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7:切り裂き魔の亡霊(後編)

 まだ昼だというのに学園には静寂が流れている。

 除霊委員会メンバーは一度委員会室に集まり簡単な作戦会議を開いた。


「囮はいいんだが大丈夫なのか?」


 今までの事件の共通点は被害者は全て女性である事だ。

なので次も女性を狙う可能性が極めて高い。

 神楽坂は少し心配になって天河に聞いてみた。


「危なくなったら助けてね?」


 天河からは特に恐怖心は感じられず、シッカリとした表情で立ち上がる。

 少し心配になっていた神楽坂は、やれやれといった顔を見せて作戦は開始された。


 まずは天河が囮として校内を巡邏する、その間星龍による霊視で悪霊を監視。

 男性陣は中央広場で待機、ここは学園の中心部で校内のどの場所で現れても素早く駆けつける事ができる位置である。

 後は囮に釣られ悪霊が現れた所を抑えれば作戦完了だ。

 いかに悪霊に気付かれずにいるか、がポイントでお調子者の上村が風邪で休んでいたのは幸いだったかもしれない。



 天河は毅然とした態度でA校舎1階廊下を歩いている。

 2階から上の方までは行かない、万が一の時助けに行くのが遅れてしまうからだ。

 それにそこまでやる必要もない事は今日の襲撃で分かっていた。


 切り裂き魔は女子生徒が1人で居る所を襲うのだ。

 そこに高さの概念等は無く、ただそれだけの条件なのである。


「・・・・・・・・・。」


 気丈にみせてはいるが、内心は何時襲ってくるか分からない悪霊に恐怖を感じていた。

 近くに神楽坂達が待機しているとはいえ不安なのだろう。




「・・・何か異変はあるか?」


「今ん所なんも無いなぁ・・・・。」


 男性陣は中央広場に立つ大きな桜の木に隠れながら様子を伺っている。

 今の所は異常は無いようで、天河はA校舎を出てB校舎へと向かっていた。


「そーいや先輩よぉ?カミさん休んでんだけど何か言ってなかったか?」


 「カミさん」とは、上村の「上」を取ったあだ名である。


「・・・・お前同じクラスだろ?風邪で休んでんじゃないのか?」


「多分そうなんだけどよ・・・まぁいいか。(カミさんが風邪で休むとは珍しい日もあんだな・・・・。)」


 上村が学校来ていない事は分かっているが、何故休むのか、欠席届けも出さずに自分の携帯にメールで「ちょっと休む」とだけ書いて送って来ていた事が少し気になっていたが、恐らく風邪だろうと一応納得していた。


「そんな事より悪霊が出たら速攻で潰すぞ。」


「心配無用だぜ、全力でたたっ斬ってやる。」


 篠崎は左手にもっていた竹刀袋の先から出ている日本刀の鍔を親指で押し上げた。

 家は代々剣術を教える道場を開いており、彼もまた剣術を学んでいる。

 腰に差している刀は真剣であり、神鋼玉を鍛えて作った霊刀で銘は「龍閃りゅうせん

 本来ならば銃刀法違反ものだが篠崎の家は免除されている。


 天河が囮になって一時間、未だ異常は無く学園は静寂に包まれたままであった。

 B校舎へと入った彼女は此処でも2階以上、上の階には行かずにそのままC校舎へと向かう。


「・・・・・・・・・・。」


 天河はゆっくりと廊下を歩き各クラスの中に入る、そしてまた廊下へでて先に進む事を繰り返す。

 今のところ彼女には何も感じられず、本当に切裂き魔が現れるのか?とすら思っていた。

 しかし、外にいる星龍はその異変を一番に察知する。


「・・・・・・・・!?」


「・・・きたか・・・・・。」


 星龍の様子に長緒が気付き、神楽坂達は何時でも飛び出せる体勢になった。


「かなり微弱な霊気やけど・・・・わいの眼は誤魔化せられへん。」


 星龍は天河がいるB校舎を睨んだ。

 その情報は即座に彼女へと送信される。



(・・・分かったわ。)


 心の中で星龍に返事をすると、天河は各教室へ入る事を止めてA校舎1階へと引き返し始める。

 現段階では悪霊の気配があるというだけで本体はまだ発見できていない。

 しかし、その本体が現れるのも時間の問題だと判断した彼女は中央広場から一番近いA校舎中央玄関に移動したのである。



 星龍は絶えず監視を続ける。

 今のところ天河の背後の方向に邪悪な霊気が現れ始めている程度だ。


「・・・・・俺達に切り裂き魔の霊気は感じられないが・・・今の状況は?」


「天河先輩の背後に霊気が広がり始まってきとる所やな・・・・せやけどまだ本体は見えへん。」


 長緒はそうか、と返事する。

 その時、天河がB校舎から出てきた。

 彼女はゆっくりとA校舎へ向かう、切り裂き魔は未だ姿を見せないが、その霊気は確実に後ろを付いてきていた。


「・・・・・あと数分程でA校舎だが、まだ現れる気配はねぇのか?」


 神楽坂が星龍に問いかけた時、彼は突然立ち上がった。

 それと同時に外を歩いていた天河に異変が起ったのか、彼女はその場で立ち尽くしている。


「しもたっ!!本体ばかり気にしとって肝心の事を忘れとったっ!!」


「どういうことだ?」


「霊気そのものが本体やっ!!」


「・・・・・なんだとっ!」


 切裂き魔の本体は、本体として存在しているのではく霊気として霧散していたのだ。

 その証拠に今まで天河の後ろについて来るように広がっていた霊気が今では彼女を包み込むように広がっている。


 長緒は作戦は失敗したと即座に判断。

 待機組は天河の元に走って向かい、星龍も後を追った。




「・・・・・!?」


 天河は当然聞こえた声に足を止めていた。

 星龍の報告ではまだ本体は現れていない、それなのに声が聞こえた。

 どう考えても人間の声とは思えない、彼女の頭に切裂き魔が現れたと浮かびA校舎に誘導しようと足を動かそうとしたが・・・。


「・・・・・あ、足が動かない!?」


 彼女の体は金縛りのように身動き一つできない状態になっていた。

 今まで切裂き魔は相手の自由を奪う力は持ってはいなかったが、恐らく今回襲った生徒の精神力を吸い新たな力を得たのだろう。

 このままでは作戦を続行する事ができない。

 更に今の状態では助けを呼ぼうにも精神の集中が出来ず念を送る事もできないでいた。



<・・・・・・ククク・・・。>


「・・・・・!?」


 真後ろから突然、悪霊の声が聞こえた。

 天河は何とか後ろを振り向こうとするが動けない。

 何か特殊な力が彼女の体を呪縛していた。


「あ、貴方ね!ここ数日生徒を襲った霊は!」


 身動きできない状況にもかかわらず気丈さを見せる。

 霊との戦いでは自分の精神の弱さが死に繋がるからである。

 

 悪霊は不気味な笑いを上げると、ゆっくりと声を発した。


<・・バカな女ダ・・・・・俺を退治するツモリダッタノカ?>


「・・・・くっ!」


 気配から自分にゆっくり近づいてきている事が分かった。

 何とか金縛りを解こうとするが、この数日で力を更に上げた悪霊を跳ね除ける事ができない。


<・・・・お前ハ霊能者ダナ、切り刻みがいノ有りそうな女だ。>


 天河と悪霊との距離が無くなった時、ようやく神楽坂達が到着した。


「天河・・・!」


<おっト・・・・動くなよ?・・・・オ前達が居た事ハ初めから分かってイタ。>


 天河の体が神楽坂達の方向をゆっくりと向くと、彼女の首には鋭い死神が持っているかのような大鎌の刃が向けられていた。


「・・・く、本体が霧散しとったとは・・・わい一生の不覚や。」


 悪霊は実体化してなく、フードを被った人型でもない、赤黒い邪気が天河の背後に取り付き其処から鎌の刃が出ているような感じだ。

 天河を人質に取られ神楽坂達はヘタに動く事ができないでいた。


<・・・・・・・ククク。>


 悪霊の不気味な声が木霊した。

 まるで自分が優位で居る事に浸っているかのようだ。


「皆!私の事は構わず悪霊を倒してっ!」


 自分の身を犠牲にするその態度が気に食わない悪霊は鎌の刃を彼女の首に近づけた。


<黙レ、喉ヲかき切られたいのか・・・・?>


「・・・・悪霊には絶対屈したり・・・しない!」


 天河は悪霊の脅しも自分には通用しないという強い意志を見せた。

 それが更に悪霊を激高させる。


「・・・・・よせ、それ以上挑発はするな。」


 何もできず膠着状態が続く、なんとか打開策を練る為に時間を稼ぐしかない。


「ど、どうしてこんな事を・・・?」


 天河は悪霊にどうしてこんな事をするのか?その経緯を喋らせ時間を稼ごうとする。

 鎌の刃と自分の首との距離が数cmも無いため上手く喋る事ができない。


<何故?・・・・イイだろう教えてやるよ、オレは女ノ悲鳴と赤い血ガ好きでねぇ、ナイフを伝う鮮血を見るのが堪らなく快感ナのさ。>


「い、異常だわ・・・・・・。」


 思わず口に出した言葉に悪霊は機嫌が良くなったのか更に続けた。


<ククク・・・その言葉、死ぬ前モ言われた事がアる。

 勿論、ソノ女もこのナイフの錆にシてやったゼ?

 それにしてもココには素晴らしい力がアル、数人斬ったダケでここまで力を得る事がデキルとは思わなかったゾ。>



「・・・死ぬ前も?・・・・・っちゅう事は・・・」


 星龍は悪霊の言葉にある事を思い出した。

 篠崎も今まで引っかかっていた事を要約思い出した。


「てめぇ、数ヶ月前、隣町で女ばかり狙ってやがった連続切り裂き事件のヤロウか・・・!」


<ギャアアッハハハハハ!!正解ダ!良く分かっタな!と言うワケでこの女にハ死んでもらおうカッ!>


 篠崎は切り裂き魔の正体に気付いた。

 数ヶ月前から隣町では女性のみを狙い、ナイフの様な刃物で斬りつける連続切り裂き事件が発生していた。

 警察も犯人を捕まえる事が出来ずに数日前、切り裂き事件の犯人と名乗る男が堂々と警察署前に現れ持っていたナイフで自らの喉を切り裂き自殺し幕が降ろされた。

 だが、犯人は罪の意識から命を絶ったのでは無く、死しても悪霊となり犯行を続ける為に自分を捕まえる事が出来なかった警察の目の前で、まるであざ笑うかのように嬉々として死んでいったのである。


「うっ・・・・・。」


 天河の首に触れていた刃がとうとう彼女の皮膚を切り、ゆっくりと鮮血が流れた。

 悪霊の鎌が天河の肌を今にも切り裂こうとした時だった。


<ナ、何だこの力ハ!?>


 悪霊が四方を警戒している様子が想像できた。

 篠崎達も何事かと周囲を見回す。

 異変というのは突然発生した凄まじい霊気だ。

 その発生源は直ぐに分かった。


 それは無言のまま、お互い半身で悪霊を睨みつける神楽坂と長緒のニ人だ。



(す、凄い力・・・・・。)


 首に刃を当てられ喋れない天河は頭でそう思った。

 篠崎と星龍も今まで感じたことのない強力な力にたじろいだ。


<コ、この力、本当に人間か・・・・!?>


 悪霊は二人の強力な力に戦慄した。

 しかし、まだ此方が優勢だと言わんばかりに天河を前に出す。


<ヘ、ヘタな真似をすれバこの女をコロスゾ・・・・!>


 下手な脅し文句だが、神楽坂と長緒にそんなものは通用しない。


「やれよ、どうせ殺すつもりなんだろ?」


 神楽坂の静かに喋るその冷酷さが更に凄みを見せた。

 長緒は無言に徹している、しかしその眼光は鋭く今にも突き刺さりそうな眼をしていた。


<クッ・・・・・!>


 悪霊の優位さは変わらない。

 わざわざ天河を人質にせずとも彼女を殺した後、直ぐに逃げれば良いだけの話だ。

 しかし、神楽坂と長緒の凄まじい力と余裕、例え人質を殺したとしても自分を倒す事が出来るかもしれないという呪縛が悪霊を襲った。


 迷いが出たのか、動きが一瞬緩慢になった。

 その一瞬を長緒は見逃さない。

 霊気を拳に集中させ、地面に叩き付ける。

 悪霊がそれに気づいたが既に遅く次のアクションを起こそうとした瞬間、足元から光の壁が突き出した。


<グアァアアア・・・・・!!!>


 丁度、天河の真後ろから発生した光の柱は、前回体育館でのそれよりも巨大で悪霊の邪気諸共隔離させる大きさだった。


「あ・・・・。」


 光の柱により悪霊の呪縛が解けた天河はそのまま地面に倒れそうになるが、神楽坂に抱き止められ後方へ退いた。


 悪霊が光の壁の中で暴れているのが分かる。

 長緒は冷静に答えてやった。


「邪念閃昇波、お前達のような悪しき者を呪縛する術だ。星龍、霊気は他に残っていないな?」


 霊気の取り残しがないか星龍に確認する。

 霊気が本体なので万が一取り残しなどをすると其処から再生する可能性があるからだ。

 星龍は数秒程、光の柱周辺を霊視し取り残しは無いと答えた。



「・・・了解した。光志。」


「ああ。」


 神楽坂は怪我をした天河を篠崎に預け立ち上がり、呪縛された悪霊の元へ向かう。


<マ、待ってクレ・・・!>


 悪霊に先程の余裕は無く、それ所か自分に迫る神楽坂に恐怖していた。

 神楽坂はその言葉に耳を貸さず、腰に巻くように装着していたホルスターから剣の柄のような物を取り出した。


「あれは・・・(お父さんの霊剣に似ている・・・・・・?)」


 止血する天河の目にその柄が一瞬映った。

 その柄は以前、父が使っていた物にソックリだった。


 神楽坂がその柄に霊気を込めると先端から霊気の剣身が発生する。

 使用者の霊気で剣身が発生する武器だ。



 霊剣には大きく分けて二種類あり、初めから剣身まで持つ種類と柄だけで刃は自分の精神でコントロールし発生、維持するタイプに分かれる。

 勿論、初めから剣身がある方が負担は軽い、だが物質の周りに霊気を帯霊させる分どうして霊に対しての攻撃力が弱いのが欠点だ。

 それに比べ神楽坂が持っている柄のみの霊剣は自らの霊気で霊刃を構成しなければならず、使用者の技量が大きく問われる武器であり負担もそれに比例し大きくなるが、霊気のみの刃なので霊や妖怪などに対する威力は絶大である。



 悪霊は再度命乞いをするが次の瞬間、神楽坂の霊刃が光の柱ごと悪霊を一刀両断にしていた。


<ギャアアア・・アァァア・・・・・・・!!!>


 断末魔が聞こえ、悪霊は切裂かれた霊体を再生させようとするが霊的中枢を破壊されたのかボロボロと崩れていく。

 それを見ている神楽坂の眼に慈悲などはなかった。



「・・・・これも、運命さ。」


 と、だけ小さく呟くと発生させた霊刃を解除し長緒達の元へ歩いて戻ってくる。

 既にニ人が発していた霊気は消えていた。


「・・・終わったな。」


 長緒は腕を組み、戻ってきた神楽坂を迎える。

 神楽坂も軽く応えて赤いレンガで造られた通行帯に座る天河を労った。


「首の傷は大丈夫か?」


「え、ええ・・大した事はないわ。」


 首の傷をハンカチで押さえながら立ち上がった。

 ヒーリングを使える彼女だが、自分に対しては効果がないのだ。


 星龍は念のために神眼を使い学園内を霊視する。


「・・・・大丈夫や、もう邪気は感じられへん。」


「出番無しかよ。・・・・・ま、解決したし良しとするか。」


 篠崎は出番が殆どなくて少し不満のようだが事件が解決し、一応安堵の表情を見せた。



 これで連続切り裂き事件は解決した。


 その後、藍苑先生らに報告しこの実績から除霊委員会として認められる。

 だたし、安全が第一である為活動は顧問となる藍苑が学園にいる時間もしくは教師のだれかが学園に残っている時間のみだけに限定される事になった。

 そして部活動の朝連にも対応する為に交代制で朝直することになり、これに関して神楽坂と篠崎は委員会に入った事を激しく後悔し天河から笑われていた。


「ふふ・・♪とにかく皆これからよろしくね?」


「俺朝弱えぇんだよなぁ・・・・・。」


「こ、これも運命か・・・・・?」


 苦笑う神楽坂と篠崎だった。


 お互い改めて自己紹介をする中、星龍は校舎を見据えていた。

 何か気になったのか、その様子に気づいた長緒は彼の横に立ち訊ねた。


「・・・・・何か気になる事でもあるのか?」


「いや、何でもあらへんよ・・・・・・。」


 この時、星龍は悪霊の霊気とは別の力を感じていたのだった。





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