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69:お約束



 -大広間


 夕食を取り終えた神楽坂達は、荷物を持って大広間に移動していた。


「ここか。結構広いな。」


「おお~畳じゃん!」


「俺はてっきり、他の奴等と同じで狭い部屋に2段ベットが置いてあるだけかと思ってたぜ。」


 大広間は襖一枚で二つに分けられていた。

 除霊委員会を初め、実行委員等の委員はここで寝泊りする。


「・・・・女子は左みたいですね、しかし男女を隔てる壁が襖一枚とは・・・・。」


「心配すんなって、誰も佐由里に悪さしようとか思う猛者はいねぇ・・・」


 バキッ!


「ぶっ!?」


 蒼芭の鉄拳が篠崎に炸裂した。


「・・・・・今のはどうみても篠崎が悪いな。」


「・・・・だな。」


「取り合えず、荷物を置いた方がいいんじゃない?」


「そ、そうね。」


 男女別れて、部屋の隅に荷物を降ろす。

 大広間には長テーブルが一つずつ置かれているようだ。


「布団はどこだ?」


「そこの押入れじゃね?」


 近くの押入れを開けると、綺麗に畳まれた布団が積まれ枕が乗せられている。


 キラーンッ

 上村の目が光る。


「和!くらえっ!」


「ぶふっ!?」


 上村が投げた枕が星龍の顔にHITした。


「な、なにすんねんっ!」


「泊まりで枕投げは定番じゃないか。ほれ!」


 ボフッ!


 星龍は屈んで枕を避ける。

 枕は後ろにいた篠崎の顔に当たった。


「ヒーットッ!」


「カ、カミさん、やってくれんじゃねーかっ!上等だぜっ!!」


 火の点いた篠崎は、足元に落ちている枕を取って全力で投げ返した。

 投げ返した枕は星龍の後頭部に当たる。

 三人は大広間を使って枕投げを始めてしまった。


「お、お前等子供じゃねぇんだからやめろっ。」


 神楽坂は流れ弾、もとい流れ枕を避ける。

 その一つが女子の方へ飛んでいった。



 ボフッ。


「あ・・・・・・。」


 流れ枕が当たったのは、風特機隊長、桐嶋湊だった。

 しかも顔に直撃。

 近くにいた天河達は思わず血の気が引いた。


「せ、先輩すいませんっ!」


「・・・・・お前達、それは私に対する挑戦か?」


「め、滅相もないですっ!」


 天河は焦りながら否定する。

 当の三人は鬼に当てた事に気付いていなかった。


「・・・・・。」


 桐嶋は無言で枕を拾う。

 そして、まるで野球のボールを投げるかのように片足を大きく振り上げた。


「え?ぶへぇえええ!?」


 桐嶋の剛速球(枕)は上村の顔に直撃。

 余りの威力に後ろへ倒れた。

 此処で初めて桐嶋が介入してきた事に、三人は気付いた。


「き、桐嶋先輩っ!?」


「この私が直々に相手をしてやるっ!命の要らぬ者は前に出ろっ!」


「・・・・何してんだ?お前等。」


「朝比奈か、お前も私に盾突くつもりか?」


「は?一体何の話・・・」


「朝比奈先輩!伏せるんだよっ!カミさん!」


「あいよっ!」


 篠崎は荷物を置きにきた朝比奈を伏せさせる。

 男子エリアに置かれたテーブルを横にして盾を作った。


「な、何の騒ぎだコレは!」


「いいから、先輩もまだ死にたくねーだろ!?」


「神楽坂!一体どうなってんだ!」


「・・・・俺に言われてもな。」


 同じくテーブルの後ろに隠れる神楽坂は苦笑った。



「・・・・面白い。海羽、押入れの襖を開けろ。」


「は、はい!」


「私も手伝おっか?桐嶋先輩?」


「長沢志穂か、良いだろう。」


「あ、あの先輩、私と海羽さん、は見学という事で・・・。」


 桐嶋陣営。

 桐嶋湊、長沢志穂、長緒健一、蒼芭佐由里、星龍和人


「・・・・俺も頭数に入れられているのか?」


「長緒先輩、諦めて下さい・・・・。」


「桐嶋先輩の陣営なのが救いやな・・・。」



 上村陣営。

 上村裕也、篠崎慶斗、神楽坂光志、朝比奈勇誠


「お前等、桐嶋の大将を怒らせたのか!?」


「カミさんのせいだぜっ!」


「ま、まぁまぁ・・・・・もうこうなったら旅は道連れ世は情けだよ。」


「お前、意味分かって言ってんのか?」


「神楽坂先輩、朝比奈先輩も道連れだよっ!!」


「て、てめぇ!」


「た、大将!とにかく落ち着いてく・・・・ぶっ!?」


 テーブルから顔を出した朝比奈に枕が直撃した。


「大丈夫か朝比奈先輩!傷は浅いぞ!」


「な、なんだあの枕は。枕ってレベルじゃないぞ・・・・。」



「ルールは最後まで立っていられた者が勝ちだ!」


 桐嶋はテーブルに足を乗せた。

 盾として使う気は無いようだ。


「・・・・なら徹底的にやってやんよっ!」


 篠崎は持てるだけの枕を持って立ち上がり、桐嶋陣営に投げつける。

 だが、目の前のテーブルが邪魔になり、上手く投げる事が出来ない。

 続いて上村も投げるが、同じくだった。


「どうした慶!腰が入っていないぞっ!」


「ぶっ!?」


「ざ、座布団は反則じゃねーのか!?」


 蒼芭が投げた座布団が上村に当たる。

 しかも横向きに投げた為、両目に直撃を受けた。


「それっ!」


「だ、だから座布団は反則だって言ってるだろっ!」


 今度は長沢が座布団を縦に投げ、篠崎の顔に当たった。

 空気抵抗が少ない分、速度は速い。


「・・・・わ、私はお風呂に行ってこようかな。紅葉ちゃんも一緒に行く?」


「は、はい!行きます!」


 付き合いきれなくなった天河と海羽は大浴場へ移動した。



「戦況は我が軍が圧倒的に不利だよ!」


「か、神楽坂先輩も投げろよっ!」


「仕方ねぇな・・・・うぉっ!」


「どうした神楽坂?」


 ニヤりと笑う桐嶋。


「中々鋭い球(枕)投げるじゃねぇか。なら俺も遠慮はしねぇぞ!」


 枕を掴んで、桐嶋に向かって思い切り投げる。

 しかし、割り込んだ長緒に簡単に捕られてしまった。


「け、健ちゃん・・・・。」


「・・・・ただ持って投げても、抵抗を受けて遅くなるだけだぞ。」


 ブンッ!


「ぶはっ!?」


 長緒は枕の端を持って、回転を付けて投げ返す。

 枕は上村に当たった。


「くっ、長緒先輩もノリノリじゃねーか。」


「お、おいおい。長緒まで参加してどうすんだよ。」


 テーブルの盾の裏で朝比奈は苦笑った。


「カミさん!とにかく投げまくれ!」


「あいよ!」


「!?」


 上村が適当に投げた枕の先に雹牙が割り込んできた。

 雹牙は枕が当たる直前に手で鷲掴みする。


「・・・・げっ!?生徒会長!?」


「・・・・一体何を騒いでいる?」


 雹牙は双方を睨んだ。


「・・・・桐嶋、風紀委員長のお前まで騒いでどうする。」


「何の話だ?私は風特機隊長として、大広間で騒いでいた輩に制裁を加えていたに過ぎんが。」


「ちょっと待て!桐嶋先輩が一番楽しんでたじゃねーかっ!」


「そ、そうだよっ!」


「・・・・・本当か?長緒、長沢。」


「・・・・・雹牙先輩、我々がそんな子供じみたような事をするとでも?」


「私達は神楽坂君達を注意しようとしてただけよ、会長さん?」


「な、なんちゅー変わり身や・・・・。」



「俺まで巻き込むなよっ!」


「き、汚ねーっ!!」


 大広間を見ても、テーブルを横に立てているのは神楽坂達がいる男子部屋のみ。

 言い訳しようにも、これが動かぬ証拠となってしまった。





 -大浴場


 大浴場だけあって、一般的な銭湯の倍以上の広さだ。

 今回、六学が施設を貸し切っているので一般客の姿はない。


 天河と海羽はタオルを体に巻いて湯船に浸かる。


「丁度良い湯加減ですね♪」


 海羽は湯船の中で大きく背伸び。

 頭に乗っていた雷獣ライヤも飛び込んだ。



「・・・・・・。」


 天河は、纏めた髪を直しながら昼間の事を思い出していた。


 神楽坂が話してくれた「双雨の亡霊」の過去。

 彼は割り切っているように見えたが、何処かまだ未練のようなものが残っている様にも見えた。

 やはり、どうしても気になってしまう。



 ジー・・・・


(・・・・・お、大っきい。)


 海羽は、天河のある部分を凝視していた。


「・・・・ど、どうしたの?」


「え、あ、何でもないですっ。」

(いいなぁ・・・肌も白くて綺麗で。)


 思わず自分と見比べてしまう。



「そういえば、何時も一緒に入ってるの?」


「はい、お風呂だけじゃなくて寝る時も一緒です!このモフモフ感が堪りません~♪」


 ライヤは湯船に前足を揃えるように出して、気持ち良さそうな表情を見せている。


「ふふ、気持ち良さそうね♪ちょっと羨ましいかも。」


 ライヤの頭を優しく撫でていると、長沢達が浴場にやってきた。


「摩琴っちゃん、に~げ~た~な~。」


「し、志穂さん、枕投げは終わったんですか?」


「ん?えーっと一応ね。」


「途中で雹牙先輩に怒られてしまいました。」


「雹牙もあの程度で怒るとは、器の小さい奴。」


 長沢達は体を流して湯船に入ってくる。



「桐嶋先輩も余り人の事は言えない気が・・・・。」


「何だ、蒼芭。何か言ったか?」


「い、いえ・・・・。」



 ジー・・・


 海羽はまた観察する。


(・・・・長沢先輩も蒼芭先輩も、私とは比べ物にならないくらい綺麗。

 桐嶋先輩も、とても格闘技をやってるとは思えないよ~)


 ブクブクと口を水面に沈める。



 丁度その時、隣の男湯から男子の声が壁越しに聞こえてきた。

 会話が聞き取れる何とも頼りない壁だ。



「長緒先輩と和だけ、せけぇぞ!」


「先に始めよったのはシノケやないか!」


「・・・・・やれやれ。」


 神楽坂は体を流し、腰にタオルを巻いて湯船に浸かる。

 続いて長緒、朝比奈も湯船に入った。


「まぁ、元気なのは良い事なんだがな。所で神楽坂。」


「何だ先輩?」


「除霊委員会が出来て数ヶ月、少しおかしいんじゃねぇか?」


「・・・・・おかしい、とは?」


「とぼけるな長緒、お前達も分かってるだろ。

 除霊部が発足してから霊障の増加が著しいって事をよ。」


「それは俺達も教えて貰いたいくらいだぜ。」


 神楽坂は体育館で感じた「不可解な力」を思い出した。

 結局、その力の事は何も分かっていない。


「そうか。C校舎が凍る、巨大スライムなんて事件も起ったしな。

 風特機も更に良からぬ事が起るんじゃないのかと心配している。」


「・・・・・何か原因があるのかもしれないな。」


「以前、校内に大量の魑魅魍魎が入り込んだと生徒会会議で報告があったが

 それと関係してるんじゃないのか?」


「あれはちょっと違うな。」


「・・・・・あれは未熟な海羽の霊気に引寄せられただけ過ぎない。」


「それに、霊力のコントロールも出来るようになってるし、海羽が原因とは考えられねぇよ。」


「霊能者じゃない俺には的を得ない話だが、お前等がそう言うなら、そうなんだろうな。」


「現状、後手に回らざるを得ねぇな。」

(・・・・やっぱ、体育館で感じたあの力が関係してるんだろうな。)


 神楽坂達が討論する中、隣の湯船に使っていた篠崎と星龍は、上村が壁に張り付いている事に気がついた。

 その壁は男子風呂と女子風呂を分け隔てている壁だ。



「上村、壁に張り付いて何してんだ。」


「シーッ!隣に聞こえちゃうよっ!」


「カミさん、女子にバレたら殺されるで!?」


「ってか、女子風呂の声とか聞こえるのかよ。」


「・・・・・・・。」


 上村はドヤ顔で親指を立てた。

 そして篠崎達も来るようにと、手招きする。


「マジかよっ!?」


 篠崎は一瞬迷ったが、今女子風呂にいるのは恐らく蒼芭達だ。

 もし、バレでもすれば鉄拳制裁だけでは済まない。

 星龍も後が怖いので遠慮した。


「・・・・なら俺だけでも。」


 上村はニヤけつつ、壁に耳を当てる。



<・・・・っていうか、摩琴っちゃん!また大きくなってないっ!?>


<え!?ち、ちょっと!?志穂さん!?>


<90越えも目前じゃないの!?

 佐由っちですら87止りなのに!>


<な、な、長沢先輩!何で私のサイズを知ってるんですか!?>


<せ、先輩っ!私も大きくなりたいですっ!>



「ぶっ!?」


 思わず鼻血が噴出した。


「こ、これはもっと調査しなければ・・・・・。」


「何が調査だっ!」


「ぶべっ!?」


 神楽坂が投げた木製の手桶が上村の後頭部に直撃し、声を出してしまった。


<な、何ですか今の声は!?>


<音から壁の直ぐ近く見たいだけど・・・・・・。>


<この壁って防音って訳じゃないよね?っていうか今の声って。>


<か、かぁ~みぃ~むぅ~らぁ~~~~~~!!!!>




「な、な、なんて事をするんだよ先輩!!?」


「お約束やってんじゃねぇ!」


「くっ・・・・お、俺だけじゃないよ!神楽坂先輩や長緒先輩も聞き耳立ててました!!

 ついでに朝比奈先輩も!」


「なっ!?」


「お、おまっ。」


「・・・桐嶋先輩が、後で話しがあるんだってよ?」


「て、てめぇ!待ちやがれ!」


 上村は脱衣所へ逃げていった。




 -ロビー


 その頃、ロビーを歩いていた生徒が窓の外を見た。


「あれ?今、灯台の方光らなかったか?」


「灯台?廃灯台になってるのにか?」


 窓から灯台の方向を見てみるが、懐中電灯の光一つ点いていない。

 見間違いかと生徒達はその場を立ち去った。




 

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