制服
みんなで最後の寄り道をしようと、ドアを開けた。
「睦美ちゃん、今日卒業式だったんだよー」
なんて、みんなで卒業証書の筒を見せる。
式では感極まって泣いちゃったりしたんだけど、実はあんまり変わる気がしないんだ。
地元を離れる人は、ほんの少し。
昼間に過ごす場所は別々でも、同じ場所に住んで、電話でもメールでも繋がれる。
実際、明日はカラオケに行く約束もできてるし。
いつもと同じ場所に陣取って、今日はちょっとお祝いだから、お菓子も頼んじゃおっかなんて陽気さ。
髪の色もお化粧も、これからへの話題は尽きない。
工学部に進学する友達に、男の子紹介してーとか頼んだりして。
ねえねえ、どんなサークルに入る?合コンなんかもあるよねって。
「賑やかしいね、もうお別れだと思うと寂しい」
睦美ちゃんがオーダーを運びながら、しみじみと言う。
「やだあ、来るよ。睦美ちゃんに会いに」
通う場所が変わるだけで、私たちのノリはそんなに変わるものじゃない。
お母さんたちだって、学生時代の友達と会うときは、高校生みたいな声上げてるもの。
睦美ちゃんは薄く笑う。
「次に会うときは、あなたたちは制服を着てないのよ」
桜の花びらがはらり、と落ちたような笑い方だ。
「高校生のあなたたちと会うのは、今日でおしまい。次に会うときは、みんな別々の道を歩いているの。それが寂しい」
ああ、そうか。高校生の私たちは、今日でおしまいなのか。
スカートの丈を短くしても、髪を染めても、もう誰も何も言わない。
石のついたピアスは日常のものになる。
それはとても望んでいたものだったのだけれど。
自分のブレザーとチェックのスカートを見下ろして、向かい側の友達と同じことを再確認する。
もう二度と同じ服を着ることはないんだ。
制服は何かを押し付けられている気がして、ちっとも好きじゃなかった。
それなのに、ここに来る私たちはいつも制服姿で、それは学校帰りだから当たり前のことだったんだけど。
何度も繰り返されたこのテーブルの場面は、もう二度と来ない。
そうだね。高校生の私たちは、もうおしまい。
「あらら。泣かせるつもりじゃなかったのよ、ごめんね」
睦美ちゃんが慌てた顔で言う。
「ううん、大丈夫。また、ここで集まるから」
悲しいんじゃなくて、なんだか甘い感じ。
この感情を「せつない」って言うのかな。
「もう一回、校舎見てこようか」
誰かが言い出して、みんなで立ち上がった。
「集合写真、撮っておく?」
睦美ちゃんにカメラを渡して、「ハーモニー」の前に並ぶ。
「これでいい?」
差し出された液晶には、全員同じ制服を着た私たちが映っていた。
fin.