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68:臨海学校


 -アンティークショップ NORNノルン


 西洋の雰囲気がある小さなアンティークショップから長沢の笑い声が聞こえてきた。


「あっはっはっ!お、お腹がよじれるぅ~。」


 バンバンッと店の柱を数回叩いた。

 長沢の目の前に、兎のアップリケがされたピンク色のエプロンをしている朝倉が立っている。


「どうじゃ?ワシの自信作じゃよ。」


 奥のカウンターに座る白髪の老人は口にくわえていたパイポを取ってニヤリと笑った。


「お、おじ様、最高。」


「・・・・・勝手に笑っていろ。」


 朝倉は埃落しで商品についた埃を落とす。


「はぁ~はぁ~危うく笑い死ぬとこだったわ。」


 呼吸を整えていると店のドアが開きスーツ姿の男性が三人、店内に入ってきた。

 男性達は軽く会釈し、店主はどちらにいるのか長沢に聞いてから奥へと進んでいった。




「・・・・何か用があったんじゃないのか?」


「あぁそうそう、すっかり忘れてたわ。」


 ポケットから一枚のプリントを出して朝倉に手渡した。


「・・・・臨海学校?」


「そ、第一陣は明日からね。私は初日から最後までいるけど崇のクラスは5組と同じ第二陣だから明後日ね。」


「・・・・興味はない。」


「まぁそう言うと思ったわ。」


「志穂、一時閉店じゃ。崇、ちょっといいかの?」


「おじ様、OK~。」


「・・・・・・。」


 二人は奥のカウンターへと向かうのだった。






 -青年の家


<いいかお前等!これからの予定を言うぞ、各班宿舎に荷物を置いたら昼までは自由時間だっ!泳ぐも良し、浜の西にある磯で釣りをするも良し!班内で計画を立ててやるように!>


 遂に夏休み臨海学校が始まった。

 大きな宿舎を背景に、生徒指導の山城が第一陣に向かって拡声器で予定等を連絡している。


<続いて、各自しおりを開けば分かると思うが現在地は志賀青年の家だな。

 この志賀は周りを海に囲まれているが、俺達が行動できる範囲はそのしおりに載せられた範囲のみだ。

 西には廃棄された古い灯台がある岬があるが、これには絶対近付かないように!以上解散!>


<えーまずは1組から順に宿舎に荷物を置きに行って下さい。>




「さぁて俺達はどうする?」


 バス移動に疲れたのか神楽坂は大きく背伸びをした。


「海に来たんだし、まずは泳げばいいんじゃない?警備の配置とかはもう考えてるんでしょ?」


「何で長沢先輩がここにおんねん・・・・。」


「今回は私達と一緒に行動する事になったの。」


「ま、俺はどっちでも良いぜ?」


 篠崎は地面に置いた荷物の上に座る。


「そうそう、気にしない方が人生愉しめるわよん♪」


「あ、相変わらずですね、長沢先輩。」


「取り合えず、水着に着替えて砂浜に集合しましょうか。」


「はいっ!了解ですっ!!」


 目を輝かせながら敬礼をする上村。


「下心が見え見えじゃねぇか・・・・。」


 除霊委員会は水着に着替えて砂浜に集まる事にした。





 -砂浜


 海パンにTシャツ、そしてサンダルを履いた神楽坂達。

 男性陣は準備万端だが、女性陣がまだ揃っていない。



「・・・・先輩等遅くね?」


「だな。」


「・・・・そういうものだ。」


「きっとあれだよ!着替えながら・・・・ムフフやってんだよ!」


「ムフフて、なんやねん。」


 暫く待っていると、後ろの林から山城の声が聞こえてきた。

 振り向いて見るとバスタオルに身を包んだ藍苑の姿も見える。



「お前、それ紐じゃねーかっ!」


「失礼ね、これもれっきとした水着なんだから!」


「だ、だからって学校行事で着るモンじゃねーだろがっ!」


「学校行事でしか着れないんだから仕方無いでしょ!

 それとも何?炎が連れて行ってくれるの?」


「そ、それは・・・・志龍にも聞いてみねぇと・・・。」


「何でそこで志龍君が出てくんのよ・・・・・。」




「・・・・何してんだ?先生達は。」


「なんや言っとるようやけど、こっからじゃ聞こえんな。」


 バスタオルを外そうとした藍苑を山城が必死に止めている。


「俺らに言われても分からねぇって。」


 林の方を見ていると今度は宿舎方向から声を掛けられ、神楽坂達はもう一度振り返った。

 そこには私服に白衣姿の赤城がいた。



「天河達でも待っているのか?」


「ああ、砂浜に集合する事になってんだよ。」


「赤城先生、着替えないのか?いや、暑くねぇのか?」


「俺はまだ仕事が残っているからな。」


「臨海学校に来てまで仕事とはついてねぇな先生よ?」


 赤城をよく見ると服装は何時も通りだが、靴がサンダルに変わっている。

 更にはカキ氷を持っていた。


「フッ、全くだな。臨海学校来てまで夏期講習の準備とは。」


「な、なんだよ、その意味深な言い回しは・・・・。」


「夏期講習が楽しみだな神楽坂?あぁそういえば篠崎、お前もだったな。」


「思い出させんなよ先生。ってか何でカキ氷とか食ってんだよ!」


「ここのカキ氷は絶品らしくてな。カップ詰めを20個程購入した。

 仕事の合間に楽しませて貰うつもりだ。」


 赤城はビニールに入れたカキ氷を見せた。


「買い過ぎだろっ!」


「・・・・いいなぁ、修学旅行じゃないから、俺等は金持てないんだよね。」


「せやなぁ・・・。」


「ま、今の内に遊んで置く事だな。

 俺はロビーで仕事している、講習の内容が知りたいのなら聞きに来ても構わんぞ?」


「それはカキ氷も貰えると思っていいのか?」


「・・・・カキ氷は絶対やらん。」


「お、大人げねー・・・・。」


「うるさい。ではな、警備の方よろしく頼むぞ。」


 赤城は軽く挨拶をして青年の家へ歩いていった。

 それと入れ替わるように天河達が到着する。




「ごめん、待たせちゃったね。」


「ああ、気にしなくていいよ。」


「先輩ぁああああいぃ!!」


「死ねっ!」


<ガゥッ!!>


「ぎゃああああああああ!!」


 指定水着姿の天河達に飛び込んだ上村だったが、蒼芭によるカウンターパンチを受ける。

 更に雷獣ライヤによる雷撃が追い討ちを掛けた。


「だ、大丈夫ですかっ!」


「放っておけ紅葉。予想はしていたが、こうも節操が無いとは・・・・。」


「カミさん、余り張り切り過ぎると日本海溝に沈められちまうぜ?」


「・・・・ふ、本望さ。」


 上村は力尽きる。


「駄目だこりゃ。」


「ホント飽きないわねぇ除霊部は♪」


「長沢先輩、笑い事じゃないですよ・・・・。」


「そ、それじゃ全員集まった事だし、各持場に行きましょうか。」


「え?摩琴っちゃん泳がないの?」


「あの志穂さん、私達遊びにきた訳じゃないので・・・・・・。」


「って事は泳げないっ!?」


「まぁ志穂さんは委員でもないし、ある程度自由にして貰ってもいいですよ?」


「摩琴っちゃん、私が自分だけそんな事する訳ないっしょ?」


「随分と殊勝じゃねぇか長沢。」


「まぁね?」


「それじゃ予定通り、主に海岸沿いを警備します。皆、携帯は持ってきてる?」


 神楽坂達は自分の携帯を取り出す。

 警備中はこれで連絡を取り合うのだ。

 星龍の精神リンクでも可能だが、長距離を繋ぐ事はできない。


「一応確認して置くけど、お互いの番号は入れてるよね?万一の時、連絡がつかないじゃ困るから。」


「俺は問題ないぜ。」


「私も大丈夫です。」


 全員が連絡が取れる事を確認した。


「それでは、各持場に向かって下さい。」


「先輩!天河先輩と組んでるからって嫌らしい事したら駄目だよっ!」


「するか!お前じゃねぇんだぞっ!!」


「や、やれやれ・・・・。」


 苦笑いつつ天河と神楽坂は自分達の持場へと向かった。





 -岩場


 神楽坂と天河の持場は、入り江の端だ。

 この辺りは岩場が多く、神楽坂はそこに座って待機する。

 天気は快晴、水平線には小さな入道雲も見える。


「どう?神楽坂君。」


「天河か、見ての通り問題は無さそうだぜ?」


「そうみたいね。隣いい?」


「あ、ああ。別に構わねぇけど・・・・。」


「ありがと♪」


 天河は微笑んで隣に座った。


「夜の海は油断できねぇけど、日がある内ならそう警戒する事もないな。」


「けど、可能性が無い訳じゃないよ?」


「まぁな。」


 波の音だけが聞こえる。

 早くも話題が尽きてしまった。


(な、なんだこの空気は・・・・。)


 会話が無くなって数分程だが、何時間にも思える。

 このままでは息が詰まりそうだ。

 何か話題を探さなければと思った時だった。


「・・・・神楽坂君、一つ聞きたい事があるんだけどいい?」


 天河の表情から、楽しい話では無い事だけは分かった。


「・・・・双雨の事か?」


「・・・・うん。でも、話したくないならいいよ。出来れば、何時か話してほしいな」


「分かった、何時か話すよ。ただ、これだけは知っておいてくれ」


「うん」


「俺達を救ってくれたのが天河神父だった。

 自分の命と引き換えだったけどな・・・・・。」


「・・・・・・お父さん。」


 その時、拡声器を通した山城の声が聞こえてきた。

 自由時間が終了し、戻ってくるようにとの指示だった。


「自由時間は終わりか。

 悪い。余計空気を重くしちまったな。」


「ううん。私の方こそ、ごめんなさい。辛い事思い出させてしまって。」


「もう辛いとか思っては無いんだぜ?」


「え?」


「天河の親父さんが命張って救ってくれたんだ。

 辛いなんて思ってたら、枕元に立ってまで説教されちまうよ。」


 神楽坂は微笑んだ。

 天河は目尻に涙を溜めながら微笑みを返すのだった。

 





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