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宝の地図  作者: xxx
5/12

辰 大学


 私が松下先生から出された宿題はこうだ。


 ・ 自分の家系について調べること

 ・ 蔵と金庫はそれぞれいつからあったのか


の二点だ。大学の図書館に資料があるかもって言ったけど、先生も夏期試験で忙しいのでちょっと待って欲しいって言うから、私が直接大学で調べてみたいって先生に言ってみたら交渉してくれて、特別にOKが出た。

 私は授業が終わると一目散に自転車で坂の上にある大学の正門まで行った。


「おう、早かったね」

Tシャツにジーンズ、サンダル履きの至って普段着の先生が携帯電話をいじりながら待っていた。

「自転車、大変だっただろ?」

「部活の練習よりは全然マシです」

私は吹き出す汗をタオルで拭きながら強がって見せた。この時期制服がすぐに汗だくになって困る。大学生は楽な服装で羨ましい。

「さ、暑いだろうから早く図書館に入ろう」

 私は先生に案内されて大学の図書館の中に入った。大学生の中に一人だけ中学生の私がいる。場違いな所にいることに少し緊張したけど、クラスメートに見つかることはまず無いし、クーラーが効いてて涼しいのと大学の自由な雰囲気が次第に気持ちよくなってきた。

「先生はいつも図書館で勉強してるの?」

「してる……と言いたいけど、本当は下宿が暑いからここにいるだけなんだ。涼しいでしょ、図書館って」

 私は笑いながら図書館にいる人を観察した。先生の言うことは冗談半分だとわかっていたけど、半分以上の学生がただ涼みに来ているだけのように見えなくもなかった。

「何かわかったかい?」

「おじいちゃんとお墓参りに行ったり、色々聞いてきたよ」

 私はそう言いながら、自分の「研究ノート」をテーブルの上に広げた。


***


「今の家に来たのは大正時代で、蔵はその時に建てられたって。金庫はその時からあるみたい。キノヱ婆さんが亡くなった後、曾祖父さんが中を整理して蔵に置いたみたい。お金しか入れてなかったらしいよ」

「キノヱ婆さん?」

 私は自分で作った家系図を先生に見せて説明した。お墓に彫られた内容を書き写したものだ。


 高祖母 稲垣キノヱ 明治七年

     昭和三九年没 九〇歳


高祖母という言葉があるのを初めて知った。読み方がわからないので『キノヱ婆さん』と呼ぶこととした。

「1874年生まれか、麻衣子さんと干支が同じだね、二回り」「二回り?どういうこと?」

 私がビックリすると、いつもの先生の余談が始まった。先生はノートに「甲乙丙……、子丑寅……」と書き出した。下の子丑寅はわかるけど、甲乙丙がわからない。

「干支には十干と十二支に別れててね……」

 先生は暦と名前の由来について簡単に教えてくれた。私は平成六年生まれだから1994年だ、キノヱ婆さんとの年の差はちょうど120年になる。甲山市の甲は「きのえ」と読むのはしらなかった。

「それとね、ウチは代々農家だからか宝なんて無いってお母さんが……、悔しいから今度は兄ちゃんにメールしたんだけど『そこにミイラが埋まってるんだぜ』って」

 併せて私が今まで蔵に近寄らなかった訳を先生に話したら先生は「そりゃないでしょ」と言いながら大笑いして、顰蹙の注目を集めてしまった。

「ところで家族はみんな農家なの?」

「多分そうだと思う」

 私は記憶を確かめながら、ノートに書いたキノヱ婆さんの夫に当たるお爺さんを指さした。


 高祖父 稲垣麻二郎 明治五年生

     明治三七年没  三二歳


おじいちゃんは麻二郎爺さんには会ったことがないからよく知らないんだって、でも曾祖父さんが農業してたのは間違いないよ。

「とにかく、時期的に考えてこの地図はキノヱ婆さんのものだと思う。その麻二郎爺さんは蔵や金庫を知らないからね。そうだな、キノヱ婆さんも甲山の人なの?」

「いや、よそから嫁いできたって。確か……、何て読むのかな?オツハ……」

乙浜(おとはま)?」

「そう!それだ」先生の好アシストで思い出した。そして私はそのノートに『乙濱』と書いた。

「古い書き方だね、今は『乙浜』と書くんだ。古い小さな城下町だ。いいところだよ?とっても」

 少しのヒントで先生は次々と答や次なる質問を出してくる、今日ばかりは先生がちょっとだけカッコよく見えた。

「乙浜はめちゃ詳しいよ……、だって僕の出身地だもん」

 先生は、自分が地方から下宿している苦学生だとよく言っている。お金が無くてパンの耳で生活したり、いつもオンボロの原付で私の家に来る。お世辞でもお金は持ってそうに見えない。そのイメージが強くて、週に二回は会っているのに出身地の事は今まで聞いてなかった。

「ってことは乙浜の地図かな?」

 私は乙浜がどこにあるのか知らないし、家でもその名前があがったこともない。おじいちゃんですら名前くらいしか知らない土地のようだ。

「でもね、地形が全然違うんだよね、今の乙浜市と。言われてみれば似てなくもないんだけど」

 先生は試験で忙しいと言っておきながら『宝の地図』には興味があるようで、私が書いたメモと地図とを交互ににらめっこしている。先生も私と一緒で、一度脱線したら収まらないタイプなんだろう。

「よーし、次の調査は乙浜だ。キノヱ婆さんの出自が解れば宝もあるかもだ」

 確かに、先生の言うようにウチに嫁ぐ前のキノヱ婆さんがどんな人か解ればこの地図の謎が解ける、つまり宝を見つけられるかもしれない。調査が着実に進んでいる事を実感するのに比例して私の気持ちが高ぶってきた。


「ところで先生、宝を見つけたらどうするの?」

先生は立ち上がってニンマリとして私に答えた。

「そりゃもちろん、クーラー買うんだよ。灼熱の部屋に……」


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