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宝の地図  作者: xxx
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卯 家庭教師


 木曜日の夜は家庭教師の松下辰也先生が来る。先生といっても市内にある大学に通う現役の大学生で、何でも学校の先生になることを目指して、一人でここ甲山市にやって来て下宿している。真面目でモテそうな感じが全くしない、見た目も私のタイプでは全然ないけど、兄ちゃんと年が同じなので話しやすいし、勉強嫌いな私に丁寧に教えてくれるおかげで、成績は確かに上がった。私が言うのも何だけど、先生になりたいだけあって中学生の心を掴むのは上手だし先生に向いていると思う。本人に直接言えない、学校やクラスメートのダメ出しなんかも先生は喜んで聞いてくれる。

 勉強はやっぱり好きじゃないけど、先生が来る月曜と木曜だけは私もちゃんと勉強している。今日は先生に質問したいことがあるから、言われた宿題も事前に済ませて先生が来るのを待っていると、窓の外にある蔵の向こうの畑の向こうから、先生が乗った原付のライトが、調子の悪そうなエンジンの音と一緒に近付いて来た。


***


 いつものようにお母さんが先生を部屋まで通してくれる、私へのダメ出しをしながら。

「ねえ先生。今日は宿題ちゃんとしたから、私の話聞いてよ」

「別にいいけど、小テストしてからね」

「ぶーっ……」

先生も私と話をするのは好きみたいだけど、お母さんから「麻衣子はすぐ脱線するから、あの子のペースに乗ったらダメよ」って私の前で何度も言うからガードは固い。今日もその壁を崩すことはできなかった。でも小テストは普段よりもやる気を出して時間をかけないように素早く解いた。

「ほぉ、やるじゃん、今日は」先生はビックリしながら私の答案に次々と丸をつけていく「よっぽど言いたいことがあるみたいだね、ところで話したい事って何?」

 先生は今日の私に合格点をつけてくれた。

「あのね、この前おじいちゃんと蔵の中入ったんだけど、中から何が出てきたと思う?」

「蔵ってそこの?」

「そう」私は網戸越しに目の前にある蔵を指差した。

「へぇ、何だろう……」先生は椅子から立ち上がって窓越しに蔵を見ている。「想像つかないや――、本当に何だろう?古いお金とかかな?」

「違うよ、これだよ」

 私は自分で『ジャーン』と効果音を付けて先生に蔵で見つけた紙切れを両手でかざした。直接手に取ると崩れそうなので、使われていない兄ちゃんの部屋から透明のファイルを一つ戴いてきた。

「何だこりゃ?」先生はお父さんよりはよっぽど興味深く私が出した地図を眺めている。「蔵の奥の金庫から出てきたの。宝の地図よ」

「あははは、まさかぁ……」

こないだ程大笑いはされなかったけど、先生は冷ややかな笑みを見せた。

「なんだ、先生もか。みんな夢がないなぁ……」

 私がしょげていると、先生は困った顔になって何か言葉を探していた。

「でも金庫に入れて保管するくらいだから、大切なものなんだろうね。宝の地図かどうかはわかんないけど」

「何で宝じゃないって思うの?」

「ただの便箋に筆で書かれた走り書きっぽいからね……あれ、裏にも何か書いてるよ」

 先生は裏の文章に気がついた。細い目をさらに目を細めて一生懸命解読している顔がちょっと面白い。

「これはね『七月30日の日没 川のほとりのA』って書いてあるみたいだ」

 『文月』は七月のことで、30という漢字があるのを初めて知った。因みに先生は『廿』もあるよって教えてくれた。

「でもって書かれた時期は戦前で、お堅い人かな?例えば軍人とか」

「えー、何でわかるの?」

 私は先生の推理に目を丸くした。先生曰く、戦前の公文書はカタカナ書きで、使われている旧字体、字の強さなどからそう感じたんだとか。 

「『川のほとりのA』って何?」

「うーん」先生は首を傾げた「『A』ってのは間違いなくローマ字だろうから、この紙は明治に入ってからのものだろうね。書いた人はそれなりに教養がある人かな」

 現代の日本では誰でも読めるローマ字。しかし当時は教養を受けた一部の人がわかる文字であることを先生が説明してくれた。

「へぇ、これだけでそんなにわかるんだ」

 私は最初に先生に聞いてみて良かったと思った。短時間でたった一枚の紙切れからこれだけの情報を導いてくれた。クラスやクラブの友達に聞いても笑われるだけだったと思う。

「図の方は全くわからないや。でもその謎は解いてみたいな、わからないままじゃ面白くないじゃん」

先生は私の計画に乗り気なようだ。

「じゃあ先生手伝ってよ」

「手伝ってあげるけど、解くのは麻衣子さん自身だ。いいかい?」

「うん、夏休みの宿題にしようかな」

「いいね、結果次第ではいいものが出来るかも」

 

 私は先生から出された数学の宿題とは別に、「謎解き」の調査事項を丁寧にノートに書き付けた。


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