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縁あわせ 13 毒吐く娘達※イラスト有り

読んでくださりありがとうございます。

今回、小説の最後に主人公の幼馴染ターニャちゃんの設定イラストがあります。

マァナ、ガッツリ乱入してますが・・・。


挿絵表示 する にしていただければご覧になれます。

ザッと描いたものですがよかったらどぞ!

 

 マァナに外出許可が下りたのは例の事件から10日後だった。

 足を酷く捻っていたのでまともに双葉亭の給仕は出来ないし、店に出ると常連客から行方不明事件と縁あわせの詳細を同時に聞かれるし。

「後日また会おう」と言った縁あわせの相手は一向に姿を現さないし……

 気分は踏んだり蹴ったりだった。良いのは天気だけだった。

 暑い季節を前にしたテサンは毎年この時期晴天が続く。

 そしてやっぱりお天気の今日、ようやくリーンとレーンを説得して出てきたのだ。


「ターニャ、こないだくれたお粉買わせてー」


「ようやく来たかと思ったら挨拶無しですぐ注文!?アンタいつもそう!親しき仲にも礼儀ありって言葉神様の教え知ってる!?」


「あ、こんにちわー最近どう?」


「大繁盛で粉まみれですわ!」


 粉屋の店先でターニャとマァナがいつもの会話を繰り広げているところに店の中からターニャの父がひょっこり出てきた。

 笑顔のかわいらしい、ターニャとおそろいの金髪でちょっと頭髪の薄げなおじさんだ。

 ずいぶん前に奥さんを無くしてからお店が傾き続けていたのだが、年々商魂逞しく育っていく娘のターニャに支えられて最近は盛り返している。


「よくきたねマァナちゃん。君のおかげでうちは大繁盛だよ。ありがとうね。ちょっと出てくるよターニャ、あとよろしく」


 二人で仲良く声をそろえて「いってらっしゃーい」と送り出した。


「今のどーいうこと?」


 最近の双葉亭の新たな買い付けはメコ粉くらいなものだ。他も大量に仕入れているけれど、それはいつものことでお礼を言われる理由がわからなかった。

 ターニャは首をかしげるマァナの背を押して店内のいつもの定位置に移動した。店の奥、茶色い袋の積み重ねられている陰だ。


「アンタさぁ、ヴィネティガ騎士団に何言ったの?こないだ突然、神経質そうな騎士がやってきて粉を売ってくれって……ご丁寧に持ってきてた見本が化粧粉で、マァナ嬢に教えて頂きましたっていうもんだからさ……」


「あー」


 粉の事をクロスには絶対言わなかったマァナだったが、事件の翌日来訪したヴィネティガとテサンの騎士達にはしぶしぶ幼馴染の『粉屋』から貰った白いお粉の事を話していた。それでも化粧粉であるという事は伏せていたのは女の子の意地だった。そんなものを投げたと知られたくない。


「それでうちの在庫抱えて帰っちゃって、また来るとか言うもんだから材料確保に飛び回ってるのよ父さん」


「ええっと、ごめん?」


「謝る事なの?うちは繁盛してありがたいけど」


「で、あたしもそのお粉が欲しいんだけどー」


「いったいなんなの!?」


 わめきだしそうな勢いのターニャに恐れをなして、マァナは先日の経緯を簡単にぼそぼそ語った。

 男に追い回されたくだりを聞くとターニャは青ざめ、その男達に粉をぶつけて逃げたと言うとこめかみを押さえた。


「本来の用途ではないわね」


「だからごめんなさい……でもね、あのお粉すごい効くんだよ。心配になるくらい男の人達ゲフゲフしちゃって。おかげさまで逃げられたよー。お世話になりました」


「で、どのくらい欲しいのよ」


「あ、この間と同じ小袋を四つほど……値切りません、今日は値切りません」


いつも値切っているので今日は神妙に値切らない宣言をしたマァナだった。命の恩人……恩粉様なのだ。


「はいはい。花街用の隠し在庫漁るかな」


「はなまち?」


「知らなくてよろしい」


 言い捨ててからターニャは店の奥に引っ込んだ。すぐに戻ってきた彼女の手には小袋が四つ。

 マァナはそれを満面の笑みで受け取り、料金を支払い、そして小袋のひとつをターニャの手に戻した。


「え?なに??」


「ターニャにあげる。あなたも困った事になったらコレを使うといいの!お守りよ!」


 お姉さんっぽいことしたー!と顔一杯に満足げな笑みを浮かべるマァナ。

 ターニャは苦笑した。


「マァナらしい……ありがたく受け取るわ。アンタも近づいてくる男には気をつけること。男が全員、双葉亭に来る様な連中じゃないってことちゃんと知っておきなさいよ。だいたいアンタ警戒心とか欠如してんだから……」


ナイフのことは言わなくて正解だったとマァナは自分を心の中で褒めていた。

言っていたら双葉達並にどやされただろう。


「それにしても懲りた?」


「お化粧はこりた」


「じゃなくて、商店の子達のとこに行く事よ。アンタあそこで入れ知恵されるのやめてくれない?」


「……リーンさんとレーンさんも同じ事言ったよ。似てきたね?でも安心して、もう行かないっていうか行けないから」

 マァナは少し声を震わせて大きな瞳に睫毛の影を落としうつむいた。


 マァナはここに来る前に商店の娘達のところへ行ってきた。

 晴れた日のお昼、彼女らはつかのまの休息に中央の噴水周りへ集う。

 あまり気は進まないけれど約束どおり縁あわせの顛末てんまつを誤魔化した感じで語ってお礼を言おうと思ったのだ。

 まさか知らない男達に追われる事態におちいったなどとは口が裂けても言えない。

 心配させてしまう。

 だが、語る間も無く挨拶もそこそこに商店の娘達に語気荒く詰め寄られたのだ。


「あなたの縁あわせのお相手ってヴィネティガ騎士団の団長ですって?」


 マァナは彼女らにクロス・ハガードの名を出していなかった。

 何故なら自分自身がこの縁あわせに半信半疑だったから。

 ターニャにすら名を伝えてはいなかった。


「あれだけテサンの騎士達におんぶに抱っこの商売をしているのに反目しあっているようなヴィネティガに嫁ぐの?」

「そもそもヴィネティガへの兵役逃れなのにヴィネティガの人間と縁あわせって馬鹿にしてると思われてるわよ」

「っていうか、テサンの騎士、誰も捕まえられなったことがびっくりよね、毎日何十人も会ってるんでしょ」

「それなのにヴィネティガの団長狙うって、オトせないわぁ絶対」

「一年の兵役がんばってね。でもお土産はいらないわ。もうここにこないで頂戴」


 明確に悪意を持っている声、半笑いで小ばかにする声、マァナの存在を拒絶する声……

 少なくとも今まではちゃんと会話をしてくれていた娘達の突然の態度にマァナは呆然とした。

 以前から半笑いで小ばかにされる事は多かったように思う。

 娘達に自分は最初から拒絶されていたのだろうか。それに気づかなかっただけ……

 考えてみると自分は娘達を避ける事が多く、何か聞きたい事がある時にだけここへ来ていたのだ。


 あたし、やっぱり自分の事しか考えてないんだわ。こんな子じゃぁ嫌われても当然だわ……


 マァナは自分に非を見出し、「はい」と小さく返事をするのが精一杯ですぐに娘達から離れた。

 背中から追ってくる声と視線が耐えようも無く苦しかった。痛めた右足が再び熱を持って前に進むのを邪魔しているかのように思えた。



 ターニャは容赦無く事の次第を掘り返す。マァナはなんだかもう一回傷ついた気分になった。

 せっかく粉屋に来る前に少し路地裏で熱を冷ましたというのに、水の泡だった。

 ……はぁ、とターニャのため息が聞こえて体がすくんだ。

 自分が嫌われている事にすら気づかない鈍感娘だと知った今、マァナは唐突に臆病者になっていたのだ。これでターニャにまで嫌われていたら人生が終わってしまいそうな気分だった。


「一回しか言わないわよ。私、あの辺の商店の女共、大嫌いなの」


「へっ」と、マァナは間抜けな声を出してしまった。

 何故ならターニャは今まで一度も商店の娘達を嫌いだと言った事はなかったから。いや、それ以前にターニャは誰の事も悪く言わない娘だったはずだから。


「お客の悪口に、男の品定め、人の揚げ足取りに、近所の噂、つまんない自分達を着飾る事ばっかり」


 一息に言ってから苦虫を噛み潰したような顔になる。

 そしてマァナをキッと睨んだ。


「アンタが言わせたんだからね。落とし前つけて、今後あの商店の子達と絡まないで」


 マァナはただコクコク頷く事しか出来なかった。

 こんなにイラついたターニャを見るのは初めての事で、疲れたようにため息を吐く幼馴染はどこか知らない大人のような表情だった。


「まったく、毒を吐きたくないのよ。」


「どく……?」


「人の悪口とか、悪意や不満の言葉。言うと毒がにじみ出て、人に、家の中に、そこらじゅうに溜まるのよ。そして皆動けなくなる……だから言わせないで。

マァナはいつも花しょって我関せずで誰にも傷つけられないでいて」


 本当に動けなくなってしまうんじゃないかと不安になってマァナはターニャの手を思わず握った。

 母を無くして苦労しているのはわかっていた。

 もしかして自分がぼんやり毎日を過ごしている間にこの娘は動けない日があったのではないだろうか。


「お粉をくれたマァナが好きよ」


 ふいに空気を和ませてターニャが告げた。率直な好意を言葉にされた事は今まで無かったので面食らって「お粉をくれたのはターニャよ?」と頬を赤らめマァナは言い返していた。

 二人で照れ笑いをした。さっきターニャが吐いた毒は床にも二人にも留まることなくどこかへ消えてしまったようだった。

 マァナは盛大に照れ続けていたが、ターニャはあっさり元に戻って商店の娘達の言葉を否定しにとりかかった。


「知らないだろうから教えとくけど、ヴィネティガ騎士って昔から結婚相手としては良しとされてはいるのよ。テサンの住民感情としては微妙なトコがあっても、地位も収入も安定してるからね。

 あと、最近盗賊団の大掛かりな討伐を始めたりでまともになったんじゃないかって言われ始めてるわ。帰ってきた時に話題になってたのよ。ヴィネティガ騎士団の行進。

いつもは嫌味なほど乱れてない制服が皆盛大に乱れて汚れてて、それがなんでも格好良かったとか何とか。私は汚いの嫌いだからそういう感覚わかんないけどね。

 商店街の子達、それでも見ていたんじゃないかな?団長さんだったのね、相手。やっかんでマァナに当り散らしただけよきっと」


 それでなくてもアンタの周りは騎士だらけだからやっかみネタには事欠かないんだろうけど、という言葉は言わないでいたターニャだった。


「それって毒?」


「違うわよ、コレは茶化してるの。マァナを傷つけたのにマァナの縁あわせの相手に熱を上げるなんて滑稽」


「それ、毒だと思うなぁ」


 クスクス笑って、ターニャを茶化した。「もう傷ついていないよ」の自己主張のかわりに。

 いつもの二人に戻れたのを確かめてからマァナは握っていたターニャの粉っぽい手をそっと離して店をあとにした。

 本当はもう少しターニャのそばに居たかったが、「少しでも帰宅時間に遅れたらテサン騎士団に大捜索させるからね!」と双葉達に言われていたのだ。

 本気でやりそうなので怖い。


 帰る途中で息を潜めてつぶやいた。


「……じゃぁ、すきになってもいいのかなぁ」


マァナの小さなつぶやきは賑わう雑踏にあたってはじけて消えた。










挿絵(By みてみん)



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