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70:危険なスイカ割り



 -浜辺


「ぎゃあああああ!」


 上村の悲鳴が浜辺に響いた。


「ちっ、外したか。

 このようにスイカ割りを行う、分かったか?」


 山城が振り下ろした木刀の先に、首から下を地面に埋められた上村が頭を出している。

 上村は昨夜の女子風呂盗聴(+虚偽)の罪で「スイカ割りの刑」に処されていた。


「た、助けてーーーっ!」



「・・・・惜しい、目隠しさえなければ、あと数センチで上村の頭を粉砕できたものを。」


「そ、それじゃスイカ割りにならないんじゃ・・・・。」


「甘いですよ天河先輩!あの馬鹿は女風呂を盗聴しただけではありません!

 就寝時、絶対不可侵領域である女子部屋の襖に手を掛けようとしていたんです!」


「そ、そうなんだ。寝てたから気付かなかったわ。」


「まぁ、確かに神楽坂君ならまだしも、長緒君が女風呂を盗聴するなんて考えられないからねぇ。」


「神楽坂君もそんな事はしません!」


「おーおー摩琴っちゃん、随分と信用してるのねぇ。」


 ニヤりと笑う長沢。


「え、ええ・・・・す、少なくとも上村君みたいな事はしないと思うし・・・・。」


「後は神楽坂君を名前で呼ぶようになれば完璧なんだけどねぇ。」


「な、なんでそうなるんですかっ。」




「先生ー良く分かりませんでしたー!」


 山城の実演を見ていた女子生徒が手を上げた。


「ちょ!?スイカ割りなんだよ!?実演するまでも無いじゃないかいっ!?」


「よーし、もう一度やるから、良く見ていろよ。」


 上村の叫びは無視。

 山城はハチマキで目隠しをする。


「うぉらぁあああああ!!」


 木刀を額に当て、凄まじい速度で50回転した。

 あの速度で回れば、間違いなく目を回していると思われたが。


「おぉらぁああああーっ!!」


「う、うそーっ!」


 山城は目を回す事無く、一直線に向かってくる。

 何とか逃げ出そうと足掻くが、首から下を埋められている為ビクともしない。


「ひぃいい~っ!!」


 ドンッ!


 渾身の一撃はまたしても上村の頭の横に逸れてしまった。


「・・・・・運がいいな上村。」


「う、運の問題じゃないよっ!」


「どうやら、少しばかり目を回しちまったようだが、上村の頭を割れば成功だ。

 何回挑戦しても良いぞ。」


「今、さり気無く上村の頭って言ったよね!?」


「さて、一番手は誰だ?」


「では、私が!」


 蒼芭が名乗りを上げた。

 同時に上村の顔が青白くなる。

 しかも、彼女は木刀ではなく真剣を抜いていた。


「ち、ちょっと待って!?流石に冗談だよね!?」


「上村、お前は冗談で女風呂を盗聴した挙句、女部屋に侵入しようとしていたのか?」


 蒼芭の目は据わっていた。


「冗談?・・・・・ふ、俺は何時でも真剣勝負だよ・・・・・はっ!?い、今のは無しの方向で!」


「・・・・・中身の無いスッカラカンのスイカ(上村の頭)を割った所でどうなるという訳でもないが

 上村、何か言い残す事が有れば聞いてやる。」


「蒼芭ちゃんが実は天河先輩の次に胸が大きかった事は誰にも言いませんからどうかご慈悲をっ!!?」


「!!?」




「・・・・どんな命乞いだよ。」


「摩琴っちゃん、バスト幾つだっけぇ?」


「し、知りませんっ!」


 苦笑う神楽坂達。




「・・・・・覚悟は出来ているな?」


 蒼芭はスイカ割りのルールを無視し、ゆっくりと歩き出す。


「あ、蒼芭ちゃん!これスイカ割りだからっ!?」


「スイカ割り?・・・・・何だそれは。」


「!?」


「・・・・安心しろ、楽に逝かせてやる。」


「全く安心できないんだけどっ!?」


「け、慶にでさえ・・・・教えてないんだ!潔く死ねっ!!」


「ふ、普通は教えない・・・じゃなくて、お、お助けぇーっ!!」



「はいはい、そこまでー!」


 刀を振り上げたところで春日が止めに入った。


「か、春日先生っ!止めないで下さい!コイツは女の敵なのですっ!今ここで抹殺して置かないと!」


「蒼芭さん、その辺にして上げて下さい。

 上村君も反省しているでしょうし、何よりスイカ割りの時間が無くなってしまいますよ。」


「うんうん。」


「上村、貴様は黙っていろ!」


 蒼芭はギロリと睨み付け、振り上げていた神刀を降ろし納刀する。

 ようやくスイカ割りが始まった。




「な、なんで俺このままなの・・・・?」


「えい、えい。」


 盛り上がる中、海羽は埋められ放置された上村の頬を小枝で突付く。


「い、痛ひ、海羽ちゃん、地味に痛いからヤメテ・・・・。」


「私の事も聞いたんでしょ?そのお返しです♪」


「む、胸の事は聞いてな・・・ぎゃあああああ!」


 ライヤの雷撃が、身動きの出来ない上村を襲う。


「い、一応あります・・・・!」


 海羽は顔を赤くしながら長緒達の所へと走って行った。



「うぅ~何で俺ばっかりこんな目に・・・・。」


「・・・・お前は自覚ねぇから余計タチが悪いんだよ。」


 今度は神楽坂がやって来た。


「せ、先輩!此処から出して・・・・(T-T)」


「断る。」


「お、鬼!悪魔っ!」


「何とでも言いやがれ。

 しっかし今日は5組も来てんだぞ、お前だけでもアレなのに直明が加わったらどうなるか。」


「そっか、第二陣は吉原先輩のクラスもだっけ。なら負けられないねぇ・・・・。」


「・・・・何の対抗意識だ、それは。

 それより、後でロビーで今夜行う肝試しの打ち合わせがあるんだとよ。」


「肝試し?ああ、風紀委員会と合同でやるんだっけ。」


「お前は欠席にしといてやるから安心しとけ。」


「な、何故にっ!?

 打ち合わせがあるから、ここから出してやる。とかいう流れじゃないの!?」


「・・・・・ま、自力で脱出するこったな?」


「ちょ、ちょっと待ってよ!神楽坂先輩~~!!」


 浜辺に上村の空しい声が響くのだった。





 -ロビー


 スイカ割りも無事に終わり、神楽坂達はロビーに集まっていた。

 その中に、上村の姿も確認できた。



「・・・・・ほんとに自力で抜け出てくるとはな。」


「な、舐めちゃ困るよ先輩・・・・・・。」


 あの後、上村は体を前後に何度も動かして、少しずつ隙間を広げて行くという地味な方法で脱出していた。


「・・・・・ちっ。」


 蒼芭が舌打ちする。



「と、兎に角、打ち合わせを始めましょうか。」


 天河はテーブルに地図が載ったしおりを広げた。

 今回、除霊委員会は肝試し中の警備を。

 そして風紀委員会が、お化け役を担当する。


「肝試しのコースなんだけど、神社が折り返し地点で、ここでお札を取ってゴールに向かう流れになります。」


「廃墟と化した灯台は神社の先にあるな。」


「ええ、先生の話では老朽化が進んでて危険だそうです。

 一応、立ち入り禁止の立て札がありますが、これも雨風でボロボロになっている状態です。」


「センセ、からは近づくなとしか言われてないから、好奇心で見に行く生徒がいるかもねぇ。」



「・・・・・・・。」


「カミさん、どないしたん?」



「俺・・・・長沢先輩とならどんな危険な場所でも行き・・・・ぶっ!?」


 蒼芭の鉄拳が炸裂する。


「ガムテープはないのか?このアホの口を塞ぐ。」


「口塞ぐ程度で大人しくなるとは思えへんけど・・・・。」


「・・・・なら息の根を止めるしかないな。」


「!?」


 ブンブンと顔を左右に降る上村。


「・・・・話が逸れたぞ。」


「じ、神社は今夜の肝試しで折り返しとして使われるし、その先に行かないように立て看板でも設置するよう桐嶋先輩に進言してみる。」


「俺達はどうする?」


「肝試しを行う前に、まず私達が実際にコースを確認します。

 配置はその後に行います。」


「えっ!?」

(除霊委員だから、参加しなくても良いと思ってたのに・・・・・!?)


 海羽は思わず声を上げた。

 すかさず長沢が海羽をからかう。


「・・・・ま、コースで何か有れば直ぐに対応できるからな。」


「何も無いと思うけど、コースはどうなってるんだ?」


 テーブルのしおりに注目する。

 現在地は青年の家だ。

 地図を見ると周りを林に囲まれている事が分かる。


 林道は林の中に楕円を書くように敷かれている。

 その頂点に神社が、更にそこから北に延びた道の先に現在は使われていない灯台がある。


「肝試しは浜に繋がる道と神社へ向かう道が繋がった三つ又からスタートし

 神社に置かれた「札」を持ち帰ってゴールとなるようです。」


「あ、それと昼間のスイカ割りの順位に関係なく、まず最初に私達が行く事になるから。」


「や、やっぱり一番最初なんですかっ!?」


「しか~も一度に全員行くんじゃなくて二人一組よ?☆」


 ニヤリと笑う長沢。

 わざわざ分けて行く事に意味があるのかは分からないが、恐らくその方が面白いからだろう。


「ま、まぁそういう訳だから・・・・・。」


 天河は、長沢が顧問である藍苑に進言していた事を思い出して苦笑うのだった。






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