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62:六学GB




 -屋上


 昼休み。

 グラウンドでは昼食を取り終えた生徒達がサッカーやバスケットを愉しんでいる。

 朝倉は屋上からその様子を見ながら景色を見据えていた。


「・・・・・・・。」




 -2年前。


 深夜の廃ビル近くで女性の声が聞こえた。

 その声は仲間に掛けているようだ。

 追われているのか、途切れ途切れで息も上がっている。

 街灯の中に現れたのは、長沢、朝倉、そして天河だった。



「崇!摩琴ちゃんっ!こっち!」


「・・・・さ、さっきの人は・・・・?」


「あのオバさん、しつこ過ぎっ!」


 長沢達は後退しつつ前方の様子を伺う。

 この周辺区域は街灯が少なく薄暗い。


「・・・・まさか魔族が絡んでるとはな、首突っ込み過ぎちまったかっ・・・・!」


 二人の殿を努める朝倉は霊剣を構えつつ後退する。



 コッ・・コッ・・コッ・・・・


 前方の暗がりからヒールの音が響いてきた。

 その音は段々と大きくなっていき、此方に近付いてきている。



<・・・・もぅ逃げる事ないのに。>


 暗がりから妖艶な声が聞こえてきた。

 少ない街灯の中に、赤い模様が入ったナース服を着た若い女性が現れる。


「・・・・赤いナース服?」


「・・・・違うみたいね。」


<どう?この白に血のコントラスト。官能的だと思わない?>


 赤い模様に見えたが、それは返り血で紅く染まったナース服だった。

 立ち止まった女は、指で血の跡をなぞり、再び妖艶な笑みを三人に見せる。



「・・・・私だったら余計な事はせずにピンク一色にするわね。」


「志穂さん、そういう問題では・・・・・。」


(いいから、合図したら逃げるわよ・・・・!)


(う、うん。)



<あら?そぅ?私は結構気にいっているのだけど・・・・・ん?>


 女が一度視線を落とし、正面を見た時には、長沢達はその場から逃げた後だった。





 -廃ビル


 廃棄された8階建てのビルは電気が止められている為、スイッチを押しても明かりが点く事はない。

 何故、わざわざ逃げ場の無いビルに逃げ込んだのか天河は疑問に思っていた。



「天河、気づかなかったのか?」


「・・・・・え?」


「あのまま後退してたら、魔物にやられていたかもね。」


「あのババァ・・・・わざと俺達を追い立て、逃げ道を作った上で一網打尽にしようとしやがったな。」


「それもだけど、なんで魔族が出てくんのよ。」


 予想していなかった事態に思わず頭を掻いた。

 本来なら自分達の過去の真相を探す手がかりが見つかるはずだった。

 しかし、そこに魔族が絡んでいたとは予想外だった。


「志穂、お前の力で魔族が絡んでくる事は分かったはずだろ。」


「さっき私何て言った?私も年増(魔族)が現れるなんて分からなかったの・・・・!」


「と、とにかくこれからどうするんですか!?」


「・・・・ちょっと待って。」


 長沢は精神を集中させ、これから起こる未来を予測する。

 未来が予知できればあの魔族と鉢合わせする事無くビルから逃げる事ができる。


 その間にも朝倉は窓から外の様子に気を配る。

 あの女は廃ビルに逃げ込んだ自分達を探しているはずだ。


 だが、ここで一つ朝倉は疑問を持った。

 魔族が簡単に人間を見失うだろうか。

 あの魔族は見た目はふざけているが、かなりの力を持っている事は間違いない。


(・・・ち、遊んでやがるって訳か・・・!)


 思わず歯を噛締めた。


「あぁあああ!なんでよっ!?」


「ちょ!?し、志穂さん見つかっちゃうっ!?」


「あぁ、それならもうとっくにバレてるから。」


「え!?」


「・・・・魔族が俺達を簡単に見失うとでも思うのか?」


「そ、そういえば・・・・・。」


「私の予知でも完全には捉えられないなんて・・・・。」


「志穂の力でも予知できないのが厄介だな。」


「追いつかれる前に移動した方が良さそうね。」




<そうそう、早く逃げないと危険よ~?>


「!?」


 ヒールの音と共に暗闇から妖艶な声が聞こえてきた。

 あの女魔族だ。



「・・・ちっ、逃げるぞ!志穂!ライトを貸せ!」


 ライトで前方を照らしつつ二人を先導する為に走り出す。

 女魔族から距離が離れて行く中、漆黒から怪しく笑う声だけが響いていた。





 -廃ビル屋上


 ビル内を迂回して脱出するつもりだったが、魔物の群れに往く手を阻まれてしまう。

 逃げ回っている内に三人は屋上へと誘導されてしまっていた。



「・・・・・・見事に追い込まれたか。」


「これほど力を入れるって事は・・・あの施設、何か有ると見て間違いないわね。」



 ガシャン!


「!?」


「と、扉が・・・・。」


 突然、後の昇降扉が音を立てて閉まった。

 天河が何度もノブを回すが開く気配が無い。


「な、何か物凄い力で抑えつけられてるみたい・・・・!」


「崇!摩琴っちゃん!前!」


 三人は、錆付いた貯水タンクの隣に満月が浮かぶ光景を見据えた。

 その直後、ヒールで歩く音が聞こえたかと思うとタンクの裏から、あの女魔族が姿を見せる。



<・・・・少しは愉しめたかしら?>


 女魔族は左手をゆっくり上げると何かを触る仕草をする。

 それは朝倉達からの視点から見ると、まるで満月の底を撫でているように見えた。


「オバサンに追われさえしなければ楽しめたんだがな。」


<あら、失礼しちゃうわ。身体は20歳よ?>


 その場で妖艶なポーズを取った。

 確かに人間の寿命とは比べようもないが、歳相応の身体付きではない事だけは間違いなさそうだ。


「・・・・崇?あんた地味にあの年増に見惚れてない・・・?」


 朝倉の背中に寒気が走った。




<・・・・この状況で随分と余裕じゃない?>


 女魔族は5m以上ある高さから飛び降り、何事もなかったかのように両腕を組んだ。



「・・・・・退がれ!」


 朝倉はゆっくりと近づいてくる女魔族に霊剣の切っ先を向けて警戒する。

 女魔族は全く怯む様子がない。

 朝倉に笑みを見せながら、ある一定の距離で立ち止まった。


「・・・・ここまで追い詰めておきながら、まだ遊ぼうっての?」


 あの魔族が取った行動は長沢には予知できていなかった。

 何か、特殊な力が予知の邪魔をしているかのような感じを受ける。


<うふふふ、本当ならこのまま私が相手してあげたいところなんだけど・・・・・。>


 女魔族の隣に黒い霧のような物が発生し始めた。



「・・・・な、なんだこれは・・・!?」


 同時に女魔族とは別の強大な魔力が廃ビル屋上に発生する。



「ふ、二人ともあそこ・・・・!」


「・・・・・ここで新手?しかも魔力はあの年増以上じゃないっ!?」


「・・・・・ちっ。」


 これも予知する事が出来なかった事態だ。

 あの女魔族は強力な力を持ってはいるが、あの性格を考えるとまだ対処する事ができた。

 だが、ここでそれ以上の力を持つ魔族が現れては話は別だ。


 圧倒的に分が悪すぎる。

 長沢も状況は分かっている。


「し、志穂さん・・・・・!?」


「・・・・まともにやりあったら勝ち目はないわ。

 ここは、一旦退却し・・」


<・・・・・ようやく見つけたぞ?まさかお前達から接触してこようとはな。>


 黒霧から男の声が聞こえたかと思うと、刀を帯び、網笠を被った男が現れる。

 男が現れた瞬間、凄まじい魔力が屋上を包み込む。

 明らかに今までの相手とは「格」が違っていた。


「志穂、天河、下がってろ・・・・・!」


 臨戦態勢のまま後ろの二人に叫んだ。

 あの網笠の男から一瞬たりとも視線を外す事が出来ない。

 霊剣を握る手にはジワリと汗が滲み出てきた。


<・・・・・NO.03Alastor、そしてNO.04Pwca・・・・随分と大きく(成長)なったものだな。>


 笠に縦に入った傷の隙間から紅く鋭い目が朝倉達を睨む。


「NO3にNO4・・・・・?」


「・・・・・・。」


「貴様・・・・その呼び名をどこで・・・・・!」


 思わず向けた切っ先が振るえだした。

 網笠はその様子に不気味な笑みを見せる。


<・・・・まぁ、あのプロジェクトは表向きは人間達が研究してたものだし

 この子達が知らないのも無理はないわねぇ。>


<・・・なるほど、我等魔族が「ぷろじぇくと」に関わっている事は極秘だったか

 これはラオスに悪い事をしてしまったな。>



「ラオス・・・・・!」


「・・・・・あのインテリ親父・・・・。」


 朝倉と長沢の脳裏に、鋭い目付きで眼鏡のズレを直す外国人の男がフラッシュバックする。


 天河には一体何の話をしているのかは分からない。

 だが、危険な相手である事は間違いない。

 退路を確保する為に、扉に掛けられた結界の解除を気付かれないように試みる。



<・・・・・んふ。>


「・・・・・!?」


(き、気付かれた・・・・・?)


 女魔族と目が合った。

 まさか感づかれてしまったのかと二人は冷や汗を流した。

 ここでドアの結界を破れなければ生きて帰る事はできない。



「貴様ら魔族は、何処まであの計画に関わっているっ!」


<・・・・・時間稼ぎか?・・・笑止。>


 腰に差した刀に触り、鞘からゆっくりと抜いた。

 その刀は刀身が黒く、鍔上の根元付近には不気味に動く目玉のような物がギョロリと動く。


「・・・・・ちっ。」


(崇!私達が結界を破るまで持ち堪えて!)


 網笠と戦闘になると感じた長沢は朝倉にテレパシーを送った。


「・・・・ふ、簡単に言ってくれるな。」


 朝倉は思わず苦笑った。

 だが、生き残る為にはそれしかない事は十分に分かっている。


 網笠達との会話で重要な情報を手に入れる事ができた。

 ここで死ぬ訳にはいかない。



<・・・・・覚悟はできたか?何、怖がる事はない・・・・ただ死ぬだけだ。>


「!!?」


 朝倉の瞳孔が開く。

 その瞳には、凄まじい速度で迫る網笠の姿が映っていた。




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