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53:プールの噂




 季節は7月になり、外からは蝉の鳴き声が聞こえてくる。

 除霊委員会室には、長緒と海羽の姿があった。



 ・・・ピピピピッ


「じゅ、10分~~~・・・・。」


 携帯のアラームが鳴り、海羽はその場に横になって痺れた足を楽にした。

 彼女の頭上で昼寝をしていた雷獣は、肩に飛び乗って労うかのように頬を数回舐めた。


「ラ、ライヤ君。く、くすぐったいよぉ~」


「・・・・名前決めたのか?」


「は、はい。幾つか候補あったんですけど、最後はこの子が自分で決めました。」


 海羽は何故か苦笑いを浮かべていた。






「はい!名前はピカtぶへぇっ!」


「・・・・お前は黙っていろ。」


 蒼芭の鉄拳が上村に炸裂する。


「ね、鼠じゃなくて狼なので、チューじゃないですっ」


 この日は放課後の巡回前に、海羽の召霊の名前を決める話合いをしていた。



「・・・・やはり名前は必要だからな。」


「だ、だから・・・・ピカt・・・ぐえぇ!?」


「くどいぞっ!」


 蒼芭は刀の鞘で地べたを這う上村に止めを刺した。


「・・・・・こういうのはどうだ?」


「・・・・・ガゥ。」


「あぁあ・・・・・っ!?」


 雷獣は蒼芭が見せたメモ紙を見た後、顔をプイと背け前足で叩き落した。

 どうやら彼女のセンスは気に入られなかったようだ。


 自信作だっただけに蒼芭は撃沈、後ろの方で篠崎が慰めていた。

 次に神楽坂がメモ紙を置こうとすると、何故か雷獣は怯えて海羽の肩へ飛び乗った。


「・・・・俺、嫌われてんじゃねぇか?」


 海羽も何故、神楽坂だけ怯えるのか分からない。


「ま、まぁまぁ、動物にも好き嫌いがあると思うし・・・・・。」


「・・・・それ、フォローになってない気が・・・。」


 神楽坂が後ろに下がった事でまた雷獣は机に跳び乗った。

 次は星龍がメモ用紙を雷獣の目の前に置いてやる。


「・・・・かなりの自信作やっ!」


 ポイッ!


「あぁあああ・・・・・・っ!?」


 またしても足蹴にされるメモ用紙。


「・・・・・やっぱこれしかないよっ!」


 バンッ!

 と、上村が机にメモ用紙を叩きつけた。

 指が邪魔でで字が全て見えないが、隙間から一部を見る事ができた。



 ピカt


「ぎゃああああああーーーー!!」


 仏の顔も三度までなのか、その電気ねずみ並の高出力の雷撃が上村を襲った。

 電流が駆け抜けた後、頭をアフロにして倒れる。


「さ、流石に三回はしつこかったか・・・・。」


「・・・・んー雷獣の好みが分からねぇんじゃなぁ。」


「名前は次の機会にしましょうか。」


 備え付けの時計を見ると、巡回に行かなくてはならない時間だ。

 天河が纏め、その日の会議は終了するのだった。





「・・・・「ライヤ」は俺が候補として挙げた名前だな。」


「は、はい。あの後家でこの子に選んで貰って

 あ、神楽坂先輩が上げてくれた名前「ライガ」とも結構迷ってたんですよ。」


「なるほど、それにしても光志だけ怯えるようだが・・・・?」


「は、はいライヤ君にも聞いてみたんですけど、理由は言いたくないみたいで

 寧ろ言えない?みたいですっ。」


「・・・・・ふむ。」


 誰かに口止めでもされているのか。

 考えていると神楽坂達が昼食が入ったビニール袋を持って次々に入ってきた。


「さぁて飯飯。」


 適当に空いたパイプ椅子に座ると学食で買った調理パンを長机に置いた。

 他の委員達も昼食を並べる。


「あ、私ジュース注ぎますね!」


 1年である海羽は、気を利かせてクーラーボックスからジュースを取り出した。

 コップは湯呑みか、新たに持参してきた物を使っている。


「・・・やっぱ湯呑みは違和感あるよな。」


 篠崎はジュースを飲みつつ、下敷きで仰ぐ。


「それにしても暑いよね・・・・・。」


 エアコンがない室内に8人も入れば余計暑く感じる。

 ようやく衣替えになり夏服になったのだが、やはり暑いものは暑い。


「・・・・エアコンがないからな。」


「・・・・ウチの学園って水泳の授業とかあるんですよね?」


「ああ、100mプールが屋外にあるが、来週辺りにプール開きをするとか山城先生が言っていたな。」


 来週なのかと上村と篠崎はその場で嘆いた。


「・・・・まぁ上村の考えている事は大体想像がつくがな。

 上村、言っておくが合同授業になった場合、変な気を起こせばどうなるか分かっているな?」


 クンッと親指で刀の鍔を押し上げ、刀身がキラリと光った。


「ま、まだ死にたくない・・・です・・・っ!」


 蒼芭の鋭い目に思わず血の気が引いていく上村だった。




「昼休みに小笠原先生が、大掃除の前にプールの様子見に行くとかいってました。」


「・・・・・一面藻だらけだろうな。」


「そういえばプールに幽霊がでるとか噂があったような・・・・・。」


「あぁ、それなら俺も聞いた事あるぜ?何でも長い髪の女が水面から現れて、泳いでいる人間を水中に引き摺り込んで、あの世に連れていくって奴な。」


「ゆ、幽霊ですかっ!?」


 来週からそのプールで水泳の授業があると思うと、ビクッと体が震えた。


「・・・・でも特に何も感じられないのよね。」


「俺も聞いた事あるけど、その噂かなり昔からあるみたいだぞ。」


「・・・・・火のない所に煙は立たぬ。とも言う。注意はしておいて損は無いだろうな。」







 カチャンッ


 神楽坂達が昼食を取っていた頃、鉄製の扉が開き一人の女性がプールの敷地に入った。


「ぅうう・・・・・藍苑先輩酷い。

 そりゃあ私は一番新人だけど、一人でプールの水を抜けだなんて・・・・。」


 シーズンが終わって放置されたプールは昼間といえど人気は全くない。

 学園の隅に位置しているので、余計に不気味だ。


 今回、新任教師の小笠原は大掃除の為の水抜きと、設備の状態確認をする為に一人で来ていた。



「えっと、シャワーはっと・・・・。」


 バルブを探し、少し開けてみる。

 しかし、水が出る気配はない。


「あれ?もう少し開けないとだめかな・・・・・・。」


 長期間でバルブは錆等で硬くなっていた。

 両手で握り、力を入れてバルブを回す。


「・・・・・やっぱり駄目みたいね。」


 水がまだ通ってない事も考えられる。

 シャワーの件は藍苑に聞く事にして更衣室を見て回る。


「・・・・・異常無し、と。」


 後はプールの水を抜くだけだ。



「・・・・う、うわぁ~・・・・・・。」


 予想通り雨水やゴミが溜まったプールは苔に覆われ、異臭も放っていた。


 藍苑から受け取ったメモ用紙を開く。

 メモにはプールの抜き方が書かれているのだが、適当に書かれていた。


「・・・・て、適当すぎる・・・・。」


 書かれている大きな配管を探してみるが、それらしき物は見られない。


「・・・・あ、そういえば機械室。」


 学生だった頃、機械室にプールの管理装置があった事を思い出した。



 ゴボッ・・・・・


 機械室へと向かっていた時だった。

 突然、背後から吹き出てきたような音が聞こえ、思わず振り返った。


「な、なに・・・?」


 プール一面を見てみるが、汚いという事以外に異常は見られない。


「あ、あら・・・・?水面が・・・・少し上がってるような・・・?」


 気のせいか、初め見た時よりも水位が上がっているような印象を受けた。



 ゴポゴポッ・・・!


「・・・・・!?」


 連続して泡が吹き出る音が聞こえてきた。

 水位は更に増し、一面が真っ黒に染まっていた。


「あ、ああ・・・・・・。」


 足の力が抜けていく。

 一面を覆っていたのは夥しい量の髪の毛だった。


 小笠原は震えながら携帯を取り出そうとする。

 しかし、焦りが簡単な動作を阻害してしまう。


「!?」


 大量の髪の毛に埋まったプールの中央が隆起する。

 それは水面から鼻辺りまで出した色白の女の頭だった。


 それを見た瞬間、小笠原は悲鳴と共にその場から逃げ出すのだった。





「・・・・・・どうだ?」


「・・・・・んー確かに僅かやけど霊気が残留しとるわ・・・・・。」


 水面は元に戻ってはいるが、微かに霊気が感じられる。

 小笠原は髪の毛のお化けが出たと除霊委員会室に駆け込んできたが、まだ断言はできない。


「虫とかいるよ・・・・。」


「これ全部掃除すんのは骨だろうなぁ・・・・・。」


 各々プールサイドに中腰になって藻だらけの水面を観察する。


「毎年掃除してくれている先生と水泳部の皆に感謝しなきゃね?」


「天河、悪霊かどうかは微妙みたいだぜ?」


 神楽坂は霊視の結果を報告した。

 彼女は顎に人差し指を当てて考える。

 来週のプール開きまでには不安を取り除きたい。


「その霊は今はいないのか?」


「・・・・・駄目やな。」


「・・・・・・俺達を警戒している可能性もあるかもしれないな。」


「自我が残っているって事・・・?」


「いや、そうとも限らへんよ。本能で行動しとるのかもやし

 それに浮遊霊が、たまたま近くを通っただけかもしれへんしな。」


「偶然近くを通っただけってならいいんだがな。」



「・・・・・ど、どんな感じ~?」


「・・・・・あ。」


 丁度、様子を見に来た小笠原と目が合った。


「え、・・え・・?」


 全員が自分を見ていて小笠原は戸惑った。






「ど、どうして私がこんな役を~っ・・・・!?」


 放課後、不気味さを見せる無人のプールに、携帯を持った小笠原が一人で立っていた。

 おろおろを周囲を見回していると携帯が鳴る。


「か、海羽さん!」


 自分に囮役は無理だと言おうと思ったが、電話に出たのは長緒だった。


<・・・・先生、そのまま正面建物の3階を見てもらえるか?>


「な、何で皆そんなところに・・・・・・。」


<俺達が近くにいては霊が現れない可能性があるからな

 だが心配はない、もし霊が現れてもすぐ其方へ向かう。>



(直ぐ・・・・来れないような・・・。)


 小笠原は苦笑った。

 しかし、自分は教師だ。

 両足が震えているが小笠原は覚悟を決めた。


「でも、もしもの時は直ぐに来てね・・・・・っ!」


 懇願するかのように言って電話を切った。




 3階からプールを霊視する星龍だが、今のところ異常は見られない。


「本当に現れるんやろうか・・・・。」


「水難事故は命に関わる事だし、異常は無い事を確認しておかないとね。」


 水泳が始まって悪霊が出ました。では遅すぎる。

 水中なだけに何が起るか分からない。




 待ち続けて2時間が経過した。


「・・・・・やっぱ偶然近く通っただけじゃねぇ?」


「かもしれねぇな、星龍、異常はないか?」


「・・・・・特にないですわ。」



「ふむ、どうやら来週は無事(女子の)水着が拝めそうだな・・・。」


「・・・・来週まで貴様が生きていればの話だがな。」


 蒼芭は抜き身の刀を上村の首筋に突きつけた。


「じょ・・・冗談ですっ。」


 顔に縦線を入れる上村だった。



 この時間になっても異常は見られない。

 やはり昼間の異常は近くの浮遊霊が通ったか、小笠原の錯覚か。

 そのどちらかで間違い無さそうだ。


 天河はこの辺で切り上げて、小笠原と合流する指示を出した。



「ま、何も起こらない事に越した事はねぇな。」


 階段へ向かう神楽坂達。

 小笠原もベンチから立ち上がり、足を動かそうとした時だった。



「えっ・・・・?」


 足を動かそうとした時、何か足首に巻き付いている事に気がついた。

 足首に巻きついている物は植物のツタといった物ではなく。


 縄のようになった人間の髪の毛が自分の足首に巻き付いていたのだった。





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