縁あわせ 5 決定?※イラスト有り
読んでくださりありがとうございます。
今回、小説の最後にクロスだんちょーの設定イラストがあります。
挿絵表示 する にしていただければご覧になれます。
ザッと描いたものですがよかったらどぞ!
シミ、無し。
クロスはテサン台頭の私室前に立ち服装を確認していた。
縁あわせを打診されてから5日ほどが過ぎた。
本日呼び出されたのはいつもの執務室ではない。私室。
これが何を意味するか、きっと突っ込んだ話をされ、返事を促されるだろう予感にため息がもれた。
「クロス・ハガード入ります」
すでに使いの者に来訪を告げた後だったので返事をまたずに扉を開ける。
「やぁ、待っていたよハガード団長」
テサン台頭、ロイド・スレイア
常に笑顔の好々爺然とした風貌だがいろいろと気を抜けない相手である。
ヴィネティガの介在を長年にわたって受け入れているようで、実は一線越えさせない手腕。
テサン駐屯にあたっては最重要警戒人物と言い含められていた。
アスラファールはこの男によってヴィネティガ駐屯兵団長の補佐につけられている。
監視に来た人間にこれまた監視をつけるといったところか
前任者はこれを気に食わないと何度も反発したと聞いた……当のアスラファールから。
クロスは面会のたびにテサン台頭の観察を怠らない。
やや緊張する空気の中、前回は「君と縁あわせをさせたい娘がいるのだが」と開口一番言い放ったわけだが今回はなんと言い出すのだろうか。クロスは身構えた。
本当にいろんな意味で気を抜けない相手だ。
「先日話した君と縁あわせをさせたい娘の保護者が来ている」
娘より先に保護者……ここの見合いとはこういう順序なのだろうか?
そもそも自分はまだ了承していないつもりだったのだが?
困惑しつつも無表情で慎重に口を開こうとしたクロスだったが、ドアが開く音で発言を阻まれた。
「ロイ! ちょっと時間が無くなったわ! まどろっこしい紹介は抜きにして!」
ズカズカと女が踏み込んできた。やたら派手な印象を受ける。
服装が、ではなく動きやかもし出す空気がその場の明度を一段階上げるかのようだ。
「はぁい、私はリーン・リード。よろしく、クロス団長。早速なんだけど縁あわせの返事を頂きたいのよ」
いきなり間合いに飛び込まれたクロスは無表情でたじろぎつつ、ロイド台頭の方に視線をなげかける。
「双葉殿、ちょっとせっかちすぎやしないかな? 丸め込む算段はしてあるとか言っておったのはどうなった?」
「時間が無いのよ。もう縁あわせは決まったってあの子に言っちゃったんだもの」
クロスは久々にヴィネティガの人間を思い出していた。
他人の都合などお構いなし、相手に心があるとは露ほども思っていない物言い。
こういう手合いがとても多かったな、と。
「あなた、ここに来て早々から残留願いを出しているのでしょう?アスラから聞いてるわ。
そんなにテサンが気に入ったのならこっちで嫁をもらえば話は早いと思わないの?
そういう駐屯兵って多いのよ。結婚してこっちに骨埋めちゃうのよね。
これがあなたの得られるであろう利点。私達の利点はあなたが頑丈そうなこと。
あの子には頑丈な婿が欲しいのよ。そういうことでいいわね」
完全に男二人は会話に置いてけぼりを食うことになった。
なぜならリーンと名乗った女は「じゃ」と片手をひらひら揺らして勢いよくすでに扉から半身しか見えない状態だったからだ。
パタン、揺れるスカートの残像を残しつつ扉は閉まった。
室内が静寂につつまれた。
ギギギ……とまるで音を立てるようにロイドとクロスは首を動かして互いの顔を見つめた。
「今のが君と縁あわせさせたい娘の……なんというか保護者だ。テサンの町で食堂を営んでいる。少しばかり、いや、少しではないな、すまない、勝手な女なのだが悪気は無いので無礼は許してやって欲しい」
「はい」
淡々と女の非礼を受け流しはしたが、アレと繋がりができてしまうであろう縁あわせには完全に腰が引けてしまっていた。
自分が踏みしめている濃紺色の絨毯をしらず見つめていた。
その姿は無表情ながらも、なぜか打ちひしがれて、悲しげに見えなくもない。少なくともテサン台頭にはそう見えたようで、とたんにあわてて椅子に座って温かい茶を飲むように勧めた。使用人は見当たらないので台頭自ら茶を注いだ。
「まぁ、彼女のことは忘れて話し合うことにしよう」
少しばかり団のことやテサン周辺の治安のことなどを話した後でテサン台頭は再び縁あわせの話を持ち出した。
「縁あわせというのはまぁ、本人以外の利も当然絡んでくるものだ。それはもう、思いもよらない方向からもね。彼女らは君の類まれなる頑健さに目をつけたのだよ。
……君はボルジ島戦役を生き延びた兵士だそうだね?」
言いにくそうに目をすがめたテサン台頭の心遣いをクロスは感じた。彼も同じように出兵の経験があるのだろう。
この世界の兵士にとって、戦役は十中八九思い出したくもない事なのだ。
なにせ大きな戦となると魔法で一切が決まる。
兵士達は前線を切り結び、後攻部隊である魔術師達を兎に角前へと押し上げなければいけない。自陣兵の数が減ろうと、敵兵の数が増えようと、前へ、前へ。
そして終いには敵味方入り乱れる戦場へ広範囲を標的とする魔法が投下される。それはどちらかの魔術師が倒れるまで繰り広げられる悪夢だった。いっそ、魔術師同士だけで決してくれ、そう何度もクロスは思った。
気心のしれた仲間の全ては魔法の忌々しい光の中で倒れていった。
ボルジ島は重要な戦術拠点だったらしく、強力な炎の魔人である現ヴィネティガ魔術王が出ていた。
島全土を覆いつくした炎は少ない住民も、敵味方区別なく兵士も、そして一部自陣の魔術師をも焼いた。
後に残ったのは焦土と魔術王、魔術王の癒し役の神の子、一部の魔術師
それとクロスだけだった。
苦々しい記憶ではあったが、結果的にこのボルジ島攻略によって敵国ヨムランとの停戦が決まり、その後何年も戦後処理に追われはしたものの、はれてこの度クロス自身はヴィネティガを離れることができるようになったのも事実だった。
テサン台頭はどこまで知っている……
ここまでの経緯を半ば強引に思い出させられながらも相手の真意を探る。
開け放たれた窓からは木漏れ日と小鳥の鳴き声が入り込んでくるのにうららかな空気を拒絶するかのようにクロスの瞳は底冷えのする暗い色をたたえていた。
「それに……君の利点は他にもある」
ロイドの瞳もいつの間にか何か宿したような色を帯びていた。
静かに言葉をつむぐ。
「うまくすれば、君はテサンの秘密を土産にできるだろう」
テサンの秘密……ヴィネティガの存在に脅かされないテサン。
公にはされていないが、ヴィネティガは過去何度か水面下でテサンへの侵攻を試みている。多分、それはヴィネティガだけではないだろう。それらを退けるだけの何かがあるだろうとは思っているが団内には情報が無かった。
ソレを知ることが自分に必要かどうかもわからなかった。
彼はヴィネティガ騎士だが、かの都市の犬であるとは考えていなかった。
「まぁ、とりあえずは会ってみないかね? 縁が合わなければこのように探りあいをする意味もないことだし。マァナは、ああ、名をきちんと言っていなかったな。
マァナ・リードは双葉殿の食堂で働いている素直で可愛い娘だ。礼儀正しい……」
場の空気を変える様に明るく話しを再開したロイドの声を興味も薄く聞き流していたが次の瞬間激しい反応を返すこととなった。
「14歳でピチピチだぞ」
「!!?それは子供だ!」
日頃無口な男が生まれて初めて絶妙のツッコミを成功させた瞬間だった。
主人公?の娘さんより先にだんちょーですが、いかがでしょうか。
次回はマァナさんいけるようにがんばります。