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54:40年前の事件




「ちょい待ちっ!」


「どうしたの?」


「出よったで!」


 霊視する星龍には、プール中心部が赤く表示されている。

 中央部から小笠原に向かって赤い線が延びていた。





「な、なにこれ・・・・・!」


 足首に巻きついた髪の毛を解こうとするが、締め付けられ解く事ができない。

 髪の毛が伸びる先は中心部。

 昼間起った現象と同じく、一面に女性の黒髪が浮いている状態だった。



 早く3階にいる除霊委員に連絡せねばと携帯を手に持った瞬間、水中からもう一つの髪の毛が伸び手首に巻きついた。


「う・・・・・・・。」


 携帯を取ろうとしたが、別の髪の毛が伸び、手首に巻きついた。

 強烈な力で手首を締め上げられ、携帯を地面に落としてしまう。


「きゃ・・・・!?」


 今度は足首を引っ張られ、その場に尻餅をついた。


「ま、まさか・・・引きずり込もうと・・・・してる・・・?」


 予想通りだった。

 手首と足首に巻きついた髪の毛は、プールの中へ引きずり込もうと引っ張り出した。

 何とか踏ん張ろうとするが、自分の力では難しくジリジリと引きずられてしまう。


「!?」


 踏ん張る中、プール中央に漂う大量の髪の毛が盛り上がっていく事に気が付いた。

 盛り上がる大きさはバレーボール程、人間の頭くらいの大きさだ。


「・・・・ひっ!?」


 何かを見てしまったのか、力が一瞬抜けて一気に引きずり込まれそうになった。

 小笠原は恐怖で表情を歪ませる。

 それは、鼻から上を出して此方を見ている女の顔だった。




<・・・・タスケテ・・・・。>


「えっ?」


 その女性から何か言葉が聞こえた時だった。



「はぁあっ!」


 何処から現れたのか、上空から蒼芭と篠崎が突風と共に着地。

 同時に彼女を捕まえていた髪の毛を神刀で斬り裂いた。


「大丈夫か先生?」


「ふ、二人共一体どこから・・・・・!?」


「あそこ。」


 篠崎は3階を指差し小笠原は苦笑った。

 蒼芭の能力を使えば、高所から飛び降りるといった荒業も可能になるのだ。


「慶、あれを見てみろ。」


 中央には顔半分を水面から出している女の顔が映った。

 その顔は直ぐに水中へと沈み、漂っていた大量の髪もまた、消えてゆく。


「長い髪の女・・・・・マジかよ。」


「噂通り・・・・・か。」


 篠崎と蒼芭は抜刀したまま警戒を続ける。





「危険な事をさせてすいませんでした・・・・。」


「こ、これも教師として、当然だから・・・・。」


 天河はベンチに座る小笠原に謝罪する。


「プールの話は本当だったんだ・・・・・・。」


「せやな、けどなんで今になって・・・・・・。」


 プール内を霊視するが、内部の様子が分かり辛い。


「・・・・・どうだ?」


「あの藻・・・ただの藻やない、あれがフィルターみとうなって中の・・・・

 皆、伏せやっ!?」


 視界に映る水面の中心が一気に赤く表示され、星龍は全員その場に伏せるように叫んだ。

 水中で機雷が爆発したかのような爆音と水柱が上がり、水飛沫が周囲を濡らした。


「み、皆大丈夫っ!?」


「き、汚ねー・・・・。」


 大量の汚れた水飛沫が全員の体を濡らす。

 プール中心部を見て見ると、そこには髪の長い女性の体にしがみつく怨霊の姿があった。

 しかもその無数の怨霊は体を持ち、女性にしがみつく者や不気味な顔のみがへばり付いている。


「ありゃ何なんだよっ!」


「・・・・あの怨霊共が女に取りついてるように見えるな。」


「・・・・確かにそう見えん事もない・・・。」


「つまり・・・っ!?」


 今度は水中から4本の触手のような髪が飛び出し、神楽坂達に襲い掛かった。


「健ちゃん!」


「・・・・!?」


 神楽坂は長緒に霊銃を投げ渡す。

 小笠原は思わず目を瞑った。



「先生、大丈夫ですよ。」


 海羽の声に、ゆっくりと目を明ける。

 触手は神楽坂、長緒、篠崎、そして蒼芭が撃破していた。


 怨霊達から低く鈍い声が不気味に響いたかと思うと、水中から気泡を出してその身を沈ませ始める。


「逃がさねーよっ!」


「よせ、慶。」


 蒼芭は篠崎の肩に手を置く。

 相手の情報が少ない状態で敵のテリトリーに近付く事は危険だ。


「ちっ・・・・。」


 篠崎は舌打ちしつつも警戒は解かない。

 それから女の霊は一度も現れる事はなく、この日は撤退を余儀なくされた。





 翌日。



「・・・・という訳で、どんな長さのDNAも計算上は人工合成することができる。」


 現在は4限目、赤城(赤城麻人見た目20代、実年齢42歳)による生物の授業が行われていた。

 白衣姿の赤城は淡々と黒板に書き込んでいく、今日の内容は「DNAの構造」だ。


 期末テストも近い為、皆何時も以上に真剣に授業を聞いていた。


「・・・・・・・・?」


 神楽坂の前に座る吉原から丸められた紙が机の上に転がった。

 紙には、昨日プールで起った出来事は本当なのか、と書かれていた。


(・・・・・もう広がってるのか。)


 プールでの一件は噂として学園に流れてしまっているようだ。

 まだ問題は解決していない。

 プールには絶対近づくなと書いて、吉原に投げ返した。



 今度は右斜め後ろに座る安堂が小声で聞いてきた。


「何?やっぱりプールに幽霊でたの?」


「・・・・その話どっから聞いたんだ?」


「10分休みの時に、職員室で先生達が話している所を偶然聞いたみたいよ?」


(・・・・・小笠原先生か。)


「近づくなって事はまさか来週プール開き延期とかじゃないだろうな!?」


 赤城が背中を向けている事を良い事に、吉原は体を動かして神楽坂の方を向いた。


「来週の授業は1組と合同なんだよっ!?」


 小声ながら必至な口調だ。

 安堂はジト目で吉原を睨み付ける。


「・・・・1組といったら天河さん目当てね?」


 神楽坂の後ろに座る佐久間も会話に参加。

 因みに、隣に座る長緒は参加せず真剣に授業を聞いていた。


「そっか~今年は天河さん長沢さんに続いて、佐久間さんもいるのかぁ~」


 なにやら如何わしい想像を膨らませている。


「あ、あの馬鹿・・・・・佐久間さん気をつけてねアノ変態は危険よ。」


「大丈夫、私・・・得意だから。」


 一体何が得意なのか吉原は背中が寒くなりつつ前を向いた。


「それで、やっぱり噂通り幽霊が?」


「今、赤城先生が話している内容、聞いて置いた方がいいぞ。」


 長緒が注意した。

 黒板には、赤いチョークで丸印が入れられた箇所が数個あった。

 


「夏期講習に参加したいならいいんじゃない?」


「そ、それは勘弁・・・・。」


 夏休みまで学園に来たくない安堂は、この辺で授業に戻った。

 神楽坂も苦笑いながら黒板を見つつ昨日の事を思い出す。






「本当にそう言ったのか?先生?」


「え、ええ。聞き取り辛らかったけど確かにそう言ってたわ、「助けて」って・・・・。」


「・・・・助けを求める・・・どういう事でしょう?」


 あの状況を考えると、女性の霊に無数の怨霊が取り付いているといった印象が強い。

 それに女性の霊は成人ではなく、どちらかと言うと自分達と年齢が近い感じだった。


「・・・・・あの「噂」・・・。」


 天河はフと、昔から言われている噂を思い出した。



『水中から髪の長い女が現れてあの世へ引きずり込む。』



 先ほど現れた女の霊と一致する。


「先生、学園が創設されてから今まででプールで起こった事件や出来事を調べてもらえないか?」


「それと、問題が解決するまで、立ち入り禁止でお願いします。」


「わ、分かったわ。」



「この話は口外せんようにしといたほうがええやろうな。」


「そうだな、上村みたいな奴が面白半分に遊びに来て水死体になってもらっても・・・・・・。」


「ちょ、そこは普通に「困る」とか「悲しい」とかさぁ~。」


「お前なら(土左衛門になっても)私は一向に構わんがな。」


 苦笑う一同だった。




「・・・・・そしてこの強力なRNA分解酵素の多くは二本鎖RNAを分解することはない。」


 そして時は戻り、赤城は4時限目の纏めをし始めた。


「今日は此処まで、次回はDNAの複製からだ。ここも試験範囲だからな。

 それから神楽坂、吉原、安堂の三人は・・・俺も夏期講習で会える事を楽しみにしている。以上。」


 学級委員長である水瀬が授業終了の号令を掛け、赤城は職員室へと戻って行った。



「しっかりバレてんじゃねぇかよ!?」


 一応気にしながら会話していたのだが、赤城は背中にも目があるのか。


「直明あんたが余計な事を・・・・!!」


「ちょ、俺のせいかよっ!?」


「三人共同罪だろう・・・・・。」


「・・・・そうね。」


 自業自得だと佐久間も頷くのだった。





 -第一体育館教官室



「今年はどれにしようかしらねぇ」


 露出が高い服に白衣を羽織った藍苑は、ある雑誌を眺めていた。

 現在は昼休み。

 教官室には溜まり場にしている三人の他に、赤城と小笠原の姿もあった。



「そうですか、では今週中に問題が解決しなければ、来週のプール開きは延期させた方がいいですね。」


 藍苑以外の四人は小さな会議(雑談)スペースに座り、昨日起こったプールでの事を話していた。


「・・・・仕方あるまい、生徒の安全が第一だからな。」


 白衣姿の赤城は腕を組んだ。


「だな。しっかし授業中じゃなくて良かったぜ。」


「それで除霊部に頼まれたんですけど、昔から噂されている話とすっごく似てるらしくて。」


「・・・・確かに、かなり昔からある話ですね。」


 春日は、少し前に他の教師から聞いた事を思い出す。


「思い出しました、噂が出始めたのは今から約40年程前らしいですね。」


「そんなに昔なのか・・・・。」


「それで、その40年前からですか?事件とか事故が無かったか調べて貰いたいそうです。」


「・・・・・ふむ。」


 見た目こそ若いが、赤城は42歳だ。

 彼ならば噂に詳しいと思われるが、最近他校から赴任したばかりで噂の事は分からない。


「問題は、40年も前の資料を何処から探せばいいのか、ですね。」


「開かずの間しかねぇだろな。」


「そ、そこって、男の人の声が聞こえてくるとか言われてる資料室ですか・・・・・?」


「小笠原先生、それは噂ですよ。」



「ねぇ、炎、志劉君。」


 藍苑が後ろから割り込んで二人に雑誌を見せてきた。


「「ぶっ!?」」


 突然の事に噴出す二人。

 その雑誌に載っていたのは露出が高く、きわどい水着を着た女性モデルが多数載っているものだった。


「今年はドレがいいとおもう?」


 因みに藍苑は除霊委員会顧問である。

 会議に参加せずに眺めていた雑誌は水着の特集誌だった。


「み、水着特集・・・・?」


「せ、先輩・・・・・。」


「りょ、涼子・・じゃねぇ、藍苑先生、仕事でもしてんのかと思ってたがソレかよっ!」


 春日も苦笑う。


「その事なら調べ物のついでに見つけたわよ?」


 藍苑は机に置いてあったファイルを持って席に座り、テーブルに置いた。



「は、早いですね。」


「・・・・・・一応除霊部顧問。と言ったところか?」


 赤城はそのファイルを手に取り表紙を捲った。


「そりゃね、除霊部ができてからこの数ヶ月、有り得ない霊障の件数。流石に調べるわよ。」


「で、何か分かったのか?」


「何で急に霊障が増えたかは分からないけど、プールで起こった事故は一件だけあったみたいね。」


 赤城がページを一枚捲ると、そこには古い記事をスクラップしてあるページがあった。

 日付は今から丁度40年前で「女子生徒、水泳の授業中事故死」と大きな字で書かれている。


「亡くなったんですか・・・・。」


「記事には水泳中、突然溺れたと書かれているようだが。この時点ではまだ原因は不明のようだな。」


「記事はそれだけですか?」


 もう一枚ページを捲ってみると、同事件で別の内容が書かれたスクラップを見つけた。

 それは当時生徒が溺れた際に助けようとした友人が証言している内容だった。


「・・・・・誰かが足を引っ張ってる・・・・だと?」


「そ、続きを見れば分かると思うけど

 その時、生徒の足元には誰もいなかったと友人は証言してるみたいなの。」


「20年前に校舎および施設の増築による定員の増加の為、野外プールも改築・・・・・。」


「当時のプールは今ほど大きくなくて、水深もそんなに深くなかったみたい

 ということは、友人が女子生徒の足を引っ張る「何か」を確認する事は簡単だったって事。」


「・・・・友人の証言は、ほぼ間違い無い。という事になりますね。」



「・・・・・や、やっぱり幽霊なんでしょうか・・・?」


 実際に悪霊に襲われた小笠原は身震いをした。


「もう一つ、友人の証言があるんだけど。

 溺れる彼女を助けようと腕を掴んだ時に、物凄い力で自分ごと水中に引きずり込まれた上に

 彼女だけが数秒で命を落としたらしいわ。」


「溺れねぇよう必死だったんじゃねぇのか?」


 その可能性も捨て切れないが、何故溺れたのかという理由にはならなかった。

 赤城はもう一度ファイルを開いて記事に目を通した。


「「何か、更に深い所から彼女が引きずり込まれているような感じがした。」と書かれている。」


「・・・・・其れが恐らく噂になっている「あの世に引きずり込まれる」となったのでしょう。」


「それはつまりあれか?あの世からその女子生徒を引きずり込んだって事か?」



「昨日の・・・・・・・。」


「悪霊。という訳か。」


 藍苑は頷いた。


「そう言う事になるわね。」


 実際に起こった事故と噂が繋がった。

 昨日現れた女の霊は、40年前に改築前のプールで事故死した女子生徒の霊である可能性が高い。

 そして無数の怨霊、これが彼女を死に追いやった元凶なのだろう。


 コンコンッ


 出入り口の扉からノックが数回聞こえてきた。


「失礼します。」


 入ってきたのは天河をはじめ、神楽坂、長緒の三人だった。




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