縁あわせ 1 始まり
小説を書くのが初めてなので至らない事だらけだと思います。
ついでに遅筆だと思われます。
・・・つまみ程度にすらならなかったらごめんなさい・・・。
「縁あわせ……というのは『お見合い』か」
書きかけの書類からふと、顔を上げて男はつぶやいた。
向かい席の神経質そうで小柄な男がそれを聞きとがめて顔を上げる。
「何ですか団長、突然意味不明な。目の前の仕事に専念下さい」
「ぅむ」
再び室内はカリカリと筆を動かす音だけの静寂に包まれる。
陽の当たらないここ駐屯兵団の休憩室は書き物仕事にうってつけなのである。
とうの執務室の方は陽あたりが良好すぎて1分と紙面に向かってはいられないのだ。
ある種の嫌がらせなのではないかと団長と呼ばれた男は考える。
自分達は魔術都市『ヴィネティガ』より派遣された100人からの兵団である。
魔術師不在地域の治安維持のためという名目だが、実際はここ『テサン』の監視報告のためにある。
この世界は魔術師達が掌握している。
彼らの力は絶大なのだ。絶大過ぎると言ったほうがいいか……。
敗北色の濃い戦況も強力な魔術師数人を投入すればひっくり返るほどに。
ほとほとバランスの悪い世界だと男は思う。
魔術都市ヴィネティガには魔人の家系とよばれる王族と、それにつらなる貴族がいる。
魔力の大小は大概血脈で決まるので、それはそれは選民意識が強く、付き合いにくい人間ばかりだった。
自分には魔力など縁がなかったのでテサンの方が居心地はいい。ここには魔術師が居ないからだ。
だがテサンの住民に自分は嫌われているのを肌で感じる。豊かなテサンをヴィネティガは接収したいと考えているからだ。場合によっては牙をむくのではないかと警戒もしている。
大国の建前と本音を背負ってここにいる自分。
それでも男は思っている。できる限り任期を延ばしたいと。
「……ちょう、クロス・ハガード団長!」
いつの間にか小柄な男が立ち上がり、机越しに身を乗り出している。
アスラファール・フォン・クリート。補佐官をやっている男だ。
もともとテサンの役人で前任の駐屯兵団長の補佐もやっていたそうだ。
短く綺麗に揃えられた灰色の髪や、常に上段まで閉じられた前襟。なにかにつけ非難がましい目つき。
神経質そうな外見にたがわず神経質な男。
赴任三ヶ月目で本格的に愛想を尽かれそうで扱いに困っていたりする。
クロスは自他共に認める散らかし魔なのだ。
「なんだ?」
また書類の書き損じを丸めて捨てたことを咎める気だろうか。
機密処理できちんと扱わないといけないと再三言われている。
もしくは引き出しに詰め込んだ衣服がまた見つかったか。
無論洗っていない。
あれか、これかと頭を巡らせるが、クロスの表情自体は変化が見られない。
彼の特技は無表情なのだ。
「そのシャツについたシミは何ですか」
ゆらりとアスラファールから怒りの気配が立ち上る。
「……昼食のスープかな?赤みがあったからな。」
視線の先、自分の胸元のシャツをつまむと、ぽつぽつ、赤いシミが2つあった。
「あなたは……そのシャツでテサン台頭と面会してきたのですか!」
この世の終わりのような声をあげる補佐官に大げさだな、と声に出すことはできない。
後がうるさい。……今もうるさいが。
「とにかく、脱いでください。染み抜きしますから! 間に合うか……昼食からはかなり時間が……」
染み抜きまで出来るのか。
いや、出来るようになったのか……
クロスがここに来てからというもの、アスラファールには日に日にこういった面倒をかけているようなのだ。この程度のシミや、同じシャツを3日着るとか、朝食を抜くとか、部屋が散らかっているとか別段困らないのだが、彼から見ると言語道断な様子なのだ。
正されて困ることでもないのでしたいようにさせていたらいつの間にやら団内では「団長妻」と呼ばれるようになったらしい。
この呼び名を本人がどう感じているのかは聞かないことにしている。うるさそうだから。
言われるままにシャツを脱いで再び紙面に向き合えば
「そのまま落ち着く人がいますか! 服を着てください!」
と再び騒がれた。
服は……引き出しに詰め込んでいる。だから、無論、洗っていない。
もう何枚かシャツを買おうと心に決めたクロスだった。