業火
感情描写を入れると
難しくなりますね…
文才の無さが
バレちゃうヤバイヤバイ
天守を目指す十兵衛、
その前に立ちはだかったのは、
かつての同僚、
元・須戸家家臣 遠野石竜。
十兵衛への憎しみを口にした遠野は、
隠密に毒針を放たせ、
十兵衛を追い詰めて行く。
十兵衛も応戦すべく、
毒により痺れる体をおして、
印武之一太刀を振るも、
容易く捌かれてしまう。
遠野は刀を回すように、
左上から右下へ袈裟斬り、
そのまま低姿勢にし体を転回させ、
左下から右上へ切り上げ、
さらに転回し、
遠心力のついた袈裟斬りを放った。
十兵衛は紙一重にかわしたと
思ったが。
痺れた体が追いつかず、
胸を軽く斬られてしまった。
血が少しずつ白装束を
部分的に朱に染めた。
十兵衛「くっ…!」
遠野
「やっと当たった…!
先輩ぃ、さっさと
殺られてくださいよォ?」
十兵衛
「遠野…!
もっと別の生き方が
あったんじゃないか…?」
遠野「………ア?」
十兵衛「…?!」
遠野
「アアあぁ?!
なんだとこの糞野郎がぁ!!」
遠野、素早く前進し、
刀を振り下ろす、
十兵衛はそれを受け止めたが、
遠野、素早く転回し、
後ろ回し蹴りを放つ。
十兵衛「がはぁ…っ!」
見事に十兵衛の腹を
蹴り飛ばした。
遠野「もっと別の生き方が
あったんじゃないか、だぁ?
生まれながらぁに、
侍の地位を約束されてた
てめぇに何がわかるってんだぁ!」
激昂した遠野が
八方からの斬撃を
容赦なく十兵衛に叩き込む。
十兵衛、痺れと蹴られた
痛みを抱えつつも、
絶妙な防御でこれをしのぐ。
十兵衛も防戦一方ではない、
冷静さを欠いた遠野の連撃の
間に僅かな隙をみつけ、突きを
繰り出した。
突きは遠野の腹を掠った。
遠野「ぐあっ…!てめぇ…!」
しかし、血は流れない。
遠野「忍はなぁ、鎖帷子を
着込むんだよォ?
知ってたか?
さっさと殺られろやぁっ!」
遠野、またしても前進し、
跳び上がり、上空より
兜割りを放つ。
十兵衛、上段に構え、
これを防ぐ。
その直後、遠野は刀を放し、
転回しつつ、脇差を
逆手に持ち、
十兵衛の胴を斬り裂いた。
十兵衛「うぐぉっ…!」
胴からは容赦なく鮮血が流れ、
十兵衛は吐血した。
十兵衛はよろよろと後退し、
ちょうど城の柱に寄りかかる
ようにして踏みとどまった。
遠野
「剣の腕が落ちたんじゃない
ですかぁ?先輩よォ?」
十兵衛、挑発には応えず、
荒い息をしながら、
言葉をつなぐ、
十兵衛
「気は済んだかぁ…遠野…、
お前の気持ちも少しは
わかるぜぇ……。」
遠野
「なんだと?!てめぇに僕…、
俺の気持ちがわかるわけ…」
十兵衛
「だから…、“少し”だ…。
お前と俺とじゃ、生まれた
ときから世界が…違い過ぎる…。」
遠野「てめぇっ!」
十兵衛
「まぁ…待て…、お前を…
お…貶めているわけじゃ…
ねぇんだ……。
ど…どうし…ようも、ない…
現代の…世の…理なんだ…。
生まれで身分が決まって、
上がいて、下は…
こき使われる………。」
遠野「……?!」
十兵衛
「お前を……少ししか…
わかってやれなく…する…
ほどの…悲しい世の現実……
そのせいにして…
理解を諦める…わけじゃ……
ねぇが……人は……
人は、結局…そいつなりに…
生きていくしか…ねぇんだ!」
十兵衛、にわかに生気を
取り戻し、刀を握る手に
力を込める。
遠野「っ?!」
遠野が驚愕し、構えた刹那、
十兵衛は力強く走り出し、
遠野の胴に刀を突き刺した。
遠野「うぐっ…!」
そのまま、脚を止めず、
駆けに駆けて、
障子を突き破り、
城の外、瓦屋根の上に出た。
十兵衛はそこで静止し
刀を抜き、よろよろと揺らぎ、
刀を支えにするようにして
しゃがみ込んだ。
遠野、危うく瓦屋根より
落下しそうになるも、
手をかけてとどまる。
先に口を開いたのは十兵衛、
十兵衛
「遠野よぉ…、俺は生まれつき
体が丈夫らしく、風邪とかすぐ
直っちまうんだ。
これがよ、嬉しいことばかり
じゃなくて、親には
“どうせすぐ治る”ってことで、
心配してもらえなくてよ、
家を出されて、稽古に
明け暮れたもんだ。
まぁ、だから何だって話だよな、
お前の苦労に比べたら
ちっぽけなもんだな。」
遠野「……。」
十兵衛
「遠野よ、今からでも
遅くねぇ、俺らと悲願を…、
あの世で殿が望んでいるか
どうかもわからねぇ仇討ちを…
しにいかねぇか…?」
十兵衛、遠野に手を差し伸べる。
遠野
「……先輩。
先輩は優しいんですね…
こんな、逆恨みで須戸を裏切り
先輩に深傷を負わせた僕に…、
手を差し伸べるなんて…。」
十兵衛
「何言ってんだ…。
はやく手を取るんだ…。」
遠野
「僕の完敗ですよ先輩…。
誠に勝手ながら、お先に…
失礼しますね…。」
十兵衛「お、おい…!」
遠野
「必ず…、悲願を…
達成してくださいね…!
では…!」
遠野、瓦屋根より手を放す。
十兵衛「待て!遠野っ!」
ときに非情な手をもいとわず、
あらゆる手を用い、
己の生来の試練に
臨み続けてきた男、遠野。
その男の最期は、
晴れやかな面持ちであったという。
十兵衛らが悲願を果たすまで
あと僅かである。