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ラッピングの中身

バレンタイン前の土曜日は、お茶の時間を過ぎた頃に高校生でいっぱいになった。

恒例の「バレンタインのチョコレート教室」で、店の中にあふれかえるチョコレートの香り。

これだけで胸焼けして、俺はもう食べたくない。

この時間ばかりは洗い物もできないし、俺は用無しになる。

きゃあきゃあ楽しそうな女の子軍団を尻目に、さっさと居住部へ戻った。


昼寝していたら、店からの内線が鳴った。

「ラッピング材料、持ってきてぇ」

居間の片隅に置かれた、リボンと袋と包装紙の山。

中身のチョコレートよりも、おそらくこっちに金がかかる。

食っちゃえば捨てちゃうものなのに、女の子は十重二十重にこれをしたがる。

どうも俺にはわからない感覚だけど、重要なことらしい。


高校生たちが騒ぎながらブラウニーだったかな、焼き菓子を切り分け、睦美ちゃんの友達がラッピング講習をはじめた。

色とりどりの包装紙(英字新聞やわら半紙みたいなのもある)と太さや生地のさまざまなリボンが次々に選ばれ、素材を買うだけで結構な金額が支払われたりする。

この金額払うんなら、チョコレートをもう一切れ増やしてくれた方が、俺なら嬉しいんだけどね。

でも、女の子たちは真剣そのもの。

同じチョコレートを包むのに工夫を凝らし、ああでもないこうでもないとリボンの結び方を指導されてる。


キッチンの中を片付けてる睦美ちゃんを手伝い、一切れずつ食べるっていうんで、人数分のカップを出す。

普段は神経質に茶葉を計る睦美ちゃんが、ざかざかと紅茶を淹れてる。

このイベント、多分採算は合わないんだろうなあ。


大騒ぎの女の子たちが帰り、ラッピング講習してくれた友達にお礼を持たせると、陽はとっぷりと暮れていた。

ざっと掃除をすればもう、夕食の時間だ。

「……疲れちゃった。外食しちゃおっか」

カフェで料理を作り続ける睦美ちゃんの好物は、実は切り干し大根だったりするのだ。

定食屋まで歩く道すがら、ラッピングの話になる。

「女の子って、なんで包装にあそこまで拘んの?」

睦美ちゃんはくすっと笑う。

「男の子には、わかんないよねえ。どうせ食べられちゃっても、外側で個性を主張したいの」

「捨てちゃうのに?」

「一番最初に目につくものでしょ。デートの前にファッションショーするのと一緒」

いや、俺は服より中身の方がいいけど。

「チョコレートは気持ちなの。大事なものは大事に包みたいのよ」


大事なものを大事に包んでくれるのはありがたいけど、俺はやっぱり中身がいい。

「プレゼントのラッピングに関しては、なんとなーくわかった。ところでさ」

暗がりを歩きながら、睦美ちゃんの肩に手を回した。

「去年、俺にくれたのって皿に直接乗ってたよね。いかにもすぐ食えって風情で」

「家の中だから……」

「あれって、いつでもOKってこと?」

「何を?」

「わかってるくせに。最近疲れただの俺の帰りが遅いだのって」

「事実だもん!別に拒否ってるわけじゃ」


言い訳は聞きません。

本日はラッピングなしの睦美ちゃん、いただき。


fin.

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