表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣は野に眠る  作者: 白湯
6/13

兆し

白心寺の内装は黒塗りで、線香や蝋の香りに満ちている。

奥には仏像が坐り、手前には数本の燭台が立ち、

蝋燭の焔がゆらゆらと揺れている。


「あれ?今日は木村はいないんですか?」


「所用で遅れてくるらしいゾ。」


この、坊主刈りの住職は名を三浦馳摂(みうら はせかね)という、

実はこの男もかつての須戸家家臣である。


武士が僧になることは、当時珍しくなかった。

かの忍城で活躍した北条家家臣の正木丹波守も

戦後、寺を建て、僧となっている。


「いやー、それにしても三浦さんが武士を辞め、

今となっては……」


「僧だよ。」


「……。 ま、正木丹波守は武勇で知られたんですよー?

三浦さんは須戸家随一の頭脳派として知られる

智将(ちしょう)だったじゃないですかぁ。他の道も

あったんじゃないですかー?」


「それにはワケがあるゾ。俺は幼くして両親を亡くし、

この寺に預けられた。まだまだ読み書きもできない

ガキだった。だが、以前ここの住職をしていた爺さんは、

そんな俺を養い、読み書きを教えてくれた。様々な経文や

どこかで手に入れた兵法書まで読ませてくれた。」


「はぇぇ…… 初耳……。それで三浦さんが智将と唱われるまでに

なったんすね。」


「あれ?言ってなかったかゾ?まぁいい、その住職は

須戸家が滅ぶのと同じ頃に亡くなってしまったんだゾ。」


「なんてこと……」


「その爺さんの住職が生前俺に、

「わしが死ねばこの寺の担い手はおらんようになる、

お前が嫌でなければこの寺の住職を担ってくれまいか?」

と言ったんだ。身寄りの無い俺を引き取り、育て上げて

くれたことに報いるべく、俺はここの住職になったんだゾ。」


「な、泣けますよ…、なぜそんなことを今……?」


「……、それはな十兵衛、決行の日が近いからだ……!」


「……!!」


十兵衛らが何度もこうして密談のように、

夜の寺に集って談合するのには理由があった。


「遂に、やるんですね…?」


「ああ、そうだゾ…。

役座家当主、役座宗統(やくざ むねおさ)の誅殺…!」


この者たちは主君を討たれ、流浪の身となり、各々が道で

飄々と生きてきたかのように見えた。

だが、その胸の内には、常に須戸家への忠心と憎き役座への

逆心とを抱いていたのである。


「……手立ては…?」


「……うむーーーー」


智将 三浦はさらに言葉を続ける……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ