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56:同時攻撃





「け、けど、どうやって水の上にいる相手を攻撃すれば・・・・・!」


 海羽はどうすればいいのか分からない。


<・・・・・ガゥ。>


 見かねたライヤは頭上で帯電させ始めた。



「い゛っ!?ちょい待ったーー!!」


 放たれた雷撃に飛び込み、体を張って受け止めた。

 例の如く、上村の叫び声が響く。



「雷撃は禁止だと言ったはずだぞ、周りの状況をよく見るんだ。」


「す、すいませんっ!」


 慌てて長緒だけに一礼する。



「・・・あ、あれ・・・俺は・・・?」


 アフロ姿で空しくプールサイドに倒れる上村であった。




「こいつでも食らいやがれ!!」


 抜刀から一刃の霊刃を放ち、怨霊を斬り付ける。


<グァア・・アア・・・ッ!>


 怨霊は為す術もなく霊刃に切り裂かれ消滅する。


「はぁあああっ!!」


 続けて蒼芭も同じ技を使い、水面上の怨霊を攻撃する。

 遠距離戦は苦手だが、ほぼ止った的を狙う事は容易だった。


 二人が取りこぼした敵を神楽坂の霊銃が狙う。



「・・・・・・・・。」


 大剣を肩に担ぎつつ、左手に持ったレイザーの銃口を向け、引き金を引く。

 銃口に収束した霊気の弾丸は怨霊の眉間を貫いた。

 続けて2体目、3体目と、正確に撃ち落す。


 この調子でいけば思ったより早く彼女の霊を解放させる事ができそうだ。



「・・・・皆ちょい待ちっ!」


「星龍!一体何事だ!」


「やはり・・・・癒着していたか・・・・。」


 星龍は頷き、その詳細をリンクした全員の視界に表示させる。


 前衛の活躍で怨霊の数はかなり減らす事ができた。

 だが、彼女の霊に取り憑いている怨霊は先程のとは若干違う事に気がつく。


「・・・・・・ちっ。」


 神楽坂は険しい表情で思わず舌打ちをする。

 彼女の霊体に取り憑いているのではなく、ほぼ融合してしまっていた。

 これでは、いかに天河の術といえども引き剥がす事は困難だ。



「どうなってやがんだよ!」


「・・・・見ての通りだ、40年という長い年月は霊体同士を癒着させてしまった。

 これでは・・・もう・・・。」


「天河!何とか引き剥がす事はできないかっ!?」


 神楽坂は天河を見上げる。

 このまま見捨てる訳にはいかない。


「・・・・やってみる・・・!!」


 更に出力を高め、融合した怨霊の一体を引き剥がそうとする。

 しかし、それは彼女にとっても苦痛を伴う。


「頑張ってくれ!」


「なんか先輩やけに必死だよね

 そりゃ俺も可愛こちゃんを助けたい気持ちは同じだけど・・・・。」


「あの眼鏡(神楽坂)は悪霊やらには容赦無しだが、まだ心を残した霊にはすげぇ優しいんだよな。」




 術を維持させる天河は構えを変えた。

 何時もなら両手を開いて、相手に向けて力を放出するのだが、それでは複雑な動作ができない。

 そこで両手をクロスさせて左手で術の維持、右手で癒着した怨霊の除去に振り分けた。


(・・・結構・・・きついかも・・・・)


 体に掛かる負担は更に大きくなる。

 しかし、この高等テクニックを父親は片手で行っていたのだ。

 少しでも近づく為にも、ここで終わる訳にはいかない。


 癒着した怨霊の一体に変化が見られた。

 少しずつだが彼女の霊体から剥がれていく。

 しかし、その事によって彼女は苦痛の声を上げる。


 少しでも苦痛を和らげようと最新の注意を払い、怨霊を剥ぎ取る。

 そして、ようやく一体の怨霊を完全に引き剥がす事に成功する。


「今やっ!」


 霊視した最新の情報を神楽坂を始め全員の視界に反映させる。


「・・・・・・もらったっ!」


 神楽坂は銃身がブレないよう静かに引き金を引く。

 銃口に収束した霊気の弾は一筋の線となって怨霊の頭部を撃ち抜いた。


「や、やったよ!これで後3体!」


 頭部を撃ち抜かれた怨霊は断末魔を上げながら消滅する。

 彼女に癒着していた部分も綺麗に消えていた。



「・・・あと・・・3体・・・!」


 一筋の汗が頬から顎へと伝わっていく。

 天河の消耗は激しいが、これなら何とかなるかもしれないと思った時だった。


「な、なんやと!?」


 残った怨霊が増殖し、再び取り憑いた。

 この事態は全員が確認する事ができた。



「ま、また増えちゃったんですか・・・・!?」


 まだ未熟な海羽にも見る事ができた。


「・・・・あの怨霊・・・・・まさかっ!?」





「なんやて?それじゃあの怨霊は4体で1体っちゅうことかいな?」


「そうだ、よく見て(霊視)みるんだ。」


 再度、怨霊を霊視する。

 当初、4体の怨霊が癒着していると思われていた。

 長緒が指摘するように4体共、霊気の波長が同じだと判明する。


 これは元が一体の悪霊である事を意味する。



「そ、そんな・・・・それじゃ・・・。」


「4体の怨霊を同時攻撃しなきゃならねぇ・・・・・!」


 4体を同時攻撃する難しさは、神楽坂の険しい表情から予想できる。

 もう一つの問題は天河だ。

 今、こうしている間にも彼女の霊気は消耗していく。

 


 神楽坂は離れた場所にいる長緒に視線を送った。

 その視線に気づいた長緒は小さく頷く。



「おっと!」


 水中から髪蔓が襲いかかり、篠崎はこれを神刀で斬り落とす。


「やはりジっとしてる訳はないか、皆油断するな!」


 浄化光エクソシズムには、物質等から対象を引き剥がす際に、ある程度の呪縛能力を備えているが、長緒の術程の拘束力はない。

 強力な力を持つ相手では、その拘束を破られる事もある。


 女子生徒の霊を解放し、救う事ができる力を持つ者は天河だけだ。

 彼女が力尽きれば、それもできなくなってしまう。




「・・・・・・。」


 襲いかかる髪蔓をレイザーで的確に撃ち落しつつ、神楽坂は最悪の結末を考えてしまう。



(どうする?

 このまま苦痛と共に永遠を彷徨わせるのか?

 それならせめて・・・俺たちの手で・・・・。)



 そう思った時だった。


<・・・・・さ、さっきので少し分かった気がするの。>


 その言葉は精神リンクを通じて長緒以外に伝わる。


「数秒、いえ一瞬かもしれないけど、4体同時に引き剥がせるかも・・・・!」


 此処に来て何かコツでも掴んだのか、天河の表情と言葉には自信のような物が感じられる。

 更にそれは出来ても1回だけで、それ以上は自分の霊力が持たないと付け加えた。


「で、でもそれは4人同時に攻撃を仕掛けるって事だよね・・・・?」


 上村は怨霊がいる場所を再確認する。

 プール中央、さらに水面上だ。

 同時攻撃を仕掛ける為には水の上を移動しなくてはならない。

 正確に怨霊のみを攻撃しなければならない為、より確実な近接攻撃でなければ駄目だ。


 超能力でも使わない限り、水面を移動する事は不可能だ。


「どーすんだ!?自分の足場もままならねぇのに広範囲に足場を形成するなんて荒業はできねーぞ!?」


「私もいかに風を使えるといっても、複雑な方向から同時には無理です・・・・。」


「・・・・・星龍、海羽に繋いだリンクを俺に回してくれ。」


 海羽を自分の後ろに後退させる。


 

<皆、聞いてくれ。攻撃に参加する四名は神楽坂、篠崎、蒼芭、そして上村だ。>


「せ、せやけど水の上やで!?」


「任せろ。」


 しかし、一体どうやって問題を解決するのか分からない。



<天河、こちらの合図に合わせる事はできるか?>


<え、えぇ大丈夫だけど、できれば早めにして貰えると助かるわ・・・・。>


 かなりの疲労が溜まっている。

 天河の言う通り、時間を掛けては居られ無い。


「了解した。オフェンスの四名は俺の合図でプールに突撃。水がある事は忘れろ、いいな。」


「俺達にプールに飛び込めってのかっ!?」


「いいから、健ちゃんの言う通り所定の位置に移動しろっ!」


「い、言われた通り、皆移動してや!」


 この状況で長緒が冗談を言うとは思えない。

 篠崎達三人は疑問を持ちつつ指定の位置へ移動した。


 怨霊は女子生徒の霊を中心に十字に癒着している。

 これを同時に撃破する為には、それを囲むような隊形を取る必要があった。



「ま、まぁ長緒先輩が適当言うわけないだろうけど、大丈夫なのかねぇ・・・。」


 上村は濁った水面を見て苦笑った。


 四人が配置に着くまでの間、長緒は自身の霊力を高め始める。

 その短い時間に星龍が作戦の説明をした。


 長緒の一つ目の合図で前衛4人が突撃。

 二つ目の合図で天河が怨霊の引き剥がしを開始。

 そして、完全に引き剥がした一瞬を同時攻撃し、これを撃破する。


 それ程難しい作戦ではないが、天河の術の効果時間を考えると一瞬、一秒も無いと考えた方が良い。

 攻撃の開始の合図は長緒が出すが、最後は天河と前衛のタイミングに掛かっていた。



<・・・・皆そろそろ往くぞ。>


(あ、あれ・・・・何だか寒いような・・・・・。)


 長緒の周囲が寒くなっている事に、背後にいた海羽が気付いた。



<・・・・了解しました。面前の水は気にしなくて良いのですねっ!>


 蒼芭を始め前衛四人が戦闘態勢を取った。



「天河、頼んだぜ・・・!」


「・・・うん!」


 力強く返事をし、天河は苦しむ女子生徒の霊を見据えた。


「絶対助けますね・・・先輩っ!」




<・・・・攻撃開始。>


 スッと空に上げた右腕を怨霊に向けた。

 同時に長緒の足元からビシビシッと音を立て、氷がプールサイドから中心に向けて走り抜けた。


「こ、こいつは・・・!」


「俺、氷の上走ってるよ・・・・・。」


 今、自分は凍った水面の上を走っている事に、篠崎は驚きを隠せない。

 しかも滑る事もなく本当に地面の上を走っているかのようだ。

 それは上村も同じで二人の動きが若干遅れた。


「篠崎!遅れてんぞっ!」


 タイミングが少しでもズレると失敗になる。

 今は作戦に集中しなければならない。


 長緒は四人が一足飛びで攻撃できる瞬間を待ち、天河に視線を送った。

 出番が近い事を天河は感じる。


 先程まで水中から現れていた髪蔓は、凍った水面を破る事が出来ずにいた。



「足場を作ると同時に髪の蔓を完全に封じるとは・・・流石長緒先輩や・・・。」


 素直に驚く事しかできない。

 足場になっている氷は、恐らく霊気が変質したものなのだろうと星龍は分析する。


「・・・星龍、今は集中しろ。」


 余計な詮索は止めて前方の状況に集中した。

 既に神楽坂と篠崎は予定ポイント付近まで移動し、後は天河の術後に同時攻撃を仕掛けるだけだ。


「・・・そろそろや。」


「了解した。」


 長緒は今度は左手を空に上げ、天河を見た。

 彼女は小さく頷く。


 理想は前衛が一足で攻撃が出来る間合い直前に、怨霊の引き剥がしが出来ている状態だ。

 長緒は、このメンバーなら可能であると確信し、二度目の合図を送った。



「・・・・一瞬でも長くっ!」


 癒着した怨霊を引きはがす為には細かい霊気のコントロールが要求される。

 それを4体同時に行う高度な術だが、今の天河では一秒続くかどうかで精一杯だ。


<オォォオオ・・・・!>


 怨霊達は抵抗を試みるが、水面は長緒により氷で封じられ身動きが取れない。

 天河は更に力を入れ、遂に怨霊を四体同時に剥ぎ取る事に成功する


<今よっ!>


 合図と同時に、前衛は気合いを入れて力強く氷の地面を蹴る。

 神楽坂は破砕魂、篠崎と蒼芭は神刀、そして上村は霊気を込めた左飛蹴りを繰り出した。


 星龍の助けもあり正確に怨霊を捉える事ができる。

 後は四人のタイミングが合うかどうかだ。


(これはいけるで!)


 四人の動きを超高速カメラのようにスローで見ることができる。

 これは星龍のみの能力だ。


 そのスローから絶妙なタイミングで攻撃出来ている事が分かる。


 これは作戦が成功した事を物語る。

 怨霊の断末魔が上がり、着地した前衛の四人は態勢を整えながら反転し、状況の確認をする。


「や、やったかっ!?」


 互いの動きを見ながらだったが、神楽坂は手応えを感じた。

 星龍が霊視した情報が更新されていく。



「何とか、なったみてぇだな。」


「そうですね。」


「走ってる途中で、氷が割れないか心配になっちゃったよ俺。」


「・・・・一瞬で水面を凍らせるとはよ。」



<・・・・皆ご苦労だった。前衛はプールサイドへ移動してくれ。>


 断末魔を上げ消滅していく怨霊を確認しながら、四人は移動する。

 それを確認した後、一面を覆っていた氷は消え、濁った水が姿を現した。



「な、何とかできたぁ・・・・。」


 消耗と安堵からその場に座りこんだ。

 初めてだったとはいえ、少しは父に近付く事ができただろうか。

 プール中央には怨霊から解放された女子生徒の霊がキラキラと光を発している。


「・・・・綺麗・・。」


「これでもう君を縛る者はいない、安らかに成仏してくれ。」


「もっと早くに気付いてやる事ができれば。・・・・すまねぇ。」


 女子生徒の霊は涙を流し、ゆっくりと顔を振る。

 そして空へと上ってゆく。



「ど、何処へ行くんですか!?」


「いずれはみな逝くところだ・・・。」


 全員が、光りに包まれていく女子生徒を見送りる。



 〈ありがとう・・・・。〉



 その言葉を最後に女子生徒は消えていくのだった。




「・・・いっちまったか。」


 見送りを終え、除霊委員はシャワー室前に集合する。



「お疲れ。」


「神楽坂君もね。」


 神楽坂と天河はお互いを労う。



「それにしても水面を凍らせるなんて芸当、初めてみたわ。」


「・・・・・・。」


 篠崎と蒼芭は敢えて何も言わないが、長緒の力が神楽坂のものと同等である事に気付いていた。


(ま、あいつらが分からない訳はねぇか・・・。)


 彼女(霊)を救う為、長緒もバレると分かっての事だ。


 霊力をある一定まで上げ、霊気の質を変化させる「霊質変化」

 霊能者の中でも発現させる事ができるのは極僅かで、人間が使える霊質は火・水・風・土の四元素のみ、それの高位となる雷・氷は人間が使う事はできない。



「今日は疲れたよ~」


 上村はわざとらしくコンクリートの地面に横になるように寝転んだ。

 疲れたと言いつつもその眼光は鋭くまるで獲物を狙う猛獣だ。


「・・・・天河先輩、そのまましゃがんでて下さい。」


「・・・え?」



「!?」


 蒼芭の冷たい口調が背中に刺さる。

 しかも心なしか周りのメンバーは苦笑っているような気がする。


「ば、馬鹿な倒れた振りをして天河先輩のスカートの中を覗くという俺の計画は完璧なはず!はっ!?」


 思わず口が滑り、上村は恐る恐る顔を上げてみる。

 そこには鬼の形相の蒼芭がオーラを発していた。



「・・・・・ホント、馬鹿だろ。」


「カミさんは今日も通常運転だな。」


「天河先輩、このアホの精神を鍛え直したいのですが。」


「プ、プールに叩き込むのだけは止めてぇ~~~~~!!」



 その後、プールからは怨霊とは別の断末魔が聞こえるのだった。






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