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63:衝突




 金属同士が激突したかのような激しい音が廃ビルの屋上に木霊した。


「くっ・・・・。」


<・・・・首を飛ばしたつもりだったのだがな、よくぞ防いだ。>


 網笠の抜刀術をギリギリの所で霊剣を割り込ませる事ができた。

 しかし、今の動きはとても人間が反応できるような速さではない。



「・・・・っ!」


 網笠の刀を払い、後ろへと距離を取った。

 呼吸を整え霊剣の切っ先を向ける。


-次は連続でくるわよ!-


 朝倉の頭に長沢の声が響いた。

 予知とテレパシーによる援護が無ければ、先程の一撃で命を落としていただろう。



<・・・・予知、か。面白い、我の次の太刀も予測済みという訳か。>


(・・・・・知っていたか。)


 計画の最高責任者だった男も知っていた。

 長沢の力を知っていても不思議ではない。


(それもだけど、私の力が、オバさんに効果が無かった事も気になるわね・・・・。)




<ふ~ん。あの赤毛の女の子は、この土壇場で能力を更に引き出せるようになったみたいね。>


 網笠の邪魔にならないよう隅に移動していた女魔族はクスクスと笑った。




<・・・・その予知と主の反応がどこまで続くか、見物だな。>


「・・・・!」


 再び、眼にも止まらないような凄まじい速さで朝倉に突進する。


「・・・・・消えた!?」


―崇!上っ!-


 激しい金属音が響いた。



<・・・・ほぅ。>


 上空からの奇襲を何とか防ぐ事ができた。

 だが、網笠は直ぐに姿を消し次の攻撃に入る。


「・・・・ちっ、防ぐだけで精一杯だ・・・・!」


 汗が朝倉の頬を伝う。

 次は何処から攻撃してくるのか油断できない。

 長沢も結界解除どころではなくなってしまっていた。



-次9時方向っ!-


「・・・そこかっ!」


 二度目の奇襲も防ぐことに成功するが、左腕に斬り傷を負ってしまう。



「あ、朝倉君っ!」


「摩琴っちゃん前に出ちゃ駄目!大した傷じゃないから大丈夫。

 それよりも何とかしてこの結界を破って逃げないと崇も私も耐たない・・・・!」



 バキィンッ!!


「なっ!?」


 網笠の連続した攻撃に耐え切れず、遂に霊剣が音と共に砕けちった。


<もう終わりか?・・・・戦いは之からだと言うのに。つまらんな。>


「・・・・・・。」


 剣身が中折れした霊剣を見る。

 朝倉の霊剣は違法除霊師から奪ったものだが、簡単に手に入る安物としては耐った方だ。

 しかしこの場面での武器破壊は非常にマズい。


<あらあら、テンジンを相手に丸腰はマズいわねぇ♪>


「それがどうした。」


 朝倉は霊剣が折れたにも関わらず、折れた先をテンジンと呼ばれた編笠に向けた。

 これには流石の女魔族も驚いていた。


<・・・・フ、そうこなくては面白くない。>


 剣が折れて尚戦う意思を崩さない朝倉にテンジンはニヤリと笑った。

 しかし、使い物にならない霊剣を構えた所で状況が変わることはない。




(志穂、援護はもういい、とにかく結界を破る事に専念しろ・・・・!)


「なっ・・・!?

 あ、あんた分かってんのっ!?私の援護があってギリギリなくせにっ!!」


「し、志穂さん・・・・!」


<あらまぁ、仲間割れ?>


 朝倉は無言を貫く。

 確かに長沢の予知能力が無ければテンジンの動きに反応する事は難しい。

 更に、度重なる攻撃により霊剣が折れ使用不能になっている。


 このままでは三人共殺されてしまう。

 それならいっその事自分が囮になってその隙に二人を逃がすしかない。



「自分が囮になるつもりっ!?」


「・・・・・・・・。」


 朝倉の背中は動かない。


「感情的になって敵に作戦を喋っちゃうのは良くないわねぇ?でも、自己犠牲は私は好きよ?」


 長沢は軽口を言う女魔族を睨みつける。


<・・・・自分の命を捨ててまで仲間を救おうとするその気概は認めよう。

 だが、丸腰のお主が結界を破るまでの時間稼ぎができる程、我は甘くはないぞ・・・・!>


「いいのか?今の台詞だけでも俺たちにとっては十分な時間なんだぜ?

 御託はいいからさっさとかかってこい。」


 今にも斬りかかりそうな鋭い目をテンジンに向ける。

 絶体絶命の状況にも関わらず尚も戦い、しかも勝つつもりでいる朝倉にテンジンは思わず高笑った。


<・・・・いいだろう!>


 漆黒の刀を構え朝倉に向かって突進する。



「た、崇ーーっ!!!」


 長沢の叫びは廃ビルの屋上でゆっくりと消えていった。





 -六学屋上


「崇!」


「・・・・!?」


 長沢に呼ばれハっと我に返る。

 今は昼休み中で、ここは六学の屋上だ。


「どったの・・・・?」


 朝倉の様子に気付き、隣に移動する。


「・・・・少し昔の事を思い出していた。」


 改めて景色を眺める。


「2年前の事?」


「・・・・ああ。」


「・・・そっか。でもまぁ今こうして生きてる訳だしね!」


 バシッ!と朝倉の背中を平手で叩いた。

 長沢なりに朝倉を元気付けようとしているのだろう。

 続いて持っていたビニール袋から調理パンを取り出した。


「どうせまだなんでしょ?」


「・・・・ああ。」


 取りあえず長沢から調理パンを受け取った。


「そういや今日珍しく誰もいないわね、昼休みなら大抵誰か昼食取りにきてるんだけど・・・・。」


 周りを見回すが屋上にいるのは朝倉と自分だけしかいない。

 実は、昼食を取りにきた生徒達は、朝倉の姿を見て逃げていったのだった。



「あんた、何やってんのよ・・・・。」


「・・・・・俺に言うな。」


 苦笑いながら調理パンを一口食べた。


「・・・・・美味いな。」


「でっしょ?そのテリヤキサンドはカツパンと同じくらい人気で、中々手に入らないんだから感謝しなさいよ?♪」


 朝倉の横顔を見ながらニヤニヤと笑う。


「・・・・・気味が悪いな。」


「ちょっと!それどういう意味!?」


「じょ、冗談だ。」


「・・・・あんたが冗談を言うような柄じゃないから怒ってるんだけど。」


(・・・・反対に冗談じゃ無いと言ったら、殺されかねんな。)




「あの時、俺にもう少し力があればな。」


「・・・・・今更言ってもしょうがないじゃない。」


 心なしか、長沢の表情に影が落ちる。


「・・・・・すまん。」


 長沢にこんな話をするつもりはなかった。

 朝倉は、また一口テリヤキサンドを食べた。



「・・・・・美味いな。」


「あ、あんたそれ二度目・・・・。」


 二人だけの時間が過ぎていくと思われたその時。




「見つけたぜぇ!朝倉ぁ!!」


 昇降口付近から怒声が聞こえ、朝倉と長沢は何事かと振り返った。


「朝倉ぁ、朝はよくもやってくれやがったなぁ!?」


 そこには10名程の仲間を連れた坂木が立っていた。



「・・・・あんたは確かアホで4年の坂木だったわね。」


「アホは余計だ!アホは!!」


「・・・・・邪魔だったからな。」


「はいはい。そんなこったろうと思ったわよ・・・・。」



「とにかくよぉ!朝のカリを返しにきてやったぜ!!」


 坂木の後ろに控える仲間達の学生章を見ると、他の学年の生徒も混じっている。


「・・・・・仕返しなら一人で来たらどうだ?」


 この人数にも動じない朝倉の姿に、坂木の仲間達は早くも、うろたえ始めた。


「お、お前らビビってんじゃねぇよっ!」


「あんたが一番ビビってたりして~?」


 長沢はニヤリと笑う。


「志穂、挑発するなよ・・・・・相手するのは俺なんだぞ。」


「て、てめぇ舐めやがってっ!!」


 相手するのさえ面倒そうな口振りに坂木は激昂する。

 その時だった。




「・・・・・ん?何やってんだ?」


「お、お前らはっ!?」


 それは昼食を取りに来ていた神楽坂達だった。



「なんだか面白くなってきたわね?♪」



「・・・・どうしたの?」


「天河先輩待ってください~っ。」


 続いて天河、海羽、蒼芭、篠崎、長緒といった面々が昼食を持ってやってくる。



「神楽坂!?長緒!?篠崎!?」


「なんだ?誰かと思えば坂木先輩じゃねーか?」


「・・・・見るからに不良やってます。といった格好だな。」


「さ、坂木やべーよ、朝倉どころか神楽坂に長緒、篠崎までいるじゃねぇか・・・・!」


 中学時代は荒れていた神楽坂と長緒、そして篠崎の事は不良界でも有名だった。

 それに加え最近転校してきた蒼芭、2年生でありながら神楽坂に勝ったという噂まで流れている。



「どうするんだ?この人数を相手する度胸がお前にあるのか?」


「!?」


 ここで初めて朝倉と長沢がいる事に気が付いた。


「あ、朝倉先輩・・・・。」


「何でてめぇがこの学園にいやがるんだよ!」


「いや、ほら朝倉君も一応六学の生徒だから居ても不思議じゃないと思う・・・・よ?」


「・・・・・・俺も来たくて来た訳じゃない。」


 坂木達そっちのけで会話を始める朝倉陣営と神楽坂陣営。


「て、てめぇ等俺たちを無視すんじゃねぇぇえ!!」



「「・・・・うるせぇ!!」」




 そして。



「・・・・このメンツに喧嘩売るとか、ある意味度胸あるよ、うん。」


「連行しろ!」


「く、くそーてめぇら覚えてやがれよ!」


「・・・・・・。」


 坂木は捨て台詞を吐いて、風特機に連行されていった。



「さて、アホが消えた所で、朝倉と言ったな?学園に何の用だ?」


「・・・・さぁな。お前には関係ない事だ。」


 今度は神楽坂達と緊張が走った。

 こんな事になるなら屋上に集まるんじゃなかったと天河、星龍は後悔する。


「何格好つけてんのよ、2年間も学校サボってたツケが回ってきただけじゃないの。」


 ぶっちゃける長沢に返す言葉がない朝倉だった。


「・・・・・2年間。なるほどな。」


 朝のHRで水瀬達が話していた「2年間サボっていた生徒」というのは、朝倉の事だった。


「てめぇには天神テンジンでのカリもあるからな・・・・!」



(・・・・テンジン。)


(多分、天神の事だと思うわ。崇、余計な事は言わないようにね。)


 神楽坂が言っているテンジンとは、ビジネス街である天神の事を指している。


 その天神で何かあったかと朝倉は思い出す。

 確かに神楽坂と長緒に初めて会ったのは薄暗い路地裏だった。

 だが、顔を合わせたのは一瞬で神楽坂の「カリ」が良く分からない。


「自分の放った術は最後まで責任を持つ事だな、特に市街では。」


「最後まで責任だと?

 笑わせるな。そんな事まで気にしてられるか。」


「・・・・そうかい。まぁ別に謝って貰おうとか思ってはねぇよ。

 それにあのチンピラ共も自業自得だしな。

 だが、俺の妹が頑張ってバイトして買った物を消し炭にした、その落とし前は取らせてもらうぜ?」


 カッターシャツの裏に手を伸ばして、腰のホルスターから破砕魂を取り出した。


「ちょ、ちょっと!?ここで喧嘩は駄目!長緒君も見てないで神楽坂君を止めて!」


「・・・・すまない、俺も光志と同じ気持ちだ。」


「そ、そんな・・・!?」


「あ、あわわわっ。」


「か、海羽はん。とりあえず退っとこうか?」




「・・・・・天河、どいていろ。」


 朝倉も同じように腰のホルスターから霊剣の柄を手に取った。


「そ、それじゃ自分等は見学という事で・・・・・・・。」


 苦笑いながら昇降口近くまで避難する星龍、上村そして海羽。



「・・・・慶、この喧嘩どうみる?」


「さぁな、あの眼鏡(神楽坂)が簡単に負ける事はねーだろうけどな・・・・。」


「・・・・あの「魔力」が気になるな。」


「人間とは思えねーな。」


 篠崎は肯定しつつ頷いた。

 前回グラウンドに現れた際に発生させたあの魔力。

 何故、人間の体で魔力を宿しているのか疑問は尽きない。


 とにかく、このままでは屋上で霊力全開の二人が戦う事になってしまう。

 天河は何とか止めさせなければと考えていた時だった。


「二人共いい加減に・・・・」



 スパーンッ!!


 いい音が響いた。

 そこには長沢に平手で思い切り後頭部を叩かれている朝倉の姿が映った。



「・・・・な、なにを・・・。」


「黙んなさい!」


 パンパンッと両手を叩く。


「つまりこういう事?天神で崇がチンピラを追い払おうと術を使ったら、神楽坂君達まで巻き添えを食らった上に、妹さんが買った物まで燃えちゃった。って事でOK?」


「・・・・あ、あぁ。さっきからそう言ってるだろ・・・。」


 苦笑う神楽坂。

 長沢は少し考えてハッキリと言った。


「全て崇!あんたが悪いっ!!」


「そ、そんな事まで知った事か・・・・・。」


 初めて朝倉が動揺を見せた気がする。



「崇、あんた伯父様のアンテークショップでバイトしてるわよね?」


「そ、そうだが、それがどうした。」


 何故か嫌な予感がした。


「伯父様に電話して給料から弁償代引くようにいっておくから。」


「・・・・!?」


 何でそうなるんだと言いたそうな表情を長沢に見せた。

 朝倉はため息を付いて霊剣の柄を戻した。


「・・・・好きにしろ。」


 やる気が無くなったのか、昇降口へ歩き出し長沢も後に続いた。



「あ、おい・・・・!」


「ごめんね~?請求書は後で摩琴っちゃんにでも渡してくれればいいから♪」


 そう言ってそそくさと屋上を後にしていった。




「なんだ、つまんねーな。」


「ま、騒ぎは起こさない事に越した事はないからな。」


(シノケと蒼芭はんがソレを言うんかい・・・・・。)


 星龍は苦笑った。



「・・・・よく分からねぇ奴らだな。」


 神楽坂も破砕魂をホルスターに直す。


「・・・・そうだな。」


 ただ朝倉と長沢を見送る事しかできない神楽坂達だった。







 ―後日談。

 とあるアンティークショップ



「・・・・8万・・・だと?」


「ま、之に懲りたら次からは考えて行動する事ね?」


「・・・・・・・。」


「何?お金貸してあげてもいいけど。」


「いや、遠慮しておく・・・・。」






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