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4:除霊委員会

 翌日、雀の囀る朝、通学路を生徒達が歩く中に神楽坂と長緒の姿があった。

 神楽坂は学生ズボンの両ポケットに手を突っ込み不機嫌そうに歩いていた。


「・・・・・で、結局引き受けたのか。」


「あぁ、・・・・俺の単位を盾にしやがった!」


 神楽坂は歩きながらコンクリートの壁を蹴って八つ当たる。

 前回、藍苑の策略に掛かり科学の単位を盾にされてしまった神楽坂は新しく新設される委員会、「除霊委員会」に長緒と共に半ば強引に入れられてしまっていたのである。


「・・・・・落ち着け。それにしても除霊委員会か、俺達の学園には無かったな。」


 長緒は腕を組んで考える。

 霊は人が沢山集まる所に惹かれて集まる習性があり、学校等で幽霊が出るといった事は良くある事なのである。

 よって、人が多く集まる教育機関等には「霊能力」を持つ生徒や教師で構成される除霊組織が設けられており、自分達の学園に除霊組織が無い事は通常有り得ないのだ。


「40年振りだとよ、悪霊が出たのは。」


「40年・・・・・珍しいな。」


 神楽坂、長緒の二人が六学に入学して3年間、心霊現象といったものは全く起っていなかった。

 聞いた話ではここ数年は静かだったらしく、数年でも珍しいと思っていた。

 だが、40年も何も無かった事実に普段冷静な長緒を驚かせる。


 長緒なりに考えていると神楽坂が申し訳なさそうな声を出してきた。

 恐らくあの事だろうと予想は出来ていた。


「そ、それでさ、健ちゃんにも除霊委員に・・・・。」


 やっぱりな、と長緒は軽く笑った。

 長緒も霊能者だ、除霊委員会を新設すると成れば当然こうなる事は分かっていた。

 何れ自分にも声が掛かってくるだろうとは思っていたが、まさか神楽坂を巻き込む形で自分を取り込んでくるとは・・・・。


 しかし断る理由もなく、神楽坂がいる委員会に入るつもりだった長緒は間を空けずに快諾した。


「・・・・・俺達相棒だろ?」


「すまねぇな、健ちゃんっ。」


 神楽坂は申し訳なさそうに笑う。

 二人は既に校門前まで来ていた。



-3年5組

 クラスメイト達が朝の挨拶をし友人達と談笑している中、神楽坂と長緒も自分の席に付いて教科書を机に突っ込んだ。


 吉原はまだ来ていないようだ。

 彼は電車で通学していて、少しでも睡眠を取りたいらしく何時も遅刻ギリギリで登校してくるのだが、今の時点で教室にいない所を見ると遅刻は確定のようだ。


 吉原がまだ来ていない内に聞きたい事があった長緒は神楽坂に除霊委員会の事を聞いた。


「・・・・・それで、除霊委員会は何名で構成されているんだ?」


「えーと、藍苑の先生から聞いた話だと1組の天河摩琴を含めて三人だけらしいんだ。」


「三名、・・・・・出来たばかりの委員会ではこんなものだろうか。」


「もう少し人数欲しい所だよな。で、俺達に心当たりがある生徒がいれば勧誘して欲しいだとよ。」


「・・・・・なるほど。」


 長緒は指を顎に掛けて考えた。

 この学園に悪霊と対等に戦える程の力を持つ生徒は数える程しかいないが、ある人物が二人思い浮かんだ。


「・・・・・あの二人しかいないな。」


「だな。」


 神楽坂も同じ人物を思い浮かべていた。


「・・・・・二人とも何話してんの?

 あ、神楽坂、昨日はカツパンありがとね?」


 女子生徒が二人の会話に加わってきた。


「安堂か、・・・・・そういや直明と一緒じゃなかったのか?」


 彼女の名前は「安堂裕紀あんどうゆうき

 同じ5組のクラスメイトである。 

 前回、神楽坂が賭けで負けたカツサンドの一つを彼女に渡していた。


「さぁね、夜遅くまでゲームでもしてたんじゃないの?」


 安堂と吉原は中学時代からの知り合いで、同じく電車で通学している。

 何時もなら二人同時に来るのだが、今回は違ったようだ。


 噂をすれば何とやら、暫くすると吉原が汗だくで教室へ走りこんできた。

 しかも吉原は勢い余ったのか、扉のレールに躓いたのか教室の床へダイビングジャンプし飛行機が胴体着陸するかのような形でうつ伏せで滑り込んだ。


 床に突っ伏せたままの吉原の後頭部には白いチョークが突き刺さっていた。

 原因は遅刻せぬように全速力で校内を走った事だが、一番の原因は自分のクラスへ向かっていた教師山城を追い抜いてしまった事だ。

 そして彼の後頭部にチョーク弾が命中、その反動で扉のレールに躓き豪快に床へダイブしたのである。


 神楽坂を初めクラスメイト達は否応無しに吉原に注目させられ苦笑った。


「てめぇ・・・・廊下は走るなと何万回言わせるつもりだぁああ!!」


「な、なんで何時も俺・・・だけ・・・?」


 恐師山城の咆哮に顔に縦線を入れる生徒達と、その場で力尽きた吉原であった。



 そして昼休み、神楽坂と長緒は、ある人物を勧誘するべくC校舎4階へと向かった。

 高等部C校舎は普通科のみでも8階建てと大きく、1~2階は1年生、3~4階は2年生、7~8階が4年生となり、神楽坂達3年生は5~6階となっている。


 4階へ向かう途中で神楽坂は廊下に除霊委員会委員募集の張り紙が貼られている事に気付いた。


「もう募集のポスターとか貼られてんのか、準備早ぇな。」


 昨日今日でもう募集のポスターが貼られている事に苦笑いつつも神楽坂は内容を見てみた。

 ポスターにはこう書かれている。




「きたれ!霊能力者!君の隠れた力が学園を救う!


 除霊委員会

 希望者は第六委員会塔か藍園先生まで挿絵(By みてみん)




「こんなんで人が集まる訳ないだろ・・・・。」


「全くだ・・・・。」


 良く見ると廊下の所々にある掲示スペースにこのポスターが貼られており、4階に着いた時には既に5枚は見ていた。

 しかもこのポスターには二種類あるようで、内容は殆ど同じだが希望者は3年1組の天河摩琴か、3年5組の神楽坂光志、同じく長緒健一に伝えてもOKと名指しされている種類もあった。


 長緒が委員会に入る事はまだ藍苑に伝えてない筈だが、予想通り初めからそのつもりだったようだ。

 神楽坂は何故だか肩の力が抜けるのを感じつつも目的地へ向かう為に歩き出した時だった。

 4階に着いたとほぼ同時に長緒は2年生の女子達から囲まれてしまう。

 相変わらずの人気振りだが、これでは前に進めないと感じた神楽坂は長緒に合図を送り先に目的地へ行く事にした。


 目的地はこの廊下の先にある2年14組でこのクラスに勧誘予定の人物が在籍している。

 昼休みで廊下を行き来する生徒達の間を通りながら14組の教室に近づいた時、教室から一人の男子生徒が誰かに怒鳴られながら飛び出してきた。


「上ぃ~村ぁ~!ウチの子達に手出すなと何万回も言ってんでしょうがっ!!」


「うぉあぁあ!?じょ、冗談ですってば先輩っ!ほ~んの軽い冗談!ね!?ねっ!?」


 上村と呼ばれた長身の男子生徒は背後から迫る女生徒を後ろに見ながら神楽坂の方へダッシュで向かってきた。

 彼は背後の女子生徒に気が向いており、正面にいる神楽坂には全く気付いていない。


「・・・・・・・・。」


 上村との距離が近くなった事を見計らい、神楽坂は左腕を水平に上げて体を少し右へ傾けた。


「ぐはぁああっ!?」


 走った勢いのまま神楽坂の左腕が上村の首辺りに直撃しラリアットの形になった。

 まともに受けた上村は言葉にならない声を上げ、下半身は慣性を受けて前へ、神楽坂の左腕により上半身はその場に残る形で仰向けで豪快に倒れた。


「だ、誰だよ・・・・こんな所でラリアットとかやる奴ぁあ~。」


 上村は倒れた状態で顔を上げ何者の仕業か確認しようとしたが、そのまま力尽きた。

 神楽坂は気絶した上村を尻目に苦笑いを浮かべている。

 そして彼を追いかけてきた女子生徒に向け話した。


「藤沢、またこの馬鹿がしでかしたのか?」


 何をしでかしたかは大体予想が付いているが一応聞いてみた。


「あ、えぇ神楽坂、ナイスラリアットだったわね。」


 彼女の名前は「藤沢香ふじさわかおり

 看護科3年6組。保険委員会委員長で女子バレー部に所属している。

 神楽坂と長緒とは中学校が同じで何度かクラスも一緒になった事もある。


 ラリアットを食らい床で死んでいる男は「上村裕也かみむらゆうや

 2年2組、長緒に次ぐ長身で性格は見ての通り軟派で軽い。

 神楽坂達とも中学が同じで藤沢とも面識がある。


 除霊委員会に誘うつもりだった内の一人で、上村は後で会いに行くつもりだったが手間を省く事ができた。


「大方また女子に手だそうとしてたんだろ?」


「そうなの。この男(馬鹿)保険委員に入ったばかりの1年生にちょっかいだしてさぁ・・・・神楽坂、こいつにキツク言って置いて貰える?「次やったら命はないわよ」って。」


 藤沢は倒れたままの上村を指差して階段へと歩いていった。

 神楽坂は苦笑いながら上村の右足を持って引き摺りながら14組へ入る。

 その際、扉のレールに上村の後頭部が直撃し、彼はようやく目を覚ますのだった。



-2年14組

 神楽坂達は窓側の一番奥の机を囲むように座っていた。

 その机には深碧の髪をした男子生徒が座り、その机を囲んで神楽坂、長緒、そして上村がさながら不良の集会のような状態になっている。

 女子に取り囲まれていた長緒も無事に合流する事ができたようだ。


「んで?俺のクラスまで来てどうしたんだ先輩?」


 最初に口を開いたのは深碧の髪をした生徒だ。

 彼もまた神楽坂達の知り合いで、上村と同じ中学に通っていた。


 彼の名は「篠崎慶斗しのざきけいと

 神楽坂に負けず劣らずの性格と素行の悪さで中学時代は神楽坂と喧嘩もした事がある。

 剣術が得意で戦闘時は霊能と合わせて戦う。


「お前等、廊下に張られた除霊委員募集のポスターは見たよな?」


「ポスター?・・・あぁ内容がウケたから見たけど・・・・?」


 掲示スペースに貼られたポスターを思い出す。

 確か昨日体育館に悪霊が出たとは聞いているが、篠崎も自ら委員になろうとは考えていない。

 机の横には竹刀袋が立て掛けてあり、剣道部に所属していると思われるが彼は帰宅部である。


 わざわざ自分達の教室に出向いて、一体何の話をするのか疑問に思っていると神楽坂から思いも寄らない言葉が飛んできた。


「お前等今すぐ除霊委員会に入れ。」


「「はぁああ!!?」」


 篠崎と上村の声がハモり、いきなり何を言うのかといった表情をした。


「俺は嫌だねそんなのに入ってたら自分の時間がなくなっちゃうよ。」


 真っ先に拒否したのは上村だ。


「・・・・自分の時間?ナンパの時間の間違いじゃないのか?」

 

 自分の時間=ナンパする時間だと既に見抜いている長緒はすかさず突っ込みを入れた。


「う゛っ・・・は、ははははは・・・!んな訳ないじゃん先輩~。」


 やはり図星だった。




「篠崎、お前はどうだ?」


「先輩よ~もしかして自分達が面倒に巻き込まれちまったからそのついでに俺達も道連れにしよう、とか考えてね?」



「その通りだ。」


「「おぉい!!否定しないのかよ!!?」」


 篠崎と上村は即答した神楽坂に柄にもなく突っ込みを入れた。


 このままでは話が一向に進まないまま昼休みが終わってしまう。

 となれば除霊委員会に入るに至ってのメリットで二人を釣るしかないと長緒は考え、その作戦を実行に移した。



「上村、除霊委員会の委員長は3年1組の・・・・・天河摩琴だ。」


「俺入るわっ!」



「カ、カミさん相変わらず現金というか・・・なんつーか・・・・。」


「釣っておいて何だが・・・全くだ。」


 即答する上村に篠崎を初め勧誘サイドの神楽坂と長緒も呆れていた。

 因みに「カミさん」とは上村のあだ名である。


「上村は決定な。・・・・次は篠崎、お前だが悪霊や妖怪はこっちの都合なんざお構いなしだろ?授業中に悪さする可能性だってある。」


「ま、奴等は人間の隙を突くのが上手いしな。」


 篠崎は取り合えず相槌を打った。

 神楽坂の言う通り悪霊や妖怪が力がより高まる夜を好むとはいえ、日がある授業中に現れる可能性は十分にある。現に体育の授業中に悪霊が現れたのだ。


「授業中に呼び出された場合、その授業は公欠扱いだ。」


「マジ!!?・・・そ、それは結構魅力的だぜ・・・・。」


 篠崎は「公欠」という言葉に大きく心を揺り動かされた。

 手ごたえを感じた神楽坂は最後の一押しに掛かる。


「場合によっては除霊に1時間以上かかるかもな?・・・・・それも全て公欠扱いだ。剣の修行にもなるぜ?」


 神楽坂には確信があった。

 自分と性格が似ている篠崎ならばダルい授業を受けるよりも公欠になる方が嬉しいはずだ。


 数分後、神楽坂の予想通り篠崎は委員会に入る事を承諾するのだった。


「先輩よ、道連れは多い方がいいんだよな?」


 篠崎が意味深な事を言い出した。


「ん?他に犠牲者・・・じゃねぇ霊能を持った奴がいるのか?」


「俺たちとは全く別系統の能力で結構役に立つかもしれないぜ?」


「あ~確かにアイツの能力はいいよねぇ・・・・覗きとか。」


「・・・・霊視か。確かに役に立ちそうだな。」


 篠崎の話ではその生徒は同じ14組の生徒らしく今はある教師に呼び出されて不在だが戻ってき次第拉致すると約束した。


 篠崎と上村の勧誘に成功し、除霊委員会はこれで5名となった。

 更にもう一人犠牲者、もとい勧誘できそうな生徒が居るらしく神楽坂は期待するのだった。




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