこちない手つきで朝食を作る綾がいた。

「あ……えと……」

手伝うよ、と綾に近づく。

「……今日はわたしが作りたいの。祐は座ってて」

「あや……姉?」

やはり夢オチなのか。

がっくりと肩を落とす祐。


「……綾、でいいよ」

「えっ……」

「二十歳になったんだし、姉弟じゃないんだから

いつまでも『あや姉』じゃおかしいでしょ」

「綾……!」

「こら、じゃれつかない。おとなしく座ってなさい」


夢オチでもいい。

いつか正夢に変えてやる。


そう思った神崎祐であった。



お読みくださってありがとうございます。


実験的ですが、この話は夢オチ(妄想)部分と真実を散らしております。

空白の行と行の間の分が真実かウソ(夢)かを気にしながら読み返して

みていただけると幸いです。


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