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縁あわせ 4 男達の後悔

「酷い、あんまりにあんまりだ」

 

「ほんとにな……もたもたしていた俺達が悪いのか」

 

「大体お前が不可侵条約を結ぶとか最初に言い出しやがったから!」

 

「お前だってノッてきただろうが! 対抗馬殲滅せんめつを旗印に!」

 

「マァナがまだ子供だったからだろ! 粉かけるより周囲を綺麗にしとくに越したこた無かった!!」

 

 言い合う二人がマァナと出会ったのは彼女がまだ7歳の頃だった。

 小さな手でいっぱしの給仕をする子供がとても可愛かったし、彼らの励みにもなっていた。

 頑張ることは恥ずかしくないと教えてくれた小さなマァナ。

 17歳という多感を過ぎ去りきれない微妙な年齢の少年二人が素直に修練に専念できたのは彼女のおかげと言っても過言ではない。

 時の流れの中いつしか子供から少女へ育った娘への庇護欲は今や恋心と独占欲に変わっていた。

「嫁にする」と先に言い出したのはどちらだったか

 

「それにしても、クロス・ハガードとは……」

 

「言質をとられたとしか言いようが無いぞこれは……絶対、うちのヒーツ団長が絡んでる」

 

「ヒーツ団長、俺達がマァナの事で騒ぐの毛嫌いしてたもんな……」

 

 男二人、深夜の路地裏でうなだれる。

 後悔はほんの少し前、テサン騎士団内の修練に向けられた。

 

 彼らにとっては日常だった。

 婚期限こんきげんの近いマァナにどちらが言い寄るかをかけてのつばぜり合いがすでに半年以上続いていた。

 その日も修練にしては過剰な殺気をみなぎらせて手合わせする二人だったがささいなことから剣技ではなく舌戦に移行していた。その中でどちらとも無く、その名を出してしまったのである。例のクロス・ハガードの名を。

 

「うっすい酒ばかり何度も何度も給仕させるお前なんかにマァナはやれるもんか!」

 

「お前だってやれ、水がこぼれた、ツマミが切れた、マァナに言い過ぎなんだよ! ツマミは腹にクルる豆でも頼んどけ!」

 

「黙れ、だいたいお前は男らしくないんだよ! うっすい酒ばっか!」

 

「何度も同じ事いうな! 女々しい!いっそお前がヴィネティガ騎士団長くらいの男だったらオレはゆずったさ!」

 

「はぁ?! オレだってあのクロス団長相手だったらこんな馬鹿みたいに勝負してねぇよ!」

 

 この怒鳴り合いがテサン騎士団内に響き渡っていたのは間違いないだろうと二人はうなだれた。

 もう、今日はこの路地裏で寝るのが好ましいような心境だ。

 

「……テッツ、お前が先にクロス団長の名前出したよな」

 

 恨みがましく壁伝いにズルズルとしゃがみこみながらうめくように男が言う。

 

「でも、アレだけで縁あわせまで話いくか? つか、ノルドだってヴィネティガ騎士団長のこともちあげまくってたじゃねーか。」

 

 元来、ヴィネティガからの駐屯兵団はテサンで煙たがられるものだった。

 魔術師不在地域の治安維持を掲げながら彼らの目はいつもテサン内部に向いているのが明らかだったからだ。

 それを一転させたのが三ヶ月前に赴任してきたクロス・ハガードという男だった。

 赴任して早々にテサン騎士団長のもとを訪れ、挨拶をし、近隣の治安維持には両者の協力が不可欠だといたという。

 テサンは実り豊かで、なおかつ立地条件の良さで各地への通商拠点だった。そのためどうしても近隣は荒れていた。

 積荷を狙う盗賊、テサンの町に入れない流れ者の集落などがあった。

 テサン騎士団自体は町の中の治安にあたっていたので本腰を入れて近隣をどうこうできる状態ではないのが常だった。

 クロス・ハガードは一ヶ月で素行の悪かったヴィネティガ駐屯兵団を一新させ、二ヶ月目には隣国との検問沿いを根城にする盗賊団を壊滅させ、現在、三ヶ月目にしてテサン騎士団との連携にまでこぎつけている。

 おかげでヴィネティガ駐屯兵団にも話がわかる連中が居たことがテサン騎士団に知れ、急速に両団の距離は縮みつつある。

 

「クロス団長はスゲーもん」

 

「まぁな……」

 

「マァナ?」

 

「同意見という意味の『まぁな』だ今のは」

 

「わかってるよ」

 

 気分は最悪なのになぜか気が抜けたようで、いつの間にか二人で仲良くしゃがみこんでいた。

 思えば長年マァナに寄りつく悪い虫(自分達以外)を息の合った妨害工作で退けてきたのである。

 恋敵ではあるが、気が合わないわけは無かった。

 

 フッと二人の呼吸が軽くなる。

 前向きな精神状態に戻る瞬間まで同じ二人だった。

 

「まだ決まったわけじゃないし」

 

「だよな」

 

 持ち直すと、こんな路地裏に居ることは無い。

 飲みなおしてから帰ろうか、という気配になった二人に突然トドメの一言が降ってきた。

 

「決まってんだよ」

 

 低めの底冷えする女の声。

 二人仲良く声のした方を振り返ると双葉亭の女主人が路地より一段高い裏口から顔を覗かせていた。

 

「決まらなくても、あんたらにゃ、やらんと決まってんだよ。何年やったと思ってんだい。ぐだぐだと二人で遊ぶばかりであの子になんにも取り入っちゃいないだろーが」

 

「「そ、それは双葉っ、」」

 

 思わず二人同時にとりすがるが女は投げ捨てるような声色で言う。

 

「言い訳無用だ。双葉じゃない、レーンだよ。私らの見分けもつかない小童が。店の裏で煩くするんじゃないよ」

 

 それきり、ぱたん。と扉を閉じて……終わりだった。

 二人は思い出した。

 悪い虫をマァナから遠ざけるのは自分達二人だったが、

 自分達からマァナを遠ざけるのは他でもない、あの双葉達だったということを。

 

 

 


読んでくれただけでもありがたいのに、お気に入りに入れてくださった方もいらっしゃるようで……

昨日気づきました……まだこの「なろう」の機能が把握できておりませぬ。

本当にありがとうございます。

こんなに嬉しいものなのかー、としみじみ実感中です。

ほんの少しでもオツマミになれるようにがんばります・・・・。

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