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獣は野に眠る  作者: 白湯
12/13

炎上 -十兵衛

木村、三浦が激闘している中、


鈴八十兵衛は、


三浦の(ひら)いた活路を


駆け抜けていた。


十詰城は天守を含め4階建て、

十兵衛は3階への階段を

駆け上った。


3階は城主の参謀や、

近衛兵(このえへい)などが軍議を

開いたり、来客が謁見する広間に

なっている。


十兵衛「……!? お前は…?!」


十兵衛はそこで意外な男と

再び相見(あいまみ)える。


十兵衛「遠野……!」


遠野「お久しぶりです、鈴八先輩。」


この男、遠野(とおの) 石竜(せきりゅう)は、

十兵衛、三浦、木村と同様、

元須戸家家臣である。

須戸が役座に敗れたとき、

役座に投降した。


遠野

「あのときは、逆臣と罵られようとも、

役座に(くだ)るしか、生き延びる方法は

ないと思ったんです…。


生きてさえいれば、いつか

須戸家の仇を討てると…。」


十兵衛

「…そうか、遠野、今からでも

遅くはない。俺らとともに、

須戸の仇、役座を討とう…?!」


そのときであった、


十兵衛は首元に、

刹那の痛みを感じた。


十兵衛「?! 何やつ!」


十兵衛は反射的に背後へ

脇差を投擲す。


すると、


「ぐぇっ…!」


という短い悲鳴とともに、

(ふすま)ごと、一人の隠密が

倒れ伏せる。


脇差は胸に直撃していた。


その隠密が手にしていた、

筒状のものから、

十兵衛は何を食らったのか理解した。


十兵衛「なるほど、毒針か…!」


空かさず遠野のほうへ向き直る。


遠野

「ご名答です。鈴八先輩。」


そこには刀を抜いた遠野が、

微笑を浮かべて佇んでいた。


十兵衛「遠野、お前…!」


遠野

「僕はね、あなたが憎かったんですよ。

僕が以前、(しのび)であったことは

ご存知ですよね?

幼いころより両親は亡く、

僕は身一つで、忍になるしかなかった。」


十兵衛「くっ……!」


十兵衛は痺れの毒が回り、

思わずふらついた。


遠野

「忍の地位は最低、

捨て駒同然に扱われる日々…。


僕はあらゆる手で主君に尽くし、

侍の地位を手に入れた…。

そして、須戸家に仕官したんです。」


十兵衛「なぜ、俺を、憎む……?」


遠野

「話は最後まで聞けよ。

…僕は須戸家でも、上へ上へと

上り詰めようとしたんです。


ですが、そこに貴方がいた…!


貴方はいつも、その武勇で、

殿の評価を得ていた!」


十兵衛「……。」


遠野

「生まれたときから侍の地位が

約束され、能力も備わっている

貴方が憎かった!


えぇ、逆恨みですよ。

ですが!

上を目指すしか僕の生きる意味は

無いんですよ!」


十兵衛「遠野…!」


遠野

「そして今、憎き先輩を殺せる…。

いくら武勇で知られた貴方でも、

毒が回っていては、

満足に奮えないでしょう。」


遠野、刀の切っ先を

十兵衛に向ける。


遠野「すぐ()られてくださいよ!」


遠野、脚を開き、屈み、

刀を極端に下段に構え、

這うように左右に払いながら、

十兵衛に切り上げを放つ。


十兵衛、毒により痺れ、

動きに翻弄されつつも、

なんとかそれを受け止める。


下段構えは上段に対する防御の構え

と言われ、機敏に動けない為に

攻撃には向かないとされるが、


遠野は忍時代に磨いた

身体能力を活かし、


防御の難しい下半身を斬り払い、

相手が防御に気を取られた後、


上半身に向けて切り上げるという

変則的な攻撃法を編み出した。


遠野

「なんとか受けきりましたか…。

次はどうかわかりませんよ?」



十兵衛にとって、元同僚であり、

最大の敵として立ちはだかった遠野。


十兵衛、三浦、木村は

果たして悲願を達成できるので

あろうか。

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