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61:接点



 -屋上



「学校にきたの2年振りねぇ~。」


 制服姿の朝倉が珍しいのか、長沢はニヤニヤと笑みを零しながら天河と共に歩み寄った。


「でもびっくりした。朝倉君、探し物は見つかったの?」


「・・・・・いや。本当ならこんな事している暇はないんだがな。」


「・・・・崇、あんたねぇ最低でも高校は出ときなさいよ。

 私がどれだけ苦労して処分を保留して貰ってると思ってんの?」


「志穂さんの言う通り高校は出ておいた方が良いと思うよ・・・?」


「うんうん。」



「・・・・志穂、何故俺に学校へ来いと?」


「あ、あんた一応学生でしょうが・・・。流石にね、キツくなってきたの。」


「キツい?」


「私が力を使って学園にアドバイスやらして、崇の退学処分を保留してるってのは知ってるわね?」


「・・・・ああ。」


「うん。」


「それで進級も都合してもらって来てたんだけどね、

 でも流石に周囲から疑問の声やらが上がっちゃってさ。」


「・・・・つ、つまり?」


「卒業までシッカリと学校にくるか、定期的に補習を受けろという事になったって訳。」


(・・・・それで今日、学園へ来いと連絡してきたのか。)


 だが、これからの事を考えると前者は却下だ。

 とてもそんな時間はない。


「・・・・・いっその事、学園を辞めても・・・」


「それは私が許さない。」


 長沢は真顔で迫る。

 朝倉はやれやれと苦笑いを浮かべた。


「でも補習だけで卒業できるならそれに越した事はないじゃない?

 ホントは毎日学校にくるべきなんだろうけど・・・・。」


「・・・・・。」


 朝倉は無言のまま学生ズボンの尻ポケットから小さな箱を取り出した。

 手馴れた手つきでスナップを利かせると、小箱から一本の棒が飛び出す。


 それは煙草だった。



「み、未成年っ!!」


 バッ!


「・・・・・。」


 100円ライターを取り出した所で天河にライターごと没収されてしまった。



「あれ?崇、あんた愛用のジッポ持ってなかった?」


「・・・・・あれか。」


「皆、煙草とお酒は二十歳になってからね?」


「だ、誰に言ってるんですか・・・。」


 天河は明後日の方向を見ている長沢に突っ込みを入れる。



「・・・・・向こう(極光)に行っていた時に落したようだ。」


 愛用のジッポを紛失していた事に気付いたのは、女子寮から近くの公園に移動した時だ。

 一張羅のロングコートを補修中に、長沢からジッポを取って貰おうとしていた時には既に紛失した後だった。



「・・・・次、向こうに行った時にでも探せばいい、それより神楽坂が武神として目覚めたようだな。」


「摩琴っちゃんが半裸になりながら頑張ったお陰よね~?」


「武神?・・・ってまさか志穂さん、み、見てたのっ!?」


「まぁね♪」


「!?」


 天河は、一気に顔が赤くなった。



「・・・・だが、俺と同様強大な力に体が耐え切れず、数分力を使うだけで長時間戦闘不能になる。」


「た、確かにあの時の神楽坂君は凄かったけど・・・・。」


 魔族オルボロスと対峙した時の神楽坂を思い出した。

 人間とは思えない圧倒的な力で、中位魔族であったアルボロスを一瞬で葬った力。


「でも、どうして朝倉君がそこまで知っているの?」


「・・・・・・。」


 朝倉は沈黙を守る。

 前回、意識を失った神楽坂を連れて女子寮を訪れた時、中途半端に覚醒したと言っていた。

 それは朝倉が神楽坂の正体を知っている事になる。


「・・・・・詳しく話す事は出来ないが。」


「これは・・・・?」


 朝倉に見せられた紙には、書かれている文章の殆どがマジックで消されていた。

 その中で数行だけ原文を読める箇所があり、注目する。



「なになに?」


 天河の横から長沢も覗きこむ。

 ローマ字で何か書いてあるようだ。


「・・・・摩琴ちゃんこれ・・・・。」


「こ、これって・・・・。」


 そこに書かれていたものは。



 Kouji(5)

 Kenichi(5)



「・・・・ぐ、偶然?」


「でも、この名前って神楽坂君と長緒君じゃない・・・・?」


「『最優先』って英語で綴られてるけど・・・・。」



「・・・・これは昔、ある場所で手に入れた物だ。」


 朝倉は書類を畳み、学生ズボンのポケットに入れる。


「昔って・・・・あの時?あんたも抜け目ないわねぇ。」


「今の名前は恐らく・・・・いや間違いなく神楽坂と長緒の事を指している。」


「朝倉君が探している物と神楽坂君達に関係がある・・・・?」


「俺達の運命を弄びやがった奴等は、少なくともあの二人を狙っていた。」


「ど、どうして神楽坂君達が・・・・。」


「理由はさっきも言った通りだ。」


「・・・・・・。」


 ここで朝の予鈴が鳴った。

 早く戻らないとHRに間に合わなくなるので一旦区切る事にした。



「摩琴ちゃん!早く戻らないと!」


「え、あ、うん。」


 長沢は考え事をしていた天河の袖を引っ張る。


「崇、あんたも教室に戻らないと駄目よ!」


 朝倉に指を指しつつ、天河と共に教室へ戻っていった。



「・・・・・・。」


 長沢と天河を見送った後、先程の書類を取り出して開いた。

 二人の名前の下に、マジックで消された文を見据え、修正を加える前に書かれていた文が思い浮かぶ。



 Takashi(6)

 Shiho(6)



「・・・・・・ちっ。」


 朝倉は思わずその書類を握り潰し、丸めた書類を後ろに投げ捨てた。

 丸められた書類は地面を転がった後、燃え上がる。

 まるで火薬やマグネシウムが激しい燃焼を起こすかのように一瞬で灰と化すのだった。




 -野外プール


 綺麗に掃除され、新しい水が入れられたプールは前回の事件が無かったかのようだ。

 実際、利用する生徒達に配慮して事件は伏せられていた。


 4時限目。

 この時間は3年1、2、5組の3クラスが合同で水泳の授業が行われている。



 男子の自由時間、男女境界線に不振な人影が潜行し接近しようとしていた。

 それは両目を大きく覆うタイプの水中眼鏡を付けた吉原だった。


(ふっふっふ・・・・今日のこの俺に抜かりはない!)



「・・・・くそぅ、俺も大きいヤツ持ってくれば良かったぜ・・・・。」


「なんで俺はゴーグルなんてモンを持ってきちまったんだよ・・・・・!!」


 競泳用ゴーグルの男子生徒達は天を仰ぎ嘆いた。

 今日の合同授業は天河、長沢の他に佐久間の三人の水着姿(学生用)が拝めるからだ。



「・・・・・・。」


「・・・・直明のヤツ、ああゆう事だけはシッカリしてるよな。」


 苦笑う神楽坂と言葉もない長緒だった。




 現在、女子は25mを順番に泳いでいた。


 ピッ!


 笛の合図で次々に飛び込んで行く。

 順番を待つ天河は、あの書類の事を考えていた。


(・・・・神楽坂君達が狙われていた?)


 二人と朝倉の関係とは。

 そして凄まじい力を持つ武神。

 武神は神を守護していると言われ、その力は神に次ぐとも言われている。


 2年前のあの時、天河と長沢、そして朝倉を襲った上級魔族テンジンが背後にいるような気がしてならなかった。



(・・・・いや、それだけじゃ無いかもしれない。)


「天河さん、どうしたの?」


「え?」


 クラスメイトに声を掛けられ、周りを見ると既に自分の番になっていた。


「す、すみません!」


 慌てて飛び込み台から飛び込んだ。



「・・・・ん~やっぱり余計な事言わすんじゃなかったかな。」


 長沢は天河の様子に少し後悔する。

 だが、これは何れ除霊部を巻き込んだ避ける事が出来ない運命なのだ。


(出来ればダブルブッキングだけは避けたい所なんだけど・・・・難しいかもねぇ。)


 先に25mを泳ぎ、折り返し地点で待機している佐久間をチラリと見た。




「・・・・・・・・。」


「玲奈、どうしたの?あ!また吉原が何かやってるのね?」


「・・・・・何でもないわ。因みに吉原君ならあそこで盗み見してるわよ?」


 佐久間は男女境界線、男子側ギリギリを指差した。

 その地点からは不自然に気泡が上がってきている。



「せんせー!吉原君が盗撮してますー!」


「吉原てめぇぇーーっ!!」


「ぎゃーーーーっ!?」


 授業中、事故があった時に備え、海パン姿だった山城はプールサイドの端から助走を付けて吉原が潜っている場所へ飛び蹴りを浴びせた。




「ふ~・・・・。」


 泳ぎ終わり、何事かと悲鳴が聞こえた方を見てみる。

 山城にジャーマンスープレックスを掛けられている吉原の姿が映り、天河は思わず苦笑った。


 その境界線の近くにいた神楽坂と長緒の近くへ移動した。



「な、何か大変だね・・・・。」


 連続ジャーマンを掛けられている吉原を見た。

 神楽坂と長緒を初め周りの生徒達も苦笑っている。


「・・・・これで上村までいたら混沌と化してたな。」


「そ、そうね。どうなる事か・・・・。」


「・・・・まぁ、退屈はしねぇがな。」


「は、ははは・・・・。」



「そういや朝、話の続きって何だったんだ?」


「あ、えっとね・・・・そんなに大事な話じゃないんだけど。

 その、神楽坂君が良ければ私が勉強を教えようか?って話だったのっ。」


「・・・・それは名案だ、俺としても光志に留年して貰っては困るからな。」


 と言いながら長緒は気を利かせたのか、この場を離れて行った。


「健ちゃん!?」


 境界線を挟んで神楽坂と天河の二人だけになってしまった。


「ど、どうする?流石に期末は時間が無いから難しいかもしれないけど・・・・。」


 何度もだが、留年だけは避けたい神楽坂には選択の余地は無かった。


「そ、それじゃわりぃけどお願いするよ。」


「了解♪」



「次は折り返しー!一番最初だったグループは用意してー!」


 折り返しの笛と1組担任の声が響いた。



「そろそろ戻らないと、それじゃ放課後またね?」


「あ、ああ。」


 軽い挨拶をして天河は元の位置へと移動していった。




「おらぁぁーーーっ!!」


「も、もう許してぇ~(T-T)」


「・・・・・・まだやってたのか。」


 苦笑う神楽坂であった。





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