表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

刑場にて





 サウスシャディーダ王宮門前で警護の仕事をしている冒険者パーティ『蒼天一閃』の所へ、ギルドの受け付け職員がヒョッコリ現れた。


「子供への救助依頼がハンパなかったから、ギルドでは受けられないけれど、民意として一応提出しに来た」

「びっくりした!」

「この人垣の中、どうやって来た?」

「屋根とひさし伝って」

「簡単に言うなァ」


 職員は、門の向こう側に立っている正規の兵士に、書類ケースを差し出した。

「民意で――す」

 先程からデモ隊の要望書も受け取っている兵士は、その流れのつもりで軽く手を出した。

 次の瞬間、ケースの掛け金が柵に引っ掛かって蓋が開き、中身の書類がわっと散る。

「うわ」

 思ったより多い。

 他の場所に立っていた兵士も来て、拾うのを手伝い始める。


 脇で傍観している双剣使いの斥候(せっこう)の視界の端に、向こうの城壁をヒョイヒョイと越えていく影が映った。


(全員で視線切るとか、ホンット、ここの衛兵ってザル)


 職員は斥候に寄って、世間話をしながら、彼にだけ聞こえる小声で説明を始めた。

 裏メンバーを城の高い所に配して、あらかじめ潜入させている間者から受け取った中の状況を、リアルタイムでここへ伝えさせる。

 数人を屋根に配して、手信号の伝言形式を使うらしい。


「そんで、状況次第で俺が動く、と」


「うちのパーティ、ギルドの依頼でここの警護してるんですけどっ?」

「まぁ保険保険。このまま収束まで滞りなく進んでくれれば、俺の出る幕なんて無いから」

「お前がギルドを人に任せて出張って来るなんて珍しいな」

「たまにはな」

「お前さ、そこまでロゼに入れ込んでた?」

「いや……まぁ、自分でもビックリだわ、ハハ」


 そこで、王宮屋根に潜んだ仲間から、結構長い目の手信号が入り、職員は真顔になった。


「ん、ん・・あ、あぁ――」

「どした?」

「いや、もしかしたら、俺、門壊して突入する事になるかも」

「ちょっと待て」


「割と、けっこう、緊急事態。第九王子がバカやって捕らえられたみたい」

「はああ?」

「今はまだ様子見だけれど」

「あンの坊っちゃん王子~~」

「これで、彼を放っておけないロゼは、予定が狂った」


「突入ったって……」

「ま、昔取った杵柄(きねづか)で何とかなるよ」

「俺もまぜろよ」

「お前は駄目。表の、貴重なAランクの一員だ。無関係の顔をしていてくれ」

「都合のいい時だけコキ使いやがって」

「後は頼んだ」

「頼まれたくねぇ」


 職員はまた手信号の方へ視線を戻し、斥候は王宮の奥にあるという処刑場方向に目をやった。

 本当は、こんな児戯みたいな警備の城、夕べの内にロゼを逃がしてやる事だって出来たんだ。


 だけれど、ザル警備の牢屋へ忍んで行った裏メンバーに対し、ロゼは首を横に振った。

『贖罪を放棄して逃げると天国へ行けなくなるから』と。

 相変わらず面倒臭さは変わらないようだ。


『それに、第九王子殿下の評判に差し障るでしょう? 逃げちゃったら』


 その第九王子がヘボで、主人(あるじ)の癖にお前を守れなかったから、こんな事になってるんだろうが。


 逃げる代わりにロゼは、手記を書いて裏メンバーに渡した。自分を含め第九王子もこの国も、皆が穏便に助かる為の手段だと言って。

 そう、あの子はいつだって諦めない、頑張ってちゃんと生きる。助かる気満々でいる。


 まったく、ロゼの要らん手間増やしやがってよ、あのボンクラ王子が!!



 ***



 王城の奥庭、準備の整えられた処刑場。


 王と、王太子である第一王子、法務大臣、執行に携わる役人、それと被害者であるイストメーアの使者殿。

 本来は侍従の刑罰に王が立ち会う必要など無いのだが、今回は帝国の使者殿が立ち会いたがったので、こんな大袈裟な事になっている。

 第一王子など、何で自分がいたいけな子供の切断刑を見なければならないのかと、露骨に嫌そうだ。


 しかも、夜明け前から門前に、刑の執行反対の民衆が押し掛けている。

 いったいどこから洩れた、拡散した? と思っていたら、新聞に獄中手記が載っているという。だからいつの間に!?


「あ奴か……?」

 王は苦虫を噛み潰した顔をした。

 側妃の末子第九王子。

 末端の者だが、語学に長け物怖じをしないので、外交官に据えている。

 ただ、失敗の経験が少なく陽の当たる所しか見ないのが、多少心配ではあった。

 夕べ忍んで地下牢の子供に会いに行ったようで、それには目を瞑ってやっていたが、まさかこんな事をしでかすとは。


 門前の民は陽が昇るにつれ数を増し、おさまるどころかシュプレヒコールがここまで聞こえる程に膨れ上がっている。

 あんな子供に何故そんな人気が?

 確かに見目は良いが大人しい性分で、言葉少なに陰に控えているような子供だったと思う。


 その内、捨ておけない声が聞こえ始めた。

「ノースフレイクの天使を返せ!」

「ウェストパレスの英雄に何をしてくれる!」


 何でだ? 何で他所の国名が出ている? 

 そこへ慌ただしく、第九王子が取り押さえられたとの報が入った。


 案の定というか、子供を逃がそうと企てていたのを、第八、第七王子界隈の勢力に暴かれたらしい。

 おおよそ、安易に協力者をあおぎ過ぎたのだろう。

 末子なのに大役を授かっている身として、妬む者がいるのを自覚しろ、あのお花畑。



 ***



 貴賓用の大椅子にどっぷりとふんぞり返ったイストメーアの使者は、実は内心が嵐の小舟のように翻弄されている。


 祖国イストメーア帝国の威信を背に負って、諸外国を巡っている。

 舐められてはいけない、常にストレスが溜まる。

 日の出から真夜中まで交渉の機を伺い、接待の飲み食いで身体がむくみ持病を患うほどに苦労をしているというのに、何だあのサウス外交官のシュッとした外見は。

 健康の為に睡眠に気を配っている? 酒と油物は控えている? 外交を舐めとるのかっ!?


 そんな苛立ちが溜まっていた所、酔いを冷ましに入った庭で、彫刻のような巻き髪の子供に遭遇した。

 あの若造が後ろに侍らせていた侍従見習いだ。どうせ寝床で可愛がる専用だろう。

 ちょっと揶揄(からか)ってやろうと押し倒したら、物凄い勢いで抵抗して来て蹴り上げられた。


 一瞬冥府の門をくぐったかと思った。まだ身体を動かすと痛む。


『その子供の両脚を切り落とせ』は勢いで言ったが、その時は本当にそう思った。

 だって痛かったのだ、教育が足りないのが悪い、そもそもサウスの連中は全体的にヌルい。


 そんな気持ちも一晩経てば多少は薄らぐ物で。

 まぁ、あの子供もトバッチリだよな、ただただ怖かっただけだろう。

 あんな身体の小さい子、脚切ったら死んじゃうよな、それはさすがに痛ましい。

 それに、牢屋で一晩、恐怖に打ち震えもしただろう、もういいか。


 だから今朝、刑場に引かれて来た時に立ち上がり、慈悲深い声で寛大に、鞭打ち一回ぐらいに減刑してやろうと思っていたのだ。

 あのあどけない瞳に涙を浮かべて有り難がられれば、さぞかし気持ちが良いだろう。


 それが何だ? 子供が中々来ない上に、民衆が騒いでいる? 第九王子が捕まった? 反逆罪? クーデター? わしはそんな事は望んでおらん。



 ***



 困惑した顔の兵士たちが、申し訳程度に後ろ手に捕縛した王子を、王の前へ引いて来た。

 兵士も、こんな王族の捕り物などに慣れていない。


 第九王子は正義に燃えた目を上げ、朗とした声で叫ぶ。

「あんな子供に切断刑など、残酷過ぎる、血を流し過ぎて死んでしまう、死刑と同じだ。そもそもそこまで悪い事をしていない、どうか再考して欲しい」


 渋い顔をする父王の横で、王太子である第一王子は(あー―あ・・)と心でため息を付いていた。

 そんな事は言われなくても分かってる、正論を叫べば良いって訳じゃないだろ。

 末っ子とはいえ、いい年をした王族なんだから、ちょっとは空気読め。


 貴賓席の使者殿を横目で見ると、さもありなんな苦々しい顔をしている。


 この使者殿、日頃の言動から察するに、熱しやすく冷めやすい。

 直前まで引っ張ってから、勿体ぶって子供を許してやり、感謝される気満々だったのだろう。

 だから父王も言いなりに、はいはい仰せのままにと処刑場を設えたのだ。

 理詰めで口ごたえするとヘソを曲げるのだ、こういうタイプの御仁は。

 それをこの末っ子は……




 使者も内心で荒れていた。

 これでは子供を減刑してやってもこいつが主役ではないか、面白くない。

 だからこう言ってやるしかなかった。


「ならば貴殿が肩代わりして刑を受けるか?」





第一王子:

多兄弟の長男なりの苦労人。

見目が良くて国民に人気だけはある末っ子の『やらかし』率が高いので、いい加減辟易している。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ