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野に眠る獣
秋冷の候、関東の山間の空気は冷たく澄んでいる
「すっげぇ寒くなってる、はっきりわかんだね」
この男、鈴八 十兵衛は十詰須戸湖のほとりに
あばら屋を建てて住む者なり。生業は木彫り職人と
按摩を少々、按摩の師などなく、独学である。
とはいえこの時代には、按摩の技量や技巧を型にはめて
査定する旨などなかったのである。
「稼ぎに行きますよー、行く行く…」
独り言の目立つこの十兵衛は、木彫りの工芸品と按摩道具とを
風呂敷に入れ、週に1、2度城下町へ出稼ぎに行くのだ。
「家計キツいからね、しょうがないね」
刀をあばら屋に置いて……
(後書きなんて)ないです