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64:長沢志穂の何でも相談室



 -3-1


 明後日、月曜日から始める期末試験を控え、3年1組を初めとする特進科は最後の詰めに入っていた。

 その中で、天河、長沢そして女子生徒の三人で一つの机を囲んでいた。



「それで?ペットの犬が死んじゃってから毎日のように、その犬の声が聞こえるようになった?」


「・・・・は、はい・・・。」


 女子生徒は顔を俯けて答えた。

 その声から彼女にとってはかなり深刻な状況なようだ。



「・・・・・・・・。」


 女子生徒の隣の床を見ている天河は苦笑いを浮かべた。

 思いつめての相談だったと思うのだが、実際見てみると苦笑いを浮かべるしかなかった。



「先輩、やっぱり・・・・ロンは私を恨んでいるんでしょうか・・・・!!」


 ロン、この女子生徒が以前飼っていたゴールデンレトリバー(雄)の名前だ。


「・・・・・どうしてそう思うの?」


 何か心当たりでもあるのかと長沢は女子生徒に聞き返した。

 女子生徒はゆっくりと首を横に振る。


「一つだけあるかもしれません・・・・。」


「どんな?」


「・・・・ロンが息を引き取ったのは、私が学校に行っていた時なんです。」


「つまり、最後を看取る事が出来なかったから?」


「そ、それしか考えられません・・・・・。」




「・・・・そうなの?」


「・・・・?」


 長沢は何故か女子生徒にではなく、彼女の隣下の床付近に話かけた。


 長沢と天河の視界には、大きな犬が舌を出してお座りの状態で待機している姿が映っていた。

 天河はこの光景に苦笑を浮かべていたのである。

 その大型犬は若々しい姿で、人魂ならぬ犬魂を二つ浮遊させていた。



<クゥ~ン>


 ロンはと否定的な声を上げてその場に伏せた。



「そのロンは違うって言ってるわよ?」


「えっ!?」


 彼女の視界には床しか見えていない。




(・・・このロンよほど可愛がられてたのね・・・・♪)


「・・・・それじゃ結論から言いましょうか?」


「は、はいっ・・・・!」


「貴女は良い飼い主ね。心配する事は何もないわ。」


 彼女を安心させるために微笑んでみせた。

 しかし、毎日ロンの声が聞こえてくる現象は一体何だったのか、その事がまだ解決していない。



「動物霊ってのは、人間の霊とは比べられないくらい強い力を持っているものなのよ。」


 女子生徒は話を黙って聞いている。

 霊体のロンは床に伏せて暢気に欠伸をしていた。


「だからその分、現世に影響して霊能力を持っていない貴女でもロンの声が聞こえたって訳。」


「で、でもそれってロンは成仏できていない?

 痛がってるとか、苦しんでいるとかではないんですか!?それを私に伝えたいとかじゃ!?」



<クァ~ンッ>


 心配する彼女とは裏腹に、欠伸をするロン。


「・・・・その心配はないと・・・思うよっ・・・。」


「ロンは貴女の守護霊になったみたいね。」


「守護霊・・・?」


「んー簡単に言うと、貴女に悪さをしようとする悪霊や妖怪から守ってくれるのよ。」


「守ってくれるんですか?」


「貴女確か電車通学だったわよね?駅のホームって結構危ないじゃない?たまに人身事故とか起こるし。」


「ニュースとかであるけど、ホームを歩いてたら誤って線路に落ちて怪我をしたとか。」


「は、はい。」


 そういえば昨日TVで他県の事故だったが会社員の男性がホームから誤って線路に落下し、足の骨を骨折する重傷を負ったと報道されていた事を思い出した。



「それって・・・・・・本当に足を滑らせたのかな?」


 なんだか怖がらせるような口調に成った。


「え・・・・!?」


「・・・・確かに雨で地面が濡れて白線とかで足を滑らせたのかもしれない。

 でも、他に足を滑らせた理由があるじゃない。」


 ここで長沢は無意味に間を空けた。



「電車に轢かれて死んだ霊が仲間欲しさに生きた人間の足を引っ張ったのかもしれないじゃないっ~~~!」



「イ、イヤァアアアアッ!!?」


 女子生徒は思わず両手で耳を塞ぎ悲鳴を上げてしまう。

 長沢はそれを見ながらニヤニヤと笑っていた。


 同時にロンがお座りの状態で天井に向けて大きく遠吠えた。

 その遠吠えは耳を塞いでいた彼女にも届いていたようで、また周囲を見回した。


「ちょ!?志穂さん!からかい過ぎ!他の皆は勉強してるんだから・・・・!」


 周囲を見てみると迷惑そうな表情をしているクラスメイト。

 長沢は全く悪びれていないようで適当に謝っていた。


「ごめん、ごめん。それで今ロンの遠吠えが聞こえた?」


「き、聞こえました・・・・!」


「どんな感じがした?」


 どんな感じだったか思い返す。

 その声を聞いた途端に恐怖心が消え、冷静さを取り戻せた気がする。


「そ、守護霊のロンは恐怖心やさっきの例えで言うと、線路に引きずり込もうとする悪霊からも貴女の身を守ってくれるわ。」


「犬の遠吠えには魔よけ、破魔の力が備わってるのよ?」


 天河が補足する。

 死んだ後も自分の為にと思うと自然に涙が流れてきた。

 何故、最後を看取る事ができなかったのか。


 飼い主の様子に気づいたロンは立ち上がり、彼女の近くまで浮遊して目元を舐める仕草をした。

 長沢と天河も彼女が落ち着くまで、ただ待つ事だけしかできなかった。





「何か、ロンの為に出来ないでしょうか・・・・。」


「そうね、貴女がこれからもロンの事を忘れずに想い続ける事が何よりも大切よ。

 その想いにロンは応えてくれるわ。」


「・・・・は、はい!」


 その後、二人に一礼して女子生徒は教室を後にしていった。

 愛犬ロンと共に。





「ん~~~~!」


 長沢は椅子に座ったまま大きく背伸びをした。


「志穂さん何時もみんなの相談を聞いてるの?」


「ま、暇つぶしも兼ねてるけどねぇ

 摩琴っちゃんの恋愛相談も聞くわよ?「長沢志穂の何でも相談室」♪」


「け、結構ですっ!」


「あら~そうなのぉ?楽しそうなのに。」


「楽しくないです!それより明後日から期末ですよ?」


「今回は安定してるし中間試験の時みたいにはならないっしょ♪」


「ちゃんと勉強したほうが・・・・・・。」


 苦笑う天河だった。


「そうねぇ~ならお姉さん‘も’摩琴っちゃんから勉強教えて貰おうかしらねぇ?」


「え!?

 べ、別に神楽坂君に勉強を教えるのは深い意味は無くて、単に困っていたから・・・・はっ!?」


 ニヤニヤと笑う長沢に気付き途中で止めた。

 そう言えば長沢は一言も神楽坂の事は言っていなかった、つまりカマ掛けられたのだ。


「なんだ、気付いた?でもそこまで言っちゃったら言ったも同然よねぇ♪」


「う゛~・・・・。」


 何時もの用に天河をからかっていると、1組に一人の生徒が入ってきた。



「あ、あの・・・此方に長沢先輩がいらっしゃると聞いてきたのですが・・・・。」


 1組の生徒かと思ったがどうやら長沢を探しているようだ。

 この声は聞き覚えがあるなと扉の方を見てみると、その女子生徒は蒼芭だった。


「あら?」


「佐由里ちゃん?どうしたの?」


「・・・・HR前だと言うのに試験勉強とは流石特進クラス、私も見習わなければ・・・・・。」


 黙々と勉強をしているクラスの雰囲気に関心する。

 長沢を探すと手を振る彼女達に気づき、先程の相談者が座っていた椅子に座った。


「で、佐由っちどったの?」


 蒼芭は少し恥ずかしそうに言った。


「そ、その先輩に悩みを聞いて貰いたいのと、アイドバイスを頂けたらなと思いまして・・・・。」


「悩み?」


「あ、あのですね・・・・そ、そのぉ・・・・・・。」


 中々言い出せない蒼芭。

 長沢は顔を赤らめている彼女の様子にピーンッと来てしまった。


「ずばり恋の悩みねっ!!」


 ビシィ!っと蒼芭に指差した。


「!!?」


「そ、そんな大声で・・・・・!?」


 図星だったのかオロオロと周囲を見回す。


「うんうん、佐由っちも青春してるねぇ・・・・・じゃ詳しくは昼休み除霊委員会室で聞くから。」


「え?今聞かないの?ってか委員室を私物化しないでくださいよ・・・・。」


 天河は苦笑う。

 長沢は二人に時計を見るように言った。

 後10分程で朝のHRが始まってしまう。


「・・・・・ま、迷わず、早く着ていれば良かったです・・・ね。」


 取りあえず話の続きは昼休みの除霊委員会室でする事になるのだった。





 -除霊委員会棟


「あれ?先輩等、昼めし食わねーのか?」


 昼食を取りに来た篠崎だったが、調理パンが入ったビニール袋を持った神楽坂達が室内から出てきた。

 午前で授業が終わる土曜日も除霊部は活動しているのである。


「なんか今から女子だけで秘密の会議するらしいから、俺達男子は2階のロッカー室で食えってよ。」


 神楽坂は苦笑いながら親指で後ろを指した。


「秘密の会議ぃ?なんだそりゃ。」


「長沢先輩がちょっと重要な話があるとか無いとか言っとったで?」


 会議室の扉には紙に手書きで女子以外立ち入り禁止と書かれている。


「俺は今猛烈に覗きたい・・・・・!」


「・・・・死にたいならば止めはせんがな。」


 一体何を話しているのかは分からないが、取りあえず2階のロッカー室で昼食を取ることにした。

 除霊委員会がある棟は3階建てで2階に男子と女子のロッカー室がある。

 現在は別にロッカーを使う必要はないので、会議室に直接荷物を持ち込んでいた。




 そして3階会議室では長沢を初め、相談者の蒼芭と何故か天河と海羽が同席していた。


「長沢志穂の何でも相談室、室長の長沢です。」


 チラリと隣に座る天河を見た。


「え!?えーっと補佐の天河・・・・です。」

(何この設定・・・・・。)



「そ、それは良いのですが・・・・何故紅葉が・・・・。」


「あ、あの私はいろいろと勉強になるかなぁ・・・と。」


「まぁまぁ、細かい事は気にしない。それじゃ早速話しを聞きましょうか?」


 長沢の目がキラリと光る。

 本当に話してもいいのだろうかと思いつつも蒼芭はその悩みを話し出した。



「・・・・その私の家と篠崎の家はかなり古くから続いていまして

 けっ、結婚も親同士が決めているのです。」


「許婚ってやつ?」


「そうです。それで蒼芭家と篠崎家が同じ敷地に家を構えている事もあって、先々代からその二つの家を一つに纏めようする動きがありまして・・・・・。」


「つまり佐由っちと篠崎君は親同士が決めた許婚だってわけね。」


「そ、そうなんですかっ!?」


 海羽だけが驚いた。

 天河は蒼芭と篠崎の仲の良さを知っており、今の話の内容から予想できていた。


「鋭い洞察力、流石ですね長沢先輩・・・・。」


「いや、話聞いてたらなんとなくね。」


「・・・・・許婚が不満って訳でもないよね?」


 蒼芭は無言で頷いた。


「将来を約束した二人・・・・いいなぁ・・・・。」


 目をキラキラと輝かせる海羽の頭の上でライヤは大きく欠伸をした。

 どうやら人間の話題には興味ないようだ。


「許婚に特に不満がないなら、悩みってのは・・・・・・篠崎君との距離を縮めたいとかぁ?」


 相変わらずの鋭さだ。

 蒼芭は少し顔を紅くしつつ無言で頷いた。


「も、もうすぐ夏休みですし・・・・少しは距離を縮めたいな・・・と。」


 何時もは凛としている蒼芭だが、やっぱり普通の女の子だなと、天河は心の中で思った。



「友人が話していたのですが「ひと夏の思い出」というものを・・・その。」


「なぁ~るほど。」


 再び長沢の目が光った。

 隣の天河は嫌な予感しかしない。

 海羽は「ひと夏の思い出」について妄想している。


「では悩める佐由っちに、一発で篠崎君の心を虜にする方法を教えましょう!」


 「虜」と言う言葉に天河は疑問を持った。


「お、お願いします!」


 上着のポケットから小さなメモ帳とペンを出してメモる準備をする。


「それは・・・・。」


「・・・・それは?」


 ペンを握る手に力が入る。



「その前に、実行する為には下準備が必要よ?まず1つ。「時間」これは深夜2時くらいがベストね。」


「・・・・深夜、2時くらいが望ましい、と。成る程時間指定があるのですか。」


 深夜2時自体からおかしいのだが、ある意味真剣な蒼芭は特に疑問を感じずにメモを取った。


「服装は「せくすぃーな服」を・・・・」



挿絵(By みてみん)



「はい、ストップ!っていうか何ですかこのイメージはっ!?」



「何って、「夜ばい」&「せくすぃーな服+うさ耳」だけど。」


「勝手に変な服を・・・じゃなくて佐由里ちゃんに何教えてるんですかっ!」


 真顔で言う長沢に天河はツッコミをいれた。




「夜ばいって何ですか?」


「も、紅葉ちゃんは知らなくていいのっ!?」


「・・・・・・・。」


 今まで真剣にメモまで取って聞いていたのが夜ばいの方法だったとは。

 蒼芭は自分で書いていたメモを見て苦笑った。


「えーでも一気に距離を縮めれる良い方法だと思うんだけどねぇ・・・・。」


「いきなり縮めすぎですっ!」


 耳元で叫ぶ天河に両手で耳を塞ぐ長沢だった。




 -数分後


「もぐもぐ・・・・・ライヤ君、オレンジジュース飲む?」


<ガゥ!ガゥ!>




「そ、それで私は一体どうすれば・・・・・。」


 リンゴ100%ジュースを一口飲んで、ほぼ真っ白のメモ帳を見る。

 唯一書いているといえば夜這いの方法だけだ。


「・・・・・夜這いが駄目なら取りあえず・・・・。」


「・・・・「悩殺」とかいうのも駄目ですからね。」


「う゛ぐっ・・・・・そ、それじゃもう後は普通のしかないわねぇ・・・・。」


 普通のでいいのではと天河と蒼芭は苦笑った。


「佐由っち、スカートとか持ってる?私服のね。」


「・・・・・い、いえ、動き易さを優先してジーンズしか持っていません。」


(そういえば、佐由里ちゃんズボン以外を穿いてる所、見た事ないなぁ。)


「よし、それじゃ今日学校終ったら私らの部屋にきて。」


「え?ですが明後日から期末ですよ?」


 勉強しないのだろうかと疑問に思った。


「日頃からちゃんと勉強してれば夜遊んだって問題ないっしょ?

 それに佐由っちも今日勉強しないと駄目みたいに切羽詰まってんの?」


 確かに長沢のこの余裕は日頃から真面目に授業を受け、予習復習を毎日していなければ出ないものだ。

 蒼芭は感心するが、真実を知る天河は開いた口が塞がらず、ツッコむ気すら湧いてこなかった。





 -女子寮


 そして放課後の活動が終って女子寮。


「・・・・失礼します。」


 蒼芭はノックをして天河と長沢の部屋に入った。

 服装はシャツとジーンズの何時もの格好だ。


「着替えてきたんだ?」


 天河と長沢は制服姿のままだった。


「・・・・本当は制服も余り好きではないのです。」


「分かる。ウチの制服他校に比べると地味だよねぇ」


 着ている制服に目線を落とす。

 だが、蒼芭の言っている好きではない理由は他にあるようだ。


「もしかして制服のスカートとか?」


 天河の予想は的中し、蒼芭は頷いた。


「まぁ学生である以上、仕方ないと思っています。」


「なら私服OKの高校にすれば良かったんじゃないの?」


 長沢の言う通りだが、蒼芭は顔を左右にゆっくりと振って否定した。

 それでは京都から福岡に着た意味がない。


「まぁ普通に考えて、篠崎君を追い掛けてきたんだから同じ高校にするのは当然かな。」


 恥ずかしそうに蒼芭は頷いた。


「と、取り合えず本題に入りませんか?

 さっきから天河先輩の隣に山積みにされている物が気になって仕方ありません。」


 恥ずかしさを紛らわせるように話題を降った。

 2段ベッドの1段目縁に腰掛ける天河の隣に山積みにされているのは洋服のようだ。


「・・・・・。」


 ここで長沢はさりげなく蒼芭の背後に回り込んだ。


 ガチャン、ピッ!


「!?」


 音と電子音でドアをロックされたと気づき、後ろを振り返る。

 カードキーをヒラヒラとさせながら邪悪な笑みを浮かべる長沢の姿が映った。


「な、何・・・を・・・?」


 嫌な予感しかしないが、一応聞いてみる。


「大丈夫、お姉さんが最高のコーディネートをして・・あ・げ・る。」


 長沢の表情は据わっていた。





<摩琴っちゃん!取り押さえるのよっ!!>


<せ、先輩な、何をするんですかっ!?>


<ごめんね佐由里ちゃん・・・私も志穂さんには逆らえないの・・・・。>


<ちょ、ちょっと上着くらい自分で・・・・・!?>


<おんやぁ・・・中々豊かな・・・・。>


<!?>




「・・・・・???」


 天河達の部屋から聞こえてくる声に通路を歩いていた女子生徒はドアを見ながら通過していった。





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